LTEをアピールするエリクソン氏、WiMAXを牽制


日本エリクソンのフレドリック・アラタロ氏
Ericsson本社のホーカン・エリクソン氏

 日本エリクソンは、10月27日、STエリクソンとともに通信関連のイベント「ERICSSON EXECUTIVE DAY 2009」を開催。この中でプレス向けセミナーを行った。

 日本エリクソンの代表取締役社長のフレドリック・アラタロ氏は、セミナーの冒頭、携帯電話市場にとって日本が最も重要な国の1つと語り、最新の技術が世界に先駆けて導入される市場だと述べた。また、世界の携帯電話市場が45億人規模となる中、発展途上国においてはモバイルブロードバンドが非常に重要な国の政策となっていることなどを話した。

 次いで登壇したEricsson本社の上級副社長兼最高技術責任者(CTO)であるホーカン・エリクソン氏も日本の携帯市場について、「最先端の市場であり、そこに我々グローバルベンダーが拠点を置くのは当然だ」と語った。

 同氏は、2003年から2009年にかけての携帯市場の変化について語り、7億人から45億人とユーザー数の急激に増加したことや、音声主体からインターネットやマルチメディア機能へ利用スタイルが変化したこと、統合などによる競合の減少、ハードウェア重視からソフトウェア重視になったことなどを説明した。

 また、機械から機械の通信など、いわゆるM2M市場の拡大などが今後さらに進むと予測し、LTEが導入される頃には、500億台の端末がモバイルネットワークに接続されると話した。

 エリクソン氏は、各通信方式についても言及し、世界の多くの通信事業者がLTE方式を採用すると語った。W-CDMAやHSPAを採用している事業者はもとより、CDMAを採用する事業者もデータトラフィックについてはLTEとWiMAXを採用すると述べ、日本ではNTTドコモやソフトバンクモバイルだけでなく、CDMA方式のKDDIなどもLTEを採用するとした。また、中国のTD-SCDMA方式についても将来的にLTEになるとした。

 さらに、2014年頃の通信方式別のシェア予測を紹介。LTEは世界で90%を占め、音声通話中心のCDMAが10%、モバイルWiMAXは1%程度になるとした。これは、各調査機関などのデータを参考に、2014年頃の世界全体の契約数を70億件とした上で、モバイルWiMAXの利用者数を7000万人と予測したものだという。

 なお、今回の予測値については質疑応答の際に、「WiMAXが少なすぎるのではないか?」との質問が出た。エリクソン氏は「WiMAXフォーラムでも2013年にモバイルWiMAXは1億1300万件と予測している。このデータにしても全体の1.5%にしかならず、我々の予測はそれほど間違っていないと考えている。WiMAXはLTEと比較すると多くの欠点があり、4GのLTEに対して、WiMAXは3Gの技術となっている。TDD方式となるため、同じエリアをカバーした場合にLTEよりも2~3倍の基地局を展開しなければならないはず、非常にチャレンジングなものであるといえる」と語った。

 モバイルのトラフィックは、音声通話がほぼ横ばいで、携帯電話による通信が緩やかに上昇しているのに対して、パソコンを利用したモバイルデータ通信のトラフィックが急拡大している。こうした自社データを示したエリクソン氏は、「モバイルのトラフィックはほぼスクリーンサイズに比例する。今後はこの傾向がさらに顕著になる」と話した。また、ここ数年の傾向が今後も続くとなれば、現在2000万人が1カ月当たり4GB使っているのが、今後、40億人が1カ月に20GBを使うようになると予測。LTE時代になると、接続される端末は500億台になり、音声通話主体の頃の1000倍のトラフィックが推定できるとした。

 エリクソン氏は、爆発的なトラフィックの急増への1つの解決方法として、通信に優先順位がつけることを紹介した。つまり、ピークタイムにはWebブラウジングなど、その場に人がいる通信を優先し、P2Pなどの常時接続通信は後回しにするなど、通信の効率的な運用を図るというものだ。こうした工夫で、Webブラウジングを行っているユーザーに体感的に通信速度に余裕があると感じさせるという。このほか、小型の基地局を設置して点でエリアをカバーしていく「ピコセル」といった方法も紹介した。



STエリクソン

STエリクソンのジル・デルファシー氏

 続いて登壇したのは、ST-Ericsson(STエリクソン)の社長兼最高経営責任者(CEO)に就任予定のジル・デルファシー氏。同氏は11月に正式にCEOに就任する予定。

 STエリクソンは、エリクソンとSTマイクロエレクトロニクスによるジョイントベンチャーで、携帯電話プラットフォーム事業のエリクソン・モバイル・プラットフォーム(EMP)と、チップセットなどを供給するST-NXP Wirelessが合併した企業となる。GPSやBluetooth、無線LAN機能などから、GSM/W-CDMA/HSPA/LTEなどの通信機能、CPUやマルチメディア機能、OSに至るまで無線関連の素材を総合的に供給できるサプライヤーという。

 デルファシー氏は、「NXP Wirelessとエリクソン、STマイクロの3社の強みを活かし、ノキアやサムスン電子、LG電子、ソニー・エリクソン、シャープなどに供給している」と説明。携帯電話のトレンドについて紹介し、発展途上国におけるエントリー向けモデルと、ハイエンド市場でのスマートフォンの2つが大きく成長している状況などを紹介した。



デモンストレーション

LTEの試作機

 講演後には、エリクソンとSTエリクソンのさまざまなデモンストレーションが実施された。STエリクソンでは、LTE方式とHSPAなどマルチモードに対応した通信プラットフォームを展示しており、担当者は「技術的には今すぐにでも提供できるもの」などと語った。

 このほか、来年の完成に向けて開発中であるスマートフォン向けのシングルチッププロセッサ「U8500」や、環境などに配慮した基地局塔「TOWER TUBE」や公共施設などでの採用を想定した基地局設備「CAPSULE SITE」などが紹介された。



STエリクソンは、2010年にもLTE方式のデータ通信端末を提供予定展示されたM700ベースバンドチップ開発中のチップセット「U8500」
3D描画デモTOWER TUBEの模型CAPSULE SITEの想定シーン。スウェーデンでは一部導入されているという
MID端末向け通信モジュール「C3607W」を使ったAndroid OSを動かすデモC3607W2GからLTEまで幅広く採用される

 



(津田 啓夢)

2009/10/27 16:40