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ソフトバンク決算、2013年度にも営業利益1兆円超へ

 ソフトバンクは、2012年度通期(2012年4月~2013年3月)の決算説明会を行った。直前に急遽2部構成に変更された同説明会では、第1部が通期の活動と決算の概要を、第2部では買収交渉を進めている米Sprintに関する説明を行った。ここでは第1部の決算説明の内容をレポートし、第2部については別記事をご参照いただきたい。

ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 孫正義氏

「10年以内にドコモを超える」を現実に

 ソフトバンクの代表取締役社長の孫正義氏は、第一声で、「営業利益が初めて1兆円の大台を突破する」と、今期2013年度の営業利益の見込みを報告。1兆円を超えたことがあるのは、トヨタ自動車とNTTグループしか記憶にないと語り、「日本の経済史が始まって以来、3例目の1兆円突破企業になるかもしれない」と自賛した。

 この見込みについて、「まさに春が来た、という状況だが、これを英語に直すとSpring has comeになる。もうじきSprint has comeと正式に言えるのではないか」と、買収交渉を進めている米Sprintの話題を織り交ぜて会場の笑いを誘ってから、前期2012年度の同社の活動内容と決算についての解説を始めた。

 7年前のボーダフォン買収時にまで話を遡った孫氏は、当時の状況について、ソフトバンク自体が「赤字が4年続いていたどん底からはい上がった直後で、経営の健全性を問われていた」と言い、ボーダフォンも同様の厳しい状況にあったと振り返った。当時のボーダフォンの純増数のシェアは約4%、基地局数は約1.8万局、CM好感度は31位、営業利益は763億円で、しかもその営業利益は急降下中。業界トップを走るドコモに比べ「全ての点においてボーダフォンは負けていた」という。

 そのボーダフォンを買収した時点で、同氏は「10年以内にドコモを超える」と決意表明したという。周囲が少なからず否定的な見方をしていたことに気づきつつ、自身としてもかなり無理をした発言だったとした。しかし、ソフトバンクの2013年度の営業利益が1兆円を超えることがほぼ確実で、ドコモがすでに発表している2013年度の営業利益予想、約8400億円を大きく上回るとし、「10年以内にドコモを超える」という宣言を現実のものにしつつある点をアピールした。

2012年度の営業利益はドコモに迫る

 2012年度のソフトバンク全体の売上高は、3期連続で過去最高を更新する前年度比6%増の3.4兆円。営業利益は、8期連続で過去最高を更新する前年度比10%増の7450億円であり、ドコモの営業利益8372億円に迫っている。経常利益は4期連続で過去最高を更新し、前年度比14%増の6532億円となっている。

 当期純利益こそ前年度比243億円減の2894億円となったが、これは前年度が米Yahooの株式売却や中国Renren Inc.の上場に伴う一時評価益で上振れしたためであるとし、それらを除けば前年度より増加しており、あくまでも「実態としては順調に推移している」とした。

 営業キャッシュフローも8944億円へと増加。純有利子負債も順調に減少しているとしたが、米Sprintの転換社債取得分が上積みされ、5000億円だった2012年度3月末と比較して、2013年度3月末は7300億円とやや増加している。年間の配当金については従来通り40円を維持する。

 モバイルEBITDA(償却前のモバイル事業の営業利益)は1兆2000億円で同13%増、モバイルEBITDAマージン(モバイル事業の営業利益率)は50%を超えた。国内キャリア他社だけでなく、米国の通信事業者を含めてもNo.1であると主張し、「50%を超えるのは、他の業界を見てもなかなかない」と胸を張った。

モバイルEBITDA、モバイルEBITDAマージンは世界No.1

 ユーザーの純増数は、ボーダフォン時代が2005年に月あたり17万件だったところ、直近の3年間を見ると月間換算で30万件近くにまで到達、3年間のトータルで1000万件を超えている。

 2012年度はソフトバンク単体で353万件の純増で、これに連結対象であるイー・モバイルやウイルコムの純増数も含めると計436万件となる。ドコモの140万件、KDDIの260万件を抑えて純増数で首位になった。孫氏は、米国の通信事業者であるAT&Tを超え、592万件のVerizonに迫る勢いであるとした。

 「ソフトバンクはメディアなどで今なお国内第3位の携帯事業者と表現されることが多いが、実態としてはドコモを超える事業者になり、ユーザー数でもKDDIをはっきりと上回ったと言える」と語った。

 なおソフトバンクモバイルとウィルコム、イー・モバイルを合算した累計契約数は4188万件。この数字自体はドコモ単体の累計契約数6154万件に及ばないものの、「Sprint has comeとなれば、(9710万件となり、2012年度9893万件の)米Verizonにもほぼ追いつく」という。

 ARPUは2年前から上昇に転じ、2012年度はドコモの4420円に次ぐ4290円。通信料金の売上は前年度比9%増の1兆5673億円であり、この通信料の売上げ増減率は国内の通信事業者のみならず、米AT&T、Sprint、Verizonをも超える日米No.1の数値だとした。これにより、前述の通り、償却前のモバイルEBITDAマージンは50%に達し、米VerizonやChina Mobileさえも凌駕する世界No.1の値になっていると強調した。

 モバイル通信事業における営業利益は4678億円で前年度比9%増。償却前のモバイルEBITDAは7830億円で前年度比14%増となり、この増加率も米Verizonなどを抑え世界No.1とのこと。

 なお、傘下にあるウイルコムの契約数は、2010年12月の買収以降毎月増加している。2011年度第2四半期以降は黒字を維持し続けており、2013年3月は過去最高を更新する536万件に到達。更生債権・更生担保権の約270億円の弁済目処が立ったため、更生手続きを終結し、2013年度第2四半期からは連結子会社の対象となることを明らかにした。

国内でのNo.1は通過点。モバイルインターネット世界No.1へ

 業績好調の背景には、「つながりやすさNo.1」を目指すための取り組みがあると語った孫氏。「ソフトバンクには、あぶなっかしい経営で、借金過多で、しかもつながらないケータイという代名詞がつけられてしまっているようだが、実態としては大きく違ってきている」と主張した。

 まず、プラチナバンドの基地局数が大幅に増加しているとアピール。プラチナバンドの許認可を得て電波を利用し始めたのが2012年7月25日だが、当初2013年3月目標として掲げていた1万6000局を2013年1月の段階でクリアしており、「大雪の日も、台風の日も、言い訳せずに基地局をつくってきた」ことで、2013年4月現在、基地局数は約2.2万に達している。

 音声通話の接続率も公表。調査会社による全国各地での月間延べ3億数千万台の接続に関する調査結果によれば、AndroidスマートフォンとiPhone 5のいずれでもソフトバンクが国内の他キャリアを抑え堂々の1位。「これからは、つながりやすくするためにソフトバンクのiPhoneに乗り換えたい、というユーザーが増えることを確信している」と期待感をにじませた。

 なお、パケット通信時の接続率においても他社のAndroidスマートフォン、iPhone 5を超えているとする。接続を試みてから10秒以内に通信が始まらないことを「パケ詰まり」と定義し、それを考慮した調査結果になっているという。「毎日、コンスタントに、あらゆる局面において、よりつながるということが確認できた」という。

 具体的には、プラチナバンド対応のAndroidスマートフォンとiPhone 5において、多くの施設でパケット通信時の接続率を調査。ゴルフ場でのみAndroidスマートフォンの接続率が他社より劣るものの、その他のレジャー施設、ファーストフード店、ショッピングモール、主要駅、大学、家電量販店、コンビニなど、さまざまなシチュエーションにおいて同社の接続率が他社より上であることをグラフで提示した。

 iPhone 5のLTE対応エリアの状況についても他社と比較し、関東、東海、関西それぞれの地図上に3G通信が可能だった箇所と、LTE通信が可能だった箇所をプロットして、他社と比べてもLTE通信できる箇所が明らかに多いことを資料で示した。

 また、2013年3月21日から都内の山手線圏内で開始したダブルLTEにも言及。ソフトバンクの基地局とイー・モバイルの基地局のいずれかを使用して、より広範囲で安定したLTE接続を実現する仕組みだが、東京池袋駅周辺の状況を例に、LTEが利用可能になった地点が大幅に増え、接続率も大幅に向上しているとのことで、「高速道路で言えば1車線が2車線になった。結果、パケ詰まりがしづらくなって、LTEがつながるようになった」という。第三者のユーザー意識調査の結果でも、つながりやすさや速度の面でドコモやKDDIを抜いて1位となり、KDDIを超える設備投資を行ったことが、“つながりやすさ”に貢献していると語った。

 ドコモに大きく遅れを取っていた7年前のボーダフォン買収当時に比べ、純増シェア、基地局数、CM好感度、営業利益のいずれにおいても上回る見込みとなり、「10年以内にドコモを超える」という同社の積年の思いがついに果たせる状況になったが、「我々にとって、国内でのNo.1は通過点。情報革命により人々を幸せに、が理念であり、これを実現させるためにもモバイルインターネット世界No.1にならなければいけない」と、さらなる大きな目標に向かって前進し続けることを宣言した。

日沼諭史