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Fitbitで心不全患者の病後をモニタリング、浦添総合病院・沖縄セルラー・セコム琉球の3者が実証スタート

左から浦添総合病院の上原医師、銘苅晋理事長、沖縄セルラーの菅隆志社長、セコム琉球の井口郁社長

 心不全になった人が退院後、スマートウォッチを腕につけ、もし心拍におかしな傾向が見られたらすぐに受診する――そんな試みが沖縄県の浦添総合病院で10月に始まる。

 30日、浦添総合病院、沖縄セルラー、セコム琉球は、スマートバンド「Fitbit」を使った、新たな実証事業を発表。心不全になった人に参加してもらい、大きな病を未然に防ぐ取り組みが始まることになった。

取り組みの流れ

 浦添総合病院での今回の取り組みは、2022年10月12日~2023年1月11日にかけて、通院中の心不全患者30名を対象に実施される、心不全に一度かかり、治療を受けて退院した人、あるいは保険でのリハビリ治療中の人に向けて提供される。

 参加する人(患者)は、「Fitbit」を常に身につけ、日常生活のなかで心拍数を計測できるようにする。その心拍数のデータは、スマートフォン向けアプリ「JOTOホームドクター」を通じてチェックし、もし、異常があればアプリからセコム琉球へ通知される。もし患者がスマートフォンを持っていなければ、沖縄セルラーが無料で貸し出す。

 安静時心拍が120を超えたとき、下限が50を下回ったときが異常な状態と判断される。

 セコム琉球では、患者に連絡。必要に応じて、患者は、対面かオンラインで浦添総合病院の医師による診察を受ける。

 「Fitbit」→「セコム琉球」→「患者」→「浦添総合病院」という流れで連携が進められる。参加者は、結果的に70歳以上の人が多くなったとのことだが、サービスとしての課題を検証する取り組みのため、アラートが発生しやすい人が選ばれた。

 患者にとっては「Fitbit」を腕に装着しておくだけでよく、ITリテラシーが高くなくとも、病後の身体の状況をモニタリングし、重篤化を防ごうとする取り組みということになる。

「心不全は死因2位」

 いわゆる心不全は、心筋梗塞、不整脈などによってもたらされる。将来推計データによると、少子高齢化で人口減少となる日本でも、現在100万人の心不全患者は、2035年までその割合が増加すると見られている。現在、心不全患者の7割が75歳以上。いったん心不全になると、元の状況にならずに退院となり、発症者の約2割~4割が1年以内に再入院となる。

 長寿というイメージのある沖縄だが、1995年時点から21年後、心不全の患者数は倍増している。再入院が増えると患者個人の健康が損なわれるという点だけではなく、社会全体で見ても医療費の増加につながる。

 浦添総合病院によれば、薬物治療の進歩で予後の改善が進みつつ、その一方で、患者自身が自分の状態を把握して重症化を防ぐセルフケアへの注目も集まっているという。

 これは、塩分を控えめにする食事など、日々、規則正しい生活が重症化を防ぐ大切な取り組みになるが、そうしたなかで、ひとつの医療機関だけの施策では限界がある。浦添総合病院 循環器内科部長の上原裕規医師は、かかりつけ医や訪問医療など地域単位での体制が必要と指摘。

 しかし、現実では、そうした体制の運用が難しい。退院し帰宅したあとの患者の体調をどう管理するのか。患者の意識をどう変えるのか。自己管理してもらうことの難しさが立ちふさがる。

 そこで浦添総合病院では、「ハートノート」と名付けた、心不全の自己チェック用紙を用意し、2019年度と2020年度の再入院率を比べると半分近く減少した。

過去の取り組みでの再入院率

 さらなる関与の向上を目指し、自宅で血圧や酸素飽和度を測定するだけで、Wi-Fiルーター経由で病院へデータがすぐ送信されるシステムも開発。ただ、血圧を自分で測定するという行為は、高齢者にとって難しい面もある。

 今回の事業では、脈拍をスマートウォッチでリアルタイムに測定することで「治療介入がより早く行えるメリットがあると思われる」と期待感を示す。

Fitbitにはバッテリー駆動に一日の長

 今回の実証事業で用いられるウェアラブルデバイスは、グーグル傘下の「Fitbit Sense」。

 国内のスマートウォッチ市場では、アップルがシェア6割超という調査報告もあるなど、「Apple Watch」シリーズがその存在感を示している。そうしたなかでなぜ今回、「Fitbit」が用いられることになったのか。

田中氏

 その疑問に沖縄セルラーの田中健介氏は「バッテリー駆動時間の長さ」という端的な違いを挙げる。

 Apple Watchを日常的に使う場合、現状は1日~2日で充電する必要がある。一方、「Fitbit Sense」はおおよそ1週間、最長で2週間ほど駆動する。

 高齢者などITリテラシーが高くない患者にとって、気兼ねなく使えるデバイスとして、バッテリー駆動時間の長さから「Fitbit Sense」が選ばれた。

 「Fitbit Sense」では、運動強度や酸素飽和度なども計測でき、将来的には心拍数の計測に加えて、ほかの身体関連データを組み合わせていくことも検討される。

商用化では月額いくらに?

 沖縄県の事業として実施される3者による今回の取り組みだが、実証を終えて継続を目指すのであれば、収益化をはかる必要がある。

 沖縄セルラーの田中氏は「参加者からのアンケートなどを踏まえる必要はあるが、現時点では、月額3000円~5000円程度を想定している」とコメント。将来的には、沖縄県外での展開を検討したい、としつつも、まずは沖縄での実証を成功につなげたいと意気込む。

 浦添総合病院の上原医師も、再発した場合の入院や治療、医薬品の代金など患者側の負担を考慮すると、重篤化の効果が発揮される場合の見守りサービスになるのであれば、その利用料として高くはないのでは、という私見を披露した。