ドコモに聞く

メールと電話帳をクラウド化、新時代に向かうドコモの狙い


 冬モデルの発表とあわせ、発表された新サービスが「spモードメール」「電話帳」のクラウド化だ。これまで端末上にあったメールと電話帳のデータをサーバー上に保存、管理していくという形になる。

 ドコモでは、同社ネットワーク上で新たな付加価値を提供する「ドコモクラウド」という概念を掲げ、サービスの展開を図っている。これまでに音声認識とデータベースを組み合わせた「しゃべってコンシェル」や、フォトストレージサービス「フォトコレクション」といったサービスが提供されているが、今回のメールと電話帳のクラウド化も、ドコモクラウドの一環と言える。

クラウド化するドコモメール

 その一方で、メールについては、若年層を中心に、「LINE」に代表されるリアルタイムなチャットサービスが人気だ。電話帳を直接置き換えるものではないが、実名で繋がる「Facebook」のようなソーシャルサービスで連絡を取り合うことも増えている。コミュニケーションの根幹となるメール、電話帳といった部分もまた、スマートフォンの隆盛の影響を受けて、キャリアやメーカーだけが仕組みを提供する領域ではなくなっている。

 そんな中、ドコモが提供するクラウドサービスは、どういった考えに基づいているのか。本誌の取材に対して、ドコモの担当者であるスマートコミュニケーションサービス部 コミュニケーションサービス企画担当部長の太口 努氏と、同じくスマートコミュニケーションサービス部の河内みずき氏は、全国津々浦々に顧客を抱えるドコモにとって、クラウド化は新たな時代に向けた基盤の整備になると語った。

11月開始の電話帳クラウド化

 メールと電話帳のうち、冬モデルの発売にあわせて、11月にスタートするのが、電話帳のクラウド化だ。ドコモでは1年前の2011年冬モデルから、各機種共通の電話帳アプリを提供してきた。これが布石となっている形だが、現時点で、電話帳のクラウド化に対応する機種は、今回の2012年冬モデル以降の機種とされている。それ以前の機種については検討中とのことだが、たとえば「GALAXY NEXUS」やタブレットなど、そもそもドコモ共通の電話帳アプリを搭載していなかった機種については、電話帳クラウド化に対応する可能性は低い。

 電話帳のクラウド化は何をもたらすのか。主な機能は以下の通り。


  • 電話帳変更お知らせ

  • ソーシャルサービスとの連携

  • パソコンなどからの電話帳の閲覧・編集

  • 機種変更時のデータ移行


 「電話帳変更お知らせ」では、メールアドレスや電話番号など自分のデータが変更された場合、電話帳に登録されている人へ一斉に通知できる。ただし、通知できるのは同じクラウド化された電話帳アプリ「ドコモ電話帳」のユーザーに対してのみ。当初は範囲が限られるが、徐々に拡大が見込める機能だ。
電話帳変更お知らせ利用時に通知するかしないか選ぶ
フレンド通知の設定画面自分がSNSへ投稿したコメントを友人の電話帳に表示させられる

 ソーシャルとの連携として「ドコモ電話帳」に自分のソーシャルサービスのアカウントを登録し、なおかつ「友人へ通知」と設定しておくと、友人の「ドコモ電話帳」内のタイムラインに、ソーシャルサービスに投稿したコメントなどのフィード(最新5件)が流れるようになる。対応サービスはTwitter、Facebook、はてなダイアリー、Ameba、foursquare。受け手側は特に事前の設定の必要はなく、友人がソーシャルサービスへ投稿したコメントを楽しめるため、SNSを利用していないユーザーも楽しめる。「ある調査ではソーシャルサービスの利用率は日本人の3割」(河内氏)とのことで、SNSを利用したことがないユーザーにとっては「ドコモ電話帳」をきっかけに、触れたことがないサービスを利用するようになるかもしれない。ちなみに今夏、ドコモの電話帳アプリには、「マイSNS」という機能が追加されている。いわば各種ソーシャルサービスのクライアントになる機能といえる「マイSNS」は、ユーザー自身が利用するソーシャルサービスのアカウントを登録すると、各サービスのフィードを閲覧できる。

 来年2月を目処に、パソコンからは専用サイトで、閲覧や編集も可能になる。いわばマルチデバイス化と言える形で、現時点ではソーシャル連携もパソコン版に反映させるかどうか、検討されているという。

 電話帳のデータがサーバー上に置かれ、端末内と同期を図る形になるが、端末内データのみ利用するモードも用意される。

メールは来年1月開始

 一方、spモードメールのクラウド化は、2013年1月になる予定だ。サービス名称も「ドコモメール」と一新し、端末上のアプリのユーザーインターフェイスも一新される。

 来年開始のサービスとあって、詳細は明らかになっていないが、メールデータは基本的にサーバー上にあり、端末上に残すデータは「ヘッダ(題名や差出人など)のみ保存」「本文のみ保存」「本文と添付ファイルを保存」などから選択できるようになる予定。また「最新50件のみ保存」といった設定も用意される方向で検討されている。

 たとえば「ヘッダのみ」としていれば、メール本文はキャッシュされず、本文を読もうとするたびサーバーへアクセスする形になり、圏外では参照できないとのこと。これまでのメールと同様、プッシュ配信にも対応する。

端末内にあったメールと電話帳をクラウドにする理由

 ここからは太口氏、河内氏へのインタビューをお届けしよう。

――今年に入ってクラウドサービスへ注力する方針を示してきたドコモですが、今回発表されたメールと電話帳のクラウド化は、ユーザーにとって、これまでとどういった違いがあるのでしょうか。

太口氏
 クラウドと一口に言っても、さまざまな形が想定されていると思います。今回のサービスについて、ユーザーにとっては、基本となる“マスターデータ”がどこにあるのかという点で、違いが出てくることになります。これまでは端末上でしたが、クラウド化によってサーバー、ネットワーク側で管理させていただくということになります。

 マルチデバイス対応も違いの1つです。スマートフォンだけではなく、タブレットなどでも、自分のメールを利用できるようになります。この点は、既にWebサービスとしては1つの流れとして当然となっている部分だと思います。キャリアメールもまた、そうなるべきだと考えました。そのほか、機種変更時のデータ移行についてもクラウド経由で行えるようになり、メモリカードや店頭端末(DOCOPY)と比べて、手軽になります。万が一、端末を紛失してもサーバー上にデータがありますので復元しやすくなります。

河内氏
 ちなみに端末上のデータを削除すると、サーバー側のデータも削除されます。この点は、今後、削除前のデータを利用できるようにするなど、改善したいと考えています。

――なるほど。

太口氏
 こうしてユーザーのデータが蓄積されることで、さらに便利な機能が提供できるのではないかと考えています。たとえばパソコンでドコモメールを利用する場合、電話帳データがパソコン内に存在していなくても、クラウド経由で差出人が誰か確認できる、といった点も、そうした新機能の1つと言えます。

――メールと電話帳のクラウド化は、仕組みとしては大きな変化のように思えます。開発にあたって障壁はなかったのでしょうか。

太口氏
 個人的にはそういった障壁があったとは感じていません。ただ、昨年から検討をしてきた中で、「クラウドとは何か」という点で、ドコモが同じ方向を向いていくための努力が必要だったかなとは思います。そもそもクラウドと一口に言っても、さまざまな形態がありますし、概念としても比較的最近普及してきたものですから。

spモードメールアプリに反省

――ドコモメールへ生まれ変わる「spモードメール」では、そのアプリの使い勝手に対して、ユーザーから厳しい評価が寄せられていたように思います。

太口氏
 はい、そういった指摘は確かにいただいていました。今となっては単なる言い訳になるかもしれませんが、サービス開始時、急遽メールアプリを提供しなければならない状況で、急ごしらえで作らざるを得なかったというのが正直なところです。メールアプリ提供後、デコメ対応など、機能追加を行いましたが、つぎはぎする開発にならざるを得ませんでした。

 こうした状況は打破しなければいけません。それは、メールのクラウド化と別の話として、操作感を含め、アプリの作り替えも考慮して、ユーザーインターフェイス(UI)、そしてユーザー体験(UX)を考えなければいけません。メールのクラウド化を進行させつつ、抜本的に作り替えようと考えていました。

――今回、メールアプリも一新されますが、それはクラウド化と別に、spモードメールでの状況を踏まえて、ということなのですね。

太口氏
 はい。お声を頂戴したことをしっかりと受け止めて、使い勝手の良いものにしたいと考えました。

容量はどうなる?

――クラウド化すると、ユーザーが使えるのは1GB、最大8万件という容量ですね。

ドコモの太口氏

太口氏
 このあたりは利用実態にあわせたいと思っています。一般的なWebメールサービスと比べてスペック的に見劣りするように思えるかもしれませんが、スマートフォンでの利用という環境で平均的な使い方をチェックした結果、1GBという容量は、数年分の容量になると考えています。もちろん、動画や高精細な写真をやり取りすることもあるでしょう。人によってはわずかな期間で、1GBを利用してしまうかもしれません。一律で容量を増やすほうがいいのか、あるいは有料のプレミアムサービスといった形がいいのか、検討していきます。

 それから重要な点はキャリアが提供するメールサービスという点です。つまり設備の信頼性を確保しなければいけません。

――なるほど、たとえば「気軽に容量を追加してみたら、メールが使えない不具合が……」ということがあってはならないというわけですか。

太口氏
 そのあたりのバランスをどうとるか。保守的になりすぎて、新たな一歩が踏み出せないのもいけませんし、信頼性を犠牲にするわけにもいきません。どちらも両立することを目指します。

――しかし、メールのクラウド化でマルチデバイス対応となり、パソコンからも利用できるようになれば、大容量のファイルのやり取りで使われるケースも増えてくるのでは?

太口氏
 ドコモメールの基本は、「携帯電話/スマートフォンでのメール」と考えています。パソコンでの利用を促進するわけではありません。もちろん先述したように、利用動向を見極めながら対応していきたいところです。

――今春よりドコモからAndroid向けに「CommuniCase(コミュニケース)」というメーラーアプリが提供されていますが、クラウド化との違いというか、位置付けはどういった形なのでしょうか。

太口氏
 ドコモメールは、キャリアメールの価値を向上させ、表現を高めていく方針のもとにありますが、「CommuniCase」については、spモードメールとGmailに対応したアプリ、つまりマルチアカウント対応として提供しています。マルチデバイスと同じように、マルチアカウントという時代の流れも当然あると思っています。そこにドコモとしてアプリを提供させていただいたわけです。

「LINE」について

――昨今は、「LINE」が人気です。今回、ドコモメールが刷新されても、期待するほどユーザーから利用されないのではないか、という懸念はありませんか。そして、これまで人気コンテンツだったデコメに対して、どういった取り組みを行うのでしょうか。

太口氏
 まずデコメについては、利便性の向上が目標の1つです。コンテンツプロバイダの方々にとってもビジネスの1つとして活用していただけるようにしていきます。11月13日から「かんたんデコメ」というアプリの提供も開始しており、より手軽にデコメ素材を使ったメールを作れるようにしています。こうした取り組みで、より便利に、より賑やかにしていきたいと思います。

 そして、現在、若年層を中心に、キャリアメールから、「LINE」に代表されるリアルタイムなチャットサービスへ流れていっているのは事実だと思います。単なるチャット、いわゆるインスタントメッセージといったサービスは昔から存在していますが、ユーザーインターフェイスの工夫、スタンプのような機能で楽しめるようになってきた、というのは十分認識しています。

 ただ、ちょっと割り切った言い方になりますが、コミュニケーションツールとしてはいろんな手段があるべきだと思っています。LINE、カカオトークなどが登場していますが、我々もコミュニケーションの多様化を受け入れるべきです。

――キャリアメール、リアルタイムチャットは、それぞれ手段の1つにすぎないですね。

太口氏
 利用が減っていくと、キャリアメールの意義や価値は減っていきますから、そこはきちんと訴求して、使えるときには使っていただけるよう、我々はキャリアメールの価値を向上していく取り組みを続けていきます。

 それからもう1つ、スマートフォンでさまざまなサービスが登場するなかで、「安心して使えるサービスは何か」ということが、見えにくくなっているとも思います。キャリアメールについては、利用頻度が下がるかもしれませんが、はたして「存在しなくていい」というところにまで行き着くでしょうか。キャリアが提供するサービスだからこその安心感というものも訴求できるのかな、と考えています。

――確かにキャリアメールでやり取りする間柄というケースはまだまだ多いですね。それから「LINE」のようなサービスでは、アドレス帳データの取り扱い方から、利用をためらう人はそれなりにいそうです。

太口氏
 新しいサービスで利便性が高まる一方、セキュリティ面での弊害というか、気になる点はあるでしょう。もっとも、サービスを開発、提供する我々が「弊害があるから」と保守的になってしまうと、新しい物は生まれません。キャリアとしてどこまで踏み込めるのか。どこかに風穴を開けていくのか、考えていきます。

電話帳のクラウド化で何が変わる?

――続いて、電話帳の取り組みについても教えてください。クラウド化でマルチデバイス対応がメリットの1つとのことで、来年提供予定のパソコン版のサンプル画面を見ると、SNSっぽいサイトデザインのようにも見えます。将来的には、電話帳を起点にしたSNSとしての機能も用意していくなどの考えはあるのでしょうか。

ドコモ電話帳のパソコン版のサンプル画面

河内氏
 今夏から、電話帳アプリがSNSのクライアントになっていたり、今回の機能拡充でユーザーがSNSへ投稿したコメントを友人のスマートフォン上の電話帳アプリで見る、といった使い方ができるようになったりしますが、ドコモとして電話帳そのものをSNSにしていく考えはありません。基本的に、キャリアのサービスとして、ユーザーの満足度を高めたいという考えです。

 技術的には確かにそういった取り組みは可能でしょうが、TwitterやFacebook、Amebaといったサービスはそれぞれ既に一定規模のユーザーが存在しています。パソコン版のデザインは、親しみやすく使いやすいデザインを目指していて、まだ確定ではないのですが、SNS化といった考えはないのです。

太口氏
 既存のSNSへ対抗するわけではありません。先ほど申し上げたように、クラウドになることで、さらなる付加価値が提供できるだろうということです。メールと電話帳のクラウド化は、新たなサービスの提供という今後に向け、基盤ができた、ということだと捉えています。

――キャリアならではのサービス、使いやすさで満足度を高めたいということですね。

太口氏
 クラウドにあることで、他のサービスとの連携がしやすくなります。たとえば今回、dマーケットとの連携を予定しています。これは、dマーケットのゲームストアで日記を書き、その日記を電話帳内の友人へ通知すると設定しておけば、友人の電話帳アプリで確認できます。

ドコモの河内氏

河内氏
 そうしたクラウドによるサービスの幅を広げていく方向として、現在はまだ何も決まっていませんが、たとえば写真ストレージサービスの「フォトコレクション」で管理している情報などとの連携ですとか、これまで“端末内で閉じていたデータ”の殻を破って、新たな領域へ突破するような形になればと思います。

――カメラ撮影での顔認識で、友人の名前を登録しておき、機種変更後も引き継ぐ、といったことが実現できそうですね。

太口氏
 クラウドになることで、いろんな可能性が広がると思っています。現在、ソーシャルサービスによるレコメンデーションなど、さまざまなサービスが存在していますが、同じような基盤を持てる、ドコモとして新たなサービスの領域へ打って出ていける可能性が出てきます。

――ユーザーの利便性を高める新たなサービスの構築ですか。しかしプライバシーに関わる部分ですから、丁寧なアプローチが求められますね。

太口氏
 その通りです。“気持ち悪い使われ方”にならないように、そしてドコモの提供するサービスなら電話帳を活用しても良いと思っていただけるようにしなければなりません。そうした安心できる環境作りを提供しつつ、それが保守的な姿勢になりすぎないよう、バランス感も重要です。繰り返しになりますが、“保守的になりすぎると新たなサービスは作れない”ということになってはいけませんし、グレーに見える部分でも手順をきちんと踏んで、グレーではないと認識してもらって新たな環境へ出ていく、ということです。

――なるほど。今日はありがとうございました。




(関口 聖)

2012/11/22 16:24