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2030年に使い捨て傘をゼロに、「傘は借りる」選択肢を示すアイカサの挑戦

 これから始まる梅雨の時期にかかせない「傘」。家を出たときは晴れていたのに途中から土砂降り、ということも。とりあえずコンビニでビニール傘を買って、帰るころにはどこかに置き忘れて……という経験をした人はきっと多いはず。

 壊れたり、忘れられたりして日本中で多数が廃棄される傘。まだ使えるのに捨てられるうえに環境問題への影響も懸念される。そんななか「買う」から「借りる」というサービスを通じてこうした現状を変えようと試みる企業がある。

 Nature Innovation Groupは、同社の傘シェアリングサービス「アイカサ」で「2030年までに使い捨て傘をゼロにする」というプロジェクトを進めている。アイカサは、必要なときに傘を利用できるシェアリングサービス。指定のスポットで24時間/110円もしくは使い放題月額280円で利用できる。

 通信との関わりでは、KDDIのオンライン専用「povo2.0」とコラボ。ギガを探す「FIND povo」でオリジナルデザインの傘が展開されたことがあった。

買うから借りるへ

 年間を通して消費される傘のうち、使い捨てにされているのは8000万本という。コンビニなどで売られているビニール傘は使い捨て感覚ですぐに廃棄されたり、どこかに置き忘れられたりといったケースが多い。Nature Innovation Group 代表取締役の丸川照司氏は、日本の雨の多さや都市部で一般的な、歩いて駅・バス停などへ移動し通勤・通学する移動文化、コンビニで買えるという手軽さにより「傘の消費」が根付いたことを説明したうえで「消費者が求めているのは濡れたくない体験であって、傘は仕方なく購入するもの」と現状を分析する。

30年で増えた傘輸入量
Nature Innovation Group 丸川氏

 捨て方が煩雑なのもまたひとつの課題。ところによってはそのままゴミとして出せるものの、骨組みとビニール部分の分解を指示する自治体もある。発表の場では、清掃作業員としての顔も持つお笑い芸人のマシンガンズ・滝沢秀一氏がその分解を披露。「マックスめんどくせー」と自身のネタにかけてその捨て方の複雑さをアピールした。

マシンガンズ 滝沢氏。傘を捨てるのは「マックスめんどくせー」

 アイカサではわざわざ買わなくても良い、捨てる必要もないという利便性を武器に「傘は借りるもの」という新たな選択肢を提示する。

 現時点で、アイカサのスポットを設置している駅はおよそ400駅。設置箇所数としてはおよそ1250カ所にのぼる。会員登録数は43万人。同社では、2030年までに2万5000カ所での設置を目指しており、そのなかで2024年中には1000駅以上での設置を目指すとしている。

 丸川氏は、ビニール傘が買われる主なチャネルであるコンビニ並にアイカサのスポットを増やすほか、買うよりも借りることが選ばれる利便性を提供することで、仕方なく買われる傘はなくせるとも語り「子どもたちが成長したときに『昔は傘を買っていたの?』と言われるくらいメジャーな選択肢に切り替わる」とビジョンを示した。

 アイカサでは、アイカサの傘が捨てられたり置き忘れられたりした結果、警察や駅に届けられた傘を回収するべく連携しており、壊れていたら修理して市場に復帰させているという。また、傘を1回レンタルするごとに692gのCO2削減につながるとしたほか、植林などの活動を通じてカーボンオフセット活動にも取り組む。

オフィスへの設置を推進

 アイカサでは、JR東日本や東武鉄道など、首都圏の全大手鉄道事業者と連携を果たした。これにより今後も、駅への設置を強化していく。あわせてJR東日本スタートアップからの追加出資などで資金調達を実施しており、さらなる連携強化を進める。

 より多くの場所にスポットを設置するには、より多くの傘が必要という丸川氏。2030年使い捨て傘ゼロプロジェクトに参画する企業と共同で、各社のオリジナルデザインをあしらった傘を作成し、設置するといった取り組みもあわせて実施していく。

 一方で、傘が求められるのは必ずしも駅だけではない。丸川氏は、人がより長く滞在する場所での需要が高いと説明し、新たに「2030年使い捨て傘ゼロプロジェクト for ビルディング」を発表。コロナ禍が明け、出社の機会が増えるにしたがって、オフィスビルなどでも利用が想定されことから、オフィスビルへのアイカサ設置を推進する。

 参画する各社のオフィスに、アイカサを導入するほか導入企業によっては料金無料とするなど、アイカサの利用を促進する。

 丸川氏は「移動の始まりと終わり、生活の導線をおさえれば傘を買う瞬間はなくなる」と、同社の目標実現への熱意を示した。当初参画する企業として、ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント、東京建物、東急不動産リート・マネジメント、三菱地所、森トラストが紹介された。

 現状では建物への設置は100棟ほどとしているが今後、首都圏で3000棟規模へ拡大したいと目標をかかげる。加えて、2030年までには遊びのスポットや生活圏でよく行く場所についてもアイカサの設置を目指すことを示唆した。