「SHL21」「SHT21」開発者インタビュー

正統進化のAQUOS PHONEとIGZOで新しい価値を提案するAQUOS PAD


AQUOS PADとAQUOS PHONE SERIE

 今冬、シャープはau向けにスマートフォンの「AQUOS PHONE SERIE」(SHL21)とタブレットの「AQUOS PAD」(SHT21)の2機種を投入する。SHL21は、一通りの機能に対応した比較的オーソドックスなスマートフォンだ。一方のSHT21の方は、シャープがau向けに初投入する7インチのLTE対応タブレットで、7インチタブレットとしては唯一のIGZOディスプレイ搭載デバイスでもある。

 今回はこの2機種について、開発を担当したシャープの通信システム事業本部 パーソナル通信第三事業部 商品企画部 部長の後藤正典氏と同商品企画部の菊池貴大氏、通信システム事業本部 NB推進センター 副所長 兼 商品企画部長の植松丈夫氏と通信システム事業本部 マーケティングセンター プロダクト企画部 副参事の和田山稔氏に、それぞれのモデルの魅力をお聞きした。

死角のない進化を続けるAQUOS PHONE SERIE

AQUOS PHONE SERIE

――まずはAQUOS PHONE SERIE SHL21について、製品特徴のご紹介からお願いします。

後藤氏
 シャープのau様向けスマートフォン「IS03」の発売から2年と言うことで、スマートフォンからの買い換えサイクルに入る時期、ということも意識しました。直近の買い換え動向を見ると、スマートフォンからスマートフォンへの買い換えのウエイトが高まってきており、フィーチャーフォンからの買い換えを逆転するくらいのところにきています。

 スマートフォンからの買い換えを意識したポイントとしては、IS03の頃のスマートフォンは、液晶も大きくなく、当時は電池の持ちに不満を持たれる方が多くいらっしゃいました。こうしたところに改善を加えた製品とするべく、とくに今回はLTE対応の製品になるので、電池の持ちに関しては徹底的に手を入れたいと考えました。加えて、使い勝手や操作性、基本部分においてもしっかりと底上げをはかり、フィーチャーフォンから、スマートフォンからの買い換えの両方に答えられる商品として企画しています。

シャープの菊池氏

菊池氏
 SHL21では、「カメラ」や「長時間」、「auスマートパス」などがキーワードとなっています。

 まず「カメラ」については、側面のキーをシャッターキーとして使えるようにしているので、サイドキーの配置にこだわりました。また、カメラ機能のポイントになる手ぶれ補正については、光学手ぶれ補正とともに電子手ぶれ軽減にも対応しています。この2つの手ぶれ軽減機能がSHL21のカメラの特長となっています。また、従来のモデルではシーンの認識が甘いというお声もいただいていたので、認識率も向上させています。アウトカメラだけでなくインカメラも強化しており、1.2メガピクセルの裏面照射センサーを搭載しました。電子ズームも利用でき、身だしなみのチェックにも使えます。

 「長時間使用」については、部品や回路設計の見直しなどで無駄を減らし、消費電力を「ISW16SH」から16%削減しています。さらに弊社のソフト制御でプロセッサーのデュアル・シングル駆動の切り替えやクロック管理を最適化しています。その結果、カタログスペックでも前モデルの「ISW16SH」から大幅のスペックアップとなっています。

 「auスマートパス」については、専用アプリを搭載しました。従来のアプリと名称は一緒ですが、サイトに飛ぶというワンステップをなくし、アプリの整理がしやすいように改良をしています。このほかにもau様のサービスにいろいろなところで連携できるように検討しています。

 たとえばau Cloudは、弊社のカメラアプリとおまかせアルバムアプリの2つが連携するようになっています。au Cloudにログインしていれば、Wi-Fiにつながったときや充電中などに自動で画像をアップロードしてくれます。また、弊社のおまかせアルバムアプリでau Cloudの写真を簡単に見ることができます。ロック画面で利用できるMusicコントローラー機能も、LISMO Playerに加えてLISMO unlimitedやうたパスもコントロールできるように対応しました。

 通話に関しましては、「ダイレクトウェーブレシーバー」といって、ディスプレイのある前面のパネルを振動させて音声を伝える仕組みを搭載しています。さらに心地よく通話ができるようにノイズキャンセリングや人の声の帯域を強調するくっきりトークなどの機能も搭載しています。

――操作性の底上げ、というところでは、UIはどのように変わっているのでしょうか。

菊池氏
 UI面では、Feel UXが進化しています。今回は「カスタマイズ」をキーワードとしました。たとえばIS03からの買い換えを想定していますが、IS03のご購入者にはアーリーアダプターが多いと考えています。そうした方々にも満足いただけるように、お客様がオリジナリティを出せるようにしました。

 まず独自のホーム画面「3ラインホーム」を利用しているとき、画面の下に表示されるショートカットアプリを好きなものに変更できるようにしました。こちらは従来型のAndroid端末において標準的な「バック」「ホーム」「メニュー」のキーを配置することもできます。ウェルカムシート(ロック画面)にもショートカットアプリを配置できますが、こちらもカスタマイズできるようになっています。また、夏モデルで指摘の多かったポイントとして、3ラインホームの壁紙カスタマイズにも対応しました。

 このホーム画面については、お客様がいちばん最初に触る部分なので、反応速度を徹底的に研究し、タッチの感度を調整しています。

 このほかには、SHL21では、弊社独自のメーラーを搭載しています。弊社はIS01からau様と連携しつつ、独自のメーラーを開発しているので、ここは自信を持って提供できると考えています。

シャープの後藤氏

――プロセッサーの制御を最適化して省電力化しているとのことですが、どのように実装しているのでしょうか。

後藤氏
 もともと省電力の仕組み自体が搭載されたプロセッサーですが、それをどのように制御するかは、各メーカーで設計しなければいけません。

――こうしたプロセッサーの制御はサードパーティが開発したアプリにも適用されるのでしょうか。

後藤氏
 ひとつひとつのアプリに最適化したのではなく、「こうした使われ方をしたときにはこのようにプロセッサーを制御する」としているので、どのようなアプリでも効果があります。

――LTE部分やソフトウェアも含めてですが、こうした省電力の設計は効果があるものなのでしょうか。

後藤氏
 全体で16%削減と、かなりの効果を上げています。

――プロセッサーは今回、他キャリア向けのシャープ製ハイエンドモデルと違い、デュアルコアを搭載しています。この理由は?

後藤氏
 今回、LTE対応の1号機の開発ということもあり、かなり前倒しで開発を進めたことから、実績のあるデュアルコアの搭載を決めました。デュアルコアでも快適に操作いただけるよう、しっかりチューニングに取り組みました。

――アプリごとのシステムメモリー使用量がパフォーマンスに影響を及ぼすことが多いですよね。

菊池氏
 そこについては、秋冬モデルの特徴として、プリインストールされているアプリとシステムのメモリー使用量の削減にも取り組みました。動作の快適さを維持するために、全アプリ、システムの開発担当が、メモリー使用量を減らすように取り組んでいます。実際にメモリー管理アプリなどで見ていただければわかりますが、しっかりと空きメモリーを確保できるようになっています。

――これはシャープ製のプリインストールのアプリのみですか?

菊池氏
 弊社製のアプリ、システムのみになります。しかしプリインストールされるアプリ全体の数を制限するようにもしています。どのアプリをプリインストールするかは、auの企画担当様と協議しながら、ご協力いただいています。

――メーラーがシャープ製ということで、メーラーもシャープが最適化されているのでしょうか。

菊池氏
 メーラーに関しては、弊社が作っているので、使い勝手のほかにも消費電力削減など、手を入れられるところは手を入れています。自信を持っているポイントです。

後藤氏
 共通アプリだと、個々の端末にカスタマイズしにくいところもありますが、自分のところのメーラーを使っているので、柔軟に対応がしやすいところです。

カラーは3色が用意される

――デザイン面でのポイントは?

菊池氏
 外観デザインのポイントとしては、大画面とカラーを訴求する2レイヤーデザインというテーマを採用しました。表面ではディスプレイを大きく見せるようにしています。ISW16SHでも十分に狭額縁でしたが、そこからさらに0.27mm縮めました。

 こだわりのポイントはいろいろありますが、難しかったポイントとしては、充電端子が本体側面に斜めに配置されています。斜めは構造的に難しいのですが、デザインを一体化させ、真横から見たときにも金属端子が見えないようにしました。microUSBの端子キャップもアールを描くようににしています。技術者の考えとしては、防水パッキンがあるので、直角にしたいところですが、防水パッキンを内側に回すことで、側面がなだらかなアールを描くようにしました。

 細かいところでは、今回は卓上ホルダーを同梱しているのですが、卓上ホルダーに固定するための穴が本体にはありません。卓上ホルダー側で固定できるように設計しています。

 側面キーの配置は、側面の中央に配置しました。「なぜ上の方にないのか」というお声もいただくのですが、この位置であれば、たとえば右手で掴めば親指で、左手で掴んでも中指や薬指で操作できます。電源キーなどを操作したあと、持ち直すことなく画面の操作に移ることができます。

 また、先にお話ししました通りフロントパネル自体を振動させて受話音を出すダイレクトウェーブレシーバーを搭載しています。今回はこのダイレクトウェーブレシーバーのための部品を搭載しつつも、ディスプレイの上側の額縁をかなり狭くする設計を実現しました。ここにはインカメラや近接・調光センサーなどが搭載されていますが、そうした部品と一緒に配置しても、問題がない音圧が出るように開発しています。

 また、今回は初めての電池内蔵端末になります。従来のように背面カバーではなく、内部の防水シートで部品と電池を守っています。

――電池内蔵には、どのような狙いがあるのでしょうか。

後藤氏
 電池内蔵タイプのメリットは、電池容量が大きくとれることです。今後は省電力化だけでなく、電池容量も大きくする必要があります。我々としては、今後もこの構造を採用していきたいと考えています。

――イヤホン端子にカバーがついていますが、これは防水・防塵用ではないのでしょうか?

後藤氏
 キャップではありません。イヤホン端子はもともと防水性能があるので、これを外していても問題はありません。

菊池氏
 今回はカード抜き差し補助具としています。今回、背面カバーは外せますが、au ICカードやmicroSDカードスロットは側面にあります。しかし、防水性能を実現するために、カードスロットを奥に配置した設計になっていますので、抜き差ししにくく感じられるかもしれません。カードを抜き差しするサポート具としてこれを付けました。

IGZO搭載の7インチタブレット「AQUOS PAD」

シャープの植松氏

――続いてAQUOS PADの製品特徴のご説明をお願いします。

植松氏
 AQUOS PADは単なるタブレットではない、新しいカテゴリーとして、タブレットやスマートフォンとは一線を画した「真のモバイルツール」を実現するように企画開発しました。

 まず、モビリティが重要な要素だろうと考えました。最近のタブレットは7インチと10インチに2極化しています。そのうち、可搬性は7インチが優れています。その中でコンパクトさ、軽量さ、長時間性能といったモビリティ性能を追い込むことをコンセプトとしました。

 新しい価値と使い方も提案します。AQUOS PADはペン入力を生かした機能も搭載していますが、そういったものを含めた新しいユーザーエクスペリエンスを提案したいと考えました。電子書籍や地図といった通常のタブレットの使い方から一歩踏み出たような、クリエイティブなツールという分野にも及ぶような商品を目指しました。さらにそういったいろいろな使い方を想定し、防水やワンセグなど、いろいろな使い方をサポートするような機能はできるだけ実装しています。また、どんな使い方でも快適になるように、今回はLTEに対応させています。いつでもどこでも快適に使えるからこそ、新しい価値に十分なポテンシャルを持たせられます。

 こうしたコンセプトを具現化するキーデバイスとして、今回はIGZOを採用しています。IGZOには消費電力の低減や微細な信号をしっかり検出する高感度タッチパネル、狭額縁など、われわれの意図する新しいモバイルツールに適した特性があり、これを製品に生かしています。

 スマートフォンとの2台持ちも想定していますが、フィーチャーフォンとの2台持ちによる機能の補完といったところも考えています。既存の端末と一緒に持てるように、それぞれとは違う価値を有するデバイスとして、商品企画をしました。

和田山氏
 今までこのサイズのデバイスはタブレットという範疇で命名されています。しかし今回我々は、スマートツールという位置づけのものを考えました。使用シーンを選ばない片手で持てるホールド感や防水仕様、持ち出しが苦にならない軽さ、システム手帳のような薄型デザインなど、こうした仕様を満たした上で、さらに持ち出すことに価値が見出せるよう具現化しています。AQUOS PADは7インチのディスプレイを搭載していますが、幅は106mm、長さ190mmで薄さは9.4mmです。この大きさで防水などのフル機能を搭載しているのに、重さは272gにおさめています。このキーになるのが、やはりIGZOです。

液晶の左右は狭額縁デザインになっている

――IGZOはどのようにAQUOS PADの機能に貢献しているのでしょうか。

和田山氏
 IGZOは反応速度が速く、漏洩電流も少ないという特性があります。これにより、画面の制御を最小毎秒1回(1Hz)で駆動するといったことも実現しました。アイドリングストップのようなものです。また、電気特性がいいので回路も小さく作れて、高精細なデバイスが作りやすく、液晶の透過率が上昇し、バックライトの効率を向上させることもできています。

 たとえば、ほかのタブレットで使われているアモルファスシリコン型の液晶だと、通常は60Hzで駆動しています。しかしIGZOではブックリーダーやメール閲覧画面など動きのない場面では1Hzなどの低速で駆動し、電力消費を抑えることができます。IGZO以前から培ってきた本体側の電力制御により、本体側のインターフェイスも停止させ、バックライトを付けて静止画では連続24時間、動画再生時にも連続12時間という駆動時間をこのサイズで実現しました。

 さらにIGZOは素早い反応特性があるので、回路がオンになっている時間を短く、オフになっている時間を長くとれます。そのオフになっている「凪」の時間と新しいタッチパネルコントローラーと組み合わせることで、より微細なタッチセンサー駆動が可能になりました。

 また、アモルファスシリコン型の液晶に比べると、狭額縁デザインにもなっています。表面のパネルと液晶の表示部も直貼りしているので、ペン先と表示の視差がなく、より自然にペン入力を行えるようになっています。また、タッチパネルのコントローラーも120Hzでサンプリングしているので、追従性・反応性能もよくなっています。

――IGZOを搭載したことにより、通常の液晶のタブレットに比べてどのくらい消費電力が抑えられているのでしょうか。

和田山氏
 弊社の従来の7インチタブレットに比べると、約1/3になっています。

――搭載している電池容量などはどのくらいでしょうか。

和田山氏
 電池は3460mAhのリチウムポリマーを搭載しています。これにIGZOの省電力性能とシャープがスマートフォンで培ってきたエコ技により、長時間性能を実現しました。テザリングにも対応しますが、LTE接続でのテザリング利用時は連続500分と、一般的なポータブルWi-Fiルーターとほぼ同程度の駆動時間を実現しています。

付属ペンのペン先。感圧式用のスタイラスペンと変わらない細さ

――タッチパネルの感度向上は影響が大きいですね。付属のペンの先端は、一般的な静電容量式タッチパネル用のタッチペンに比べると圧倒的に細く、ペン先と画面が接しているところがちゃんと見えるのがとても使いやすいです。

和田山氏
 付属のペンの先端は、直径2mmになっていますが、実はさらに細い径でも反応するだけの感度があります。社内で試したところでは、たとえばステッドラーの製図用の2mm芯のペンシルでも反応しました(鉛筆の芯が電気伝導体なため)。ただし、ディスプレイ表面シートを傷つける懸念もあるので、2Bなど柔らかい芯で試すなど、十分、注意が必要ですが。このほかにも電気伝導性のあるフェルトを芯のように細く固めたものでも利用できますし、ツメの先でも反応すると思います。

――ペン入力は、PDA時代からいろいろなデバイスが存在しています。IGZOにより実現したAQUOS PADのペン入力は、既存のペン対応デバイスに対して、どのようなメリットがあるのでしょうか。

シャープの和田山氏

和田山氏
 もともと弊社ではザウルスなどのPDAを手がけていまして、そのときのノウハウが今、スマホに引き継がれています。今回のIGZO採用によるペン対応の静電容量式タッチパネルでは、操作はすべて、指とペンで同じように行えます。すべてをペンで操作すれば、画面に指紋も付きにくいのもひとつのメリットです。

 ペンの書き味もポイントです。たとえば他のペン入力方式には、ペン先に接触検知用のスイッチが必要となるものがあります。しかしAQUOS PADは静電容量式なので、そういったものは必要なく、軽く触れるだけで書けます。また、接触している部分を多数の点で認識できるので、たとえば筆型のタッチペンで、筆を押しつけてパネル上で広がっていくようなことも検知していくようなアプリケーションなど、今後はそういった応用もできると考えています。

 精度の向上も大きなポイントです。実際にお使いいただくと、ズレが少ないことがご確認いただけるかと思います。

――ペンを使ったアプリとしては、どのようなものを搭載されているのでしょうか。

「書」ノートでいつでも画面上にメモを書き込める

和田山氏
 ロック画面などにいつでも書けるメモ機能を搭載しました。もちろんロック画面でなくても、アイコンをタッチするだけでいつでもメモが起動します。7インチなので、けっこうな分量のメモを書き込めます。

 メモは「書ノート」というアプリを搭載しています。「書ノート」には普通に手書きのメモを記録するだけでなく、画面キャプチャと一緒にメモを記録する機能やスケジューラーとして使う機能も搭載しています。

――「書ノート」では汎用のファイルフォーマットをサポートしているのでしょうか?

和田山氏
 ノートの記録自体は独自フォーマットを使っていますが、手書きされたメモは、画像(PNG)やPDF化して他のアプリと共有することができます。

――基本的な部分になりますが、音声通話には対応していませんが、キャリアメールなどには対応しているのでしょうか?

和田山氏
 キャリアメールやSMS、緊急速報には対応しています。

――カメラなどの機能は?

和田山氏
 カメラはタブレットとしては高機能な8メガの裏面照射CMOSセンサーを搭載しています。あとは弊社のスマートフォンで定評のある、Feel UXを搭載し、AQUOSやAQUOSブルーレイと連携できるスマートファミリンクといった機能にも対応しました。

――NFCに対応された狙いは。

和田山氏
 NFC自体、機器連携のコミュニケーションツールだと位置づけているので、きっちりと載せていきたいと考えました。対応機器同士の連携への展開だけでなく、AQUOS PADの大きさならば、たとえば飛行機のチェックインなどにも使えると考えています。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。




(白根 雅彦)

2012/11/26 12:05