インタビュー

「とにかく目立つように」――攻めの格安SIM「DTI SIM」の背景を聞く

料金と機能の2軸で“ネタ”は毎月投下

 ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が提供するMVNOサービス「DTI SIM」は、通信業界では最後発ともいえる2015年9月に開始された、いわゆる“格安SIM”の通信サービスだ。

 大きなキャンペーンなどを実施せずにスタートしていたが、2015年12月に半年間無料というキャンペーンを打ち出し、募集人数を追加して2回もキャンペーンを延長するなど注目を集めている。2016年の5月に入ると10GBの大容量のプランを「DTI SIM ネットつかい放題」プランに改定、1回5分までの「DTI SIM でんわかけ放題」オプションも開始するなど、“攻めの姿勢”が鮮明になっている。

 “最後発”を自認するDTIがさまざまなプランやキャンペーンを繰り出す背景について、ドリーム・トレイン・インターネット DTI事業部 事業部長 サービス企画グループ ジェネラルマネージャーの田中健介氏に聞いた。

ドリーム・トレイン・インターネット DTI事業部 事業部長 サービス企画グループ ジェネラルマネージャーの田中健介氏

“目立つこと”を念頭にキャンペーンを企画

――最近のDTI SIMの取り組みは、キャンペーンなどでも攻めていますね。こうした攻めの姿勢が今のタイミングになっているのはなぜでしょうか。

 もともとDTIでは「ServersMan SIM LTE」を提供していましたが、トーンモバイルに移管したため、DTIとしてのSIMサービスは、無くなってしまいました。MVNOはまだまだ盛り上がる、ここをやらない手はない、ということで、2015年9月にリリースしたのが「DTI SIM」です。

 すでに多数の企業が参入している業界では、目立たないと集客できません。サービスをリリースした2015年9月から12月までは特にキャンペーンを打たずにいましたが、内容も、機能で比較表を作ったらバツがいくつも付くレベルでした。

 そこで、機能は横並びになるようにして、集客のために、目立つことを念頭にキャンペーンを開始しました。2015年の12月から2016年の6月までですね。

 今でも企画グループが、新しい取り組みを毎月1~2つは提供できるよう、がんばっています。

――インパクトのある取り組みを毎月提供するとのことですが、いつまでの予定でしょうか。

 年間を通した計画で、月1~2本は動いています。7月は目立つのがありますよ。今のキャンペーンの後続にも、手を打たないといけないですし。

 どういうプランやキャンペーンがいいのか、知恵を絞ることに集中しています。ネタはまだまだありますよ。

――基本は料金で攻めるのしょうか?

 料金と機能の2軸です。料金についてはかなり安い設定なので、さらに安くすることは考えていませんが、「そんなこともしてくれるんだ」と思ってもらいたい。

 機能拡張については、夏が過ぎた頃に、やりたいものがあります。年内は途切れることなく、何かを出していきます。とにかく後発組なので、たくさんの人に使ってもらいたい。固定回線事業に次ぐ事業に育てないといけませんから。

――DTI SIMの契約者数は? 非公開でしょうか。

 非公開ですが、固定回線のDTIが30万人強ですから、まずはその規模を目指していきたいという考えです。

――12月の半年間無料のキャンペーンでは、案内するWebサイトがちょっとあやしい? 雰囲気というか、テイストの異なるつくりで驚きました。あれは狙ってやったのでしょうか?

 完全に狙っていました。DTI SIMはパッケージの台紙などもかっこよくておしゃれですし、サービスを紹介するWebサイトも洗練されています。一方で、健康食品を売るかのような(笑)、通信販売然としたスタイルは、世の中的にはウケていると思っていました。ITや通信技術に精通している人には「?」だったかもしれませんが。

 かなり(縦スクロールが必要な)長いサイトでしたが、分析してみると、8割ぐらいのユーザーは一番下まで見てくれていました。一般層は最後まで見てくれているのかなと。コンバージョン率も2倍近く高くなっていました。

 今後も、あのページを作り続けていこうという方針で、今も新しいものを準備しています。あのページのデザインなどは、同じビルに入っているグループ会社に依頼したものです。

「DTI SIM」のキャンペーン案内ページ

「でんわかけ放題」は「カケホーダイライトプラン」とほぼ同じ

――最近は、通話定額など「おっ」っと思う点もいくつかあります。IP電話やプレフィックス型ではないという点で、意外性もありました。

 やれることはやろうと思いました。親会社であるフリービットは、SIPサーバーを含むIP電話サービスを運用しており、コールデータやトレンドも統計データとして持っています。

 そこで、いくら位ならできるのかな? とか、回数の上限はあったほうかいいのかな? と悩みましたがが、インパクトのあるほう、とにかく目立とう、というのが根底にあって、ビジネスとして成り立つ範囲で決定しました。

――DTI SIMの「でんわかけ放題」は、間に何かを挟んでいないのでしょうか?

 なにもしていないです。NTTドコモからの卸の回線をそのまま使っています。ほぼ「カケホーダイライトプラン」と同じ、と言いたいところですね。

 かけ方を含めて通常の電話と同じ「でんわかけ放題」が780円というのは安すぎると心配されることもありますが、統計データにある通話時間と通話回数の平均値に収れんする限り、780円で十分やっていけると確信しています。

 もちろん、機械的な連続発信であるとかの極端な使い方に対しては、規約に則って必要な措置をとっていく方針です。

――思った通りのスタートですか?

 そうですね。「でんわかけ放題」は非常に好評で、新規で音声通話プランを申し込むユーザーの半数が付けています。この割合をもっと上げられるようプロモーションを行っていきたいですね。

「ネットつかい放題」にヘビーユーザー流入も、あくまで“スマホ向け”

――かけ放題と同時に、DTI SIMの「ネットつかい放題」も発表されたわけですが、MVNOユーザーのボリュームゾーンはもっと下の容量のプランではないかという印象があります。

 今は、ネットに詳しい人が集中しているなというイメージです。それは帯域の使われ方を見ていても感じます。キャンペーンもやっており、3GBが半年無料、10GBを改めた「ネットつかい放題」も半年間は980円引になるキャンペーンを実施しています。この2つが半々を占めています。

 「ネットつかい放題」を始める前は、圧倒的に3GBのプランが多かったですね。本格的に使うユーザーが3GBから移ってきている。既存のプランからの変更も目立っています。モバイルルーターとスマートフォンのテザリングでの利用が多く、その場合のデータの消費のされ方は、非常に多いですね。

――DTIの固定回線の通信サービスのユーザーがすでにいると思いますが、「DTI SIM」のユーザーはこうした既存顧客なのでしょうか?

 割合としては、(DTIとしての)新規ユーザーが多いですね。「DTI光」とのセット割も準備していますし、光回線をすすめるといったことは、これから考えていきたいですね。

 ただ、「ネットつかい放題」を固定回線の代わりとして考えているユーザーもいると思いますが、DTIとしては、「スマートフォンで快適に使ってもらえる」というところを狙っています。モバイルルーターよりも、スマホファーストで設備を考えています。朝と昼のピークタイムでそこそこ使えるというところは守っていかないといけない部分ですし。

 モバイルルーターは、ピークがスマートフォンのユーザーと違うので、分かるんですね。DTIでは、スマートフォンのピークに合わせた設計をしているので、モバイルルーターで使うと、使いにくい時間が出てきてしまうのではないかと思います。

「完全にオンラインで提供」、トーンモバイルと棲み分け

――トーンモバイルとの棲み分けは意識していますか?

 もちろん考えています。トーンモバイルは端末からセットでファミリー向けの安心・安全な形で、実店舗で売っていくという部分ですね。

 「DTI SIM」は完全にオンラインで攻めていきます。ネットに詳しい人でもいいですし、まだまだ認知されていない層にはどうやってプロモーションしていくのかは、これからの課題です。

――店頭での即日開通といった施策よりもネットが軸になるのでしょうか。

 ネットが軸ですね。実店舗といった部分はトーンモバイルでやっていきますし。フリービットを含め、マーケティングやSEO、アフィリエイトなどのグループで一体となってネットでやっていけるのは強みですね。まだまだオンラインでやっていけると考えています。

 DTIは設備を持っていないMVNOですから、プロモーションやサービス開発に特化できる。設備はフリービットにまかせて、どうやって売るかに集中できます。

――iPhoneのレンタル提供も始めています。ほかのMVNOが手頃な価格の端末をラインナップする中で、こういうやり方もあるのか、と思いました。

 最初は、端末を扱うことを考えていなかったのですが、やっぱりあったほうがいいなと。「SIM」って言っても伝わらない、分からない人がまだまだいる。端末とセットで売るのが一般的になりつつあり、DTIとしても、ずっとオンラインでSIMだけ売ると言い続けていてもなぁという部分もありました。

 やるならiPhoneでしょ、ということで、SIMをセットして送れる形にしました。安定供給は難しく、数に限りがある状況です。車の残価設定ローンのような形ですが、これから端末は買うのではなく借りる時代ですよ、と言えたらいいなと。その代わり、1年で新しい機種に変更できるという点で攻めていきたい。

――機種の追加はありますか?

 今はiPhone 6sだけですが、iPhone 6や、小さめのiPhoneも、準備できるなら。需要として、カラーバリエーションについてもニーズを集めているところです。

――競争が激化する中、目立ち続けるもの難しいと思いますが、他社MVNOと違う点はどこでしょうか?

 当初は分かりやすいプランや安さをポイントにして始めましたが、料金、品質なども含めて……正直、差別化は難しい。ただ、通話定額を始めたことは大きな差になっているのではないかと思います。

――MVNO業界では帯域の増強がアピールされることもありますが、快適さにはほかの要素もあると思います。固定回線のISP事業の設備が優位になることは?

 我々が持っている“上流”はすごく太いですが、MVNOで使うのはそのごくわずかです。また上流のビット単価も落ちるところまで落ちている。快適さという意味ではやはり、ドコモとMVNOの間の帯域に依存しています。これは他社も同じでしょう。

――見直しは頻繁に行っているのでしょうか。

 日々、朝・昼・晩と見ています。SNSの情報もチェックしています。帯域の増強は発注してから実際の増速まで時間がかかるので、それを予測して見積もっています。基本的には月に1~2回の増速を計画しています。今回は「ネットつかい放題」を加味して増強していましたが、想定外な部分もあり、第2弾の増速を計画しています。

――MVNOは、M2MやIoTでの使われ方も出てきています。そうした用途はカバーしないのでしょうか。

 あくまでコンシューマーのスマートフォンで使ってください、というサービスです。IoTやM2Mは法人向けということになると思いますが、法人向けはフリービットが展開する部分で、DTIにも問い合わせはありますが、フリービットの法人営業部門に紹介しています。グループ会社としての役割分担ですね。これは「ServersMan SIM LTE」を提供していた頃からそうです。

――最後ですが、ほかにアピールポイントなどがあれば。

 「でんわかけ放題」は、たくさんの人に使ってもらいたいですね。あとは、今後はプランやサービスの見せ方を変えていきたいと思っています。「データSIM」とか言われても、一般の人は何のことか分からない。これさえ入れればOK、というような見せ方に変えていきたいですね。

――本日はありがとうございました。