ケータイ用語の基礎知識

第456回:A-GPS とは

 「A-GPS」とは、現在地を確認する技術の1つです。「A-GPS」の“A”は「補助されている」という意味の英語、「assisted」の頭文字から来ています。そのため、「A-GPS」のことを日本語では「アシスト型GPS」とも言うこともあります。

 その名の通り、地球上空を飛行している人工衛星からの電波を利用して端末内の位置を計測する全地球測位システム「GPS」を改良し、携帯電話などのデータ通信を補助的に利用して測位します。

 A-GPS端末では、携帯電話の電波の届いているエリアであれば、地球上のどこでも市街地で5~10m程度、建物内で20m程度以内の誤差で、現在地を確認できます。携帯電話では、多くの機種でA-GPSを利用した位置測位が利用できるようになっていて、いろいろなサービスで位置情報を活用できます。

 位置情報を活用したサービスとしては、たとえばNTTドコモのiコンシェルやiアプリなどと連携して居場所にあわせて天気情報などを配信してくれる「オートGPS」などがあります。また、ソフトバンクモバイルの携帯電話では、iPhoneもA-GPSに対応しており、さまざまなiPhoneアプリでも利用されています。

 auでは、以前から多くの機種で、A-GPSの一種である「gpsOne」(クアルコム開発の位置情報取得技術)を搭載しています。対応機種では、EZナビウォークの「今いる場所の地図」「周辺検索」「乗換案内」などの機能で、現在地を確認するといった使い方ができます。

メリットは計測時間短縮と室内測位

 一般的なGPSでは、搭載機器で自分の位置を知るためには、最低3個以上のGPS衛星からの信号を捕捉して利用します。電波の速度は、高速で一定ですから、衛星の位置関係がわかっているなら、あとは3個以上の衛星からの電波受信で、タイミングのズレを計ることで自分のいる位置を特定できるわけです。

 ただし、衛星だけを使って位置を測位する方式には、弱点があります。そのうちの1つが、測位に時間がかかることです。

 GPS測位では、衛星から距離を測るための「時刻信号」と、衛星の位置を知るための「全衛星軌道データ(アルマナックデータ)」「衛星軌道データ(エフェメリスデータ)」を捕捉して利用します。しかし、2つの軌道データは、衛星からは30秒周期、50bpsという伝送レートで送られています。このことから純粋に「GPSだけでの現在地測位」には、少なくとも30秒はかかることになります。

 さらに言えば、実際にはまず衛星を探して、そこからアルマナックデータを受信し、全衛星の位置を把握し、それから他の衛星を探してエフェメリスデータを取得し、これを複数回繰り返して……ということを行う初期状態では、分単位の時間が必要になってしまうのです。

 A-GPSでは、アルマナックデータ、エフェメリスデータの衛星軌道データを携帯電話のデータ通信で取得します。端末は、サーバーから軌道データが得られれば、あとは衛星からの時刻信号さえ取得できれば、測位できるようになります。

 携帯電話では、もともと通話のために常に基地局と通信しており、一般的には数km、最大でも数十km程度の範囲にいることが常にわかっています。そこで、A-GPS端末から測位したいと要求があった場合、携帯電話事業者は、そのおおよその位置で計測できそうな衛星の軌道データなどを選んで、送ることができます。これによって、これまでのGPSと違っていつでも、非常に短い時間で現在位置を測位できるのです。

A-GPSの仕組み。携帯電話から要求を受けて、基地局の位置情報を元にA-GPSサーバーが軌道データを端末に送信する。端末は、衛星からの時刻信号を受け、現在の位置を測位する。

 ちなみに、GPSでは、受信した衛星軌道データはある程度期間が経過すると、有効期限が切れてしまいます。ずっと使わなかったGPS機器を久しぶりに使おうとしたら、測位できるまでかなり待たされる、ということが理論上、あり得るのです。一方、A-GPSの場合は、長期間電源をオフにしていても、再計測にかかる時間はそこれまで大きくなりません。もっともGPS端末によっては、この問題を解決するため定期的に衛星データを自動受信するものなどもあります。

 一般的なGPSに比べ、A-GPSには他にもメリットがあります。そのうちの1つが屋内での計測です。これまでのGPSでは、遮蔽物、たとえば、部屋の中にいたり、ビルの壁に囲まれていると測位ができないことがありました。A-GPSでは、比較的ノイズに影響されにくい時刻信号のみを受信すればよいため、(壁など電波を反射するものがあった場合誤差が出やすくなるものの)、従来は測位できなかった室内でも、窓に近ければ測位できるようになるケースがあるのです。

 ただ、A-GPSにも、その仕組み上、デメリットが存在します。たとえば、携帯電話のデータ通信の仕組みを使うため、携帯電話のサービスエリア外(圏外)では利用できません。また測位をする際には、携帯電話の通信料が発生することになります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)