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安心・繋がるスマートホームを――ソニーと東電の狙いを紐解く

次の一手は「音楽」と「照明」

 月額3280円、スマートタグやマルチセンサーを使って、自宅の状況がわかる「おうちの安心プラン」――7日、東京電力エナジーパートナー(東電EP)とソニーモバイルコミュニケーションズが発表した、個人宅向けのIoTサービスだ。

 その機能面あるいは、11月30日までに契約すれば1つ4320円のスマートタグが2つ無料になり、3000円の契約事務手数料が無料になるとはいえ、さらに設置費用が1万8000円(2年利用すれば無料)、中途解約時には9500円かかるという価格設定はどういった狙いがあるのか。

「安心」を重視、多くの人が使えること目指す

 東京電力エナジーパートナーが手がける「TEPCOスマートホーム」は、“家が、家族になる”というコンセプトを掲げる。これまでの自宅は、居住するスペースとはいえ、単なる“ハコ”に留まっていたところ、通信やセンサーを組み合わせることで、家族とのコミュニケーションに役立てたり、より快適な空間にしていく、という考えだ。その第1弾として発表された2つのプランは、どちらも「安心」を重視した内容として設計された。

安心を重視

 ソニーモバイルとの協業で開発された「おうちの安心プラン」は、スマートフォンアプリひとつで、ソニー/QrioのスマートタグおよびNotion製のマルチセンサーとブリッジからの情報をまとめて表示でき、その設置はTEPCO側が行う。つまり複数メーカーのデバイスに対応すること、工事を行うことが特徴だ。

東電EPの田村氏

 「これまでに二度、トライアルサービスを行った。既存のIoTデバイスやサービスは、いわゆるDIY系が先んじているが、(ターゲットの)幅広い層は自身で設定できない。ソニーさんと組むことで“ちゃんと動く”サービスになっている。たとえばハブも戸建ての2Fに設置すれば1Fと上の階に電波がちゃんと届いてセンサーと繋がる。そうしたあたりを重視した設計にしている」と語るのは、東電EP常務取締役の田村正リビング事業本部長。同氏はTEPCOスマートホームの利用件数を早期に数十万件にしたい、と説明。東京電力の中長期の計画として、IoTサービスや全国での電力・ガス販売といった領域において、2019年度に4500億円の売上を目指しており、その時期での獲得目標と見られる。

ひとつのアプリ、親しみやすいデザインというUIで使いやすいIoTに仕上げた
構成イメージ

 サービスの提供方針として、トラブルがあってもフォローできること、ワンストップで提供することを重視しているとのことで、ITリテラシーが高くなくとも利用できるサービスと位置付ける。「おうちの安心プラン」で利用できる機能が、家族の在宅確認に絞られ、ある種、スモールスタートにしたのも、個人宅向けIoTという市場がこれまでITリテラシーが相当高い人だけの利用に限られ、多くのユーザーにとっては未知の分野であることも影響している。ただし、機能面では、今後さらに何らか新しいものが追加される予定で、発展の余地を含んでいることも特徴のひとつとされる。

 いわゆるHEMS(Home Energy Management System)系のサービス、つまり、宅内の消費電力を見える化したり、省エネに繋がる機能を提供したりするといった機能については、ユーザーの動向を見つつ、今後の検討課題とされている。田村氏は囲み取材での質問に「次世代のHEMSに、TEPCOスマートホームのような機能が含まれることはあり得るが、現在のユーザーにとってはオーバースペックではないか。もちろんコンセントごとの使用量はHEMSでなければわからない。自宅の使い方も、購入時の家族構成と時間が経って子育てが終わった時期では変わってくる。ただ不要な人は(HEMSを)付けない。モジュール化できないか」と説明。いわゆるIoTサービスをモジュールのように機能ごとにわけて、徐々にユーザー層を開拓したい、という考えのようだ。

採用するデバイスから見える「オープン」な姿勢

 「おうちの安心プラン」では、ソニー子会社のQrioのスマートタグと、スタートアップであるNotion社が手がけるマルチセンサーを採用する。サービスとしても、オープンなプラットフォームを目指す、としている。

ソニーモバイルの渡辺氏

 説明を行ったソニーモバイルのバイスプレジデントでIoTビジネスグループを担当する渡辺潤氏は「ソニー製品だけで構成すれば(IoTネットワークを構築するのは)難しくない」とコメント。今回の肝はオープン性を保ちつつ、全体を設計し、全てのデバイスが繋がることだとする。

円筒形のハブと、Qrioのスマートタグ、Notion製のブリッジとマルチセンサー

 ソニーモバイルではOpen Connectivity Foundation(OCF)という団体に参加しており、「おうちの安心プラン」で採用されるデバイスは同団体での規格に準拠している。OCFは昨年10月、クアルコムがリードして設立されたAllSeen Allianceと合併したIoT規格の団体だ。OCFの規格に準拠したことで、同じ標準規格のデバイスであれば「おうちの安心プラン」でも利用可能となり、そうした点で、「おうちの安心プラン」はオープンなプラットフォームとして展開する、という位置付け。ただ、実際に各IoTデバイスは独自アプリで表示するといった形になっていることが一般的で、「おうちの安心プラン」でどう表示し、操作できるようにするか、といった点を含め、各デバイスが「おうちの安心プラン」で利用できるようにするには、個別に交渉する形になると見られる。

 また今夏以降、日本での本格的な展開が期待されるスマートスピーカーや対話型の音声アシスタントから「おうちの安心プラン」が操作できるようにするのか、という記者の問いに渡辺氏は「協議はこれから。ソニーモバイルではXperia Earという製品で音声での操作を実装しているが、それを使うという考え方もあるし、外部との連携も広く考えたい」とこちらもオープンな姿勢であることを示した。

 TEPCOスマートホームや「おうちの安心プラン」に向けたSDKの公開や開発者向けフォーラムなどは検討中とのことで、東電EPの田村氏は「さまざまなやり方を考えている。仕掛けていきたい」と意気込んだ。

次は音楽、照明で

 東日本大震災以降、日本では、電力やガスの自由化が進められてきた。東京電力は福島での原発事故への賠償などの対応と廃炉作業を進めつつ、もともとの発送電に加えて、新たにガス事業や、首都圏以外のエリアでの電力サービスといった新事業に進出。さらにはIoTサービスにも意欲的で、「単なる電力販売ビジネスから、効用提供ビジネスへと収益構造の転換を図る」(2017年3月発表の新々総合特別事業計画より)とその姿を変えようとしている。

 一方のソニーモバイルもまた、スマートフォンの普及とコモディティ化を踏まえ、かねてより新たな領域への進出を模索しており、Xperiaブランドのもと、音声操作対応のウェアラブルデバイス「Xperia Ear」や、タッチ操作できるプロジェクター「Xperia Touch」をリリースしてきた。

Xperia Touch
グラスサウンドスピーカーのデモも
スピーカー搭載照明も

 そうした両社の考えのもと、新たに提供されることになった個人宅向けのIoTサービス。家電のリモート操作や、スマートロックとの連携、監視カメラなど、既存のIoTサービスの追加も考えられるかもしれないが、ソニーモバイルの渡辺氏は「次は音楽、照明を考えたい」と説明。今回の会見でも、今後の展開を見据えたデモンストレーションとして、スピーカー搭載の照明や、ソニーのグラスサウンドスピーカーが設置されており、両社によるホームIoTの次の一手とされる。

 スモールスタートと言える形となった「おうちの安心プラン」が今後どのような機能を追加するのか、はたしてどの程度利用されるのか。あるいはグーグルやアップル、LINEが投入を予告するスマートスピーカーとの連携など、注目のサービスのひとつとなりそうだ。