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「マッチ率向上と詐欺被害防止にAIを活用」、ペアーズのAI活用と安心・安全への取り組みとは
2026年1月27日 06:00
老若男女問わずさまざまなユーザーが利用しているマッチングアプリ。結婚を前提とした出会いを提供すべく、さまざまな技術が活用されている中、近年発展が著しいAI技術も積極的に活用されている。その一方で、“ロマンス詐欺”の現代版ともいえるSNSを使った詐欺を働くユーザーも存在し、報道も増えている。ユーザーが安心、安全にマッチングアプリを利用できる環境はどのように整備されているのだろうか?
今回は、マッチングアプリ「ペアーズ」を運営するエウレカの担当者から、同サービスのAI活用とユーザー保護への取り組みを聞いた。
ディープラーニングを使った複雑なマッチング、「相互推奨」がカギ
マッチングアプリに登録している数多のユーザーから、相性が合う相手を見つけるにはどうしたらいいのか? ペアーズでは、「本日のおすすめ」と称するAIが相手をおすすめする機能を搭載している。従前からAIを使ってユーザーを紹介していたが、2024年10月に新しいAIを導入した。AIマネージャーの臼井友亮氏によると、この進化したAIを導入することで、旧AIと比較して男性ユーザーのマッチ率(「いいね」を送信した割合)が約2.4倍、女性ユーザーのマッチ率が約1.5倍になったという。
スクリーンの向こうには人間が必ず存在するマッチングアプリ。単純にユーザーの好みを理解して提案するのではなく、好みが互いに一致している方が相性がよくなる。ECサイトでもAIがユーザーの購買履歴などを元に商品を提案することはあるが、あくまでユーザー片側の好みを理解したうえでの提案となる。マッチングアプリでは、両側の好みを理解し提案する必要があり、臼井氏はこれを「相互推奨」という単語を挙げ、マッチングアプリならではの特徴を説明する。
新AIで大きく進化したのは、「協調フィルタリング」から「ディープラーニング」への移行だ。「協調フィルタリング」は、ECサイトでも多用されている「定番の技術」(臼井氏)で、データ構造が単純で高速に処理できるという。「いいね」や「マッチ」などユーザーがアプリ内で行った行動を元にチューニングされており、単純な分析に留まっていた。「ディープラーニング」の活用により、アプリ内の行動からさらに深くユーザーの行動を分析し学習することで、ユーザーの好みをより細かく捉えられるようになった。
ディープラーニングについて、臼井氏は「より解像度が上がった。線形的だったものが、面的なものに広がった」と説明。天文学的数字の組み合わせがあるなか、同社独自の手法で先述のマッチ率向上に寄与したかたちだ。
本人確認の厳格化とアプリ外で起きている犯罪
世間で数多く発生している詐欺事件。近年は、その多くがSNSなどWeb上で発生しており、昔からある結婚詐欺やロマンス詐欺、投資詐欺なども例に漏れずWeb上で発生、中にはWebだけで完結してしまう事件も多い。
マッチングアプリでは、特に「SNS型投資・ロマンス詐欺」への警戒を強めている。警察庁の発表を見ると2025年の1月→10月の推移を見ただけでも認知件数と被害額ともに倍以上に上昇している。10月の時点ですでに昨年(2024年)の数字を上回っており、対策が急がれている。
もちろん、マッチングアプリ事業者としても手を拱いているわけではなく、不正なユーザーを阻止すべく本人確認の厳格化や犯罪に至るまでの行為を封じる対策を順次進めている。トラスト&セーフティマネージャーの藤田哲平氏は、単一部署だけではなくAIやカスタマーサポート、広報などさまざまな部署を巻き込み連携しながら取り組んでいると話す。
そもそもマッチングアプリとは?
マッチングアプリでは、そもそもアプリ内でどのようなことをしているのだろう? マッチングアプリでは、「18歳以上の独身」ユーザーが相手と実際に出会うことを目的に登録する。
ペアーズでは、ユーザー登録と独身確認の後に、自身のプロフィールを作成し、先述のAIによる提案などでマッチングし、メッセージやビデオデートでのやりとりの後に“実際に出会う”という流れになる。具体的には、プロフィールを見て互いの「いいね」が重なればマッチングが成立することとなり、そのままアプリ内で連絡する、というのが基本的な流れだ。安全なマッチングになるよう、メッセージやビデオデートに進む前には、必ずユーザーの本人確認が実施される。
マッチングアプリでは、犯罪行為が行われないようにさまざまなセキュリティ機能、言い換えれば“関所”を設けて利用者の安全を担保しているが、近年のロマンス詐欺ではこの関所を巧みにかわし利用者を欺いているという。
本人確認の厳格化
まず、ユーザー登録後の本人確認について、運転免許証などを使った本人確認ではユーザーの顔を使った高度なeKYC認証を導入。マイナンバーカードを使った確認では、ICチップを読み取る公的個人認証サービス(JPKI)を使った認証方法で、本人確認を厳格化しつつユーザーにとっても利便性の高い方法を取り入れている。
詐欺を働くユーザーも近年は組織化しており、身分証を偽造するノウハウも蓄積しているため、身分証だけではなくほかの要素と組み合わせた確認や、偽造が困難なICチップを使った確認をすることが重要だという。
本人確認への障壁を下げる取り組みも進めている。特に、eKYCでの確認では、ユーザー自身で顔写真を撮影しなければならず、抵抗を感じるユーザーが一定数存在する。マイナンバーカードを使った認証では、ICチップを読み取ることで確認できるが、ICチップ読み取りに際してパスワードやセキュリティコードなど入力が必要なものもあり、中にはわかりづらかったり、親しみがなかったりするものもある。同社では、入力フローをあえて細分化し、ユーザーが迷わないように改良した。これにより、ICチップ読み取りによる本人確認の利用数は、改良前と比較し43%増加したという。
なお、マイナンバーカードの読み取りは、本人確認や18歳以上であることを確認する目的でのみ実施される。個人番号やパスワードは取得、保存されず、ユーザーの収入額などが明らかになることはない。
事件は“アプリの外”で起きている
ペアーズのアプリ内では、すべてのユーザーに対し、ロマンス詐欺への啓発活動を実施している。加えて、外部の団体や警察などと連携したアプリ外での啓発活動も進めている。
先述の高度な本人確認方法の導入や啓発活動により、不正アカウントから一般ユーザーに届く「いいね」の数は45%減少、「メッセージ」も57%減少し、一定の効果を出している。
その一方、“高度化する犯罪”に対して、さらなる対策を講じる必要が出てきている。近年のロマンス詐欺は、マッチングアプリやほかのSNSアプリでユーザーと繋がった後、エンドツーエンドのメッセージアプリに誘導し、そこで詐欺行為が行われている。いわゆるマッチングアプリが“踏み台”にされている状態だ。
マッチングアプリでは、これまでも事件事故防止のため、ユーザー同士のメッセージは確認され、必要に応じて通知を出すなど対策が進められてきたが、“アプリの外”で犯罪が行われており、対策に限界があった。
同社では、これら近年の犯罪手法に対抗すべくより踏み込んだ対策を実施。たとえば、アプリ内のメッセージ機能において、他アプリのID交換を禁止にした。これに加え、ID交換を持ちかけるメッセージにはこれまでポップアップにより通知を出していたが、今後は送信そのものをブロックするようにする。また、すでにID交換を持ちかけられたユーザーに対しては、他アプリでの犯罪行為に対する注意喚起を行う。これは、誘導されてしまったユーザーを、その後の犯罪被害から未然に防ぐための取り組みだ。
本人確認については、12月1日から健康保険証をはじめとした券面情報のみの本人確認を廃止した。健康保険証に関して藤田氏は「各健保組合によって様式がまちまちで、ほかの身分証と比べると判断が難しい部分があった」とコメント。偽物の身分証を作成する技術は年々向上してきているといい、AIの力でその技術はより進化してきているという頭の痛い現況だ。偽造しやすい方法を塞ぐことで、不正ユーザーの排除を狙う。
これらに加え、2026年には不正と思われるアカウントに対して、身分証の写真とプロフィール写真の照合を実施する。
安心利用への取り組み
犯罪行為の抑止だけでなく、利用者が安心感を得られる対策も進められている。
たとえば、11月にはプロフィール写真のスクリーンショットを禁止する機能を導入した。「禁止」と謳うだけでなく、実際にスクリーンショットを撮影すると、プロフィール写真の部分が保存されないようアプリの仕様から変更を加えたかたち。ほかのSNSなどにさらされたり、別の犯罪行為やなりすましアカウントに悪用されたりするなど、あらゆる犯罪、迷惑行為からユーザーを守るための機能だ。
これらに加え、オペレーターによる目視確認やAIを使った不正検知体制の強化を図る。利用傾向を学習しAIが自動でチューニングする手法を取り入れることで、より厳格に審査できるようになるという。
恋愛に“AI”を活用するユーザーが増加
ここまで、マッチングアプリ利用者と犯罪者によるAI活用について言及してきたが、ユーザーの多くも恋愛に関する生成AI利用が進んでいる。
同社の調査によると、マッチングアプリ利用者の半数以上が、生成AIに恋愛相談をした経験があるという。20代男性では2/3近くのユーザーが利用経験があると回答した。理由としては「相談内容を人に知られない」や「24時間いつでも相談できる」といった選択肢(複数回答)が上位にランクインした。
内容は、「マッチングアプリでのメッセージのやりとり」や「相性のよい異性」、「返信メッセージの作成」、「プロフィール文章」の回答が多かった。
“マッチングアプリ”一つとっても、さまざまな立場でさまざまな目的でAIが活用されている。一方で、「AI対AIの戦い」になってきているのもまた事実。
たとえば、少し前まで詐欺メッセージの定番は「怪しい日本語」「拙い日本語」だった。これは、ほかの言語と比較して日本語の生成がAIには難しかったからであるが、既知の通り生成AIの進化はめざましく、「生成AIの“流暢な”日本語」を肌で感じている読者も多いだろう。また、これまでの犯罪例などをディープラーニングしているAIは、過去にあった犯罪、迷惑行為には強力な抑止力となるが、未だ見ぬ新たな行為に対してうまく作用するかは未知数だ。
事業者による対策とともに、ユーザー自身も警戒を怠らず、AIに頼りきりにならない“出会い”に磨きをかけていきたいところだ。

























