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ドコモが機種数絞り「年間サイクル」に

使い勝手の底上げ、家庭向けサービスでさらなる浸透――加藤社長が語るドコモの狙い

 11日、NTTドコモは2016年夏モデルおよび新サービスを発表した。発表会で壇上に立った加藤薫社長からは、新機種やサービスの特徴が語られた。

 一方で、端末ラインアップは同社だけの取り扱いとなる機種がこれまで以上に減る形となり、質疑応答では、今後の新機種投入についての考え方が示された。

 また加藤氏は新機能の「スグ電」、あるいは新サービスの「dリビング」を含めた総合力が大きな違いになると説明する。

「VoLTE HD+」「スグ電」で使いやすく

 新機種でサポートされる新機能として紹介されたのは、「VoLTE HD+」「スグ電」「おすすめ使い方ヒント」の3つだ。

 たとえばVoLTE HD+では、聴覚心理学の研究者を招き、音質の向上がどういった影響を与えるか紹介された。それによれば、音声でのコミュニケーションでは、口にする単語の持つ意味に加えて、“嬉しそうな声”“悲しそうな声”と、音声で表現する部分によって、感情の受け止め方が変わる。もし「胸がつぶれそう」という文章を、悲しむ口ぶりではなく、嬉しそうに発声していると、それを耳にした側は「発言した人は嬉しいと思っている」と、音声のほうで判断する。

 こうした感情の推測に役立つのは、声のなかでも高周波の部分。倍音などとも呼ばれる部分で、より多くの成分が含まれるほど、音の豊かさに繋がり、声の印象を把握するのに役立つ。また一般的に母音のほうが持続時間が長く、日本語は英語などと比べて母音を多く使う言語であることから、音声に含まれる感情表現については、日本人のほうが、たとえばアメリカ人よりも敏感だとされる。今回導入されるVoLTE HD+では、FMラジオ相当の音質になるとのことで、これまでより高い音をカバーしており、音声コミュニケーションで、これまでよりニュアンスを伝えられることになりそう。加藤氏も、こうした説明を受けて「日本人は感情が細やかでフォローできればと思う。そのステップとして大きな意味がある」とVoLTE HD+の意義をアピールする。

 またスマートフォンの加速度センサーなどを活用して、新しい操作方法を提案する「スグ電」についても、企画担当者が壇上に立ってわかりやすく説明。その説明を見守っていた加藤社長は「ちょっとした発想の転換。とはいえリテラシーの高い方には、小さな親切が大きなお世話にならないようにする」と述べて、使い勝手の向上に腐心する様子を示す。

CMに登場する綾野剛がスグ電で加藤社長に電話する傍らで、従来通りの操作方法で電話をかけようする高畑充希
3.5GHz帯
375Mbpsのサービスも導入

ドコモグループで「生活」にアプローチ

 サービス面を見ると、家庭のタブレット利用に新たな提案をする「iコンシェルホーム」、あるいは電力の見える化や、水漏れの対応などのサービスをひとまとめにした「dリビング」を発表。

 さらに、ドコモグループで、通販の「ショップジャパン」を展開するオークローンマーケティングのハリー・A・ヒル社長も登壇して、糖質や塩分を抑えた新商品「ヒルズ・エピキュール」や、同じくドコモグループのらでぃっしゅぼーやが新たに手がける肥満遺伝子判定とそれにあわせた弁当商品「健康弁当」が紹介された。

 家庭でのタブレット、生活に密着したサポートサービス、そして食という切り口からのヘルスケア分野への進出――携帯電話とその画面の中だけではなく、これまで進められていた“新領域”との組み合わせによってユーザーの生活の隅々まで、ドコモのサービスが整備されたことが、今回、アピールされた。

新機種、年間サイクルに

 2015年冬にはスマートフォン10機種、その前の2015年夏はスマートフォン8機種をリリースしたNTTドコモ。ところが今回は5機種に減少した。これに丸山誠治プロダクト部長は狙いがあってのことと語る。

丸山氏
「ひとつひとつの機種は十分魅力的で、価格などでもバリエーションがあると考えている。機種を減らしたのは今年の夏から。各メーカーさんと相談している。我々では『年間サイクル化』と呼んでいるもので、原則として1年間で機種を出すというスタイルに変えていきたいと思っている。たとえばAQUOS ZETAを今回発表しているが、これまで半年ごとに新商品を出してきた。これを1年単位にしたい。ただ商戦期は冬と夏の2回ある。適宜、メーカーさんのご希望を聞きながら、新商品を年2回に分けて投入していきたい」

加藤社長囲み取材、一問一答

 プレゼンテーションのあと、加藤社長が囲み取材に応じた。主なやり取りは以下の通り。このなかでdTVでのリアルタイム中継コンテンツへの意欲や、IoT分野では自治体と関わりがある形での参入などを示唆した。

――新機種の数が冬と比べて半分ほどになった。減らした背景は?

加藤氏
 スマートフォンの性能向上などがだいぶ成熟している。今後さらにブレークスルーがあるかもしれないが、(各機種が)少し、よく似てきていますよね。そのなかで特徴あるものを作ろう、採用しようということ。そして(プレゼンテーション後の質疑応答で)丸山プロダクト部長が説明したように端末の投入時期を半年サイクルから1年サイクルに変更しようとしている面もある。

――端末メーカーに対しては。

加藤氏
 半年ごとから1年ごとになれば、1機種あたりの調達量は増えてくるはず。そういう戦略で進めている。(メーカーの了承を得ている? という問いに)はい、ネゴシエーションしています。

――1メーカー1機種ではなく……?

加藤氏
 メーカーさんには特徴ある機種があり、そういうものをラインアップしつつ、どういう周期でどうしよう、というのはひとつの戦略として。

――たとえばGalaxyであればSシリーズを1年にひとつ、Noteシリーズをひとつ、ということか?

加藤氏
 (ラインアップに)いったい何を含むのか、というのはこれからも考えながらやっていく。

――Androidベースのフィーチャーフォンを昨年投入したものの、普及がまだまだのようだ。どう立て直すのか。

加藤氏
 もともとフィーチャーフォンタイプはずっと作り続けてね、という声があり、特に個人投資家説明会で言われる。できるだけ使い勝手が変わらない、だけど新しいものが入っている、というものはこれからもトライしていきたい。

――例年、春商戦より夏商戦は規模が小さい。その上、今年度は実質0円廃止という販売モデルの変化のあとになる。どう予測しているのか。

加藤氏
 まだちょっとわからない。それ(実質0円廃止)が徹底されているのか、新しいステージに移っているのか、オンゴーイング(進行中)の状況だと思います。どのようなお客さまの選択があって、何が残っていくのか。まだ4月を終えたばかりだが、我々の計画より少し売れている。(今後の動向を)見ていきたい。

――スマートフォン移行の伸びが鈍化している印象がある。今度はどうするのか。

加藤氏
 使い勝手を高める「スグ電」のような機能はスマートフォンのほうが実現しやすいと思っている。フィーチャーフォンにも導入できればいいが、そういうところはスマートフォンで実現して、使い勝手を上げていく。当たり前に使えるものができてくれば、移行も考えてもらえると思う。

――Androidは年間1回にするとのことだが、iPhoneはこれから年間2回になる可能性もある。さらにiPhone比率が高まるのでは?

加藤氏
 なかなか難しいところですね。今回登場したiPhone SEがどう評価され、例年であれば9月頃に出てくるモデルがあって。それこそよく見ていかなければと思っています。

――先般、LINEがプリペイドカードの提供を始めた。ドコモとして決済分野はどう取り組むのか。

加藤氏
 いろいろバリエーションを拡げたい。おサイフケータイは以前からやっているし、クレジットカード、キャリア決済があって、横串でdポイントがある。残るはプリペイドかと思うが、今、検討中です。

――dカードのゴールドが100万枚に達したとのことだが、他社との提携によるカード発行事業に進出する可能性はあるのか。

加藤氏
 十分あると思っている。そもそもクレジットカードはそういう性質がある。「+d」(プラスディ)の一環で、提携できるところがあると嬉しい。

――今回、ドコモにしかないモデルが少ないようだ。

加藤氏
 モデルというか、外観でいえばそうかもしれないが、スグ電やVoLTEの HD+などは私どもが工夫している。トータルで見ていただければ嬉しい。

――差別化はソフトウェア面で実現できるところが中心になる?

加藤氏
 今回発表したdリビングや、スグ電のように端末に関わるところを今回充実させたつもり。これからも智恵を出していきたい。そういう物を含めたトータルでの競争になるといいなと思う。

――1年に1回になって、1機種あたりの調達数が増えるとのことだが、もう増えているのか。

加藤氏
 いや、これからです。今まさにチェンジしているところ。初回の調達数は一緒だろうが、トータルで、(販売期間が)済んでみて、どれくらい調達したかとなる。

――たとえばXperiaの通常モデルと小型モデルがあった場合、たとえば小型モデルを秋に出す、ということでドコモとしては発表会を年2回やるのは続くのか。

加藤氏
 続くんだろうとは思っているが、実は、どのような開発のテンポになるのか。そのとき何をアピールできるのか。いろんなイノベーションを追いかけて、何をプラスできるか、我々もがんばる。

――夏商戦ではLINE Mobileが参入して、LINEが無料で使える、という話がある。ドコモとしては、そういった一部サービスの通信量を無料にするという考え方をどう思うか。

加藤氏
 ひとつの考え方だと思う。ある程度限られるでしょう、詳しいことはわかりませんが、そういうものの中で、どう進んでいくのか。お客さまがどうお応えになるのか注視したい。

――ドコモが一部サービスの通信量を無料にする、といったことはあるのか。

加藤氏
 選択肢としてはあると思うが、今すぐにわかに、ということは考えていない。

――ドコモのサービス面で人気のあるdTV、dマガジンなどについての言及が今回なかった。

加藤氏
 dTVはビデオオンデマンドですが、少しリアルタイム性が出ないかなと思ったりしている。一方、インターフェイスは磨く必要がある。

――ドコモ光の状況は?

加藤氏
 出だしは鈍かったが、今伸びてきていてわりと良いところにいってると思う。今年度もがんばりたい。

――加藤社長が就任してもうすぐ丸4年経ちます。振り返っていかがですか。

加藤氏
 微妙な質問ですね(報道陣も笑う)。モバイルICTは変化が激しく、イノベーションもすごいスピード。ついていくのがやっとだったが、遅れていたものをなんとかキャッチアップしながら。特に新料金、新サービスでは競争のステージを変えたいという意志で、率先して変えてきた。仕上げの時期になってきたと思う。

――点数で言うと?

加藤氏
 いやぜんぜん、ご勘弁ください。

――今日のプレゼンテーションはいかがでしたか。

加藤氏
 よく間違えましたね、すいませんでした。でも私が喋り続けるより、担当者、専門家が出てくるのは……いかがでしたか?

――+dで今後、IoTとのことだが、範囲が広い。もう少しどういう分野になるのか説明を。

加藤氏
 そこを具体的に言うと、何を我々がやろうとしているか、戦略が見えてしまうので勘弁いただきたい。地方創生を含めて、神戸市さん、新潟市さんとやるなかで、新しい展開を考えている。そこでIoTということで想像してもらえるとありがたい。センシングなど一部だけではなくて、もっとトータルとして、話題のところへ入っていければいいなと思う。ちょっと言っちゃいました(笑)。

関口 聖