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ソフトバンクの「Vendy」で自販機をAIで最適化、導入するキリンビバレッジも語る自販機オペレーションの課題や導入メリット

 ソフトバンクは、自動販売機をAIで最適化するサービス「Vendy」を12日に提供を開始する。飲料メーカーや自動販売機を運営するオペレーター向けに提供し、巡回ルートや商品ラインアップなどをAIで分析して自動生成する機能や、通信サービスなどをオールインワンで提供する。

 また、キリンビバレッジが導入を決めており、10月以降順次キリンビバレッジのグループ会社のオペレーションで導入され、2025年9月までにグループ全体の全国約8万台の自販機へ拡大していくとしている。

 今回の「Vendy」について、そのシステムの内容やほかのサービスとの違い、キリンビバレッジとの実証での利点など、それぞれの担当者から聞いた。

年間4兆円の産業でも深刻な人手不足

ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第三ビジネスエンジニアリング統括部 オペレーションデザイン事業推進部 部長の松山 誠氏

 ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第三ビジネスエンジニアリング統括部 オペレーションデザイン事業推進部 部長の松山 誠氏は、日本における自動販売機について、年間売上金額が約4兆円、約400万台の自動販売機が日々稼働していると説明。そのうち、255万台が飲料自販機だという。

 自動販売機による商品提供では、雨や風に負けない筐体で24時間365日無人販売できる強みがある。また、災害が起きたときにフリーベンドになり、ライフラインの確保にもつながる。

 その一方、ECサービスの台頭や労働者不足、とりわけ物流業界の2024年問題、多様化するユーザーニーズなど、さまざまな問題も出てきていると指摘する。

 自動販売機の業界について、松山氏によると、まず飲料メーカーが自動販売機メーカーから本体を購入し、運営オペレーターが飲料メーカーから自動販売機の貸与を受ける。オペレーターは借りた自動販売機を全国各地に設置し、それをユーザーが利用するかたちになっている。

 オペレーターは、実際に人が各自動販売機を巡回して補充する形をとっており、従業員は、「どういう順番でまわるか」や「商品の積み込み」、「飲料の補充」、「商品ラインアップの変更」、「売上金回収」、「釣り銭補充」、「空容器の回収」などを行っている。ルート選定や積み込み量、商品ラインアップなどは、アナログな部分が大きい一方、物流業界の2024年問題があるなか、人手がどうしても必要になる自動販売機の運用となるとし、「デジタル化、効率化できる余地が大きい」(松山氏)と説明する。

実際のオペレーションのイメージ

 今回のサービス開発に当たっては、実際にオペレーション業務を行う車両に同乗し、現場の従業員への聞き取りを含め業務の内容や問題点を徹底して理解したという。また、自動販売機メーカーの富士電機と、キリンビバレッジとともに開発を進め、通信と最先端テクノロジーを生かした自販機オペレーションで、コスト削減と売上向上を支援できるとしている。

Vendyでできること

 Vendyでは、過去の販売データなどのデータに基づいた需要予測や、巡回計画、積載計画の生成、商品ラインアップの最適化などができる。

 自動販売機では、飲料を補充する場所によって補充できる商品の数が違ったり、賞味期限切れや長時間温めたことで商品が劣化(加温劣化)したりするなど、商品の需要に合わせた適切な配置(棚割)や在庫管理が必要になる。

 Vendyでは、たとえば過去の売上を分析し、よく売れる商品を多く補充できる場所に配置したり、2つ以上の場所に配置(複数コラム化)したりすることで最適化を図る。

 また、品切れによる機会損失と巡回コストをトータルで見た最適な巡回計画を自動で生成し、効率的なルートで巡回できるようになる。

 このほか、補充できる時間が決まっているなどロケーションによって制限がある場合がある。Vendyでは、これらのロケーションによる条件も反映させた巡回ルートを生成する。

巡回ルートをAIが自動生成。そのまま地図アプリでルート案内まで進める
自動販売機のステータスや売上状況を確認できる
ラインアップを最適化するソリューション

 Vendyは、ソフト面だけでなく自動販売機のオンライン化ができるプランも用意されている。

 プランのラインアップは、ライトプランとアドバンスドプラン、プレミアムプランの3つを用意。既存のシステムを刷新したいオペレーターや、そもそもオンラインの検量システムを導入していないオペレーターには、売り上げや在庫をリアルタイムで可視化できるシステムを導入できる「ライトプラン」を、すでにオンライン検量システムがありAI予測を入れたい場合は「アドバンスドプラン」、オンライン検量システムとAI予測の両方を導入する場合はフルスペックの「プレミアムプラン」が対象となる。

ほかのサービスとの比較

 松山氏は、同様の他サービスとの違いについて「自動販売機に特化した独自のAIアルゴリズム」や「キリンビバレッジとの実証で効果を見ている点」、「通信からステータスの可視化、AIの分析までワンパッケージで提供している」ことを挙げる。

 また、機器の購入やシステム開発費用などの初期コストがかからないSaaS型で提供しているため、オペレーターは月額の料金で利用できる点も、ほかのサービスとの違いだと説明する。

 Vendyの導入前後と比較すると、これまで従業員の経験や勘によって成り立っていたオペレーションが、データに基づいた業務に切り替えることで、業務スキルの平準化や、業務負担の軽減、売上上昇が期待できる。また、巡回ルートの最適化や、不要在庫の積載がなくなるため、二酸化炭素排出量の削減にも貢献できるとしている。

業務効率で1割、売上で5%の改善

キリンビバレッジ 営業部 戦略推進担当 主務の吉岡 弘隆氏

 キリンビバレッジ 営業部 戦略推進担当 主務の吉岡 弘隆氏は、同社の取り組みとして、自動販売機に防犯カメラを搭載したみまもり機能や、災害救援自動販売機、ピンクリボン支援自販機などの取り組みを実施していると説明。

 また、自動販売機のICT化も進めており、2006年に電子マネー決済機能付き自動販売機を導入、2015年には各自動販売機の販売状況や在庫状況を遠隔で確認できるシステムを導入し、現在はグループ会社全体で約8万台の自動販売機に導入している。

 同社の自販機は、全国で約18万台あり、そのうち8万台が同社のグループ会社によって直接運用しているものとなる。今回のVendyは、このグループ会社7社が運営する8万台に対して、約1年かけて導入していく。

 開発や導入に際し、2022年12月~23年1月に、首都圏約2000台の自販機で実証を行い、さまざまな業務シーンにおいて、オペレーションに関するノウハウの提供や、ヒアリング、シミュレーションを実施したという。

 Vendyの導入で吉岡氏は「オペレーション人材の確保が困難な状況でも、質の高いサービスを継続して提供する」ことを目的に挙げ、オペレーションの効率化で人手不足に対応したり、ユーザーニーズに応じたラインアップを提供したり、質の高いサービスの提供が図れるようになると説明。

 また、飲料メーカーとしてキリンビバレッジが自動販売機を通じて“育てていきたい商品”を、ユーザーニーズを起点にして自動販売機に配置していくこともできるという。

 たとえば、ブランド育成を優先しすぎると、ユーザーニーズを無視する形になり、配送ロスや配送効率の悪化につながる。一方で、配送効率を優先しすぎると、品切れによる機会損失や売上低下につながってしまう。これまでは、この判断をオペレーション担当者が、経験や勘で判断しており、人によるばらつきがあるだけでなく、判断を下せるまで多くの経験と期間が必要になる。Vendyの導入で、これらをAIが分析して最適解を導き出せるようになるのではないかと期待を寄せる。

 実際に、実証を踏まえた導入効果について、オペレーション業務の1割削減が期待できるほか、同様の条件の自動販売機と比較してVendyの導入で5%の売上上昇効果があったという。

 これまで個人による経験や勘で頼っていたため、ユーザーニーズと合致していないケースなど、その精度にばらつきがあったと言うが、Vendyでは13カ月以上の売上データをインプットして分析しており、高い精度での予測が売上上昇につながったのではないかと吉岡氏は話す。

 また、オペレーションのAI化を進めることで、人材配置の柔軟性が生まれ、従業員育成にも貢献できるとしている。

伸びしろはあるのか

ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第三ビジネスエンジニアリング統括部 オペレーションデザイン事業推進部 部長の松山 誠氏

 今後の拡大余地について、ソフトバンク 松山氏は、すでに他社の物を使っていても、過去の売上データをVendyにインプットして分析できるので、AIの精度を試せるなど、さまざまな自動販売機に導入できるチャンスがあると説明。

 また、大手ベンダーだけでなく、規模の小さいオペレーターでも「1台あたりの料金」で提案できるため、少ない台数で運用しているオペレーターにも提供できるとした。

 なお、具体的な提供価格や、今後の目標については、どちらも非開示とした。