インタビュー
「AQUOS SERIE SHV32」「AQUOS K SHF32」開発者インタビュー
「AQUOS SERIE SHV32」「AQUOS K SHF32」開発者インタビュー
au向けハイエンドスマホとAndroidフィーチャーフォンのこだわり
(2015/6/4 12:00)
シャープは今夏、au向けに「AQUOS SERIE SHV32」と「AQUOS K SHF32」の2機種を投入する。
AQUOS SERIE SHV32は、ハイスペックなフラッグシップモデルとなっており、シャープ独自の個性的なEDGESTデザインに最大210fpsのスロー撮影機能やGR Certified取得の高性能カメラなどを搭載している。
一方のAQUOS K SHF32はAndroidをOSに採用するフィーチャーフォンで、Playストアには対応しないものの、auスマートパスからアプリをインストールできるなど、従来のフィーチャーフォンから一歩進んだ機能性が特徴となっている。
今回はこれら個性的な2機種について、開発を担当したシャープ 通信システム事業本部 グローバル商品企画センター 第二商品企画部 部長の後藤正典氏、同企画部の伏見聡氏、同企画部 主任の濱田実氏にお話を伺った。
「AQUOS SERIE SHV32」、普段は見えないスローの世界で感動を
――まずAQUOS SERIE SHV32について、製品の概要をお聞かせ下さい。
後藤氏
今夏、他キャリア向けにはもう少し大きいモデルもありますが、SHV32は5インチサイズとなっています。ご承知の通り、ハイエンドモデルはインチ数が増え続けていますが、両手だけでなく片手でも使いたいというニーズがあります。スマホに求められている大画面と片手での使いやすさのバランスを取り、5インチとしました。
デザイン面ではEDGESTを継続しています。大画面ながら幅70mmということで、持ちやすいサイズ感を損なわずに5インチディスプレイを搭載しています。
シャープとして今シーズンに訴求しているのが、カメラの高速撮影とスロー再生です。カメラは解像度とかも当然ありますが、お客さまとしてはそれだけでなく、「感動」できるものを求めています。綺麗さも感動の一つですが、普段は見ることのできないスローの世界を見ていただくことで感動を体験していただくべく、高速撮影できるカメラを搭載し、スーパースロー再生できるようにしました。
基本スペックとしてはキャリアアグリゲーションやVoLTEなど、auが今シーズン搭載しているところに対応しています。
伏見氏
AQUOS SERIEはEDGESTで持ちやすいサイズ感を実現しています。スペック面では、液晶ディスプレイとハイスピードカメラ、エモパーがポイントになっています。
まず液晶については、常に取り組み続けているところですが、今回のSHV32ではバックライトとカラーフィルタを新規で開発したことで、今まで以上に色の再現性が向上し、より綺麗な表示で写真や動画を楽しんでいただけるようになりました。
それに加え、従来は画質モードも一律でしか設定できなかったのですが、何をしているか、何を見ているかによって表示して欲しい画質モードが違うよね、と考え、おすすめ画質モードというものをあたらしく作りました。アプリによって最適な画質に切り替えます。表示の綺麗さで感動を与えたいというところが今回、表示面での進化ポイントになります。
カメラにはスーパースローの機能があります。スローというとミルククラウンが有名ですが、ミルククラウンも実際に撮影することができます。
後藤氏
実際の利用では子どもなどの撮影が中心になると思いますが、このように撮影できます。スナップ的なものも、このような見え方になるだけで、面白さが加わります。そういった意味では、いろいろなシーンで使ってもらえる機能かと。
伏見氏
スロービデオは再生時にシャッターボタンが表示されるので、そのシーンを静止画として切り抜き保存もできます。
――今夏のシャープスマホは他キャリア向けのハイエンドモデルでもスローを訴求されていますが、そこに差はないのでしょうか。
後藤氏
差はありません。他メーカーと比較すると、同じフレームレートなら解像度が高く、同じ解像度ならよりスローになります。
伏見氏
フルHDで120fps撮影、フルワイドVGAで210fps撮影が可能で、再生時にはそれを10倍にフレーム補完することでスーパースローを実現しています。
――このスロービデオ機能はカメラモジュールとチップセットがあったから搭載されたのでしょうか。
後藤氏
チップセットは当然、世代を追いかけていますが、カメラも世代が変わるタイミングが合い、それぞれの流れの中でうまく載せられました。
――静止画の方はどうでしょうか。
伏見氏
しっかり向上を図っていて、KDDI向けモデルとしては初めて、リコーによる認証プログラムの「GR certified」を取得しています。
――GR certifiedはリコーのチームにチューニングとかを委託したりするのですか?
後藤氏
レンズと画像処理に認定項目があり、技術的なフィードバックをもらい、それを元に調整します。
レンズについては解像感や歪み、画像処理は低ノイズであることや解像感がチェックされます。それをリコーのチームに見ていただき、どういった方向でチューニングするかといったアドバイスをいただきながら開発しています。
こちらに表彰状とトロフィーがありますが、リコーさんにはここまで力を入れてやっていただいています。
――今回は3キャリア向けのハイエンドモデルがそれぞれGR certifiedを取得しています。そこは同じセンサーとエンジンを搭載しているのなら、1回の認証でしょうか?
後藤氏
全部別々に取得しています。
――差が出るものなのでしょうか……?
後藤氏
本来ならばまったく同じですが、そこは厳格に運用されています。
――リコーとのフィードバックの往復は何回くらいやるものなのでしょうか。
後藤氏
何回かまではわかりませんが、1号機のときは相当な回数のやりとりがありました。今回は世代としては2号機になりますが、1号機の経験があったので、要領は掴んでいたかとは思います。
――前回と要求基準は同じなのでしょうか?
後藤氏
要求基準は前回より厳しくなっています。リコー側でも認証プログラムを実施していく中で、「スマホのカメラでここまでやるのか」と感動されていました。
――スペック面での要求はどのようなものがあるのでしょうか。
後藤氏
いろいろあります。やはり一番重要なのはレンズの性能と画像処理の部分で、そこは非常に厳しいです。
――今回、エモパーは2.0となっていますが、どのように変わったのでしょうか。
伏見氏
エモパーはよりユーザーに寄り添うように進化しています。
たとえばユーザーが事前にキーワードを入力しておくと、それに関連したニュースやテレビ番組について話してくれます。
今までは自宅で端末を置いたときだけしゃべっていましたが、たとえば通勤電車でヘッドホンをして音楽を聴いているとき、降りる駅を学習し、「そろそろいつものXX駅ですね」と教えてくれたりします。
また、従来はエモパーが話しかけてきたらそこでお終いでしたが、今回は声に反応するようになりました。エモパーが話しかけてきて、そこに応えると、さらにエモパーが反応します。
後藤氏
声を認識するエンジンが追加されています。ソフトウェア面だけでなく、どんな環境でも声を拾わないといけないので、マイクが3つ内蔵されています。エモパーは机の上に置いたときなど、さまざまな環境で音声を認識しないといけないので、認識エンジンも新しいものです。ここに対応しないとエモパー2.0になりません。
――機能面では3キャリア向けハイエンドモデルで並んでいる感じですが、デザインで見ると、au向けだけかなりテイストが違うかな、とも感じます。とくにカラーは思い切った印象です。
伏見氏
デザインについては、フレームを細いものにして、シャープの特徴であるEDGESTを際立たせています。コーナーを削るなど、特徴付けもしています。背面も今回はフラットで平滑な美しさを表現し、フレームを付けることで端末全体を一体感のあるデザインとしています。さらにそのデザインで活かせるカラーを展開しています。たとえば真っ黒だと活きませんので。
――ソフトバンク向けのAQUOS CRYSTALはフレームをなくしていて、EDGESTもフレームを目立たせなくするのかな、と思っていたのですが、フレームをあえて出しているのは面白いですね。
後藤氏
EDGESTはスタイルが特徴となっているので、普通にやるとどの機種も似てしまいます。その中で新しさを出すための手法として、このようにやっています。
au向けは代々、カラーリングについては元気があるイメージで提案しています。フィーチャーフォン時代から、auのカラーでもあります。
VoLTEに対応した「AQUOS K SHF32」、ブラウザも使いやすく
――続いてAQUOS Kについて、まずは製品の概要からお願いいたします。
後藤氏
AQUOS Kは、「日フォン」や「ガラホ」など、いろいろな呼び方をされていますが、今回はその2号機になります。1号機は今年2月だったので、「こんなに早く」という声もありますが、これだけ早い理由としては、ひとえにVoLTE対応モデルをいち早く投入したかったということがあります。
1号機が登場したときのコンセプトは「ガラケーを進化させたい」というところでした。だからLTEに対応していましたが、当然、その進化の先にはVoLTEがありました。ただ1号機の時点ではタイミング的に間に合わず、VoLTEは対応できませんでした。そしてVoLTE対応モデルを提供できる最速のタイミングということで、1号機からあまり間をおかない夏モデルとして2号機を投入します。
1号機は発売から4カ月ほど経過していますが、評判としては、ユーザーの年代では40代~50代が多いです。男女比では男性が6割強。このあたりは当初の想定通りで、既存のフィーチャーフォンユーザーとかぶるところです。
どういった部分が評価されたかというと、まずLTEです。これは既存のフィーチャーフォンになかったので当然ともいえますが、発売前はフィーチャーフォンを使っているユーザーにLTEが響くのか、とも考えていました。しかしフタを開けてみればLTEが高評価を受けています。
もう1つの評価された部分はLINEです。LINEはダウンロードアプリにしているので、最初にダウンロードの手順が必要なのですが、ダウンロード率は9割を超えています。ここにニーズがあるのはわかっていましたが、予想以上に使われています。
濱田氏
同時期に発表されたNTTドコモ向けのAQUOSケータイとは違う方向性になっています。また、今回のAQUOS Kは2号機ということで、1号機が登場感や先進感を演出していたのに対し、よりユーザーの裾野を広げるという意味で、華やかでありながら落ち着きのある色調を採用しました。アンバー、クリアホワイト、ボルドーの3色があり、プロモーションカラーはアンバーになります。
――今回もターゲット的には40代~50代の男性でしょうか?
濱田氏
基本はそこに置きつつ、徐々に広げていきたいと思っています。
機能面では今回、VoLTEに対応したのが目玉になっています。今までよりクリアな音声通話が可能になりました。最大30名までの同時通話も可能になっています。
――VoLTE以外のスペック面で、1号機との差は?
濱田氏
大きな差はありません。外観とソフトウェアのアップデートになります。
――1号機はVoLTE非対応でした。中身があまり変わっていないなら、1号機をソフトウェアアップデートでVoLTE対応させることもできるのでは。
後藤氏
ソフトウェアアップデートでの対応はできないと思います。SIMカードも違いますし、単純な書き換えで済む話ではありませんので。
――なるほど。そのほかに進化点はありますか?
濱田氏
ユーザーからはブラウザ中心で色々お声をいただきました。まず、ブラウザで動画を見るとき、横長全画面に対応しました。
後藤氏
LTEだとネット動画を見る機会も増えます。気兼ねなく見られるとなると、ここは大きく表示できないと、と。
ブラウザはオープンなものなので、スマホサイトもPCサイトも閲覧できます。PCサイトを表示させるとき、拡大縮小の操作はタッチクルーザーEXのピンチイン/アウトでもできますが、1キーと3キーにも操作が割り当てられています。スマホサイトでは4キーと6キーで文字サイズの拡大縮小ができます。
濱田氏
タブレットと連携するPASSNOW機能も強化され、タブレットの通知をAQUOS Kで受けられるようになりました。
――AQUOS K向けに新料金プランも用意されましたね。
後藤氏
このタイミングで料金プランを用意してもらいました。前のモデルでも使える料金プランもあります。
――前のモデルはどうなるのでしょうか。
後藤氏
しばらくは併売になるのではないでしょうか。VoLTEがいいか今のままでいいか、お客様に判断していただければと思います。
――NTTドコモ向けにも似た機種を出されていますが、あちらは3Gのみでアプリ追加もできないなど、違いがあるのが面白いです。au向けのAQUOS Kについては、今後は機能面でリッチに進化していくイメージなのでしょうか。
後藤氏
発表会でKDDIさんもおっしゃっていましたが、大事なのは「新感覚」だと思っています。もともとの狙いは、ずっと進化が止まっているフィーチャーフォンの世界、そこに多くの人が残っていますが、そこに新しい価値を提供しないといけない、と考えました。
他キャリア向けのモデルは、フィーチャーフォンの置き換えという位置づけ要素が強いですが、それでも、フィーチャーフォンを進化させた要素が入っています。Androidを入れた時点で、LINEやPASSNOWのような機能も入っています。我々にとっては、両方ともフィーチャーフォンの進化形です。
――Playストア非対応なものの、auスマートパスからアプリダウンロードが可能というのが面白いですね。
後藤氏
そこはauさんの方で充実していただいています。今のところアプリ数は90個くらいですが、このモデル発売の時点で120個くらいになり、その後も拡充していく予定です。
――EZweb端末向けのサイトやサービス、アプリを利用できないので、そこをカバーしてくれないと、フィーチャーフォンから移行してきた人にとってストレスになってしまう可能性がありますね。
後藤氏
今のauスマートパスのアプリで主要なところは押さえられていると思います。既存のフィーチャーフォンの人が新機種になったら使えなくなった、ではいけません。今までやれたことは当然対応していて、プラスαの要素もある、と。
――エモパーがAQUOS Kのようなフィーチャーフォン端末に搭載される可能性は?
後藤氏
実はエモパーは年配の方にもウケがいいんです。機能としては30代男性などをターゲットとしていますが、実際には上の年代にも人気があるので、搭載もアイディアとしてはあります。アイディアレベルですが、前向きに検討しています。
――Web動画の全画面表示とかが可能になったわけですが、そうなるとシャープが過去やられていた「サイクロイド」のデザインとかは?(笑)
後藤氏
どうなんですかね、そこまで求められているかな、と(笑)。そこまで必要な人、サイクロイド端末を使っていたような人は、もうスマホに移行していると想定しているのですが……。いずれにしても新世代ケータイにはさまざまな進化の可能性を感じています。
――本日はお忙しいところありがとうございました。