須山歯研のカスタムイヤーモニター最新モデル「FitEar MH334」


新しく採用されたケーブルと本体。本体の色は数種類から選択できるが、穴のなかの状態が見えやすいクリアを必ず選んでいる。ステレオミニプラグはストレートタイプ

 筆者はマンション住まいということもあり、高めの音量で音楽を楽しむときには、ヘッドホンやイヤーモニター(イヤホン)を利用している。この手のアイテムは多数所有しているが、満足のいくモノに出会うのはなかなか難しい。音質が好みでも、装着感が馴染めず使わなくなったモノも多い。現在着けて眼鏡フレームのつるの部分との干渉で装着感が悪くなるため、ヘッドホンを使う機会は少なくなり、イヤーモニターを常用している。戸外でも音楽を聴くことも多いため、音漏れの少ないものを選ぶようにしている。音漏れが少なく、装着感の良いものということで、ここ数年はカスタムイヤーモニターを利用する割合が高くなっている。

 カスタムイヤーモニターとは、耳の穴の型を採取して、その型を元に作られるオーダーメイドのイヤホンで、最近は国産メーカーも登場し、価格はさておき、比較的手に入れやすい環境になりつつある。

 今回紹介するのは須山歯研の最新モデル「FitEar MH334」だ。高音用に1つ、中低音用に2つ、低音用に1つのバランスドアマチュアドライバーを採用しているカスタムイヤーモニターである。一般向けには初公開として、ポータブルオーディオ・PCオーディオのイベントで試聴もできるということで出かけてみた。同会場では須山歯研以外のカスタムイヤーモニターの展示もあり、極めて短時間ではあるが、ひととおり試聴を行った。そもそもオーナーの耳型に合わせて製作されるカスタムイヤーモニターなのだが、試聴機は誰でも聴けるよう形状が特別仕様になっている。そのため、製品本来の性能が体験できないものもあったように感じられた。

 筆者の場合、第3世代iPod touchに直接カスタムイヤーモニターを接続して音楽を楽しんでいる。ポータブルヘッドホンアンプも所有しているが、充電の手間や持ち運びの煩わしさもあり、よほどのメリットが無い限り使うことがなくなっている。イベント会場でも自分のiPodに直接繋いでの試聴となった。

 MH334を試聴したところ、試聴してすぐに筆者の好みの音質であることが感じられた。普段、再生機器のチェックに使っている数曲を聴いてみたが、すべてが好みであった。実は、イベント会場には試聴が目的であり、注文までは考えてなかったこともあり、「聴いているのは試聴機であり、自分の耳に合わせ製作したものでは印象が変わるかもしれない」と何度も自問したものの、結局会場で注文してしまった。

 これまで、FitEarシリーズの製作を依頼したことがあり、そのときの耳型で製作することもできたが、念のため会場で新しく耳型の採取をお願いし、それを使って製作をお願いした。注文自体はイベントを主催していた販売店で行う仕組みになっており、その際、納期は1カ月程度と説明されたものの、注文して約10日で自宅に完成したMH334が届けられた。

 会場では気にしていなかったが、以前購入した「FitEar Private」シリーズと異なるケーブルが付属していた。左右のイヤーモニターからケーブルが伸び、途中で交わり一本となるY字タイプであることは変わりないが、イヤーモニターから交わる部分までの長さや、ケーブル自体の素材、イヤモニタに接続するコネクタ形状などが違うものになっていた。須山歯研社長のTwitterで「同軸の銀コーティング線とし、ハイ/ローレンジの拡大を図るとともに、ステレオプラグからY字分岐部までをツイストさせることでクロストークを低減した。すべて手作り」との発言もあり、いままで以上にこだわったケーブルだということらしい。

 FitEarシリーズは「耳に吸い付くよう」といわれることがあるが、まさにそのとおりである。違和感や痛みは皆無で、筆者がこれまで製作してもらったFitEar同様、装着感はすこぶる良好である。この装着感が良いということはカスタムイヤーモニターのもっとも重要な部分であり、製作を安心して任せられる点は購入の大きな要因となっている。これまで幾度も銀座の同社に足を運び対応してもらっているが、もし気になった点があったとしても、親身になって相談にのってもらえそうだという印象の良さも手伝っている。

 筆者が以前製作してもらったFitEar Private333と比べると、耳から出ている部分がMH33のほうが薄く仕上がっていた。耳から出ている部分が薄いため、すっきりと見えるのかもしれないが、取り外しのときに指をかける部分が小さくなり、多少扱いづらい感じを受けた。

 肝心の音であるが、すばらしいの一言である。まず、気づくのは中低音での解像度の高さ。ドラムセットのバスドラのヘッドのゆれ、Eベースの指使いなども感じとれる。大きな音の陰になり小さな音が聞こえなくなるといったことがなく、一つ一つの音を容易にはっきりと聞き取ることができる。歪みや不自然な音の味付けもないところも素晴らしい。狭めのライブ会場で聞く打楽器の締まった音が忠実に再現されているのには驚かされる。

 解像度の高さについてはカスタムイヤーモニター全般にいえることかもしれないが、MH334は群を抜いている。高音から低音までのつながりが良く、定位も良い。ボーカルのサ行の発音やドラムセットのシンバルが刺激的に聞こえることも少なく、iPod自体のノイズも目立たなく処理されている。このように書くと高音が削がれているではないなと伝わってしまうかもしれないが、ちゃんと高音域の音も聞き取れるのだ。音全体が遠くに聞こえることもなく、立体感もリアルに再現している。ホール収録のクラッシック音源は会場の雰囲気までも感じられ、ジャズやロックのライブ音源は観客の歓声、ざわめきまでもはっきり聞こえてくる。これまで何度も聞き込んできたCDであっても、新しい音が見つかる。これらはiPod touchに直接繋いで聞いた感想であることを付け加えておく。

 MH334は、筆者にとってあまりにも好みのど真ん中な音質であり、欠点も見当たらないため、べた褒めな感想となっている点はご容赦願いたい。あえて欠点といわれれば、前述した取り外しにくさと価格だろうか。取り外しにくさについても、Private 333と比較した感想であり、一般的なカスタムイヤーモニターと比較して劣るものではない。価格についても、購入してすこぶる満足しているため、結果的には筆者として欠点とは考えていない。ただ、多くの人にとっては手軽には手を出しにくい価格設定だと思うので、万人にお勧めはしないが、機会があれば試聴してみて、このような素晴らしい製品があることを体験してもらいたい。

 いくつかイヤーモニター所有している筆者としては、最初から満足のいく製品を手にできればいいのだが、音質以上に、装着時の違和感などに対する修正といった、サポート満足に受けられる環境があるかが、カスタムイヤーモニター購入の検討項目として重要だと思う。試聴も判断材料にすべきではあるが、あくまで目安にとどめておいたほうがいいと思う。とはいえ、MH334に限っては、試聴機との音質も大きく違うこともないため、ぜひ一度試聴して検討してみることをおすすめしたい。

本体にはロゴ、シリアルナンバーのほかに、名前などを入れることができる。今回は他のカスタムイヤーモニターと区別しやすいように機種名を入れてもらったきれいに磨かれた本体の中には、上から低音、中音・低音、高音と3つのパイプ状の穴が伸びている
ケースは、PELICANのハードタイプと巾着型のソフトタイプが付属するカスタムイヤーモニターの使い方・注意点などがまとめられた取説、ケーブルを衣服にとめるクリップ、掃除用のブラシが付属する

 

製品名製造元購入価格
MH334須山歯研11万9800円 ※

 ※シリーズユーザー向け/イベント会場価格、耳型採取費5250円が別途必要

 




(一ヶ谷兼乃)

2011/5/25 06:00