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ローカル5Gを人手不足解消に、シャープらが無人トラクターで放牧地管理の実証

 シャープや北海道新冠町など9者は、ローカル5Gを活用した軽種馬の放牧地管理の実証実験を実施した。

 実証では、北海道新冠町のビッグレッドファーム明和にローカル5G環境を構築。無人ロボットトラクターの遠隔操作と広大な土地における分散アンテナのローカル5Gエリア構築に向けた実証が行われた。

 実証に参加したのは、シャープ、ビッグレッドファーム、北海道新冠町、東芝インフラシステムズ、エクシオグループ、調和技研、ヤンマーアグリ、名古屋テレビ、道銀地域総合研究所の9者。

無人トラクターで省人化

 軽種馬とは、馬の分類のひとつで競馬や乗馬などに用いられる。軽種馬の飼育は広大な放牧地を管理するなど、長時間労働になりやすい環境で牧場設備の老朽化や従業員の高齢化、熟練者の引退などの課題を抱えている。

 今回の実証では、こうした労働環境の改善やテクノロジーによる省人化で軽種馬飼育における課題解決が試みられた。実証実験の現場となったビッグレッドファーム明和にローカル5Gエリアを構築。あらかじめ、ドローンでの空撮写真をもとにAIで立木やくぼみなどの障害物を確認、最適な作業走行の経路を自動で生成し、無人トラクターでの草刈り・除雪作業を実現した。トラクターには4Kカメラが搭載されており、作業の様子を確認できるほか、車体のセンサーで事前に確認できなかった障害物や人を認識すると停止するなどの安全策を講じている。

 これまでの手法とくらべて人員や作業時間の削減につながり、シャープ 研究開発本部 ソサイエティイノベーション研究所 第二研究室の熊倉威研究員は、最大で75%の効率化を実現したと説明している。

 夏場の草刈り作業は、熟練したトラクターの運転手が必要されるものの、慣れると単調な作業で作業エリアも極めて広大なことから、従業員のモチベーション低下、馬の調教や世話などの作業時間の減少につながるなどの課題があった。今回の実証では夏場の草刈り作業の課題を解決するとともに、冬の除雪作業にも対応が可能ととしたことで、オールシーズンで利用できるソリューションを実現した。

他事業者への横展開も

 トラクターの自動走行実現にあたっては、4.5GHz帯のローカル5Gエリアを構築した。

 シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業本部 要素開発部の日向峻輝研究員によると、実証実験での課題は大きく「広大な敷地におけるエリア構築」と「障害物によるスポット的な電波の瞬断」の2つという。

 一般的な市街地のように建物などの反射波を利用できず、他者の土地に電波を漏らせないローカル5G特有の条件をクリアする必要があった。加えて、直進性の高い周波数帯を使用しているため、ときにトラクターが方向転換した際に自らの車体で電波をさえぎってしまうなどの課題が持ち上がった。

 解決策としてサービスエリア端に複数のアンテナを設置し、隣接する敷地への影響を最小限化。加えて「分散アンテナシステム」(Distributed Antenna System、DAS)の活用で、2つの課題を解決に導いた。基地局は車両に搭載された可搬型のもので、車内からトラクターの制御もできる。

 DASは、基地局からの電波を光回線で複数のアンテナに分配することで通信を安定させる仕組み。セル間干渉を起こしにくく、ハンドオーバーによる瞬断がないといったメリットがある。実証では放牧地に4つのDAS対応アンテナを設置してエリア化。多くの観測地点で目標値として設定した速度である40Mbpsを達成したという。

 さらに可搬型の基地局の強みを活かして、搭載車両を移動させることで調教用の坂路もエリア化できるようにした。坂路は傾斜がつけられたコースで、競走馬の調教に使われる場所のひとつ。コース上に4Kカメラを設置して、馬の調教の様子を遠隔地からでも見られるようにした。主に馬主に向けたソリューションで、自ら所有する馬の調教の様子を見られることから、より馬に接する機会を増やせるほか、新たな顧客層の開拓にもつなげるとする。

 今回の取り組みでは、ほかの事業者への横展開を重視しているとしており、実際にかかるコストなどは今後まとまる見通し。