インタビュー

帰ってきたWindows Phone「MADOSMA」開発者インタビュー

帰ってきたWindows Phone「MADOSMA」開発者インタビュー

「スマホでもWindows」で参入するマウスコンピューターの狙い

 Windows Phoneが日本の市場から消えて数年、久々に登場したWindows Phoneは、パソコンメーカーとしてお馴染み、マウスコンピューターの「MADOSMA」(マドスマ)だ。日本では初となるWindows Phone 8.1搭載の同製品について、同社製品企画部 部長の平井健裕氏にお話を伺った。

マウスコンピューター 製品企画部部長の平井健裕氏

「ど真ん中」のミドルレンジでエコシステムの構築を狙う

――まずは開発に至った経緯をお聞かせください。

平井氏
 きっかけは2014年の「Build」ですね。その場で、Windows Phone 8.1の詳細が発表され、改めて「PCのWindowsと、モバイルのWindows Phoneを一緒にしていく」という大きな方向性が示されました。そして、将来的にはPCとモバイルで同じアプリが動くようになると発表がありました。その方向性を「ユーザーにとってメリットがあり、わかりやすい」と受け止め、その時期から「Windows Phoneをぜひやりたい」という思いを抱きました。

 昨年、まずはLTE対応のWindows搭載タブレットを開発し、ノウハウを蓄積した上で、今年はいよいよスマートフォンに挑戦しようということになりました。

 海外ではMicrosoftの「Lumia」がハイエンドからローエンドまで広く展開されていて、好きな端末を選べるようになっていますが、日本ではWindows Phone 8.1のスマートフォンが1機種も発売されていません。

 そのため現状では、興味のある方はリスクを取って海外の端末を使っているような状態になっています。その状況は非常によくないと考えておりまして、まずはWindows Phoneを日本に持ってきて、「試しに使ってみるか」と手に取っていただければと思い、開発に至りました。

「MADOSMA Q501」

――この端末はどのようなコンセプトで開発されたのでしょうか。

平井氏
 日本でスマートフォンといえば、ハイエンドのプレミア路線が主流となっていますが、この機種は日本で初めてのWindows Phone 8.1搭載モデルになるかもしれないので、いきなりそこから攻めていくのも違うだろう。かといって、ローエンドでLTE非対応のモデルを出して、何かアプリを動かしてみて性能が足りなくなっても困るだろうと。

 そういうわけで、今回は性能面ではミッドレンジ、上でもない下でもないど真ん中を狙いました。性能的に真ん中のものを真ん中くらいの価格で出したい、というコンセプトで、この性能を選びました。

――最初から「ミドルレンジ狙い」だったのでしょうか。

平井氏
 そうですね。最初からプレミアは無理だろうと思っていました。iPhoneですと、6 Plusがあり6があり5sがあり、Androidだとそれこそ数多くあります。その中で選べてこそのプレミアの価値がでてくるのだろうと考えています。

 Windows Phoneではそのエコシステムがありません。2月にもう1社さんが手を挙げていただいていますが、それでもまだ2プレイヤーです。そこでいきなりプレミアを目指すよりは、ミドルだろうと。

 Windows Phoneは弊社だけといった状況で展開していくのは難しいので、プレイヤーが広がるのは大歓迎です。このプラットフォームの可能性を信じた者同士で、みんなで盛り上げていければ、と思います。

――最近ではグローバルでも2~3万円の価格帯を狙っているメーカーが多いようですが、「MADOSMA」もそのゾーンで提供されるのでしょうか。

平井氏
 そうですね。弊社は元がPCメーカーですので、7~8万円のスマートフォンで「お試しください」と言って出すのはさすがに違うなと。

「なぜWindows Phone 8.1なのか」と断られ続けた製造パートナー探し

――初めてWindows Phone 8.1スマートフォンを開発されましたが、苦労されたこと点はどのようなところでしょうか。

平井氏

 まず開発、製造を一緒にやってもよい、と言って頂けるパートナーを見つけることが困難でした。「Androidでノウハウも貯まっている、マーケットもある、WindowsならこれからWindows 10も登場するというこの時期に、なぜWindows Phone 8.1でやらなきゃいけないのか」と。「日本でこれだけ売ります、開発費も出します」というだけでは単純に通らない状況でした。

 「Androidスマートフォンはこの先ますます真っ赤(レッドオーシャン)だ、Mobile World Congress で40ドルなAndroidスマートフォンのポップを見ただろう」と、Windowsの可能性以前な話も交えつつ、Windows Phone のノウハウを持つ企業に根気強く通い詰め、中国への片道切符で「握手してくれるまで帰らない」というくらいの勢いでパートナーとの協業体制を構築しました。

――立ち上げの時点でそのような苦労があり、お互い手さぐりの状態で開発を進められたのですね。

平井氏
 今回のパートナーの場合、3G対応のWindows Phoneの開発、販売実績がありましたが、ノウハウ面においてはAndroidと比べるとどうしても弱く、キックオフした後も順調とは言えない状況でした。

 設計上のベースにしたモデルはAndroid搭載ですが、それをWindows Phoneに最適化する上で、かなり手を加えています。例えばホームボタンのWindowsロゴ。Windows Phone 8.1から条件が緩和されていて、画面内表示でも構わない、となっています。

 しかし、5インチで画面内ボタンでは利便性にも影響するし、かっこよくない、ということで、あえてWindows Phone用に作り直しました。Android版のリング上のボタンでどうか、とも言われたのですが、それはさらにないだろうと。

 そしてWindowsボタンに変えてみたらなんとなく暗い、ではもっと白く明るく光るようにしよう、タッチ感度が悪いので、タッチパネルを変えよう、センサーを変えよう、といった感じでどんどん変えていきました。ここまできたら「共通化」でもなんでもないことになっていますね(笑)。

 実はこの機種は、パートナー経由で、日本以外の地域向けの提供計画が存在します。というのも、残念ながら日本向けだけではパートナー側で採算ライン的に厳しいので。ですが、まずは日本で提供し、その後に他地域で展開するという順番になっています。そういう意味でも「ベースモデルが存在しない」は嘘ではないと思っています。

 この端末を初めてお見せした「Mobile World Congress」でも、実はパートナーと一緒に、他の地域の方々へのプレゼンをしたりしていました(笑)。

 スマートフォンでは、一定数出荷するからこそ、見えてくる課題や改善策がありますので、そういう意味でも他の地域でのビジネスも大事、という考えからですが、今考えると絶妙ですね。

「MADOSMA」を開発するにあたって新規で設計したという前面ボタン部。左がWindowsボタンに変更した初期モデル、右がボタンを明るくしたモデル。

携帯電話として使うために、日本の周波数対応は大前提

――ハードウェア開発の上でこだわりは、どういったところにありますか。

平井氏
 NTTドコモで使われるバンドにできるだけ多く対応させました。今回はLTEのBand21(1500MHz帯、NTTドコモが使用)には対応できなかったのですが、それでもBand19(NTTドコモがFOMAプラスエリアとして使用)には絶対に対応しようと設計しました。

 その時点でベースボードから作り直しということになってしまいまして。そこの苦労だけでも、数時間でも語れるくらい、いろいろありましたね。

 特に認証については、認証ラボに出してテストして終わり、とPCの設計プロセスとは真逆でした。旧iiyamaから所属する認証ラボやパートナーと渡り合えるレベルのスタッフがいまして、そのノウハウに大きく支えられたところがあります。

「MADOSMA」のメインボードは、上部に集約されている

――データ通信だけに割リ切るなら、ある程度対応バンドが少なくても利用できるとは思いますが、800MHz帯に対応されたのは、音声通話にこだわったからでしょうか。

平井氏
 極論、東京に住んでいたらBand1(2100MHz帯)だけでもある程度は使えますが、少し都心を離れると、ところどころで圏外になってしまいます。やはり電話なので「電話は電話として使えないと」と。

――MVNOなどで、小容量のデータプランを契約しているユーザーも多いようですが、使いすぎを防ぐ対策などはされていますか。

平井氏
 Wi-Fiでしか利用できないように設定できるものについては、なるべく初期設定ではデータを利用しないようにしています。ソフトウェア更新では、まずは通知を出すようにして、更新はWi-Fiで行っていただく仕様としています。ほとんどのユーザーがMVNOで利用されると想定していますので、そういった点には配慮しています。

――Android/iOSで一般的に提供されている機能で、対応が難しいものなどはありますか。

平井氏
 キャリアモデルではないため、緊急地震速報など、キャリアのサービスを利用するものには対応していません。

 アプリの対応については、弊社の方で、ユーザーがよく使うであろうアプリをリストアップして、ひとつひとつ検証している段階です。

――今後、Windows Phone搭載スマートフォンが増えていくと思われますが、「MADOSMA」として、差別化できる点はどのようなところでしょうか。

平井氏
 差別化については、パーツを選んで組み上げるPCと違って、スマートフォンは買ったらその構成のまま使っていくという形が一般的ですから、同じレンジで製品が登場したとしても、完全に被らないのではないかなと思います。

 弊社としては、スマートフォンを基軸にしていくことは絶対になく、「PCとセットで使うとこんなに面白い」というコンセプトから開発した製品ですので、そういった利用スタイルを提案していければと思います。

――「MADOSMA」ならではの使い方があれば教えてください。

平井氏
 やはり一番のメリットは、Windowsとの親和性が高いところですね。例えば「MADOSMA」で写真を撮ると、「OneDrive」に自動で転送されてPCで見ることができる。本体にも写真は残るので、バックアップにもなるわけです。そういった、マイクロソフトのサービスの使いやすさが、iOSやAndroidに対する強みだと思います。

――「MADOSMA」というネーミングに込めた思いはどのようなものでしょうか。

平井氏
 弊社として「スマートフォンはWindows=窓でやります」というシンプルなメッセージと、「新しい可能性を開く=窓を開く」という意味を込めました。いろいろなアイデアはあったのですが、最後は社長と会長の決断で。

 ブランディングについては、パッケージに「マウスコンピューター」のロゴを一切入れていないところにも特徴があります。コンセプト、ブランドが明確に伝わるように、という考えからです。

ホーム画面のタイルは、ライムグリーンと白の「MADOSMA」ブランドカラーに設定されている

――これから提供されるWindows 10 Mobileへの対応についてはいかがでしょうか。

平井氏
 ハードウェアとしては、確実に対応可能です。タッチパネルやカメラなどの部品も対応できるものを選んでいます。ただし、OSの開発状況が刻一刻と変化しているなかで、どのタイミングで「対応します」と宣言できるかは、悩ましいところです。

 皆様がお待ちになっていることは承知しておりまして、Windows 10の開発用ビルドで検証していたりもするのですが、現時点では、断言しづらい状況です。

 Windows 10 Mobileに関して言えば、今回クアルコムから、Windows 10 Mobileをプリインストールして提供するための推奨SoCが、ロードマップの形式で公開されています。そこで対応予定となっているミドルレンジのSnapdragon 425で設計していたら、いつ発売できるのかわかりません。今回、Snapdragon 410とWindows Phone 8.1で発売して、Windows 10 Mobileへのアップグレードの形での対応を見越して、開発しているのは、もしかしたら、これがWindows 10 Mobileを一番早く提供できる形なのではないかという考えがあります。

中国の深センで開催されたWindowsの開発者イベントで、クアルコムの担当者が登壇したプレゼンの中で示されたロードマップ。プレゼンの動画はmsdnのサイト上で公開されている

――ターゲットは、個人と法人、どちらになりますか。

平井氏
 Windows Phone 8.1では、法人の方のニーズが多いと想定しています。セキュリティ面など、8.1のままでも享受できるアドバンテージは、法人向けのものが多いです。Windows 10 Mobileで提供する段階になれば、法人と個人でほぼ半々になっていくと考えています。

――現時点で見えている課題はありますか。

平井氏
 日本語への対応について、まだ完璧といえません。個々のアプリを含めて、一つ一つ対応や打診を行っている状況です。

 また、スマートフォンを販売させて頂く上で、ノウハウが不足しているところがあるだろうことは否めません。ただ、弊社としてはこのビジネスを少なくとも数年は継続したいと考えていますので、お客様のフィードバックを得て、可能な限り対応していきたいと考えています。

――防水など、日本独特のニーズへの対応予定はありますか。

平井氏
 今回のモデルではなるべく早く提供することを意識しました。まずはこのモデルを使っていただいて、要望といった形でフィードバックしていただければ、次のモデルから反映していきたいと考えています。

背面のカバーは取り外し可能。バッテリー交換もできる

――PCでは一般的な「BTO」への対応ついて、スマートフォンについてはどのようにお考えでしょうか。

平井氏
 スマートフォンではPCと違い「使いたい用途に合わせて端末を選ぶ」というスタイルが一般化してくると考えています。今後は、マルチデバイスで使うユーザーが増えていくでしょうから、ニーズが合いさえすれば、BTOとして提供しなくても2台目として潜り込むことはできると思います。

 また、スマートフォンの場合、BTOでカスタマイズできるようにすると、注力して開発した、特徴的な機能がアピールしづらくなるという問題もあります。サービスベースで端末を選ぶというスタイルが一般的になっていく以上は、難しいところだと思います。

 PCとスマートフォンで、認証の仕組みが違う点についても課題はあります。モジュールごとに認証を取得するPCと違い、スマートフォンでは端末ごとに認証を取得する形になっていますので、一部のパーツを組み替えると、認証を再申請する必要もでてきてしまいます。

 一方で、いい意味でPCメーカー的な発想は捨てないようにしようと考えています。例えば、標準で16GBのmicroSDカードを付属させました。内蔵ストレージの8GBでは足りないといった声もあるでしょうし、今後Windows 10のアップデートをする際に使うことになるでしょうから、それならつけてしまおう、という発想です。

 また、端末には液晶保護フィルムが、最初から貼られている状態になっています。画面に貼ってある注意書きのフィルムが二重になっていて、一枚はがすと透明な保護フィルムが残るようになっています。ディスプレイにガラスの強度は十分なものですが、それでもやっぱり貼りたくなるものですから、じゃあ最初から貼っておこうということで、最初から貼っています。

保護フィルムと前面ガラス部のパーツ
外箱

――本日はありがとうございました。

石井 徹