【Mobile World Congress 2013】
KDDIに聞くFirefox OS導入の狙い
(2013/2/25 12:35)
KDDIは、Mozillaが開発したオープンソースの「Firefox OS」を搭載したスマートフォンを発売する。バルセロナで開催される「Mobile World Congress 2013」に先がけ、24日(現地時間)、Mozillaはプレスカンファレンスを開催。この中でパートナーとなるキャリアが発表され、KDDIも名を連ねていた。
Firefox OSは、オープンソースのプロジェクトとして開発されており、アプリはすべて「HTML5」をベースにしている。Webアプリの技術をそのまま利用でき、クラウドサービスとの相性もいいのが特徴だ。一方で、KDDIはすでにAndroidやiOS、Windows Phoneと全方位のプラットフォームをラインナップに持つキャリアだ。ここにFirefox OSを加えるのは、どのような狙いがあるのか。また、端末はいつごろ、どのような形で世に送り出されるのか。これらの疑問を、KDDIの取締役 執行役員専務 石川雄三氏にぶつけた。
――Android、iOSがラインナップの中心を占めている中、あえてFirefox OSを導入する背景を教えてください。
最初に、KDDIの目指す姿から説明させてください。革新的であって、でもお客様目線は忘れない。ただ単に新しいものをポコポコと出せばいいのではなく、お客様から見て面白いと思えるもの、こういうものがほしかったと思えるものを実現することが、僕らの価値提供の基本にあります。
そういうことを考えている中で、今回のFirefox OSはすごく楽しそうで、面白いものじゃないかと感じています。次にお客様がほしいものが、これで実現できるかもしれない。Mozillaともいい関係を作れています。また、チップセットを開発するクアルコムが賛同していることもあり、実現はできると思います。そういう背景があり、端末を出すことを決めました。
――出たばかりのOSだと、エコシステムが弱点になりそうです。KDDIとして、サポートはしていくのでしょうか。
私どもの協力できることはしていきます。一番はセキュリティで、本当にオープンなOSなので、そこは大変だと思っています。ただ、我々も事業者として端末を提供してきているので、知見はそれなりに持ち合わせています。
新しいOSなので、そういうところは実際に事業をやってきた人間が、知見や技術を提供することで、磨かれていきます。今まで(のスマートフォンOS)はどちらかと言うと、出されたものを素直に受け取っていましたが、今回はコントリビューション(貢献)することもできます。
――KDDI独自の仕様をOSに加えていけるということですか。
それはニュアンスが違います。KDDIの独自仕様というと昔の世界に戻ることになりますし、オープンなOSを独自仕様でどうこうするというのはパラドックスにもなりますからね。オープンな世界の中で、僕らができることをコントリビューションしていくという形です。
――独自ではないというところを、もう少し詳しくお話しください。
日本のトラフィックに合ったものや、しっかりとしたセキュリティをやろうとしても、今まではOS本体に手を加えるのが簡単ではありませんでした。実際、Androidの場合も、OSとは別に作ってあとから合わせ込むという作業が発生します。
Firefox OSでは、我々のアイディアやコードを実際に提供して、それをOS本体に取り込んでもらいます。その分、開発期間が短くなったり、メンテナンスの面倒を見なくてよくなったりといったメリットがあり、コストも抑えられます。
――今回、ZTEやLG、ファーウェイなどのメーカーがパートナーに挙がっていましたが、端末はどこが作るというのは決まっているのでしょうか。
真面目な話、まだ決めていません。我々がこれからコンセプトを固め、そこにご賛同いただけるメーカーの方とやっていこうと思います。
――ということは、すぐに発売するわけではないと。
おそらく2014年にはなるでしょう。今年は、まずありません。
――コンセプトを固め、とおっしゃっていましたが、企画もこれからですか。具体的には、どのような層をターゲットにしているのでしょう。
巷で言われているFirefox OSは、シングルコアのチップで安い端末というアプローチです。そういう方向性があるのも分かりますし、どの層にぶつけるかも今考えています。
一方で、可能性としては、新しいOSで「これはすごくカッコいい」と考えているギークな方が期待されているかもしれません。だからといって、Firefox OSでフルラインナップをやるわけではありませんが、いろいろな可能性を検討しているとおころです。
ですから、質問に対するお答えとしては、まだターゲットは決めていないということになります。
――日本のスマートフォン市場を見ると、特にAndroidはおサイフケータイやワンセグ、赤外線がないと厳しい状況になっています。Firefox OSでも、これらの搭載はしていくのでしょうか。
お客様が今ほしいものは何なのかということです。我々もガラパゴスと言われることはありますが、最後に決めているのはお客様で、欲しいという要望から載せているのです。ですから、Firefox OSもそうなっていくと思います。
Firefox OSを採用すれば、端末を安くできる可能性があるのは間違いありません。ただ安かろう悪かろうでは、日本のお客様には通用しません。ここ2年ぐらい、いろいろなスマートフォンを出してきて分かったのは、いいものを安く、でないと難しいということです。それらが必要な機能であれば、実現していきます。
できない理由はないですから、どのタイミングでやるのがリーズナブルかを見極めます。そのコンセプトを練るのが、これからです。一方で、負荷があまりに高く、時間がかかれば、やらないという選択肢もあります。
――4つ目のスマートフォンプラットフォームとして、ほかのOSと差別化できる自信はありますか。
もちろん、今あるOSを否定するものではありませんが、違う味は出せると思います。はっきりしているのは、アーキテクチャーが違い、非常にオープンということです。バーチャルマシンは1つも入っていないので、その分、省電力にもできますし、他のデバイスとの連携もしやすくなります。ビジネスモデルにも制限がありませんからね。
――Firefox OSの導入を見すえ、たとえば「KDDI∞Labo」と連携して、先行的にアプリを開発していくということもあるのでしょうか。
KDDI∞Laboでは、「HTML5」枠という新たなカテゴリーを設けています。従来どおり、iOS、Android向けのものもありますが、HTML5も明示的に出してきました。
初めのうちは、プラットフォームやブラウザによって、サポートされているタグが違ったりはしますが、Firefox OSはその部分で野心的で、先に進もうと思っているOSです。今、端末があるわけではないので、従来のブラウザ向けになるかもしれませんが、それがそのまま使えるようになる可能性はあります。
――HTML5ということで、ネイティブアプリより動作が遅くなるのではという懸念もありますが、これについてはいかがしょう。
Firefox OSには「Gecko」というエンジンが入っていますが、今の端末側のチップは、まだそこに最適化されていません。まさに今、チップセットベンダーや、(各チップに搭載されるCPUを開発する)ARMが、取り組んでいるところです。あとは時間の問題で、潜在的なチップの底上げもあるでの、全部をひっくるめて考えると、決してご心配するようなことにはならないと思います。
――最後に、KDDIとして、どの程度Firefox OSを本命視しているのかを教えてください。
正直に言うと、これで年間の20%を取るというようなことは、全然思っていません。まずは、これのよさを具現化して、しっかりターゲティングをやる。それがマジョリティになるのであればしっかり売っていきますし、ギークの方向けの先進的端末になれば、そこまで数は出ないでしょう。そいういったことも、まさにこれから決めていく段階です。
――本日はどうもありがとうございました。