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「カーボンクレジット」でコンソーシアム設立、ソフトバンクが技術で支援

 Natural Capitalは、カーボンクレジット市場の活性化を目指し「ナチュラルキャピタルカーボンクレジット コンソーシアム」(NCCC)を設立した。ソフトバンクや損害保険ジャパン、東京ガスなどが参画する。

左から、損保ジャパン 矢崎氏、NCCC 馬奈木氏、ソフトバンク 池田氏

森林や農地、都市開発でも

 NCCCでは、参画企業や自治体などと共同で森林や農作地などのCO2吸収量を測定・評価し、クレジット化を推進。ほかにも気候変動対策としてカーボン・オフセットを必要とする企業や団体に対して提供していく。同コンソーシアムに参画の企業や自治体は会員間の意見交換、勉強会の参加やクレジットの売買などができる。

 独自の測定や評価、クレジット創出に加えてVCSやゴールドスタンダードなどの主要なボランタリークレジットの認証取得もあわせて進める。測定にはソフトバンクのIoTソリューション「e-kakashi」(イーカカシ)などが用いられる。

 将来的には、森林や農作地以外にも都市開発におけるCO2吸収量や削減量の評価・測定も目指す。

注目集める「カーボンクレジット」

 カーボンクレジットとは、再生可能エネルギーや省エネ機器の導入、植林・間伐などのCO2削減もしくは吸収量を数値として取引できるようにするもの。自ら実施する対策では削減しきれないCO2排出量をクレジットとして購入することで、その分を削減したとみなすことができる。

 NCCC 代表理事の馬奈木俊介氏は、この仕組みについてかつては「金で正義を買うのか」と批判されていたと紹介しつつも現在では、注目を集めている仕組みであることを説明する。一説には、カーボンクレジット市場は拡大しつつあるものの、そのクレジット量は不足しており、2030年には供給量の15倍の需要が見込まれるという。

 気候変動への対策が急務とされるなか、日本におけるカーボンクレジットを取り巻く課題として、馬奈木氏は国としての対応の遅さや手続きの煩雑さ、地方自治体など行政のリソース不足があると指摘する。特に日本には、民間団体によるカーボンクレジットの取り扱いがなかったことが今回のNCCC設立にいたった理由であると語る。

 同コンソーシアム独自の認証を創出することを目指しつつも、既存のメジャークレジットを活用する2つの方法でのクレジット認証を目指す。既存制度への展開は2024年度以降、2025年度以降には独自認証を創出し販売を開始する予定。

久山町長 西村氏、国東市長 三河氏、有田町長 松尾氏。各自治体がコンソーシアムに参画する

 現時点で33企業、9自治体が参画しており、ソフトバンクがCO2吸収量の推定などの技術的な面でサポートしつつ、損保ジャパンが森林火災などの損害をカバーする保険商品を提供する。

e-kakashiをCO2吸収量推定に活用

 ソフトバンクは、NCCCでの取り組みをテクノロジー面でサポート。同社のIoTソリューション「e-kakashi」が、CO2吸収量の推定などに活用される。

 e-kakashiは、「農業AIブレーン」としてビニールハウスなどの環境データをAIで分析し、農業従事者を支援するソリューション。国内外でおよそ1000台設置の実績があるという。ソフトバンクでは、e-kakashiが持つ機能をそのほかの分野でも応用すべく、YKKとともに樹木と芝草のCO2吸収量の推定・可視化の実証実験を実施していた。

 こうしたことを実現する場合、従来は樹種・森林面積などをもとにして年単位の概算値として算出する、CO2削減の根拠となる数値を導き出すのが難しい、リアルタイム性が低いといった課題があった。一方、e-kakashiでは、植物の光合成速度を検知。そこからCO2の吸収量を算出し、環境データを当てはめて高精度な数値をリアルタイムに推定することができる。

 福岡県久山町でも森林の二酸化炭素吸収量を可視化する取り組みを実施しており、ソフトバンク サービス企画技術本部 技術企画開発統括部 CPS技術企画部 担当部長の戸上崇氏は「植物が成長していくことで、吸収量が増える。いかに森林を守ることが重要かを目に見える形で届けられる」と語った。

 ソフトバンク CSR本部 本部長兼SDGs推進室 室長の池田昌人氏は 同社が今回の取り組みに参画する意義を自社のエネルギーへの取り組みの促進と温室効果ガスの排出量をゼロにする「ネットゼロ」の推進の2つの点から意義があると語る。

左=ソフトバンク 池田氏。右=同 戸上氏

 携帯電話サービスを中心にさまざまなICTサービスを提供する同社が必要とする電力は、一般家庭の25万世帯分にも及ぶという。同社ではSDGsの一貫として2030年までのカーボンニュートラル、2050年までのネットゼロを宣言している。

 5Gをはじめ、6Gや自動運転、デジタルツインといった新たなサービスの展開に向けて進むなか「それらを支える電力でもより効率的な取り組みが必須。そのなかで民間の新しい取り組みに参加できることは大変心強い」とコメント。

 さらに「e-kakashiが世の中のカーボンニュートラルに役立てられるのは大変嬉しい。カーボンニュートラルやネットゼロなど曖昧な世界をデジタルの力で可視化し、世の中をより未来にすることにご一緒できる」と取り組みへの熱意を示した。