法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「HUAWEI MateBook X/E」、スマホメーカーならではのモバイルPCを追求
2017年7月20日 12:00
国内市場において、スマートフォンやタブレット、モバイルWi-Fiルーターなどを投入するファーウェイ。なかでもSIMフリーのスマートフォンでは各携帯電話事業者向けにはない魅力的なモデルを相次いでリリースし、国内のオープン市場をリードするポジションを固めつつある。そんなファーウェイが国内向けにモバイルPC「MateBook X」「MateBook E」を発表した。今回はこの2機種を見ながら、スマートフォンメーカーが考えたモバイルPCについてチェックしてみよう。
スマホがあるから、PCはいらない?
2007年に米国で初代iPhoneが発売されて、今年で10年を迎える。この10年のスマートフォンの普及には目を見張るものがあるが、その一方で、スマートフォンが普及した10年間の影響で、大きく変わったのではないかと言われるものもある。たとえば、そのひとつとして、PCが挙げられる。
スマートフォンが生まれてきた背景を考えると、この10年近く、PC市場が苦戦してきたというのも理解できる。元々、PCが普及したのは「インターネット」という楽しみや利便性があったからで、インターネットで提供されるサービスやコンテンツの進化と共に、その周辺のサービスも大きく変化してきた。
たとえば、固定回線では必要なときにインターネットに接続していたものが、ISDNからADSL、光回線へと進化を遂げ、常時接続や大容量のデータ通信が可能になったことで、利用シーンも一気に拡大した。モバイル環境についても1990年代後半までは通話中心だったが、2000年以降はiモードをはじめとした「ケータイ」による「手のひらのインターネット」が一気に普及した。
WAPなどで同様のサービスを普及させようとした欧米市場は、残念ながらモバイルインターネットがうまく普及しなかったが、スマートフォンはスムーズに受け入れられ、一気に普及が進んだ。国と地域によって多少の差異はあるものの、スマートフォンが可能にした「いつでもどこでもインターネットが利用できる」という環境は、私たちの生活やビジネスのスタイルを大きく変えることになった。
こうなってくると、それまでインターネットの利用に必要とされてきたPCの位置付けは、ちょっと微妙になってくる。たとえば、Webページの閲覧やメール、オンラインショッピング、SNSといった用途はスマートフォンで済ませられ、PCの出番はオンラインゲームや文書作成、画像処理、映像編集といったパフォーマンスが必要とされるものに限られてくる。しかもこれらの多くはクリエイターを中心としたユーザーの用途であり、一般的な個人ユーザーの用途としては、それほど優先順位が高いものではなかった。
最近、メディアでは若い世代のPC離れやスマホ依存が話題として取り上げられることが多く、「今年の新人はPCのキーボードが遅くて……」「大学の論文をスマホの入力したっていう学生がいるらしいよ」といったエピソードも伝えられるが、真偽のほどはともかく、そういうことが話題になってしまうほど、「スマホあるから、PCは……」といった認識が広まってきているようだ。だからと言ってPCが不要かというと、決してそうではない。PCだからこそ楽しめるコンテンツや活用できる用途もたくさんあり、PCを使うことで広がる世界も数多くあるはずだが、それがうまく浸透していないのかもしれない。
スマートフォンメーカーが見るノートPC市場
そんな状況の中、ファーウェイが今年7月、モバイルPC「HUAWEI MateBook X」「HUAWEI MateBook E」を発表し、国内のパソコン市場に本格的に参入することを明らかにした。
ファーウェイといえば、国内の各携帯電話事業者にスマートフォンやタブレット、モバイルWi-Fiルーターなどを供給する一方、オープン市場向けにはSIMフリースマートフォンを相次いで投入し、トップシェアを争う位置に付けるほど、存在感を増してきたスマートフォンメーカーとして知られる。本誌でも新機種が登場する度にレポート記事やレビューが掲載されているが、なかでもSIMフリーのスマートフォンではエントリー向けからハイスペック端末まで、幅広いラインナップを揃え、さまざまなユーザーのニーズに応え、高い人気を得ている。
ファーウェイは昨年2月にスペイン・バルセロナで開催された「MWC 2016(Mobile World Congress 2016)」において、初のWindowsタブレットとして「HUAWEI MateBook」を発表し、国内向けには昨年7月に発売した。
この初代「MateBook」は2in1スタイルのWindowsタブレットで、同社がAndroidのスマートフォンやタブレットなどで培ってきたノウハウを活かして開発されたモデルだった。ファーウェイとしても初のWindowsパソコンということもあり、国内のPC市場参入のテストマーケティング的な意味合いも含まれていたようだった。発表会は開催されたものの、店頭ではそれほど積極的なプロモーションが行われたような印象はなかった。
一方、今回発表された「HUAWEI MateBook X」「HUAWEI MateBook E」は、プレスリリースなどでも「ファーウェイが日本のパソコン市場に本格参入」と銘打たれているように、同社としても本格的に国内のPC市場で戦っていこうという位置付けの製品になる。
発表会の様子は本誌でも速報をお伝えしたが、残念ながら、筆者はスケジュールの都合上、発表会そのものを見ることができなかった。しかし、その内容は既存のPCメーカーをはじめ、PC業界にとって、ちょっと手厳しい内容を含んでいた。
発表会の詳細は本誌の速報記事を参照していただきたいが、従来型ノートPCの出荷が大幅に減少している状況について、その要因として「重い」「見た目が悪い」「駆動時間が短い」「革新性に乏しい」などを挙げ、「ノートPCのジャンルでは製品の研究開発をしているのではなく、価格競争しかしていない。製品そのものにイノベーションが足りない」と指摘していた。
その一方で、2in1やウルトラスリムといった特徴を備えたノートPCは伸びており、ファーウェイとして、ここに競争力のあり、デザイン性の高い製品を投入するとのことで、今回の「HUAWEI MateBook X」「HUAWEI MateBook E」が選ばれたという。
スマートフォンメーカーならではの仕上がり
今回発表された「HUAWEI MateBook X」「HUAWEI MateBook E」について、開発中のデモ機を試用することができたので、それぞれの内容を見ながら、仕上がりをチェックしていこう。ちなみに、より「PC」らしい内容については、僚誌「PC Watch」などに詳しいレビューが掲載されているので、詳細はそちらも参照していただきたいが、ここではスマートフォンやタブレットなどで同社製端末を利用してきたユーザーの視点を踏まえた内容を説明しよう。
クラムシェル形デザインの「MateBook X」
まず、一般的なクラムシェル形の筐体デザインを採用したのが「MateBook X」だ。約13インチのディスプレイを搭載しながら、額縁部分のベゼル幅を4.4mmに抑えることで、A4サイズよりもコンパクトな大きさにまとめられている。
ちなみに、13インチのディスプレイは2160×1440ドット表示が可能なIPS液晶で、前面ガラスにはファーウェイ製スマートフォンなどでもおなじみのコーニング製「Gorilla Glass(ゴリラガラス)」が採用されている。狭額縁のベゼル幅や表面ガラスなどはスマートフォンメーカーならではのアピールポイントと言えそうだ。
ボディの周囲は同社のスマートフォンやタブレットで採用されているダイヤモンドカットで仕上げられている。薄さは本体を閉じた状態で約12.5mm、重量も約1.05kgに抑えられ、非常にスリムで持ちやすい。発表会ではMacBook Proと比較されていたが、Windowsを搭載したウルトラスリムのノートPCの中でもトップクラスの仕上がりと言って、差し支えないだろう。
CPUはインテルの第7世代Core i7/i5プロセッサーを搭載したモデルをラインナップ。メモリーは8GBの固定、ストレージ(SSD)はCore i7モデルが512GB、Core i5モデルが256GBとなっている。
スリムなノートPCは放熱やファンが気になるところだが、「MateBook X」は航空機グレードの放熱素材を採用することにより、ファンレス構造を実現している。動画再生なども試したが、筐体が触れなくなるような熱さになることはなかった。41.4Whの大容量バッテリーを内蔵し、動画再生やビジネス利用、Webページの閲覧のいずれも10時間の利用を可能にしている。電源は本体の両側面に備えられたUSB Type-Cポートに接続して充電。USB Type-C対応のACアダプターが付属する。
インターフェイスは両側面のUSB Type-Cポートのほかに、左側面にヘッドフォンジャックを備えるのみと、非常にシンプルな構成になっている。拡張性を確保するため、オプションで拡張ポートアダプター「MateDock2」(7800円)が用意されており、VGAポート(ミニD-Sub15ピン)、HDMIポート、USB-Aポート、USB-Cポートを追加できる。初代モデル向けにも拡張ポートアダプタを用意されていたが、今回はコンパクトになり、持ち歩きやすくなっている。
スマートフォンやタブレットでおなじみのファーウェイらしい取り組みとしては、本体を開いたときの右上に備えられた電源ボタンに指紋センサーが内蔵されていることが挙げられる。Windows Helloにも対応しているため、本体を開き、電源ボタンを押しつつ、指先で認証すれば、すぐに本体を使い始めることができる。
指紋センサーは指先を当てる角度などを問わない3D認証になっており、ファーウェイによれば、指紋認証からログインまでの時間はスリープ状態から約1.9秒、電源オフの状態からでも約9秒で起動するという。ノートPCのWindows Hello対応の生体認証としては、パームレスト部に備えられた指紋センサーをはじめ、カメラを利用した顔認証や虹彩認証などがあるが、電源ボタンに指紋センサーを内蔵するというスタイルは、これまでのノートPCではあまり見かけなかった手法だ。
操作系については、キーストローク1.2mm、キーピッチ19.2mmのフルサイズアイソレーションキーボード、約6cm×約11.5cmと面積の広いタッチパッドを採用する。キーボードは暗いところでの利用を考慮し、バックライトが点灯する構造で、キータッチもこのクラスのノートPCとしては十分なレベルと言えそうだ。タッチパッドも広すぎず、タイピング時に手のひらなどで、必要以上に反応してしまうようなこともなかった。
MateBook Xのもうひとつの特徴的な機能としては、映像や音楽コンテンツなどを楽しむことを考慮し、世界初のドルビーアトモスサウンドシステムを搭載していることが挙げられる。ドルビーアトモスはシアターをはじめ、テレビなどのAV機器などにも採用例が増えているが、MateBook Xではソフトウェアだけでなく、筐体内へのスピーカーのレイアウトなどを含めた装置設計から共同で開発しているという。
モバイルノートPCは外出時などに利用するため、オーディオ関連の仕様が重視されない傾向もあるが、各社の映像配信サービスや音楽配信サービスも充実してきた状況を鑑みると、モバイルノートPCでもこうした取り組みは魅力的なポイントと言えそうだ。実際に映像コンテンツを再生してみたところ、モバイルノートPCとしては十分過ぎるほどの迫力あるサウンドで、イヤホンを接続した状態でも臨場感のあるサウンドを楽しむことができた。
そして、モバイルノートPCということで、外出時などに欠かせない通信環境が注目されるが、IEEE 802.11 a/b/g/n/ac準拠の無線LAN、Bluetooth 4.1のみの対応となっている。スマートフォンやタブレットを手がけてきたファーウェイだけに、LTE対応モデルを期待したいところだったが、モバイルWi-Fiルーターを各携帯電話会社向けや自社ブランドで販売していることもあり、今回は搭載が見送られたそうだ。MVNO各社の安価なデータ通信SIMカードなどが増えていることを鑑みれば、ぜひ次期モデルでのLTE対応を期待したいところだ。
2in1スタイルの「MateBook E」
昨年発売された初代MateBookと同じ2in1スタイルを採用したタブレットが「MateBook E」だ。ファーウェイにとって、タブレットはすでにAndroidプラットフォームで数多くの製品を送り出しており、グローバルでのシェアはAppleやサムスンと並んでトップ争いをくり広げるほどのレベルにあるため、2in1スタイルのPCは自らの力を発揮しやすいジャンルとも言える。
今回発表されたMateBook Eは12インチのディスプレイを搭載し、同社がスマートフォンやタブレットで採用してきたダイヤモンドカット技術による美しいデザインに仕上げられている。筐体そのものはディスプレイサイズが1インチ、小さいこともあり、MateBook Eよりもコンパクトに仕上げられている。
同程度のサイズのディスプレイを搭載したモデルとしては、12.3インチのディスプレイを搭載したSurface Pro 4があるが(筆者も愛用中)、これよりも縦横のサイズ(フットプリント)はわずかに小さく、薄さも1.5mmほど、MateBook Eの方が薄く仕上げられている。重量は本体のみで640g、キーボードカバーを装着した状態で1.1kgとなっており、この点においてもSurface Pro 4よりも100gほど、軽くなっている。
初代MateBookではオプションに設定されていたキーボードカバーは、今回のMateBook Eでは標準で付属することになり、構造やデザインも一新されている。キーボードの反対側の部分に本体をマグネットで固定する端子が備えられ、背面側のスタンドは最大160度まで無段階で角度調整が可能な構造となっている。試用したMateBook Eのキーボードカバーは新品ということもあり、背面スタンドの動きがやや硬かったが、あまり動きが柔軟すぎると、使っている途中で不安定になることも考えられるので、この程度で十分だろう。
キーボードは18.5mmのキーピッチを確保しており、暗いところで点灯するように、バックライトも備える。Surface Pro 4のキーボードと違い、キーボード部分を傾けて利用しないため、タイピングは少し硬い印象も残るが、キートップの表面もなめらかで、比較的、タイピングはしやすい。タッチパッドは実測値で約6cm×約9cmで、従来モデルに比べ、14%大型化している。キーボードが白いため、やや汚れが気になるところだが、これはある程度の期間、連続して利用しなければ、何とも判断しにくい。
ディスプレイは2160×1440ドット表示が可能な12インチのIPS液晶を搭載。タッチパネルに対応していることもあり、表面は防指紋加工が施されている。静電容量式のタッチペンにも対応し、MateBookシリーズ専用の「3-in-1 MatePen」もオプションで提供される。
CPUは第7世代インテルCore i5/m3プロセッサーを搭載したモデルをラインナップしており、Core i5搭載モデルが8GBのメモリーに256GBのストレージ(SSD)、Core m3搭載モデルは4GBのメモリーに128GBのストレージをそれぞれ搭載する。33.7Whの大容量バッテリーを搭載し、Webページの閲覧などで最大9.5時間の利用が可能としている。
インターフェイスは右側面にUSB Type-Cポート、左側面にヘッドホンジャックを備えるのみ。充電はUSB Type-Cポートに、付属のACアダプターとUSB Type-Cケーブルを利用する。充電については5Vのモバイルバッテリーから給電にも対応するため、バッテリー残量が厳しいときはスマートフォンやタブレット用のモバイルバッテリーで一時的に充電することもできる。ちなみに、付属のACアダプターも19/9/5V対応のため、スマートフォンやAndroidタブレットなどの充電にも利用できる。
本体右側面には指紋センサーを内蔵しており、上面の電源スイッチを押して、起動時に指紋センサーでWindowsにログインすることができる。
通信環境についてはMateBook X同様、IEEE 802.11 a/b/g/n/ac準拠の無線LAN、Bluetooth 4.1のみの対応で、残念ながら、LTE対応モデルはラインナップされていない。できることなら、次期モデルでのLTE対応を期待したいところだ。
スマートフォンのこだわりを活かした新しい選択肢
冒頭でも説明したように、ここ数年、PC業界はやや厳しい状況が続いており、その要因として、若い世代のPC離れ、スマホ依存が挙げられることが多い。スマートフォンやタブレットが進化を遂げ、さまざまなサービスが充実したことで、普段の生活において、PCを活用するシーンが少なくなってきたとも言われている。
しかし、PCにはPCならではの楽しみや活用例があり、スマートフォンと組み合わせることで、より便利に利用できることも多い。ましてや、ビジネスシーンともなれば、PCの利用が必須というケースもかなり増えてくる。両方の環境を知るユーザーの多くは、「スマホがあるから、PCいらない」ではなく、「スマホがあるけど、PCも便利」「PCがあるから、スマホがもっと便利」という流れがもっと訴求されて欲しいと考えているはずだ。
そんな状況下において、ここ数年、ノートPCには新しいタイプの面白そうな製品が増えてきつつある。たとえば、マイクロソフトのSurfaceシリーズは、そのもっとも象徴的な存在だが、今回、ファーウェイから発表された「MateBook X」や「MateBook E」はSurfaceをはじめとした既存のノートPCに真っ向勝負を挑む存在だ。
スマートフォンやタブレットにも同じことが言えるが、使う人によって、求める機能やデザイン、仕様などが異なるため、どの製品がもっとも優れているとはなかなか言えないが、ファーウェイの「MateBook X」や「MateBook E」は、既存のスタンダードなモバイルノートPCとは違った新しい選択肢として、非常に魅力的な存在であり、ライバルに対抗できるだけの実力を持ち合わせている。
気になるところがあるとすれば、おそらく多くのユーザーが同社製PCに期待するであろうLTE対応が実現されていないこと、同社製スマートフォンやタブレットとの連携機能などがないことなどが挙げられる。これらは次期モデル以降への課題としておきたい。
しかし、それらの点を除けば、スマートフォンやタブレットで培われてきた仕上がりの良さやデザインなどがしっかりと活かされており、非常に質感の高いPCとしてまとめられているという印象だ。これまでとは違った新しいタイプのモバイルノートPCを探しているユーザーには、ぜひ一度、店頭などで、実機を試していただきたい。