ナイジェリアで流行している「Flash me cash!」

KDDI総研 恵木真哲
KDDI総研社長。過去2年間は主として世界の携帯電話市場の調査・分析を担当。豪州駐在経験を活かして、オセアニアのケータイ事情を随時紹介する。


 今、ナイジェリアで「flash me cash」というSMSの意外な使い方が流行っているという。「flash」とはローカルのスラングでSMSのことである。文字通りに訳せば「SMSで現金を送れ」だが、現実の話である。ちなみに、ナイジェリアの人口は1億4000万であり、携帯電話加入者数は5200万を超えている。

 「flash me cash」の仕組みは到って簡単である。ナイジェリアをはじめとするアフリカの携帯電話利用者は、圧倒的にプリペイドカード利用者である。プリペイド利用の難点はリーチャージ等の面倒くささはあるものの、通話料金を管理できる面で重宝がられている。本来はプリペイドカードを自分で使うために購入するのであるが、このプリペイドカードをSMSで他人に利用させることもできる。

 MTN NigeriaのTop-up cardはスクラッチタイプ。まずはスクラッチを削ってPIN番号を確認。このPIN番号をSMSで従兄弟の携帯電話に「*555*1*12 digits PIN」とダイヤルすれば従兄弟が通話料金として利用できるし、また、現金に換金できるという代物である。このサービスがさらに発展して、海外からの送金サービスに形を代えているとのこと。

 MTN Nigeriaは英国のオンラインショッピング業者Sochitelと組んでこのサービスを英国とアイルランドでも利用できるようにした。利用額は2.5ポンド、8.50ポンド、17.00ポンドの3種類が用意されているが、英国在住のナイジェリア人は母国の家族へこれでお金を送るのだ。

 MTNはアフリカ及び中近東の21カ国で携帯事業を展開する南アフリカの携帯電話会社で、その加入者総数は9200万。日本とは違って、銀行に口座を開くにはお金がかかるし、銀行の支店がそこここにあるわけではない。だから、加入者の4/5は銀行口座を所有していない。この銀行口座を所有していないという現実に着目し、携帯電話でのMobile Wallet(おサイフケータイ)や携帯電話海外送金サービス(Mobile Money Transfer)を積極的に展開してきている。MTNは2008年10月からナイジェリア、ガーナ、カメルーン及びアイボリーコーストでパイロット運用を始め、2009年3月にウガンダで携帯電話の海外送金サービスを開始した。

 携帯電話による海外送金サービスは出稼ぎの人に重宝なサービスとして東南アジアでも急速に発展しつつあるが、現地の金融当局の許可に時間がかかるケースが多いらしい。Top-up cardを利用した「疑似海外送金サービス」は銀行口座や携帯口座が不要な手軽なサービスであるが、手数料を何回も取られる。そのため、携帯電話海外送金サービスが正式に開始されたら下火になるといわれている。果たしてどんな展開を見せるだろうか?

(恵木真哲)

2009/7/28 11:00