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生成AI「Adobe Firefly」発表からの1年間をアドビ 西山氏が語る、技術だけでなく信頼性を担保する取り組みで生成AI普及を目指す

ケーキの画像はAdobe Fireflyで生成されたもの

 アドビ「Adobe」の生成AI「Adobe Firefly」が3月で1周年を迎えた。商用利用できる素材を生成できるものとして、2023年9月の正式提供開始以降、実際に企業のプロモーション活動などにも利用されているという。

 Fireflyでは、たとえば生成塗りつぶし機能でイラストや写真で見切れている部分を拡張できたり、写真の中に動物などのオブジェクトを違和感なく追加できたりする。また、Illustratorではベクター画像の生成もサポートしている。

 アドビ 常務執行役員兼最高デジタル責任者(CDO、Chief Digital Officer)の西山 正一氏は、「Adobe Generative AIの1年」と題し、これまでとこれからのFireflyを含めた同社の生成AIに関する取り組みを語った。

アドビ 常務執行役員兼最高デジタル責任者(CDO)の西山 正一氏

商用利用に重点を置いた生成AI

 同社の生成AIでは、「安全な商用利用」に重点を置いた設計がなされている。生成AIを育てるための学習データにあたっても、AIの学習や商用利用の許諾を得ている、もしくは問題にならないよう、Adobe Stockやオープンライセンス、パブリックドメインの画像で学習させている。

 また、PhotoshopやIllustratorといった同社のソフトを横断して利用でき、制作者は普段のワークフローの中に統合された生成AIを利用できる。Fireflyで生成されたコンテンツには、コンテンツ認証情報のメタデータを付けることができ、そのコンテンツがどのように制作されたかを明らかにするとともに、信頼性を担保できるようになっている。

 このほか西山氏は、企業のIPなどを追加で学習させ、その企業のブランディングに沿ったコンテンツを生成できるサービスも視野に入れているとしている。

 Fireflyでは、「テキストから画像生成」や先述の「生成塗りつぶし」、「テキスト効果」のほか、「テキストからベクター画像の生成」、「生成再配色」といった同社ならではの生成AI機能を備えている。

 画像や動画編集だけにとどまらず、PDF文章の閲覧や編集などができる「Acrobat」にも生成AI機能「AI Assistant」をサポートすべく開発が進められている。

 現在は英語版のみでベータ版として提供されている機能で、たとえば、企業や団体が過去に作成し蓄積されたデジタルドキュメント、PDFのアーカイブファイルのなかから、必要な情報を抽出しまとめてくれる機能などが利用できる。もちろん、これらのドキュメントは、AIの学習には使用されず、まとめられた内容には「どのファイルから参照したか」の情報も付加されるため、AIがもっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」問題もクリアできると西山氏は説明する。

 このほか、3Dソフト「Adobe Substance 3D」への統合も新たに発表され、3DやARIAオブジェクトの制作にもFireflyが活用できるようになった。

AIを活用した「Adobe Sneaks」

 アドビが技術的に開発を進めているものを紹介する「Adobe Sneaks」には、生成AIを活用した取り組みも含まれている。

 たとえば、「Dubbing&Lip Sync」では、動画中に被写体が話している内容を分析し、マルチ言語で翻訳する。翻訳されたものは、被写体の声色に似せた音声で再生され、被写体の口も翻訳後にあわせて変化している。

映像を選んで言語を選択すると、マルチ言語で翻訳し、同様の声色による音声と、それに合わせた口の動きを生成する

 また、「Project Music GenAI Control」では、プロンプトで音楽を制作できる取り組み。JAZZテイストやロックテイストなど楽曲のイメージのほか、ループするような音楽や最後にフェードアウトするような内容もプロンプトに入力することで反映されるという。

プロンプトで雰囲気や条件などを入力することで、音楽を生成できる

コンテンツ認証イニシアチブにNHKが日本メディアで初加入

 アドビでは、生成AIについて技術面だけではなく、コンテンツの信頼性を担保する取り組みも実施している。たとえば、企業がクリエイターに発注したコンテンツが、商用利用に問題のない制作方法のものか? あるいは商用利用できない生成AIで生成されたものか? といったものを判断することが難しい。

 コンテンツ認証イニシアチブ(CAI、Content Authenticity Initiative)では、そのコンテンツの制作過程をサイト上で確認できるため、どの素材をどのように加工/編集したか? 生成AIをどのように使ったか? といった情報を簡単に確認できる。

 西山氏は「コンテンツを安心して使えるようにするにはどうしたらいいか? というところにもアドビは結構リソースを投入している。CAIはこの取り組みの一つ」と説明。

 このCAIの規格を決める標準化団体「C2PA」では、2月にメタ(Meta)がC2PA対応を発表、グーグル(Google)がC2PAへ加入するなど、プラットフォーマーが規格作りに参画することになった。今後は、プラットフォーム内で生成AIのコンテンツを正しく見極められるようになったり、フェイク画像への対策が強化されたりすることが期待される。

 また、3月12日には、NHKがCAIに加入した。西山氏によると、これは日本のメディアでは初だという。西山氏は、日本のメディアの多くがCAIに加入することで、「受け手が正しい情報を判断できるような環境が整うのではないか」と期待を寄せる。

企業のマーケティングにもFireflyが活躍

 実際に企業のマーケティング素材などでFireflyは活用されている。

 西山氏は、その一例としてIBMの事例を紹介する。IBMでは、自社のマーケティングやクライアント支援のためにFireflyとの連携を開始しており、実際に市場投入までの時間を60%改善させており、生産性向上の効果が出ているという。

 また、ユーザーのエンゲージメントが26倍となっており、質の良いコンテンツを大量投入する利用方法で、ユーザーとのエンゲージメントを深められている運用ができていると西山氏はコメントする。

 アドビでは、日本国内でもFireflyなど生成AIの商用利用促進やユースケースの共有、CAIとC2PAの普及活動などを進めるという。もちろん、技術開発に関しても進めており、3月27日1時に開催される「Adobe Summit」の基調講演では「おそらく生成AIの技術的な新情報が発表されるんじゃないか」(西山氏)としている。