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au田中社長が語った“ユーザー最重視”、「大きく変わる」決意とは

 KDDIは、5月31日、2016年の夏モデルの端末ラインナップや新サービスを披露する発表会を開催した。KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏が登壇しプレゼンテーションを行い、この夏以降の取り組みを解説した。

KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏

 この日、会場で報道陣に配布された紙の資料の中で、ニュースリリースの束に混じって、厚紙に印刷された“決意表明”が配られた。拡大印刷したものが端末展示会場にも貼りだされていたほか、KDDIのWebサイトにも掲載された

 「変わる」「Change」といったキーワードは、日常生活の中でも度々目にし、ありふれた表現といえるが、今回の発表会ではこうした掲出により、始まる前から「変化」に対する意気込みが感じられた。この日発表されたニュースリリースの中にも、「お客様の声を反映」といった言葉が随所に登場している。

 本稿ではプレゼンテーションで「新端末」「新サービス」(世界データ定額)「新プログラム」の大きく3つに分けて解説されたうち、最も時間が割かれた「新プログラム」の「au STAR」のプレゼンテーションを中心に、田中社長が意図した「変えていく」姿勢についてまとめた。

 なお、「世界データ定額」「au STAR」の詳細については、別記事を参照されたい。

ひとりひとりの期待を超える

 これまでの取り組みとして、保険や電気といった「auライフデザイン」に触れた場面では、田中社長はこう語る。

 「ユーザーにマッチした形で、通信だけでなく、いろんなサービスを提供したい。通信サービスをやってきたが、どんどん、どんどん、昨年から広げている。スマホで、ライフスタイルをもっと豊かにできないかという思い。通信とはあんまり関係ないんじゃないの? という疑問もあると思う。電気なら、30分ごとにスマホで確認できる。保険は、今は実はあまり関係がない。しかし、これからやってくるIoTの時代、いろんなセンサーで、あたらしい保険ができるんじゃないの、ということ。家のローンも、ホームIoTが連携できるんじゃないの、ということ。そういう、組み合わさって、新しい時代ができるという思いがある」。

 こうした既存の取り組みも背景に、田中氏は「大きく、変わります。」と打ち出す。

 「ユーザーは、ひとりひとりニーズが違う。ユーザーひとりひとりがどう感じるかが重要な時代。通信サービスの基盤はある程度できた。目指すのは、ひとりひとりのニーズをしっかりと理解して、期待を超える体験価値を提供すること」。

 「4月から、本当に社内にプロジェクトを立ち上げている。小さな組織ではなく、コンシューマ部隊全体での方向性。菅をCXO(=お客様体験価値改革プロジェクト統括責任者)に任命した。全体を大きく変えていきたい」。

 「どうやるのか? ユーザーには(興味や関心、利用する段階などの)“カスタマージャーニー”がある。タッチポイントであるauショップで、スタッフに話を聞いて、各フェーズでユーザーがどう感じているのか、総点検している」。

 「会社の姿勢として、ユーザーの気持ちを最重視して、すべてのオペレーションを改革していかなければいけない。現場は急には変われないが、できるところから、徐々に変えていく」。

 田中社長は、具体的な新サービスの説明の前に、上記のような変化の必要性と、それに取り組む姿勢を説明した。

声を聞いて、もう一度サービスを作り直していく

 新サービスとして発表された「世界データ定額」は、数年をかけて開発されたものという。1年前の夏に発表する計画もあったとのことだが、詳細を検討し、今回のタイミングでの発表になった。

 こちらも、「海外でも料金を気にせずに使いたい」という声を反映したもので、「非常にチャレンジングで、分かりやすく、受け入れられるのではないか。ユーザーの声を聞いて、もう一度サービスを作り直していく」と、今回打ち出した「変化」の取り組みの一環に据えている。

世界データ定額について

機種数は再び拡大へ、夏モデル第2弾の発表も予告

 また、端末ラインナップにおいても、ユーザーの声を聞きながら詳細までデザインしている「Qua」シリーズの使い勝手の訴求のほか、取り扱うアクセサリーにメーカー純正カバーのラインナップを拡充したり、折り畳み型の端末にもカバーを用意したりといった、さまざまな施策を「ユーザーの声」を元に取り組んだ様子を語っている。

 端末についてはほかにも、「もう少し経つと、第2弾がある」とした上で、「機種数を絞ると、ユーザーに、端末に気持ちを合わせてもらわないといけない。がんばって声を聞きながら、ラインナップを揃えていきたいというのが本音。ビジネス的には問題はあるかもしれないが、ひるんじゃいけない」と、ユーザーのニーズに応えるという観点から、絞りつつあったラインナップを再び拡大していく方針。

 発表会後の囲み取材では、第2弾について「少し特徴があるので、後にしたというのもある」と、目立った特徴のある端末がラインナップされることが示唆された。

 「提供者目線では、機種数を少なくして、一台の量を増やしたほうが単価が下がるというのはある。それって、本当にそうしちゃっていいのかなということ。記者さんにとっては、(機種が)多すぎるんじゃないのと思われるかもしれないが。在庫の問題も、提供者側の問題。思いは、チャレンジしようということ」とし、ここでも、機種数を絞ってユーザーに我慢を強いるというケースを減らしていきたいという方針が示された。

新端末について

「なぜ料金から引かないのか?」情報の非対称性と認識にギャップ

 田中氏は、質疑応答の中で、“変化”が必要になった背景について聞かれ、「正直、タスクフォースの影響で、三社間で流動性は無くなっている。また、タスクフォースは関係ないだろうが、スマホをどう使っていくかという層と、スマホはもういいよという層に、二極化している。そうした環境の中で、(auは)ワクワク感や、チャレンジが弱まっているのではないか。個々のニーズに対応しているのか、大反省があった。時間がかかるかもしれないが、大きく変えていこうというもの。“宣言”したのも、そのように会社を変えていくということ」と答えている。

 今回auは、注目されていた長期契約のユーザー向け優遇施策として、「au STAR ロイヤル」を発表し、au WALLETポイントでの還元・プレゼントという方式を採用した。

 質疑応答では、報道陣からの質問で「なぜ直接料金から値引きをしないのか。長期のユーザーほど、わざわざカードを発行しないのではないか」と問われた。田中氏は、「(記者が)そういう気がするだけ」と切って捨てる。

 これは象徴的なやりとりだが、今回、田中氏が訴えた“変化”とその背景となるユーザーの声、“多数のユーザーの動向”は、一般ユーザーはもとより、報道陣からも見えづらい、キャリアならではの情報が基になっている。

 前述の質問に対し田中氏は、「多数の調査をした。やはりポイントのほうがいい、という結果だった。なぜか。例えば、料金を支払うユーザーと使うユーザーが異なる場合が、けっこうある。家族などはそういう場合もある。そういうことに(ポイントは)対応できる」と理由を説明している。

 またau WALLET カードに集約することについても、「無料で発行できる。『au STAR パスポート』でもチェックインに利用する。ユーザーを識別するツールであり、そういうふうに組み立てていきたい。プラスアルファを良くしていきたいので、理解していただければ」とし、長期ユーザー向け施策は「引く」のではなく、同等の「付加価値」の提供が中心として、au WALLETがその付加価値サービスの中心になっている様子を語っている。

質疑応答で回答する田中氏

 囲み取材でも、料金からの値引きでない点について、記者から「私、がっかりしました」と意見が出た。田中氏は、「びっくりしたのは、データチャージする時、スマホからのほうが楽なのにコンビニに行って買うこと。あれと同じアナロジー。au WALLETを持っている子供と、すべてを支払う親は、違う。我々からすれば(直接割引でもポイント還元でも)同じ。au WALLETは通信料にも充当できる。効用的には変わらない。大人の世界のイメージと、現実の世界は違うということが(今回の)発見」と語り、キャリアとして現実に即した判断であるという考え。「向こう(店頭)まで行って、話を聞かないと、なかなかうまくいかないと思っている」と、現場の情報の重要性も語っている。

 今回触れられている「変化」は、店頭の接客方針にも及んでいる。これについては、「『au STAR パスポート』も(予約向けの優先レーンを作る形になるので)店舗の負荷になるのかなと思ったが、なんとかうまくやらないといけない。(現在のように)リテラシーが高く説明がいらないという人も含めて、一律の方針で接客するのは限度がある。一方で、店頭で聞くことが恥ずかしいという人から質問を引き出すことは、非常に重要。(これらの改革は)ショップスタッフと一緒にやらないといけない。一歩ずつで、大変だが、そのためには“宣言”しないといけない。ご批判を承知の上でやっていこうというもの」と、店頭の優先予約などについても、接客方針を改革するものとして、着実に進めていく方針を語っている。なお、「au STAR パスポート」対応の店舗は、まずは500店舗が目標としている。

囲み取材に応じる田中氏