法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
個性的なラインナップと充実のサービスで攻めるau 2014 Spring Selection
(2014/1/23 18:48)
1月22日、auは2014年春商戦へ向けた新ラインナップ「au 2014 Spring Selection」を発表した。auはすでに昨年10月に2013年冬モデルを発表しており、すでに全機種が発売されているが、今回発表された5機種を加えたラインナップで春商戦を戦うことになる。昨年来、各社の端末ラインナップやサービスが横並びになってきたと言われる中、個性的なモデルに加え、auスマートパスをはじめとする充実のサービスで、春商戦を戦っていこうという構えだ。発表会の詳細については、本誌の記事を参照していただきたいが、ここでは今回の発表内容の捉え方と各製品の印象などについて、解説しよう。
三社横並びではない
スマートフォンの契約が5000万件を超え、全契約数の半分近くまで普及した国内市場。スマートフォンそのものも完成の領域に達しつつあり、どの機種も安定したパフォーマンスが得られ、機種ごとの明確な差が少なくなってきている。同時に、携帯電話事業者間の差についても各社が本格的にLTE方式に対応したネットワークを運用し、端末ラインナップも昨年からNTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始するなど、各社の差が少なくなってきたという指摘も多い。
こうした認識に対し、今年、各社がどのように展開していくのかが注目されるところだが、auは今回の「au 2014 Spring Selection」発表会において、「エリア」「欲しい機種」「サービス」「料金プラン」「サポート」という5つの項目を挙げ、他社との違いをアピールしている。
まず、エリアについては800MHz帯を利用したLTEによるネットワークを挙げ、今年3月末には当初の目標通り、実人口カバー率99%を達成できそうなことを明らかにしている。ちなみに、従来の指標として用いられていた人口カバー率では、NTTドコモがFOMAハイスピードのエリアで、2009年に「人口カバー率100%」を達成していたが、市区町村役場の所在地で計測する人口カバー率に対し、「実人口カバー率」は500m四方に区分けしたメッシュでカウントするため、より達成が厳しいものとされており、その指標で99%に近づきつつあるのは、ユーザーとしても安心できる。
また、auがこれだけLTEネットワークに注力する背景には、将来的にLTEネットワーク上でIP電話サービスを提供する「VoLTE(Voice Over LTE)」の導入を目指しており、その際、現在のCDMAネットワーク(3Gネットワーク)に切り替わることを極力なくすことを考えているためだ。今回の発表会では新入学シーズンを控えていることもあり、全国すべての大学でLTEが利用できるようになっていることなども合わせて紹介された。
2つめの項目として挙げられたのが「欲しい機種があるか」という点で、その答えが今回の春商戦向けの新ラインナップということになる。auではすでに冬モデルでスマートフォン6機種、タブレット1機種を投入し、iPhone 5s/5c、iPad Air/mini Retinaディスプレイなどを合わせ、ラインナップを充実させているが、今回の春モデルでは大画面へのニーズが高まっていることに対し、「ファブレット」を投入することで応えていく方向性が示された。
なかでも主軸として取り上げられていたのがLGエレクトロニクスの「G Flex」、ソニーモバイルの「Xperia Z Ultra」の2機種で、他社のラインナップにはないauの個性として、強くアピールされていた。この他に、タブレットとして7インチIGZO液晶を搭載した「AQUOS PAD」、三辺狭額縁を採用した「AQUOS PHONE SERIE mini」、シニアやビギナーをターゲットにした「URBANO」がラインナップされる。
3つめの「サービス」、4つめの「料金プラン」については、auが従来から独自のセールスポイントとして訴求してきた「auスマートパス」と「auスマートバリュー」が取り上げられた。いずれもauユーザーにはすでに十分浸透しつつあるが、昨秋来、『ラッキー』をキーワードに着実に内容を充実させているクーポンなどのauスマートパス会員の特典については、新たに自転車保険の無料提供なども追加される。固定回線との組み合わせで割引サービスが受けられるauスマートバリューについても新入学新社会人シーズンを迎えることもあり、WiMAX2+対応ルーターのハイスピードプラスエリアオプション利用料を無料で提供することが明らかにされた。
さらに、5つめのサポートについては、昨年来、展開している「スマホ講座」に加え、スマートフォンの基本的な操作方法やGoogleアプリの使い方を解説する650本以上の動画を公開する「au動画ガイド」を1月31日にからスタートすることが紹介された。具体的な操作方法を動画を見ながら確認できるというアプローチは、取扱説明書などを面倒だと考えるユーザーにとって、非常に有用だと予想されるが、月に7GBの通信量制限があることを考えると、少し注意が必要だろう。
発表会のプレゼンテーションで示された内容は、新機種の発表を除けば、基本的に従来の路線を踏襲したものが中心で、あまり目新しい内容はなかった。質疑応答では「販売価格」「Firefox OS搭載端末」「SIMロック解除」などについての質問が出た。
販売価格については、最近、店頭での価格競争、なかでもMNPに対するキャッシュバック合戦が激しさを増していることに対する危惧が指摘されたが、田中孝司代表取締役社長は「適切なキャッシュバックで頑張っていきたい」と答えていた。「適切なキャッシュバック」という不思議な表現には少し笑ってしまったが、やはり、最近の異常とも言えるキャッシュバックによる販売競争には、ユーザーもかなり違和感を覚えており、そろそろ何らかの対策が必要な時期を迎えているように感じられる。
Firefox OS搭載端末については、NTTドコモのOS、Tizen搭載端末の発表が見送られたことを受けての質問だったが、2014年度内の発売を目指していることが明らかにされた。現在、海外で販売されているFirefox OS搭載端末は、ローコストのエントリー向けの端末が中心だが、以前から指摘しているように、auが販売するものは少し方向性が違い、ハイエンドのユーザーの期待に応えるモデルになりそうだ。
SIMロック解除については、これまでauがCDMAネットワークを採用していることもあり、あまり語られてこなかったが、ほとんどの機種がCDMA/LTEのほかに、W-CDMA/GSMに対応していることを考えると、何らかの対応が必要な状況になりつつある。田中社長は「ビジネスモデルが成熟できていない。まだ検討している段階」と答えていたが、NTTドコモが2011年4月以降に発売した機種(iPhoneを除く)のSIMロック解除に応じ、ソフトバンクもわずか数機種ではあるものの、SIMロック解除機能を搭載した機種を販売していることを考慮すれば、もう少し踏み込んだ回答が欲しかったところだ。同時に、KDDIとして、米国でAT&Tの回線を利用した「H2O Wireless」のサービス提供に関わっていることを考えれば、そういったサービスと連携することからもSIMロック解除などの施策を検討して欲しいところだ。
スマートフォン4機種とタブレット1機種を追加
さて、ここからは今回発表されたスマートフォン4機種とタブレット1機種について、それぞれの印象を踏まえながら説明しよう。ただし、いずれも開発中の製品を試用した範囲の印象であり、最終版の製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、各製品の詳しい内容については、本誌のレポート記事が掲載されているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。
G Flex LGL23(LGエレクトロニクス)
今月初めに米国ラスベガスで行なわれた2014 International CESにおいて、北米市場向けにも発表された6インチ曲面ディスプレイを搭載したG Flexがいち早く国内向けにも投入される。ディスプレイサイズは大きいが、湾曲した形状のおかげで、手に持ったときの印象はそれほど圧迫感がない。むしろ、湾曲したボディのおかげで、通話時や操作時にフィットする感覚があり、意外に扱いやすい。背面カバーのスクラッチリカバリーも安心できるポイントだ。固定式ではあるものの、バッテリー容量も3500mAhと大きく、長時間の利用が期待できる。グローバルモデルをいち早く体験できる楽しさがある一方、おサイフケータイやワンセグに加え、フルセグの視聴にも対応するなど、日本のユーザーのニーズにもしっかり応えている。メモリーカードスロットが外付けのリーダーライターであること、ディスプレイの解像度がHDであることは気になるが、ディスプレイの視認性は非常に良く、映像コンテンツを迫力ある画面で楽しむことができる。ディスプレイが大きいことに対する操作性については、画面最下段のフロントタッチボタンの設定を変更することで、ボタンを左右に寄せたり、ワンタッチで通知パネルを表示できるようにするなど、よく考えられている。さらに、はじめて持つスマートフォンを持つユーザーのために、ダイヤルボタンや基本機能を1画面に収めたホームアプリ「easyホーム」もプリセットされる。
Xperia Z Ultra SOL23(ソニーモバイル)
6.4インチの大画面ディスプレイを搭載しながら、世界最薄の6.5mmというスリムボディに仕上げたモデル。Mobile Asia Expo 2013開催時に発表され、すでにグローバル市場でも販売されているモデルで、基本的なスペックは共通となっている。6.4インチというディスプレイサイズもあり、ボディ幅は約92mmとワイドだが、実はパスポートや手帳などと同じ幅であり、男性の上着(ジャケット)の内ポケットなどにも入るサイズ。重量は約214gと一般的なスマートフォンよりも重いが、ボディの薄さの影響もあり、あまり重さを感じさせない。おサイフケータイやワンセグ/フルセグ、赤外線通信、防水/防塵などの日本仕様にも対応する。カメラ関連の機能も冬モデルとして発売されたXperia Z1と同等で、タイムシフト連写やARエフェクトなどはダウンロードして追加できる。Xperia Z/Z1と続いてきたシリーズの世界観を継承し、非常にクオリティの高い仕上がりとなっている。ただ、6.4インチという大画面をどうユーザーがどう快適に使えるようにするかという操作性については、通知パネルを表示するときに持ち直す必要があるなど、今ひとつ工夫が足りない印象も残る。
AQUOS PHONE SERIE mini SHL24(シャープ)
ディスプレイの上と左右の三辺の額縁をギリギリまで狭くした「EDGEST」を採用したコンパクトなスマートフォン。約4.5インチでフルHDに対応し、487ppiの密度と75%の画面占有率を実現する。ほぼ同じ狭額縁のデザインのモデルがソフトバンクから「AQUOS PHONE Xx mini 303SH」として発表されているが、AQUOS PHONE Xx miniが8色展開であるのに対し、AQUOS PHONE SERIE mini SHL24は4色展開であり、ボディカラーが本体前面の周囲にも回り込んでいる点などが異なる。基本的な仕様は冬モデルとして発売されたAQUOS PHONE SERIE SHL23に準じているが、ディスプレイサイズやカメラのスペック、バッテリー容量、nanoSIMの採用、キャップレス防水対応USB端子など、ボディサイズに関わる部分は違いがある。三辺狭額縁を採用したことにより、ボディ幅は約63mmとコンパクトで、ひと回り画面の狭いiPhone 5s/5cなどと比べても約4mmしか差がなく、ボディ形状も非常に持ちやすい。ボディサイズが小さいことで、バッテリー容量は2120mAhと5インチクラスのモデルに比べて小さいが、実使用時間は2日間程度を達成できるとしている。はじめてスマートフォンを持つユーザーはもちろん、従来機種からの使いやすい機種への買いかえを検討しているユーザーにオススメできるモデルだ。
URBANO L02(京セラ)
はじめてスマートフォンを持つユーザーやシニア世代のユーザーのニーズに応えるURBANOシリーズの最新モデルだ。基本的なデザインは2013年夏モデルとして発売された「URBANO L01」を継承しているが、本体前面のキー形状を凹凸があるものに変更し、ユーザーの習熟度に合わせて、3つのホームアプリを選べるようにするなどの改良を加えている。なかでも画面の大きなボタンを表示する「かんたんメニュー」は、auの簡単ケータイなどと同様のコンセプトで非常にわかりやすく、デジタルツールに慣れていないユーザーやシニア&シルバー世代のユーザーにも受け入れられそうだ。従来モデルから好評のスマートソニックレシーバーやインテリジェントWi-Fi、付属の卓上ホルダーによる急速充電などの機能は継承されている。従来モデルではオプションとして、後日発売された電池パックと背面カバーを交換することで、Qi規格の無接点充電に対応していたが、今回は電池パックを別売のものに交換するだけで利用できる。シニア世代の定番スマートフォンとしての位置付けを着実にした進化と言えそうだ。
AQUOS PAD SHT22(シャープ)
2012年12月に発売されたAQUOS PAD SHT21に続く、IGZO搭載液晶を採用したタブレットだ。AQUOS PHONE SERIE mini SHL24同様、三辺狭額縁による「EDGEST」を採用したモデルで、ディスプレイサイズは従来と同じ約7インチながら、ボディ幅は104mmに抑えられ、画面占有率は80%に達する。従来モデルはディスプレイがHD対応の1280×800ドットだったが、今回はフルHDを超えるWUXGA(1920×1200ドット)表示に対応し、メモリ(RAM)も2GBに強化されている。タブレットではカメラのスペックが抑えられるモデルが多いが、AQUOS PHONE SERIE mini SHL24と同等の1310万画素カメラに、F値1.9の明るいレンズ「Bright Eye」、暗いところにも強い画像処理エンジン「NightCatch」を搭載するなど、最新のスマートフォンとまったく遜色のない性能を実現している。
また、大画面ディスプレイを操作しやすくするため、画面下部にあるアプリ履歴キーの長押しで通知パネルを表示できるなど、細かい部分の使い勝手もよくできている。さらに、auスマートフォンとの組み合わせで利用できる「Passtock」では、BluetoothとWi-Fi Directを利用することにより、タブレットのブラウザで表示中のWebページにある電話番号をタップして、スマートフォンから発信したり、AQUOS PAD SHT22に保存されている画像などをスマートフォンに転送するといった使い方ができる。対応機種は限られるが、タブレットとスマートフォンの2台持ちを考えているユーザーには、有用な機能と言えるだろう。
隙のないラインナップをサービスをどう活かすか
冒頭でも触れたように、スマートフォンの契約数が市場の約半分を占め、スマートフォンの進化が少し落ち着きを見せてきつつある。だからと言って、スマートフォンが売れなくなってきてるということではなく、この年末年始の商戦も各社の激しい販売競争がくり広げられた。そんな中において、auは端末ラインナップだけでなく、エリアやサービス、料金、サポートなどの面において、他社にはないアドバンテージを打ち出しており、比較的、優位な状況にあると言われる。特に、auスマートパスによるコンテンツ利用、auスマートバリューによる料金面でのアドバンテージは、他社がなかなか追随できない状況にあるうえ、春商戦で注目される固定回線やモバイルWi-Fiルーターなどについても、UQコミュニケーションズのWiMAX 2+の提供などもあり、優位に戦える状況にあると言えそうだ。
こうした状況に対し、今回発表された春モデルは、他社にない独自のモデルがラインナップされ、auらしい個性が発揮できている。冬モデルと合わせたラインナップ全体を見渡してもハイエンドからエントリーモデルまで、幅広いモデルをバランス良く取り揃え、いろいろなユーザーのニーズにきちんと応えられるラインナップに仕上がっている。一時期の他社のような物量作戦ではなく、それぞれに個性を持つモデルを揃えており、ユーザーも比較的選びやすいラインナップと言えそうだ。
ただ、その一方で、本稿でも指摘したように、昨年来の異常とも言えるMNP獲得競争のためのキャッシュバック合戦、販売店による強制的なオプション契約の追加、さらには一括販売ながらもなぜか別途、頭金が請求されるといった販売面でのトラブルが何度となく、ユーザーから指摘されている。確かに、携帯電話事業者にとって、MNPはひとつの勢いを示す指標として、重要なものだろうし、契約数を拡大することも大切なことだが、自らが昨年の発表会で掲げていたように、スマートフォンやタブレットを売るだけでなく、ユーザーが使いこなせるようになることも重要なはずだ。auスマートサポートなどの取り組みは認めるが、ユーザーがもっとスマートフォンやタブレットを使いたくなるような環境づくりも考えていかなければならないはずだ。
たとえば、ある程度競争が落ち着き、auスマートバリューによる優位性があるとされる料金面についても、4G LTE対応端末のパケット定額サービスには、「LTEフラット」しか選択肢がない。これに対し、NTTドコモは「Xiパケ・ホーダイ フラット」のほかに、「Xiパケ・ホーダイ ライト」や「Xiらくらくパケ・ホーダイ」「Xiパケ・ホーダイ for ジュニア」なども選べるようにして、ライトユーザーやシニアユーザーにも使いやすい環境を整えている。
前述のSIMロック解除についてもauは「CDMAで通信方式が違うので……」という言葉に甘え、未だに何もユーザーに提案できていない。MNP獲得競争で何カ月もトップを取っていることは、企業として喜ばしいことだろうが、それがきちんとユーザーに還元されているかどうか、ユーザーが現状の販売施策を納得しているかどうかは、もう一度、よく考えるべきではないだろうか。勝っているときだからこそ、今まで支持してきたユーザーの期待に応えることを考えて欲しいところだ。
さて、今回発表された2014年春モデルは、1月23日から東京・原宿のKDDIデザイニングスタジオ、愛知・名古屋のau NAGOYA、大阪・梅田のau OSAKAで展示され、一部のモデルは1月25日から順次、発売される予定だ。本誌でも今後、各機種の開発者インタビューやレビュー記事を掲載する予定なので、こちらもご覧いただき、店頭などでデモ機も試しながら、自分らしい一台をぜひ見つけていただきたい。