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避難所支援の“重複”解消へ、NTT・KDDI・SB・楽天が力をあわせる狙いとは

左から、NTT技術企画部門災害対策室長の倉内努氏、KDDIコーポレート統括本部総務本部総務部長の堀井啓太氏、ソフトバンク営業戦略本部事業企画統括部統括部長の西條祐史氏、楽天モバイルBCP管理本部長の磯邉直志氏

 NTTグループ(NTT、NTT東日本、NTT西日本、NTTドコモ、NTTドコモビジネス)とKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは22日、大規模災害時における被災地支援の連携強化を発表した。具体的には、避難所支援にあたりエリア分担や情報発信で連携し、よりスムーズに支援できるよう、取り組みを強化するという。

 これまでも4社では、災害支援で連携を進めてきているが、今回は避難所支援の部分で、他社連携を強化したかたちとなる。

支援が重複してしまう問題を解消

 今回の取り組み強化の目玉となるのは、事前にエリアを分担し、避難所支援の“重複”を無くす取り組みだ。

 これまで、災害支援は各社で取り組みを実施してきた。たとえば、ある避難所にA社が支援機材を持って取り組みを進めていると、後日B社が同じ避難所を訪れてしまうことがあった。NTT技術企画部門災害対策室長の倉内努氏は、ほかにも支援を待つ多くの避難所があるにもかかわらず、このような“支援の重複”は、災害発生から日が経つほど多くなっており、現場でも課題感を持っていたという。

NTT技術企画部門災害対策室長の倉内努氏

 そこで4社は、7月から各社が支援している避難所の情報を共有する取り組みを開始。他社が支援している避難所がわかれば、それ以外の避難所に支援を進められ、より多くの避難所に早く支援できるようになる。

 今日の発表は、これをさらに拡大する形。大規模災害発生時に、まずは4社で支援範囲のエリアを設定し、そのエリアを中心に支援部隊を派遣することで、これまでよりもより素早く広範囲に支援できるようになる。エリア分けについて倉内氏は「基本は各社同じくらいのエリアを担当する」が、各社のリソースや現場での災害状況などを踏まえ、現地の災害対策本部に駆けつけた各社の人員により、現場で判断していくという。

 これまでも4社では、災害支援に対して連携を進めてきた。たとえば、復旧人員の宿泊場所や資材置き場、給油拠点などアセットの共同利用や、陸路でのカバーが難しい場所に対して、NTTやKDDIが保有する船舶を4社で利用する船舶共同利用の協定を締結。実際に災害を想定した訓練を4社で実施しており、これらの共同利用についても訓練を実施し、現場で確実に取り組めるよう進められている。今回の避難所支援についても4社や自治体と連携した支援ができるよう、訓練していくと倉内氏は話す。

ユーザーへの広報手段も見直し

 あわせて、ユーザーに向けての告知手段についても見直す。

 これまでは、各社それぞれが自社で行っている支援内容をWebサイトなどで告知していたが、どこの避難所で支援が行われているかを確認するには、4社それぞれの支援内容を見直さなければならなかった。今回の取り組みでは、各社のWebサイトで4社の支援内容を一度に確認できるようにする。

 「電話」と「データ通信(Wi-Fi)」「充電」の3つの環境提供による支援について、1社のWebサイトを見るだけで確認できるようになるという。一覧表示のほか、地図上でも確認できるようにし、4社の支援内容をそれぞれのサイトでわかりやすく確認できるようになる。

 今回の取り組みとあわせて、4社での災害支援について共通のロゴを作成した。NTTグループとKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルそれぞれの企業カラーが塗られた手が重なったデザインで、今後の共同支援では、このロゴがあしらわれた横断幕などで掲示する場合がある。

 倉内氏によると、これまでの支援では、実際に環境を提供している事業者のロゴが目立っていたが、ほかのキャリアを利用するユーザーから「自分は使えないのではないか」という声が挙がっていたという。基本的な「電話」と「データ通信(Wi-Fi)」「充電」の3つの環境提供にあたっては、サービスの利用有無にかかわらずすべてのユーザーが利用できるものであり、共通ロゴの利用で「より誰でも使えること」をアピールする狙いがあると話す。

共通ロゴを使った告知

事業者間ローミング

 大規模災害時や通信障害時などに、通信環境を確保する取り組みとして、公衆Wi-Fi以外にも「事業者間ローミング」が検討されている。特定のキャリアの通信ができなくなった場合に、他社のネットワークを経由して通信環境を維持するもので、海外旅行時などで現地のキャリアのネットワークを利用して通信するローミングに近いものだ。

 現在は、副回線サービスなどで一部広がりを見せつつあるが、大規模災害時には、ローミングを広域で実施できれば、ユーザーの通信環境がより早く復旧できるようになることが期待される。

 倉内氏は、今回の取り組みがローミングのためのものでないとしながらも、ローミングも各社で議論していくとコメント。災害が起こった際は、事業者間でしっかりと密な連携が重要になるといい、今回の連携強化も事業者間での議論をより深めていくことに繋がるのではないかと話す。

 あわせて、ローミングだけではないさまざまな面での連携も進めていくという。通信環境でみると、このほかにも低軌道衛星(Starlinkなど)や成層圏通信プラットフォーム(HAPS、High-Altitude Platform Station)など、空から通信環境を提供する取り組みを各社で進めている。倉内氏は「新しい技術を使うことは、災害対策としても重要。最初の導入は各社で進めることになるが、事業者間でも連携を取っていきたい」と語る。KDDIコーポレート統括本部総務本部総務部長の堀井啓太氏も「イリジウム衛星など時代が進むにつれて技術が大きく変わり、Starlinkの登場でプロセス自体も変わってきた」とし、4社での取り組みを進めていきたいと方針を示した。

KDDIコーポレート統括本部総務本部総務部長の堀井啓太氏

災害支援でのAI活用

 さまざまな場所で活用されているAIだが、今回の4社連携では利用されているのだろうか? NTT倉内氏は、現状AIを活用した取り組みは実施していないというが、災害対策として避難所支援の分担や運用の高度化は重要だという認識を示し、AI活用は検討していきたいとした。

 KDDI堀井氏は、避難所支援や計画の策定などでAIを活用することについて「難しい面がある」とコメント。業務全般の効率化や初期対応の迅速化などで活用していきたいとした。

 楽天モバイルBCP管理本部長の磯邉直志氏は、被災地の情報鮮度について言及し「AIによるシミュレーションよりも現場の声の方が早い。災害対策本部では、通信だけでなく電力などほかの事業者も集まっており、どこが早く復旧するのかといった情報は、現地で得られる情報の方が早い」と指摘。一方で、ネットワーク監視の面では有効だとし「基地局の非常用バッテリーを延命させるための“省エネモード”に切り替える際に、AIで状況を確認し切り替えている」と、今後活用できるシーンは増えてくると話した。

 一方、ソフトバンク営業戦略本部事業企画統括部統括部長の西條祐史氏は、最適な避難支援や避難経路などで一部AIを活用していると説明。今回の取り組みにおいても、効率化や調整に関わるシミュレーションをAIが担えるようになれば、活用し検討していきたいとコメントした。

実際の避難所支援

 4社による避難所支援では、電話とデータ通信、充電の3つを軸に支援を実施している。

 電話支援では、衛星電話による通信環境の確保を実施している。担当者によると、実際に衛星電話が活躍する場は少ないといい、携帯電話の電波が届く場所であれば、携帯電話を貸し出して電話できる環境を提供することが多いと話す。一方で、固定電話のような受話器があるタイプのものも用意している。

各社の電話支援、衛星電話やデータ通信を利用したものなどさまざま
NTT東西による支援も

 データ通信では、公衆Wi-Fiの無料開放に関するガイドラインによる統一SSID「00000JAPAN」によるフリーWi-Fiサービスを提供している。StarlinkによるフリーWi-Fiも一部で提供しているといい、各社が持つ最新技術も活用しながら支援していることがうかがえる。

各社のWi-Fi支援装置の例
StarlinkによるWi-Fiも実施。Starlinkの場合、統一SSID「00000JAPAN」によるサービスは、機器の都合でできないといい、避難所などにSSIDを掲示してサービスを提供する

 充電支援では、各社それぞれで一度に多くのデバイスを充電できる充電器を用意している。電源が復旧していない場所では、発電機やポータブル電源を利用して電源を確保している。なかには、暗証番号でロックできるロッカー型の充電設備や、フィーチャーフォンや古い機種の端子(DockコネクタやLightningケーブルなど)が用意されているものもある。

各社の充電支援装置
さまざまな端子を用意している