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高校生2人が「PayPay決済」のモバイルオーダーアプリを開発、背景に「食券購入の待ち時間を減らしたい」と「若年層の利用推進」の想い

左から、PayPay 執行役員 営業統括本部 エンタープライズ営業第一本部本部長の高木寛人氏と開成高校3年の秋山弘幸さん、2年の周詩喬さん

 PayPayは、開成学園の食堂で導入されるモバイル注文アプリ「学食ネット」の決済方法に、キャッシュレス決済「PayPay」が導入されると発表した。生徒自ら開発し、同社のAPIと連携して開発されたという。

 アプリは、開成高校の3年生と2年生の生徒2名が企画提案から開発まで行ったもので、PayPayの開発者向けAPIを利用して導入されたもの。PayPayでは、開発支援のほか学内の食堂でも導入しやすい契約とするなど、“単なる1加盟店”に留まらない支援を行ったという。

若年層を強化したいPayPay

 PayPayでは、高校生を含む10代の利用者拡大への取り組みを進めている。

 PayPay 執行役員 営業統括本部 エンタープライズ営業第一本部本部長の高木寛人氏によると、親からのお小遣いやお年玉でキャッシュレス決済サービスの個人間送金利用して受け渡しすることで利用する10代の利用者が増えてきているという。

 第三者機関の調査でも、日頃の決済手段として「キャッシュレスのみ」と答えたユーザーが10代のなかで約11%、「キャッシュレスと現金を併用」と答えたユーザーは約50%で、6割を超える10代のユーザーがすでに日常的にキャッシュレス決済を利用している。利用経験があるキャッシュレス決済では、PayPayが74.3%と次点の交通系電子マネー(37.3%)に差を付ける形でトップとなっており、PayPayが若年層のキャッシュレス利用を牽引しているところがみえる。

 一方、国内のスマートフォン保有人口に占めるPayPayの登録者数は、20代以降は高い割合であるが10代以下、とりわけ18歳以下では割合がほかよりも低く「10代の領域に伸びしろがある」と高木氏は指摘。「10年後や20年後の日本の消費を担っていく世代に戦略的に浸透させることは、中期的にも需要がある」とした。

 若年層の利用拡大に向けてPayPayでは、お小遣いやお年玉の個人間送金による現金からキャッシュレスへのシフトと、クーポンやポイント運用など将来の顧客基盤としてのベースを作り、その後決済以外のPayPayサービスへの利用拡大を図る取り組みを進めている。たとえば、静岡や広島、富山で実施したお小遣いなどの個人間送金で毎月10%を増量するキャンペーンやポイント投資などリスクの低い投資サービス、PayPay証券による学校への出張授業などを実施。加えて、学園祭や文化祭におけるPayPay決済の導入も実施している、2023年度は約20校で実施され、2024年度は20を超える学校からすでに問い合わせがあるという。

高校生2人が開発したモバイルオーダーアプリ

開成高校3年の秋山弘幸さん、2年の周詩喬さん

 今回開成学園の食堂で導入されたモバイルオーダーアプリは、開成高校3年の秋山弘幸さん、2年の周詩喬さんの2人で制作された。

 発案のきっかけは、2023年9月にオープンした学内食堂の券売機が毎日大変な混雑となっていたことだと秋山さんは説明する。

開成高校3年の秋山弘幸さん

 開成高校ではおよそ1200人の生徒が在籍しており、そのうちの400~500人の生徒が食堂を利用する。昼食を取れるまとまった休み時間は昼休みだけだといい、400~500人の生徒が昼休みにまとまって食堂を訪れるが、券売機は2台しか設置されておらず、「常時30~40人が並んでいる」(秋山さん)という。

 そこで、秋山さんがモバイルオーダーアプリの開発を発案し、プロジェクトに周さんが合流する形で開発が進められた。

 2023年10月に学内の生徒200人へのアンケート調査では、44%の生徒が食券購入の待ち時間に「不満」「やや不満」と回答したほか、10%以上の生徒が10分以上待った経験がある。また、約6割の生徒が待ち時間を理由に食堂の利用を断念した経験があるといい、機会損失にも繋がっている現状にある。

 続いて、2024年3月にもアンケートを実施。生徒181人が回答したアンケートでは、約7割がPayPayアプリをインストールしており、利用頻度も高いほか、まだ利用していない生徒の4割が食堂で利用できるアプリでPayPayが利用できれば利用を開始する意向があることがわかった。これらのアンケートの結果からPayPayを利用したモバイルオーダーシステムの開発に至った。同様に利用率が高い決済手段に交通系ICカードやクレジットカードなどがあるが、Webアプリ内での決済導入が難しかったり、情報漏洩などのリスクを懸念し、導入を見送ったという。

 開発したモバイルオーダーシステムでは、食券の購入のほか、これまで食堂でしか確認できなかった日替わりメニューや売り切れ情報などを確認できる。実証に参加した生徒からは、「券売機で後ろに並んでいる人が気になっていたが、モバイルオーダーではじっくり選んで発券できる」など好意的な意見があった。

操作フロー
メニューを選択
決済手段で「PayPay」を選択
PayPayアプリに推移して決済
購入した食券を食堂職員に見せて、ユーザーの操作で使用済みにする

 また、食堂を運営する側の意見も取り入れ、食堂のメニューの登録を1週間後の日付まで入力できるほか、使用しなかった食券を自動で返金する機能を備えている。

 システムでは、PayPayのAPI「PayPay Open Payment API」を利用し、決済や返金処理が実装されている。PayPayのAPIを使用する中でエラーが発生した際は、同社の開発者向け問い合わせフォームなどでエラー解決の支援を受けた。

 システムの実装面を担当した周さんは、お金に関する処理を含むプログラム開発は初経験だったといい「例外処理などに苦労したが、新鮮な経験だった」と振り返る。

開成高校2年の周詩喬さん

 例外処理のなかには、ユーザーが通常の流れとは異なる行動を取った際の処理も含まれており、たとえばモバイルオーダー画面からPayPayアプリに推移し、決済完了後に再びモバイルオーダー画面にリダイレクトするところ、ユーザーがPayPayの決済完了画面でアプリを閉じてしまう可能性がある。ユーザーの予期せぬ行動を考え、その行動を取っても正常に動くシステムとする部分に苦労があったと語る。

モバイルオーダーと券売機の比較

開発期間は約半年

 開発は、2024年4月がら進めていたといい、9月上旬ごろからの本格稼働を目指している。

 PayPay広報によると、同社のAPIを使ったWebサイトやアプリの開発の多くは中小企業による開発、実装だといい、個人で開発されるケースは多くないという。なかでも、高校生が開発したアプリは同社が確認している中では初のケースだとしている。

 今後は、食券購入機能だけでなく、メニューごとのアレルギー表示や食堂の混雑状況を確認できる機能など、さまざまな機能を追加すべく取り組んでいる。

 周さんによると、システムは汎用性を重視して設計した部分も多いといい、ほかの学校の食堂などに導入できる可能性もある。

 なお、アプリの保守管理は、外部企業が支援しており、秋山さんや周さんが高校を卒業した後でも引き続き利用できるように維持管理されるという。