「モバイルプロジェクト・アワード2009」受賞者に聞く

実用ツールに特化してユーザー急増中の「らくらく連絡網」


 イオレの運営する「らくらく連絡網」は、その名のとおり、連絡網に特化したケータイ用のサイトだ。コミュニティ的な要素も備えているが、あくまで現実の知り合い同士がスケジュール調整や雑談をするためのもの。どちらかと言えば、メーリングリストの延長線上にあるサービスで、バーチャルな交流が可能なSNSとは一線を画している。ツールとしての利便性が評価され、クチコミでユーザーが増えていった結果、今では19万団体、280万人が利用する巨大なサイトになった。そこで、代表取締役の吉田直人氏に、らくらく連絡網を立ち上げた経緯や、成長の要因、今後の展開などをうかがった。

連絡網に特化した“ツール”としてのサイト

イオレ、代表取締役、吉田直人氏

 「らくらく連絡網」は、団体向けのメーリングリストを管理するサイトで、イオレでは「知り合い同士が何らかの目的で集うためのツール」(吉田氏)と位置づけている。電話などによる連絡網を、メールとサイトに置き換えたものと言えるだろう。代表者がサイトに登録し、そこにメンバーを加えていくという流れで、登録者にメーリングリストを送るというのが、主な機能だ。

 もちろん、電話での連絡網とは異なる点もある。メールは、メンバー全員が投稿できる「MLモード」と、代表者だけが一斉連絡用に使える「連絡網モード」の2つから選択できるほか、出欠の可否やアンケートなどをサイト上で取ることも可能。メーリングリストとサイトが連動するため、代表者が簡単にスケジュールを管理できる。吉田氏は、自社のサイトの強みを次のように分析する。

「送った情報がちゃんと伝わったか、それが良いのか悪いのかが分かるようになっている。ほかのメーリングリストでは、送るところまでで分析や集計、未達の人への再送まではできない」

らくらく連絡網

 こうした機能の数々はユーザーからの評価も高く、フォトストレージや掲示板、ニュースなども用意しているが、「圧倒的に使われているのはやはり連絡網」(同氏)という状況だ。

 ちなみに、ケータイの場合、迷惑メール対策としてPCからのメールを全てシャットアウトしているユーザーも多いが、現実と密接に結びついているらくらく連絡網にはあまり影響がないという。

「全員が加入しないと連絡網として機能せず、結果として代表者や幹事が困ることになるので、登録がないと代表者がみんなに電話で催促しているようだ(笑)。そこが普通のインターネットサービスと違う」(同氏)

バイトが開発したサイトが口コミで成長

MLリストモードと連絡網モードの2種類

「サッカーのコンテンツをやるつもりで、応援するときの『オーレ』に由来する名前をつけたが、気づいたら色々なコンテンツをやっていて、後半4年間はらくらく連絡網に集中している」(同氏)というように、イオレは、元々ケータイコンテンツの会社だった。本業とは関係のないらくらく連絡網を立ち上げたきっかけは、あるサッカー少年団からの“お願い”だったという。アルバイトのプログラマーに作ってもらった「P'sネット」というサイトを、このサッカー少年団が使い始めた。そこから、少しずつクチコミで広がっていったそうだ。

「公式サイトの運営をやっていたので、本来はそちらをやらないといけなかったが、技術者とクライアントを直接つなげてしまったのがマズかった(笑)。やめなさいと言ってはいたが、技術者がいつの間にか機能を強化していて、1年でユーザーが3000人ぐらいに増えていた」(同氏)

 当初は機能も少なく、「あそこはよくない、ここはダメだと色々指摘された」(同氏)が、ユーザーとダイレクトにつながっていた技術者が少しずつ改善し、使い勝手にも磨きがかかった。吉田氏は「ダイレクトにニーズを聞いているので使い勝手がいいに決まっている。結果として自由にやらせていたのがよかった」と当時の状況を振り返る。

 サッカー少年団から広まったクチコミだけに、ユーザーの3割近くはスポーツ団体だが、3年ほど前からは大学生にも急速に広がっているそうだ。今では「大学生の4人に1人がうちのユーザーで、『3限が終わったらどこそこに集合』というように使われている」(同氏)と、学生の日常にも浸透している。PTAや学校などが導入するケースも少なくないという。イオレ側が想定していた使い方ではないが、防犯に結びついたケースもある。

「ある学校で事件があり、らくらく連絡網を使って父兄の方に告知したところ、犯人を見つけて自宅を特定したそうだ。そのまま110番し、逮捕につながった。ケータイはネガティブなことばかり言われるが、やはりツールなので、使い方によって犯罪の予防や抑止につながるのではないか」

 こうした想いもあり、らくらく連絡網は昨年から「出会わない系」を打ち出した。閉じた環境のためトラブルはほとんどないが、サイト内のパトロールにも積極的だ。また、勝手サイト(一般サイト)だが広告の基準は驚くほど厳しく、「出会い系も消費者金融もエッチなケータイコミックも、全部NG」(同氏)という方針を徹底している。

出欠確認や賛否、アンケートなどを集計可能スケジュール機能も搭載

“団体”を活かした広告で黒字化を目指す

 このような方針が足かせとなり、残念ながららくらく連絡網は、まだ黒字化できていない。「今は思いっきり赤字で、やせがまんを続けている(笑)」(同氏)といった状況で、今後の展開を模索している最中だ。ただ、すでに会員は19万団体、280万人。「今期中に350万人、来期は500~600万人に持っていく」(同氏)と規模は十分見込めるだけに、広告ビジネスで収益を上げることも不可能ではないだろう。“団体”という特徴が明確なだけに、ターゲットを絞り込んだ広告も導入しやすい。その一例が、9月に正式サービスが始まる「らくらく団体クーポン」だ。これは、宴会専用の割引クーポンをサイト内で配信するというもの。

「スポーツ団体がこれだけいるので、試合が終わったあとにどこかで一杯ということもある。また、PTAの方がファミレスでランチする場合にも使える。19万団体集めたネットサービスはなかなかないので、このキーワードを生かしていきたい」(同氏)

月額105円支払えば広告をカットできる

 また、大学生のユーザーが多いため、リクルートの就職サイトと連動させ、高い効果をあげているという。一方、現状では「ドコモケータイ払い」で105円支払うと広告を非表示にできるが、「社内では議論が喧々諤々で年内は悩もうと思っている」(同氏)と課金には慎重だ。

 イオレがらくらく連絡網で狙うのは日本市場だけではない。すでにフィリピンでテストマーケティングを始めており、9月からはインドでも同様の活動を開始する。

「海外はまだまだSMSの世界。そこに降りていき、トラフィックをシェアするビジネスモデルを考えている。らくらく連絡網はあくまで誰もが使うツール。どこの国でも使うものだと思うので、海外で勝てる可能性もあるのではないか」(同氏)

 勝手サイトで始めた日本とは異なり、海外では、キャリアを巻き込む方向にビジネスモデルを変えていく構えだ。世界でも第3世代ケータイへの移行が徐々に進んでおり、先んじてサービスを展開しておけば、将来、大きなビジネスにつながるかもしれない。らくらく連絡網のような日本発のサービスが、世界で花開くことを期待したい。




(石野 純也)

2009/9/3 16:47