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離れた家族とボイスメッセージ、笑顔で話しかけるぬいぐるみ「ここくま」
ドコモの通信モジュール内蔵、ボイスでやり取り
(2016/3/30 13:06)
イワヤ、NTTドコモ、バイテックグローバルエレクトロニクス、MOOREdoll(ムーアドール)の4社は、NTTドコモの通信モジュールを内蔵するクマ型のぬいぐるみロボット「コミュニケーションパートナー ここくま」を開発した。7月に発売する予定。店頭価格は3万4800円程度になる見込み。
声でコミュニケーション
「ここくま」は、クマの形を採用したコミュニケーションロボット。離れて暮らす家族の間でのコミュニケーション、といった用途が想定されており、スマートフォンや携帯電話は持っていたとしても、機械全般を敬遠するような高齢者が暮らす世帯に設置して、離れて暮らすその家族がスマートフォンやフィーチャーフォンのアプリでメッセージを送る。
やり取りはボイスメッセージとなる。「ここくま」の左手に内蔵されたボタンを押しながら話しかけるとメッセージが録音され、家族のスマートフォンアプリに送信される。アプリ側でもメッセージを録音すると「ここくま」に送られる。「ここくま」の右手のボタンを押すだけで、メッセージが再生される。フィーチャーフォンアプリ(iアプリ)の場合は、ボイスメッセージを受信できるが、送信はできない。
メッセージをやり取りする「ここくま」とスマートフォン、携帯電話(フィーチャーフォン)のグループ設定は今後、定まるとのこと。ここくまから家族のAさんへのメッセージ、と個別に送ることはできず、送信するメッセージはグループ宛となって、全員で共有される形になる。「ここくま」同士でやり取りすることは、発売時にはできないが、今後、機能強化で対応できるかどうか検討する可能性はある。
ボイスメッセージ関連のソフトウェアは、創業2年という台湾のスタートアップ、ムーアドールが担当した。既に台湾や中国などで同社のサービスは展開しているとのことだが、今回は誰でも使えるものになるようカスタマイズ。これまでは子供向けとして開発してきたところ、今回は高齢者向けとあって、より簡単、より早くやり取りできるソフトウェアを開発した。
動くおもちゃ手がけるイワヤ
「ここくま」はまゆげを動かしたり、まばたきをしたり、ボイスメッセージが再生されているあいだ口が動いたりするなど、表情を変えられるのも特徴のひとつ。
表情の調整、メカニカルな仕組みは、創業93年のオモチャメーカーであるイワヤが担当。玩具店の店頭で、キャンキャンと鳴く犬など、動く動物玩具を長く手がけてきたという同社では、最近高齢者向けのペットロボットも開発しているという。今回は、玩具メーカーとしてのノウハウを活かして、かわいいデザイン、かわいい動きとして仕上げた。
目指すは数年後に10万台
販売は、鳴く犬のぬいぐるみなど動くおもちゃを長年手がけてきたイワヤが行う。ドコモユーザー以外にも手に取って欲しい、との願いから、ドコモではなくイワヤが中心になる形。ドコモショップで取り扱われるかどうかは未定。イワヤでは、今後数年かけて、10万台の販売を目指す。
操作は簡単に、人感センサーを活用
バッテリー内蔵だが、駆動時間は検証中。電源コードは今回、披露された試作機から変更され、電気ポットのような磁石で吸着するタイプになり、手軽に扱えるようにする。
手足に操作ボタンがあり、音声の録音、再生、ボリューム調節を行なう。ブローチとして仕上げられたパーツの中には、マイク、スピーカー、人感センサーが仕込まれている。充電中はブローチが赤く光る。
人感センサーも搭載されており、家族からのメッセージがなくとも、「ここくま」が天気や季節の話題を話しかける。人が返事をすると、その音声データをクラウドに送信して、音声を認識。テキスト化してその返事にあわせて、シナリオに沿った会話を続ける。ただし、ドコモとタカラトミーのお話しロボ「OHaNAS」で用いられる対話技術プラットフォーム「自然対話プラットフォーム」は利用しない。
人感センサーが稼働したかどうか、離れて暮らす家族がアプリで確認でき、高齢者の見守りロボとしても利用できる。
通信モジュール内蔵で、単体で利用できるが、別途、通信料金が発生する。料金プランは検討中とのこと。SIMロックフリーになるかどうかも検討中という。
前日の29日には、auがコンセプトモデルとして、同じくぬいぐるみタイプのコミュニケーションロボットを発表。大きな違いとして、「ここくま」ではBluetoothではなく通信モジュールを用いてやり取りするためスマートフォンが不要なこと、ボイスメッセージを用いること、表情が変わることなどが挙げられる。
ハードウェアとして搭載されつつも、機能はオフになっているデバイスもあるとのこと。どういったデバイスかは明らかにされなかったが、今後、ファームウェアを更新することで、そうしたデバイスを活用して新機能を実装する、といったことも可能だという。
4社のノウハウを結集、「高齢者をひとりにさせない」
イワヤの商品として販売されることになるものの、商品企画はNTTドコモが担当した「ここくま」。そのきっかけは、同社のイノベーション統括部から生まれた。
NTTドコモ イノベーション統括部の横澤尚一氏
「日本の5000万世帯のうち、高齢者だけの世帯は約1159万にのぼる。これは平成元年から比べて4倍に増えたもので、今も増えつつ付けている。一人暮らしの高齢者には話し相手がいない。ではコミュニケーションツールとしてメールを利用している人は20%程度」
商品企画担当としてプロジェクトを牽引したNTTドコモの横澤氏はこう語り、ドコモとして何らかのビジネスを検討したものの、ドコモだけの技術では開発できず、その道のプロと組むことにした、と説明する。
横澤氏の上司にあたる、NTTドコモ執行役員で、イノベーション統括部長の栄藤稔氏は、「試行錯誤しながら1年かけて、ようやくロボットを作りだした。IoT、ロボットと、技術の匂いがする商品だが、ここにあるのは『高齢者をひとりにさせない、しない』という熱い想いだけだ」と力強く語る。
横澤氏からは「10年愛されるコミュニケーションロボット」を目指す、との目標が紹介される。そこで今回は、ユーザーに愛されるための商品をいかに作り上げるか、という部分を、主にユーザーインタビューでの結果に基づくことにした、のだという。たとえばクマという外観を採用した過程についても、まずはロボタイプ、子供のような人タイプ、そして動物タイプを用意。ターゲットが機械を敬遠する層ということもあってまずロボは候補から外れ、ついで人タイプは表情が動くと怖さがある、ということで見送られた。動物タイプのなかでも、犬や猫も人気だったが、それらの動物は、噛まれた経験など、否定的にとらえる人が少なくなかった。そこで、人気はありつつ、ネガティブな声が少ないクマを採用することになった。
前日の29日、auからもクマ型のコミュニケーションロボットが発表された。発表会が開催された会場まで同じと、思わぬ偶然の産物もあってか、報道陣からはほぼ同じ時期にドコモとauがそれぞれ、同じ形状で、似たようなコンセプトのロボットを開発するにいたった点に関する質問が寄せられた。ドコモの横澤氏はauが発表した商品との違いについて、「コンセプトとターゲットが違いそうだ。auさんのものはスタンプを使ってより情緒的な価値。ぼくらは利便性。(ボイスメッセージで)本当に伝えたいところを伝える。前日に発表があったのはびっくりした。これまでも高齢者向けの企画を進めてきたが、ひとつの商品で解決できるのはありえない。いろんな課題に対して、製品が必要だ」と述べた。