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ドコモショップのスタッフはAI相手に応対スキルを磨く――育成時間を8割削減、全国で本格稼働

 NTTドコモは、ドコモショップのスタッフ育成を効率化する「AIロールプレイングシステム」を全国のドコモショップに正式導入した。応対品質の向上と、新入スタッフへの教育負荷の軽減を主な目的としている。

育成にかかる稼働負荷をAIで軽減

 ドコモショップでは、さまざまなサービスを扱う中でスタッフの入れ替わりも多く、スキルの平準化やスキルアップの機会が頻繁に求められてきた。

 従来のロールプレイングは習熟に役立つ一方で、育成する側とされる側の双方に稼働負荷がかかる点が課題だった。シナリオ作成や詳細なフィードバックなどの準備にも時間が必要で、スタッフ1人あたり月におよそ5時間を要していたという。

 こうした育成稼働の軽減を目指し、ドコモはAIシステムの開発に着手。2024年10月頃から20店舗でトライアルを実施し、2025年上期には200店舗規模へと拡大。そして10月6日、全国のドコモショップ2048店舗への正式展開を完了した。これにより、従来約5時間かかっていた育成時間をおよそ1時間に短縮、8割削減できる見込みだという。

AI技術による表情・声の分析とフィードバック

 AIロープレは、ドコモショップスタッフがAIを相手に実践的な応対トレーニングを行えるシステム。ロールプレイング前には顧客情報を確認できる「事前準備機能」や、トークの流れを補助する「ヒント機能」を活用しながら練習を進められる。

事前準備機能。 料金収納のシナリオではシステム画面のイメージが表示される
ヒント機能。例文などが表示される

 特に注目されるのが、NTT独自の技術を用いた表情や声のトーンに関するフィードバック機能。NTT人間情報研究所のメディア処理AI「MediaGnosis(メディアグノーシス)」を活用し、発話速度(1分あたりの文字数)や声の質、言い淀み(フィラー)の回数、丁寧な言い回しの適切さなどを総合的に分析する。

 ロールプレイングの様子は録画され、スタッフ自身が後から客観的に振り返ることもできる。

特徴をスコア化。声や表情まで判定する
評価詳細。上述のヒントを使用した場合も、「ヒントを見て達成」という評価になる
結果詳細。発話速度や淀み回数も応答ごとに判定する

AIを活用した多様なシナリオと実践効果

 リリース時点では7本のシナリオが用意されており、新人スタッフ向けには料金収納や商品販売など、受付件数の多い応対を中心に構成。さらに、販売トップ店舗の優良事例にもとづいた高度な応対スキルを学べるシナリオも実装されている。

シナリオは新人スタッフ向けに4種と、中堅スタッフ向けに3種ある

 相手役としては、高齢者・中年・若者の男女に加え、アニメ調アバターを含む全7種類を用意。スタッフが練習しやすい環境が整えられている。

 トライアルに参加したスタッフからは好評の声が多く寄せられた。AIロープレによって練習の計画を立てやすくなり、シフト表の中にAIロープレの時間を組み込む店舗もあったという。対人練習のような緊張感がなく、自分のペースでリラックスして学べる点も評価されている。

 また、トライアル期間中には、練習が実際の契約につながったという報告もあった。新人向けのシナリオを、熟練スタッフが復習目的で活用するケースも見られたという。

AIと人が補い合う、今後の育成のかたち

 ドコモは、このAIロープレについて「育成において、人のロールプレイングに勝るものはない」との見解を示す。AIロープレで高得点を取ったとしても、実際の顧客応対がすぐに完璧になるわけではなく、スタッフが育成担当者のサポートを受けながら成長していくことが重要だとする。

 同社では、このシステムをあくまで「人の稼働軽減と育成負荷軽減を図るサポートツール」と位置づけており、今後は店頭で推奨する商材に対応したシナリオの拡充を進めていく方針。将来的には、スタッフ自身がスキル習熟度を確認できるインターフェイスの改善も検討しているという。