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NTTドコモ社長交代、新社長に吉澤和弘氏

 NTTドコモは、代表取締役社長の加藤薫氏が退任し、代表取締役副社長の吉澤和弘氏が社長に就任すると発表した。6月16日の株主総会と取締役会で正式決定する。

NTTドコモ 代表取締役社長の加藤薫氏(左)、社長候補で代表取締役副社長の吉澤和弘氏(右)

 加藤氏は2012年6月に代表取締役社長に就任。4年ごとに社長を交代してきた同社の慣例に従う形で、社長の交代が発表された。5月13日に発表された役員異動では、6月以降の新たな体制として、代表取締役副社長に阿佐美弘恭氏と中山俊樹氏が就任することなども発表された。加藤氏は取締役相談役に退く。

 加藤氏は4月28日に開催した決算会見で、「この数年間でiPhone、新料金プラン、ドコモ光を導入し、競争力が回復、通信事業が回復した。コスト効率化で筋肉質な会社になろうという取り組みも進んでいる。今年度は躍動の年にしたい」と、(やや唐突に)就任以降の取り組みを振り返っていた。

 また、5月11日の新商品発表会でも、囲み取材でこの4年の振り返りと感想を聞かれ、一部で社長交代の報道が既に出ていたことなどから、「微妙な質問ですね」と笑いを誘いながら、「仕上げの時期になってきたと思う」と手応えを語っていた。

本誌のインタビュー取材に応じるNTTドコモ 代表取締役副社長の吉澤和弘氏(2016年2月)

「経験豊富で、実直・誠実な若々しい人」

 加藤氏は社長の交代を発表する会見に臨み、「私事とも関係するが、吉澤とは古くからの付き合い。例えば携帯電話の黎明期にショルダーホンというものがあったが、ショルダーホンを出すときに私が課長、彼が係長で、いろいろと一緒に頑張った思い出がある。あの頃の二人三脚が思い出される」と吉澤氏とともに初期の携帯電話事業に取り組んだ思い出を語る。

社長の交代について会見する加藤氏、社長候補の吉澤氏

 「吉澤副社長は、NTTから分社した当初からドコモに在籍し、今までに経営企画、ネットワーク、法人営業、人事と幅広く重要な分野の責任者を歴任してきた。もちろん経験豊富で、社内で右に出る者はいない。直近では副社長の前に、常務で経営企画部長として、経営判断の中枢を担っていた」と、加藤氏は吉澤氏の経歴を紹介した。

 加藤氏は吉澤氏の人柄についても触れ、「非常に実直・誠実な、青年を思わせるところがあるぐらい若々しい人」と紹介。「スポーツマンで、スポーツマンらしいスピード感でもって、ますますドコモを引っ張っていって欲しいなぁと。それは間違いないことだと思う」と期待を語った。

加藤氏が振り返る2012年からの4年間

 加藤氏は社長として取り組んできた4年間についても振り返る。「スマートフォンが伸長し、競争市場が変化を伴いながら激化していく中で、通信事業者の“使命”、それと新たなビジネスへの“夢”、これに挑戦した4年間だった」。

 「新たに始めたことがある。3つ挙げるなら、iPhoneの販売開始、新料金プランの導入、ドコモ光をスタートさせたこと。この三本柱がモバイル分野の充実に貢献ししつつあると自負している。逆に止めたものもある。インドのタタへの出資、mmbi等々を、ある意味で整理した」。

 加藤氏はほかにも、スマートライフ領域としてコンテンツや金融決済サービスに取り組んでいることや、オークローンマーケティングなどのグループ会社も成長していること、「+d」としてさまざな企業とコラボレーションを図っていく取り組みが順調に拡大しつつあるとし、「ドコモの将来にとってとてもいいこと。自負というか手前味噌だが、そう思っている」と手応えを語っている。

 「2014年度は財務的な状況において一時は心配をおかけしたが、モバイルの回復、スマートライフ領域の成長、コスト効率化の進展で、着実に利益回復の道が見えてきた。コスト効率化は主に吉澤副社長が旗を振っていただいたおかげ。こういう時に、新社長にバトンタッチできるのは、本当にホッとしている。4年間、大変お世話になりました。ありがとうございました」と加藤氏は挨拶を締めくくり、業績が回復している中で社長の座を譲ることに安堵の表情をみせた。

吉澤氏が語る「スピード重視」と「付加価値の提供」、座右の銘も披露

 次期社長候補として会見に臨んだ吉澤氏は、「変化の激しい、多様化の進む市場環境の中で、身の引き締まる思い」と冒頭に述べると、「この4年間、加藤社長と共に、経営企画部長や副社長として、競争のステージを、サービスの付加価値で競争するステージに変えていくことや、コスト削減、組織の構造改革に取り組んできた。入社以来、加藤社長とともに移動体通信や携帯電話の開発に携わり、モバイル通信の黎明期から、進化や発展に情熱を注いできた。今やスマートフォンで世界中の情報が瞬時に手に入る。今後はさらに、デバイスの進化、ネットワークの構造、ソフトウェアの進展を加速させることで、さらなる付加価値をユーザーに打ち出していくのが私の使命だと思っている」と意気込みを語る。

抱負を語る吉澤氏

 吉澤氏は「全力で取り組んでいく」という項目として、「サービスの創造と進化」「+dの促進」「あらゆる基盤の強化」の3点を挙げる。

 1点目の「サービスの創造と進化」は、ドコモの基盤技術なども活用するとし、「現在は早いものが遅いものを下すスピード競争の時代と認識している。スピード感を最も重要視して取り組んでいきたい」とした。

 2点目は「+dの促進」で、「パートナーとの共創で新たな価値を提供し、それを促進していく。ここでもドコモの強みである技術やデバイス、モジュール、サービスプラットフォームなど強力なアセット(資産)を駆使して、IoT、AIといった先端的な分野にも積極的に貢献していきたい。2020年にはいたるところでドコモの技術が活用されている、そんな世界をぜひ実現していきたい」とした。

 3点目は「あらゆる基盤の強化」とした。「PREMIUM 4Gの拡大、5Gの研究開発の促進に取り組み、ネットワーク基盤のさらなる高度化を図る。強い会社になるためのコスト構造の改革、これは継続的に実施していく。顧客基盤の拡大、満足度の向上も継続して向上を図る」と既存の基盤になっているさまざまな取り組みをさらに進めていく方針。

 吉澤氏は「これまで法人営業やネットワークの技術開発などたくさんの分野を経験してきたが、そういったものをフルに活用して、この3つの柱を、確実に打ち立てていきたい」としたほか、「今後のモバイル業界の、厳しい競争と変化の激しい業界に対応するためにも、ドコモの基地局のアンテナのように、社員ひとりひとりが高感度でなければならない」と社員にも向けて意気込みを語った。

 吉澤氏は最後に、「会社がどんな状況にあっても、慌てず騒がず、本質を見失わずにどっしりと構え、順調なときにはおごらず冷静にという意味で、“失意泰然 得意淡然”という言葉を座右の銘としている。それを心がけながら事業運営をしていきたい」と自身が取り組んでいく姿勢についても語っている。

 なお、吉澤新社長による、より具体的な戦略については、別の機会に改めて発表するとしている。

「人の話を聞き、アイデアを取り込みながら」

 質疑応答で、今までで思い出深い出来事を聞かれた吉澤氏は「一番なのは携帯電話の最初の開発。900gもある端末だったが(笑)、実現するためにはパートナーとの連携も必要で、自分の考えだけでできるわけではなかった。パートナーの考えをしっかり聞いた上でイノベーションにつなげていくことを、自分自身が獲得した。これは経営企画や法人営業でもそうで、人の話を聞き、アイデアを取り込みながら、イノベーション、革新を起こしていきたい」とした。

 座右の銘として語られた「失意泰然 得意淡然」という言葉を得たきっかけを聞かれると、吉澤氏は「仕事の中では辛いこと、修羅場もある。法人営業の4年間で、外に行く6割ぐらいはシステムダウンなどで頭を下げに行くことだった」と振り返った上で、「騒いだところでどうにもならない。どう対応するのか、冷静に対応策を考え、素早く行動するのが大切だと思った。『失意泰然 得意淡然』は常に頭の中に入れて行動している」との考えを披露している。

太田 亮三