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光海底ケーブルの通信速度を7倍に、大容量化基盤技術を確立――KDDI総研やNECら6機関

 KDDI総合研究所と東北大学、住友電気工業、古河電気工業、日本電気(NEC)、オプトクエストの6機関は、マルチコアファイバーによる光海底ケーブルの大容量化を実現する基盤技術を確立したと発表した。

 アジア域圏をカバーする3000km級の光海底ケーブルシステムで、従来のおよそ7倍となる毎秒1.7ペタビットへの容量拡大できるスペックが確認できた。今後、2020年代半ばの実用化を目指すとしている。

通信トラフィックの増大に対応した光海底ケーブル

 日本を含めた世界各国同士をつなぐ光海底ケーブルは、全長が100万km以上敷設されている。5G通信や超高精細映像の流通、IoTやビッグデータ、AIの普及により、国際通信の回線需要が年率で30~40%増加しており、10年後には現在10~30倍に通信トラフィックが増加することが見込まれている。

 そこで、光海底ケーブルの容量を確保するべく、ケーブル当たりの「光ファイバーの心線数の拡大」を行い、光海底ケーブルの大容量化を図ってきた。現在では最大50近く心線を備える光海底ケーブルが敷設されているが、海底ケーブルや中継器のスペース制限などで、現在の構造のままではこれ以上の大幅な心線数の拡大は困難だという。

 そこで、光ファイバーの構造を、これまでの1つの伝送路(コア)を4つに拡大する「マルチコアファイバー」化し、ケーブルの構造を変えずに、伝送路を4倍に拡大できる技術を実証した。

 今回の取り組みでは、光海底ケーブルにマルチコアファイバーの採用や海底の光中継器内装置の開発と、それらの実証、評価技術の開発が行われた。

 今回の研究は、総務省の委託研究「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発」の技術課題II「マルチコア大容量光伝送システム技術」に関するもの。KDDI総合研究所が幹事会社を務め、光ファイバーの方式検討はKDDI総研と東北大学、評価技術検討は住友電工と東北大学、光中継器の方式検討は古河電工とNECが務めた。また、マルチコア要素の基盤技術開発は、オプトクエストとNECが担当した。

伝送路の拡大=数を増やしたわけではない

 伝送路を拡大することで、通信速度の向上が期待されるが、単純に伝送路を増やすだけでは、海底光ケーブルは機能しない。

 たとえば、これまで1つのコアのみ備えていた光ファイバーに4つの伝送路を備える場合、光信号の干渉「クロストーク」の発生が懸念される。

 古河電気 研究開発本部情報通信・エネルギー研究所 主幹研究員の杉崎 隆一氏によると、今回の4コアファイバーでは、クロストークを抑圧し、信号漏洩は100kmあたり100万分の1に抑えられるという。また、マルチコアファイバーとしては最小となる伝送損失を実現している。1km伝送後の光強度が96.5%となる「1550nmでの損失0.155dB/km」を達成した。

 また、光信号を増幅させるなどを担う中継器に備えられた装置を小型化し、伝送路を拡大したケーブルでも機能するよう図られた。

 たとえば、マルチコア光増幅器では、小型部品の開発や、部品配置の最適化を実施し、従来の半分程度のサイズへ小型化できた。このほか、装置の機能複合化による装置の集約化などを実現した。

マルチコア光増幅器の小型化
マルチコア光増幅器用複合機能デバイスの開発

 これらの技術開発の評価をするための技術も、今回の取り組みで開発された。光ファイバーの方式により、評価すべき項目が異なることから、それらをカバーできる新しい評価方式を開発した。

 6機関では、今回の基盤技術をもとに、各社で実用化に向けて研究開発が進められるとしている。