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KDDI決算、増収増益も相次ぐau通信障害で田中氏が謝罪

 KDDIは、2012年度(2012年4月~2013年3月)の連結決算を発表。その冒頭、KDDI代表取締役社長の田中孝司氏は、2013年4月16日~19日にかけて、iPhoneなどにおいてEメールを利用できなくなった障害、および4月27日に発生したLTEの通信障害に関して謝罪した。

 「重大な障害を発生させ、お客様に、多大なご迷惑、ご心配をおかけしたことを申し訳なく思っている。これまで各種対策を行ってきたが、結果としてこうした事態が発生したことを深く反省している。障害を起こしたことを改めてお詫びしたい」と語った。

冒頭、通信障害に関して謝罪するKDDIの代表取締役社長の田中孝司氏

LTEの障害はソフトのバグ

 田中社長によると、「LTEの通信障害の理由はソフトウェアのバグ。通信する際に、端末からMME(モビリティ・マネジメント・エンティティ)と呼ばれる基地局をコンロールする設備に問い合わせに行くが、その際の制御に問題があった。フラグメントされた2つめのパケットの長さが、ある一定の長さよりも短い場合にエラーが起きるということがわかった。これに対して、ソフトウェアの修正を施している。この修正が完了するまでは、障害を回避するための措置や、退縮を図ると行った措置をとっている」とした。

 また、「相次ぐ障害は、独立した事象であるが、外から見れば、なぜ連続して発生しているのかと疑問に思うはずだ。今後も同様の障害が起こることがないのか、私自身が先頭に立って再チェックし、ソフトウェア品質の改善、復旧時間の最短化、予期せぬ障害への対応力強化、設備の分散収容化に向けた設備投資を前倒しすることで、可及的速やかに、技術、運用体制の抜本的体制の改善を進め、経営の最重要課題として信頼回復に努めたい。こうした障害が発生しないように、最善の努力をしたい」と語った。

2012年度は増収増益

 2012年度(2012年4月~2013年3月)の連結業績は、営業収益が前年比2.5%増の3兆6622億円、営業利益は7.3%増の5126億円、経常利益は14.0%増の5144億円、当期純利益は1.2%増の2416億円となった。

 田中氏は、「2012年度は、成長起点の1年となった。連結営業利益が5127億円となるなど、営業収益、営業利益、EBITDAマージンが過去最高を更新。au通信ARPUが2月に4000円となったのを底に月次ベースで底打ちした。さらに、3M戦略による競争優位性を確立できた」などとした。

ARPU、auスマートバリュー、auスマートパス

 auの通信ARPUは、第4四半期は4030円と第3四半期までが4200円台で推移していたのに比べると減少しているが、これは第4四半期に事業者間の接続料精算による影響を含むため。これを含まないau通信ARPUを、月次で見ると、下期は2月まで減少しているが、3月に一気に回復しているという。

 また、auスマートバリューは、モバイル(au)契約数は386万契約、固定(固定BB)は212万契約となり、それぞれ期初予想に対して、76万契約増、57万契約増となる実績。「世帯あたりの契約数も、期初の1.5から、3月末には1.82になった」という。

 スマートフォンの新規契約者の39%がauスマートバリューを契約。auひかり新規契約の55%が同じくauスマートバリューを契約している。田中社長は、「auスマートバリューが、業績を牽引している」と自己評価した。

 なお、固定系提携事業者は、現在、FTTHで5社、CATVで106社189局となっており、世帯カバー率は約80%にまで拡大。今年7月以降、エネルギア・コミュニケーションズと提携し、CATV事業者との提携を拡大し、順次エリアを広げていくという。こうした固定事業者との連携も、auスマートバリュー契約数の増加を支えているという。

 また、auスマートパスは、期初予想の500万契約を上回り、574万契約に到達。「2013年3月のスマホ購入者の約9割がauスマートパスを契約。スマートフォンのデフォルトサービスになっている」などと述べた。

 付加価値ARPUは、2012年度第4四半期に250円となり、そのうちスマートフォンユーザーだけを対象にすると350円になったという。

解約率、データオフロード、エリアカバー

 auの解約率は、0.67%と業界最低水準となり、純増数は、2012年度下期で37%と大きく伸張。また、MNP純増数は2011年10月から18カ月連続での首位を獲得。2012年度の純増数は101万件となり、「これはMNPがスタートして以来、過去最高の純増数。MNP純増数は、事業者間の競争力を示す指標である」などと、その成果を強調した。

 さらに、トラフィックが集中する23時台のデータオフロードが52%と過半数に達し、この点でも期初目標を達成したことも強調した。

 そのほか、同社による実人口カバー率では、800MHz帯の4G LTEにおいて96.4%を達成。「2014年3月までに99%を目指す」とした。なお、iPhoneで利用する2GHz帯のLTEサービスの人口カバー率については「公表していない」(田中社長)とした。

 田中社長は、「800MHz帯は、隅々までつながることを重視し、2GHz帯は、トラフィックが集中するところに重点的に打っていき、都心部から郊外、地方へと広げている。無線ネットワークのキャパシティは、ユーザーがシェアすることになる。2GHz帯の通信ネットワークを考えたときには、ユーザーがたくさんいるところに重点的に配置し、地方などの人が少ないところでは3Gでも十分使える速度を確保する。今後の端末の発表を考えても、この考え方で間違いはないと考えている」などとし、2GHz帯においては、人口カバー率が優先テーマではないことを理由に、公表しない理由を説明した。

 また、ソフトバンクがつながりやすさナンバーワンについて訴求していることについては、「KDDIは、自らの調査をもとにして、早めに重点的に対策を打っている。他社が独自に発表しているデータと比較してどうかという点は気にしていない。お客様がどう感じるのかが重要である。その点では、今回の障害の方が大きな問題であると考えており、至急、対策を講じていく」と語った。

事業分野別の業績

 2012年度のセグメント別業績は、パーソナルの営業収益が前年比1.4%増の2兆8380億円、営業利益が9.0%増の3786億円。バリューは、営業収益が4.0%増の1419億円、営業利益が5.7%減の419億円。ビジネスは、営業収益が0.4%増の6383億円、営業利益が6.4%増の798億円。グローバルは、営業収益が20.8%増の2073億円、営業利益が83.4%増の78億円となった。

 田中社長は、「FTTH純増数は、60万1000件と前年比1.7倍の実績。その一方で、auひかりユーザー獲得単価は38%減となっており、期初計画に掲げた大幅な純増と獲得コストの低減の両立を達成した」と語った。

 2013年3月のau契約数は3771万件。また、au端末の販売台数は1108万台。そのうち、スマートフォンの販売台数は811万台となった。

2013年度は新たなステージ

 一方、2012年度に「成長起点」となる実績を達成したことで、田中社長は、「今年度から新たなステージに入る」と位置づけ、今後3カ年の目標を「本格的な利益拡大へ」としたほか、基本方針に「3M戦略の推進・深化」、「グローバル戦略の推進」の2点を掲げた。

 具体的な目標として、連結営業利益において、2015年度までの3カ年に渡る毎期2桁成長、EPS(1株あたり当期純利益)では利益成長を伴う大幅成長のほか、株式還元として、配当性向で30%以上、自己株式取得も「経営の選択肢として検討していく」などと語った。

 「3M戦略の推進・深化」では、通信料収入と付加価値売上の拡大を掲げ、「ARPUおよび顧客基盤を最大化するために、モバイルと固定ブロードバンドの両方を提供できる強みを生かしていく。現時点では、モバイルと固定ブロードバンドが重なっているユーザーは212万世帯に留まっており、まだまだ伸ばしていける。また、スマホの浸透率はまだ37%であり、これは将来的には8割を占めるようになるだろう。ここにもチャンスがある。さらに付加価値売上の拡大では、auスマートパスを起点としたビジネスの拡大に取り組み、うたパスやビデオパスなどのパス系サービスのアップセルや、送客ビジネスに取り組む。さらに、新規獲得と解約率低下にも取り組んでいく」とした。

 うたパスやビデオパスの現在の契約数については明らかにしなかったが、「2012年度は、期初計画の2倍に達している」という。

新ステージで「20%超の利益成長を目指す」

 「グローバル戦略の推進」では、国内事業に加えて、グローバル事業を成長の柱へと成長させることを掲げ、「重要市場において段階的に戦略を推進していく。まずはアジアにおいてグループの総力を結集し、データセンターやクラウドなどのグローバルICT事業と、新興国での新事業やMVNOによるグローバルコンシューマ事業の2本立てで展開していく」と語った。

 3カ年の「新たなステージ」の初年度となる2013年度に関しては、「20%超の利益成長を目指す」とし、営業利益、EBITDA、当期純利益で、いずれも20%超の増益のほか、通信料収入の増収が利益成長を牽引するとした。

今年度の業績見通し

 2013年度(2013年4月~2014年3月)の連結業績見通しは、営業収益が前年比13.0%増の4兆1400億円、営業利益は22.9%増の6300億円、経常利益は20.5%増の6200億円、当期純利益は22.2%増の2950億円とした。EBITDAでは20.9%増の1兆1600億円を目指す。

 2013年度の2桁の利益成長においては、J:COMが2013年4月から連結化した影響が大きい。だが、J:COMを除いた場合でも、営業収益は前年比3.2%増、営業利益は11.2%増。当期純利益ではJ:COM株段階取得に係わる損失分があるため、逆に35.4%と伸び率が高まる。EBITDAは、J:COMを除き、5.8%増となり、すべての指標で前年実績を上回る計画とした。

セグメント別の業績見通し。スマホは今年度860万台

 セグメント別業績見通しは、パーソナルの営業収益が前年比13.1%増の3兆2100億円、営業利益が28.1%増の4850億円。バリューは、営業収益が48.0%増の2100億円、営業利益が19.4%増の500億円。ビジネスは、営業収益が1.8%増の6500億円、営業利益が0.2%増の800億円。グローバルは、営業収益が5.2%増の2180億円、営業利益が14.9%増の90億円とした。

 モバイル通信料収入については前年比2.8%増の1兆6120億円、固定通信料収入は8.8%増の3970億円を計画。「モバイル通信料収入は5期ぶりに増収に転換する。固定通信料収入は持続的な増収フェーズへと入ることになる。これらが、2年度目以降の利益成長のドライバーになる」などと述べた。

 au端末の販売台数は、前年比1.6%減の1090万台、そのうちスマートフォンは、6.0%増の860万台を計画している。

年度内に累計4000万契約へ

 au純増数は230万件(前年実績260万件)を目指し、「期末には、4000万超の累計契約としたい」などと語ったほか、auスマートバリューではau契約数で690万契約(前年実績は386万契約)、固定BBで345万世帯(同212万契約)に、au通信ARPUでは前年比2.9%減の4060円、付加価値ARPUでは前年の250円から290円への上昇を目指す。

 auスマートパスの会員数も、2012年度末の574万会員から、2013年度には1000万契約へと倍増近い成長を見込むという。

 また、設備投資については、年間5500億円を計画。モバイルで3500億円、固定で1100億円、J:COMで600億円、戦略投資で300億円を予定しており、「戦略的投資については詳細はいえないが、データセンターやクラウドなど、アッパレイヤーのサービス強化に投資したい」と語った。

大河原 克行