スマートフォンアプリ開発のツボ

日本発のカメラアプリ「FxCamera」が刷新


 ビットセラーは、Android向けカメラアプリ「FxCamera」をリニューアルし、配信を開始した。利用料は無料。

 「FxCamera」は、2009年より提供されているカメラアプリ。世界210の国と地域で利用されており、これまでのダウンロード数は1700万を超える。当初は山下盛史氏による個人開発のアプリとして提供されてきたが、今年4月、創業から間もないスタートアップ企業のビットセラーに買収された。

 最近のバージョンアップで、新たなエフェクト「Cartoon」が追加されるなど、徐々に改善が図られてきた「FxCamera」は、今回、バージョン2.0としてメジャーバージョンアップ。アプリの公開以来、初の大幅なアップデートとなり、特にユーザーインターフェイスが一新され、メニューのデザインがブラッシュアップされている。

 操作の流れ自体は、従来と同じく、シンメトリーやトイカメラ風、インスタントカメラ風などエフェクトを選んでから撮影、という形だが、メニューデザインの変更で、フラッシュのON/OFFといった設定項目が撮影画面に表示されるようになった。また新たにインカメラでの撮影もサポートされている。

UI刷新の背景

 今回のリニューアルの背景として、FxCameraを4月に買収したビットセラーCEOの川村亮介氏は、同アプリがリリースされた2009年当時のユーザーインターフェイスを現在も採用していることを挙げる。2009年といえば、iPhoneの国内発売から1年、そしてAndroid搭載のスマートフォン(HT-03A)が初めて日本に登場した時期。当時はスマートフォンに初めて触れるユーザーに配慮して、FxCameraでは、撮影時の画面に表示するボタンを少なくして、ユーザーが迷わず利用できるようにしていたが、約3年経過した現在、デザインテイストが古くさく感じられるようになり、ブラッシュアップされることになった。またユーザー自身のリテラシーも向上しており、より多くのメニューを表示したほうが利便性が向上すると判断。そこでフラッシュのON/OFF、インカメラへの切り替えといったボタンが表示されることになった。

 また今回のリニューアルでは、エフェクトも調整されている。これは2009年ごろのスマートフォンと比べ、現在のスマートフォンはディスプレイの質が大きく変化したため。これまでのFxCameraのエフェクトは「味付けが濃い」(川村氏)とのことで、より繊細で、高品質な写真を楽しめるよう工夫されている。

 ただし、カメラアプリは数多く存在し、ユーザーからすると選び甲斐のある状況だ。その中で「FxCamera」は何を魅力としていくのか。川村氏は、1700万ものダウンロードを記録していることから、幅広く利用されることを今後も目指すと説明。そこで柱になるのは多彩なエフェクト。人気の「Instagram」も、さまざまなフィルタでクールな写真を撮れるのが魅力の1つだが、「FxCamera」はトイカメラ風などの加工を可能にしつつ、さらに魚眼カメラ風、左右対称に撮影するシンメトリー、漫画のようなテイストに加工するCartoonなどユニークなエフェクトを用意して、差別化を図る。

 川村氏は「FxCameraは世界の何気ない風景を面白くする、FxCameraで見ると世界が面白くなる」として、「Be Creative」というメッセージを込め、ユーザーがクリエイティブな写真で楽しめるアプリにしていくという。

ユニークなエフェクトで差別化

写真ストレージサービス「Cellar」とは

 ビットセラーでは今後、写真ストレージサービス「Cellar(セラー)」の提供を予定しており、FxCameraと統合していく。「Dropbox」などと同じく、一定の容量までは無料、それ以上は有料になる予定で、「FxCamera」は無料のまま「Cellar」で収益化を図る。その「Cellar」の特徴は、プライベートへの配慮、タグ、ビューワーなどになるという。

 「Cellar」はソーシャルサービスではなく、写真に特化したストレージとなり、ユーザーが他人の目を気にせず、安心して手持ちの写真を全て置いておけるサービスとして、スマートフォンやタブレット、パソコンから利用できるようにする。スマートフォンアプリでは高速スクロール、一括選択での同時処理など、大量の写真を扱いやすく操作性にし、アップロードした写真のうち、友人と共有したい写真だけ選んで公開、といった使い方も用意する。またアップロードした写真にタグを付加できるようにする。過去から現在、あるいは現在から過去と時系列順に写真を楽しむ方法に加えて、タグに関連した写真をランダムに楽しめる環境を提供する。

 写真ストレージサービスは数多く存在し、グーグルのPicasa、米Flickrなどのほか、最近ではauの「au Cloud」、あるいはAcerなど端末メーカー独自のストレージも存在する。これに対し川村氏は「ユーザーからすると、機種変更したり、キャリアを乗り換えたりすると使えなくなるサービスということになる。Picasaは、最近Google+との連携を深め、Facebookは写真をアップロードすると公開設定を気に掛ける必要がある。安心して利用できる、中立的なサービスが必要だ」と述べ、「Cellar」は、中立的なポジションを担うサービスとして提供される。

競争激化のカメラアプリ分野、日本発の「FxCamera」は生き残れるか

FxCameraには伸びしろがあると語る川村氏。

 先述した通り、カメラアプリは、競争が激しい分野だ。最近では、Facebookに買収された米国発のアプリ「Instagram」が高い人気を誇る。その影響か、一定の人気を得ていた写真共有サービスの「picplz」は7月上旬にサービスを終了する方針を表明。同じく写真共有型の「Lightbox」は開発チームがFacebookに入り、サービスを6月15日に終了した。その一方で、中国発のiPhone向けカメラアプリ「Camera360」が多額の増資を実施したとも報じられており、競争激化の様相を見せている。

 「Instagram」が頭1つ抜けだしつつあるなかで、「FxCamera」の強みとして川村氏は(山下氏による)個人での運営ながら、1700万もダウンロードされ、多くのユーザーに利用されていることを挙げ、「スマートフォン向けカメラアプリではInstagramに次ぐユーザー規模。今が勝負どきで、Instagramとの差を埋めることに全力を注ぐ」と語る。

 FxCamera買収から約2週間後の4月下旬には、ファンドから4億2000万円を調達したビットセラー。川村氏は、個人から企業での開発にシフトし、開発リソースが増える「FxCamera」には伸びしろがあると語る。スマートフォン向けコンテンツは、プラットフォームが国内外で共通となり、グローバルで利用されることが少なくない。最近ではNHN Japanの「LINE」が海外でも人気のサービスとして知られているが、「FxCamera」は一足先に“日本発のグローバルアプリ”として地歩を得ている。今回のリニューアル以降の取り組みで、さらに飛躍できるのか。ビットセラーでは当面、FxCameraの改善に注力し、次の段階として「Cellar」との連携機能の導入を図る方針だ。




(関口 聖)

2012/6/27 11:05