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決算発表から見えてくる国内電機大手の携帯電話事業の現状

 電機大手各社の2013年度業績が出揃った。同決算をみると、携帯電話事業を展開する国内大手は、厳しい事業環境のなかにあることが浮き彫りになったといえる。各社の決算発表を通じて、携帯電話事業の各社の現状を追った。

ソニー

ソニーの加藤優執行役EVP CFO
ソニーのセグメント別業績状況

 携帯電話事業およびPC事業を含む、ソニーのモバイル・プロダクツ&コミュニケーションの売上高は、前年比約2倍となる102%増の1兆2576億円、営業損益は1044億円悪化のマイナス972億円となった。

 フィーチャーフォンからスマートフォンへの製品構成のシフトに伴い平均販売価格が上昇。スマートフォンの販売台数そのものも増加したという。2012年度のスマートフォンの販売台数は3300万台に達し、前年実績の2250万台から46.7%増となった。だが、2月公表値では3400万台としていたことに対しては、100万台減となった。

 ソニーの加藤優執行役EVP CFOは、「Xperia Zは好調だが、そのほかの機種が想定を下回っている。一部キャリアによってはXperia Zがいいために、他の機種の購入を控えたケースもあったようだ。スマートフォン事業は、2012年度は赤字から脱却できなかった」とした。

 なお、2012年2月に連結したソニーモバイルが、前年度に通期で100%連結していたと仮定した場合、分野全体の売上高は前年比18%増になるという。一方で、大幅な減益の背景には、前年度にソニーモバイルの支配権取得に伴う評価差益として1023億円が含まれていたことが大きい。また、米ドルに対する円安が営業損益に悪影響を与えたという。

 ソニーの神戸司郎業務執行役員SVPは、「2012年2月のソニーの100%子会社化以降、商品開発力やマーケティングの強化、サプライマネジメントの効率化、構造改革に着手してきた。商品力強化の点では、最新技術を結集したXperia Zを、2013年2月以降、全世界60カ国で販売し、高い評価を得ている。今後も引き続き、ソニーの技術力を結集した魅力的な製品を投入し、2013年度のビジネス拡大、黒字化を目指す」と語った。

 2013年度のセグメント別業績予想は明らかにしていないが、スマートフォンの販売台数は、前年比27.3%増の4200万台を計画している。「売上高は大幅な増収を見込む。これはスマートフォンの販売台数の増加と、高付加価値モデルの導入によるもの。営業利益も増収の影響によって、モバイル・プロダクツ&コミュニケーション部門全体で大幅な改善を見込んでいる」(ソニーの神戸業務執行役員SVP)としている。

 加藤CFOは、「スマートフォン事業は、2012年度は赤字であったが、様々な施策を打っており、2013年度には黒字化に向けての地歩を築くことができた。2013年度は、ソニーにとって、エレクトロニクス事業の黒字化が最大の課題であり、キーとなるのはテレビとスマホになる」と語った。テレビ事業とともにスマホ事業の改善が、エレクトロニクス事業の復活、しいては全社の業績を左右することになるというわけだ。

 ソニーでは、2013年度のエレクトロニクス事業において、約1000億円の黒字を見込んでいる。

シャープ

シャープの大西徹夫取締役専務執行役員
今年6月に社長に就任予定のシャープの高橋興三代表取締役副社長
シャープの液晶パネル事業の売り上げ計画

 シャープの携帯電話事業の売上高は、前年比24.9%減の2296億円、販売台数は前年比20.7%減の611万台となった。

 同社では、市場がスマートフォンへシフトするなかで、国内での販売強化を進めており、とくに、2012年度は「Feel UX」を提唱。スマートフォンの操作性の改善に取り組んだ点が特徴だ。また、シャープのスマートフォンにおける共通開発思想として「Feel Logic」を打ち出し、シャープならではのスマートフォンの方向性を示してみせた。

 2013年度の見通しは、売上高が前年比4.5%増の2400億円、販売台数は11.3%増の680万台を目指すとしている。

 同社では、2015年度を最終年度とする中期経営計画を策定。2013年度までの構造改革ステージに対して、2014年度以降は、再成長ステージと位置づけ、収益体質の強化に取り組む姿勢をみせる。

 だが、携帯電話事業については、具体的な販売台数計画は公表していないものの、「スマートフォンに関しては、日本市場のなかでシェアをキープしていくことを優先する。そのため、2015年度においても、出荷台数は、ほぼ横ばいを想定している」(シャープの大西徹夫取締役専務執行役員)と、年間700万台の出荷規模維持を想定している姿勢をみせた。

 販売台数拡大よりも、今後は収益性確保を優先した事業展開を進めるとともに、操作性の改善や、IGZO液晶を搭載することでの差別化したスマートフォンの投入に取り組む考えだ。

 一方、同社では、液晶パネルの大手重点ユーザーとして、2012年度に新規ユーザーとして1社が加わり、6社に増加。これらの大手重点ユーザーだけで液晶事業売上高の約3割を占めているが、今年6月に社長に就任予定の高橋興三代表取締役副社長は、「すでに具体的な設計を開始した新たな大手重点ユーザーがあり、2013年度には9社に拡大する。2014年度以降は、9社の大手重点ユーザーで液晶事業の売上高の6割を占めたい」とした。

 大手重点ユーザーの企業名は公表していないが、アップルなどが含まれているとみられる。

NEC

NECの遠藤信博社長
NECのパーソナルソリューション事業の2013年度業績予想

 NECは、2012年度におけるパーソナルソリューション事業の売上高は10.9%減の5891億円、営業利益は47億円減のマイナス37億円の赤字。そのうち、携帯電話事業のモバイルターミナルは、売上高が12.8%減の2624億円、約120億円の赤字を計上。NECモバイリングの携帯電話販売事業が好調だったものの、携帯電話の出荷台数が大幅に減少したことが響いた。

 同社の期初計画では、携帯電話の年間出荷計画は430万台。第3四半期終了時点でリスクを想定していたが、それを上回る厳しい環境となり、出荷実績が290万台に留まった。「年間140万台という大きな下振れによって、粗利が大きく減少した」(NECの川島勇取締役執行役員兼CFO)という。

 同社では、将来の在庫リスクを考え、在庫の棚卸評価引当計上を行うとともに、ソフトウェア資産の減損損失で150億円を特別損失に計上。2013年1月予想では、パーソナルソリューション事業全体で100億円の黒字を見込んでいたものが、37億円の赤字に陥る結果になった。だが、川島取締役執行役員兼CFOは、「これによって、2013年度の携帯電話事業の計画において重荷はなくなる」とする。

 2013年度のパーソナルソリューション事業計画は、売上高が前年比17.7%減の4850億円、営業利益は63億円減のマイナス100億円の赤字。そのうちモバイルターミナルは売上高が37.5%減の1640億円とする。NECモバイリングの非連結化も減収要因となる。

 携帯電話は、ほぼ前年並みとなる300万台の出荷を計画。上期は150億円程度の赤字が出るものの、下期はブレイクイーブンと予想。通期では150億円の赤字を見込んでいる。

 NECの遠藤信博社長は、「携帯電話端末はヒューマンインターフェースとして重要な製品だという認識を持っている」とするものの、「携帯電話事業は、NECにおいても厳しい事業領域である」と、依然として課題事業であることを示す。

 NECは、携帯電話販売のNECモバイリングの株式を、丸紅の子会社であるMXホールディングスに売却することを発表。さらに、一部ではレノボグループに対する携帯電話事業の売却が報道されるなど、海外サプライヤーとの連携も取りざたされている。遠藤社長は、「NECモバイリングの売却は、正直もったいない気もするが」としながらも、「国内では7位の規模であり、2~3年後を考えると、ボリュームがないと生き残れない。おかしくなってから手を打つのではなく、今のうちに手を打っておく必要がある」とする。

 その一方で、携帯電話の開発、生産については、「事業を確固たるものにするには、一定のボリュームが必要であり、海外で事業を行っているサプライヤーとコラボレーションする必要がある。1年前にも同じことをいっていたが、この1年間は、サプライヤーと話はしていたが、結果が出ていない。年度内には、結果を出したい」と語る。

 レノボグループとの連携については、「具体的な企業名については話せない」と回答を避けたが、「売却を第一義に考えているわけではない。売却するかどうかは、その場で考えることである」とした。

 NECは過去10年間に渡って、コンシューマPC事業や液晶事業、プラズマディスプレイ事業、半導体事業などを売却してきた経緯がある。その一方で、サービス事業を相次いで買収することで事業体質の転換を進めている。携帯電話事業をどんな形で再編するのかは、この1年の重要なポイントだといえよう。

富士通

富士通の山本正已社長
富士通が6月からフランスで出荷を予定している「らくらくスマホ」

 富士通の2012年度(2012年4月~2013年3月)におけるユビキタスソリューションの業績は、売上高が前年比5.5%減の1兆902億円、営業利益は103億円減の96億円。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高は7.5%減の8228億円となった。同社によると、PCは赤字だが、携帯電話事業は黒字になったという。

 富士通の山本正已社長は、「携帯電話は厳しい市場環境の中にあり、業績が悪化した」とコメント。富士通 取締役執行役員専務の加藤和彦氏は、「携帯電話やPCといったユビキタスデバイスでの物量減や採算悪化などがあり、全社の営業利益は計画に対して未達になった。携帯電話の出荷台数は、前年比19%減の650万台。スマホシフトのなかで、富士通は厳しい状況に置かれており、第2四半期をピークに出荷台数が落ちている」などと携帯電話事業を総括した。

 2013年度は、ユビキタスソリューションの売上高が前年比6.4%減の1兆200億円、営業利益は26億円減の70億円。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高は11.3%減の7300億円とする。携帯電話の出荷台数は、前年比20.0%減の520万台の計画とした。2011年度実績の800万台から2/3の規模へと縮小することになる。

 山本社長は、「ユビキタスソリューションは、見通しを厳しく見ざるを得ない。売れるモデルへの絞り込み、顧客フロントでのモバイル端末を使用したサービス化への取り組みなどを加速することが、厳しい状況に対する当面の対応。携帯電話およびPCは、最低でも500万台の出荷規模を確保することが、黒字化のポイントになる」などとし、携帯電話事業の黒字維持と、PCの黒字転換を目指す姿勢をみせた。

 また、加藤取締役執行役員専務は、「富士通のモノづくりは変動費化しており、物量の変化に対応できるようになっている。そのため、携帯電話の物量が減っても黒字を維持できる。だが、現時点では、皆様から愛されるスマートフォンにはなっていない。ここに注力する必要がある。これによって、トータルコストはさらに落ちることになる」などと、業績改善に向けた姿勢を示す。

 同氏は「ドコモ向けに出荷しているらくらくホンについては、まだ継続していくことになり、フィーチャーフォンは残ることになるが、それ以外では、スマートフォンの構成比が大部分を占めることになる」と語りながら、フランスでのらくらくスマホの販売については、「6月からテストマーケテイングを開始し、徐々に増やしていく。だが、携帯電話の良さをクチコミに近い形で広げていくというところから始めていく考えであり、事業プラン全体に大きく反映するものではない」などと語った。

 なお、携帯電話事業の位置づけに対しても改めて言及。山本社長は、「富士通にとって、携帯電話はユーザーインタフェースとして重要な製品である。富士通が提案するワークスタイルの変革を実現するためには、携帯電話やPCがなければ、全体を提案できない。儲かっている、儲かっていないという単純な判断で事業を売却するようなことは考えていない。だが、ボリュームビジネスであり、一定の規模を追求しながら、単独のビジネスとして黒字化していく必要がある。ユビキタスデバイスは、富士通が長年やってきた市場。負けることはない」などとし、事業売却の可能性は否定した。

パナソニック

パナソニックの河井英明常務取締役
パナソニックモバイルコミュニケーションズの業績

 パナソニックは、携帯電話事業を含むシステムコミュニケーションズの売上高が前年比12%減の7409億円、営業利益は29%減の124億円となった。同セグメントの減収要因として、携帯電話の売上げ減少を挙げている。携帯電話の販売台数は前年比31%減の282万台となった。

 2013年度は、セグメント変更により、携帯電話事業はAVCネットワークスに含まれるようになる。AVCネットワークスの売上高は前年比4%増の1兆6900億円、営業利益は261%増の300億円。そのうち、携帯電話事業を担当するパナソニックモバイルコミュニケーションズの業績見通しは、売上高が前年比1%増の935億円。営業利益は、前年実績から70億円改善するものの、マイナス11億円の赤字になるという。

 携帯電話の2013年度の販売計画は、前年比8%減の260万台を見込んでいる。パナソニックの河井英明常務取締役は、「AVCネットワークスにおいては、テレビ事業や携帯電話事業といった課題事業の損益改善が鍵になる」とコメント。携帯電話事業の収益改善を優先事項として取り組む姿勢を示した。

 このように、国内電機大手の携帯電話事業は、軒並み厳しいものになっている。多くのメーカーが、携帯電話事業を課題事業として捉えており、構造改革や収益性の改善に取り組む姿勢をみせている。

 スマートフォン事業の出遅れや、海外事業への遅れなどによって、ボリュームを確保できないため、海外メーカーに比べて競争力の面で課題があるといえ、ビジネスモデルの改革を余儀なくされているのが現状だ。

 はたして、2013年度に各社の携帯電話事業はどこまで回復するのか。なかなか明るい兆しは見えてこないというのが実態と言わざるを得ない。

大河原 克行