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愛知県とソフトバンク、スタートアップ支援の取り組み「ステーションAi」を始動――宮川氏「日本経済牽引に重要」

左からSTATION Ai代表取締役社長の佐橋 宏隆氏、愛知県知事の大村 秀章氏、ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

 ソフトバンクは7日、愛知県スタートアップ支援拠点「ステーションAi(ステーションエーアイ)」の整備運営事業者の代表企業として採択されたと発表した。あわせて愛知県とソフトバンクは「愛知県スタートアップ支援拠点整備等事業」の基本協定を締結した。

 今後両者は、名古屋市に拠点となる施設を建設し、事業主体となるソフトバンク完全子会社の「STATION Ai」が2024年10月から10年間施設を運営する。

プロジェクトの概要

 協定調印式には、愛知県知事の大村 秀章氏とソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏、STATION Ai代表取締役社長の佐橋 宏隆氏が登壇した。

3年前から海外と連携

愛知県知事の大村 秀章氏

 愛知県知事の大村 秀章氏は、「愛知県の主力産業である自動車産業において『CASE』や『MaaS』といった100年に1度の大変化が起きております。DX推進をはじめ、デジタル化の加速度的な変化など、社会環境の変化にも現れております。歴史的な大転換のまたがるということであります」と、現在の愛知県の産業の実情を説明。

 この実情を踏まえ、大村知事は日本が「世界での産業競争力を維持強化」するためには、「新たなビジネスチャンスを獲得し、柔軟性を持った新しい事業に挑戦をしていると言う事が不可欠」と考えているという。

 愛知県では、すでに2018年10月に「Aichi-Startup戦略」を策定しており、愛知県だけでなく企業や大学、経済団体、金融機関、などすべてのステークホルダーが一丸となってスタートアップの創出や育成、世界進出を支援している。大村知事によると、現在80を超える支援プログラムを、愛知県で展開している。

 この結果などから、愛知県のスタートアップ・エコシステムの拠点形成計画が2020年7月、内閣府の「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」に認定され、この中で特に今回の取り組み「ステーションAi」のプロジェクトが評価を得ているといい、大村知事は「『ステーションAi』がなければ拠点都市の認定はなかったと思う」と指摘している。

 なお、3年後の「ステーションAi」の拠点施設完成に先立ち、2020年1月に「PRE-STATION Ai」を名古屋市に設けており、ここでは国内外のパートナーと共に取り組みを始めている。海外のパートナーは、テキサス大学オースティン校やシンガポール国立大学、フランスパリのSTATION F、INSEAD(欧州経営大学院)、清華大学のTUS ホールディングスなどと提携し、各種提携プログラムを実施しているという。

愛知県知事の大村 秀章氏

 大村知事は、ソフトバンクとの協定締結により「ソフトバンクがもつ、我々(愛知県)よりもはるかに大きいグローバルネットワークと有機的な化学反応を起こし、アジアを代表するスタートアップの拠点を作っていきたい」と意気込みを見せた。

宮川氏「日本を牽引する次世代スタートアップ企業の輩出は重要」

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

 ソフトバンク社長の宮川 潤一氏は、日本の産業について「日本は製造業を中心に、高度経済成長時代に成長してきたが、ここ30年で急減速している。これは、ITやデジタルに日本が遅れをとった結果」と分析。

 一方、成長を続けているアメリカや中国で、成長を牽引している企業をみるとGAFAやネットフリックス、エヌビディアといった20~30年前に設立された会社が牽引しつつあるという。

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

 宮川氏は「ソフトバンクがいたから日本の経済が伸びたと言われるように頑張らないといけない」とコメントしながらも、世界の成長を続ける国と日本を比較し、日本は「開業率が少ない」や「ユニコーン企業が少ない」といった現状を説明。日本を牽引する次世代スタートアップ企業の輩出の重要性を唱えた。

施設では竹芝本社よりもハイテク化

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

 宮川氏は「ステーションAi」の施設について「ワイワイと集まって、自分の企業だけではなく、隣に座っている(ほかの)企業さんとも、いろんなお話をしながらコラボレーションしてもらいたい」とコメント。

 また、施設の建物については、ソフトバンクの竹芝本社でやりきれなかったテクノロジーを搭載したいと考えを示した。「1年前で考えられるAIテクノロジーを取り入れたが、1年住んでみると、まだまだやりたいこと、積み残したものがたくさんあるとわかった。『ステーションAi』では、今までのノウハウを全部投入し、超ハイテクビルを作っていきたい」(宮川氏)とした。

 具体的には、個々のセンサーやAiをまとめる「ビルOS」を設け、全体が最適化されたビルを作る。施設内では、スーパーコンピューター「富嶽」を用意し、ダイレクトで使用できるようにするという。

 宮川氏は、「『企業がベンチャーを設立したい』『学生さんが起業したい』という声に対し、ソフトバンクの起業づくりのノウハウやダイレクトに資金提供をしていこうと考えている。日本の10年、20年、30年後を支えるベンチャー企業を送り出すため、前者を挙げてやらせていただきたい」とコメントした。

「日本とアメリカの差」を埋める取り組みを実施

STATION Ai代表取締役社長の佐橋 宏隆氏

 STATION Ai代表取締役社長の佐橋 宏隆氏は、現在の日本には「大企業に就職をして安定を手に入れることが成功という価値観がずっと残っている」と指摘し、アメリカでは「ベンチャーキャピタル(VC)が経済成長を牽引したスタートアップである」とコメント。「アメリカでは、スタートアップが経済を成長させているとわかっているので、スタートアップやVCへの就職、起業したいということが、大企業への就職よりも上位に上っている」(佐橋氏)とし、同取り組みでは、この「日本とアメリカの差」を埋めていきたいとした。

 ステーションAiでの取り組みでは、スタートアップやスタートアップを作ろうとしている企業にも支援プログラムを提供するという。また、施設に入居していない企業や団体にもオンラインを中心に支援していくという。支援プログラムでは、スタートアップの成長に合わせたステージを用意し、ステージに合わせた支援を提供していく。たとえば、起業前でまだぼんやりとしたアイデアしかない起業家に対しても、支援していくという。

 このほか、ステーションAi独自のファンドの設立や、新事業の創出や産業の活性化を目指す「Open Innovation プログラム」などを設け、世界を牽引する起業の創出を目指していく。

STATION Ai代表取締役社長の佐橋 宏隆氏

 最後に佐橋氏は、ステーションAiで注力することとして「起業家の裾野を広げる」ことと「海外への挑戦を当たり前に」することを挙げた。特に「起業家の裾野を広げる」ことについて、佐橋氏は「身の回りの人に影響を受けて起業した人が多い。アメリカでは、起業家がたくさんいる町で育った子供は起業する確率が高いという調査結果もある。企業間の交流が刺激を生み、自分もやってみよう、自分でもできるのではないか、ということを目指していきたい」とした。

INSEAD教授のベンサウ氏「大村知事の情熱に感銘を受けた」

INSEADの教授ベン・ベンサウ(Ben M. Bensaou)氏

 調印式会場には、同取り組みで提携しているINSEADの教授ベン・ベンサウ(Ben M. Bensaou)氏も駆けつけた。

 ベンサウ氏は、大村知事の取り組みについて「日本の産業の中心地で、世界で最も進んだスタートアップ・エコシステムを立ち上げるという情熱に非常に感銘を受けた」とコメント。

 ステーションAiについては、「物理的なネットワークの拠点となる『駅』の名のとおり、人々が出会い、交わり、次の『駅』に向かっていく。Aiは、コラボレーションやパートナーシップを表す愛という言葉を思い出す。アイデアや文化という多面性をすべて取り込むものになる」とし、同取り組みに関われることを非常に誇りに思うとした。

INSEADの教授ベン・ベンサウ(Ben M. Bensaou)氏

主な質疑

――ソフトバンクグループとの連携について、同社の出資先としてや、積極的な投資先になるような可能性はあるのか?

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

宮川氏
 「ソフトバンクビジョンファンド」や、ソフトバンクグループの投資先について、孫(正義)氏も「日本の企業がほとんどなくて、実は悲しいんだ」と言うような話をしていますが、愛知県は非常にポテンシャルの高いエリアだと思っております。トヨタ自動車をはじめ、日本の明るい企業があります。

 その中で、「今までは大企業に就職すれば、親御さんも喜んでくれる」というような時代もあったんですけれども、将来、アメリカのように大企業に就職するよりも起業したいとか、スタートアップに就職したいとか、そういうのが1番の希望になるようなものになってほしいと思ってますし、まあそんな企業がだんだん育ってきて、「ぜひ俺にも投資させてくれ」と言われるぐらいの成長(を期待したい)ですね。

 私どもとしては、(ソフトバンクグループとの棲み分けとして)ソフトバンクでは「1から立ち上げる」ところで参加させていただきたいと思っております。

――宮川氏が愛知県出身とのことだが、思いはあるか?

宮川氏

 私も愛知県出身でございますし、26歳の時に愛知県で起業致しまして、10年間、いわゆるベンチャー企業もやってまいりました。

 僕が作った会社も、ソフトバンクの今の会社に吸収された形で東京で来ましたけども、それから早20年、考えてみますと30年前に、自分で起業して、その後は愛知県に対して、まあそろそろ恩返しができる年齢になったのかなと。

 まあ、こういう思いもありまして、ぜひ愛知県の中でスタートアップを作っていきたいということになりまして、(取り組みのなかでは)いろんな講師を招いて、ベンチャー企業の育成などやっていきたいということですので、まあ僕もできれば今の若者たちに、こうやってきたというような過去の経験を話していけたらいいんじゃないかなというふうに思っております。

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

――愛知県の強みということで、ものづくりを挙げているが、「ものづくりに固執」したことで、今、経済が停滞招いたという指摘があった。ステーションAiが目指すのとして、「ものづくり」をベースの支援だけだと心配だ。

宮川氏
 私もこれまでいわゆるインターネットセレクターの事業創出の支援を長くやっておりますけれども、ものづくりの進め方と、いわゆるソフトウェアの進め方がかなり違うんですね。やっぱり各ステージごとにそこにかなりノウハウが必要になるので、その支援を大企業のノウハウをワケていただきたいと考えます。

 広い産業領域を支援するためには、ソフトバンクの中のリソースだけで支援できるものではないので、しっかりと連携して支援体制を強化していきたいと思います。

――すでに大企業の製造業がしっかりしている愛知県よりも、地方などで開設するほうがよかったのではないか?

ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏

宮川氏
 まずなぜ愛知県なのかと言うところですが、大村知事の先見性があったと言うことだと思います。今47都道府県全てのエリアで、国公立大学を中心に、今回の取り組みのようなものがどんどん出来上がると、いいなという風に思っています。

 1番最初にやったのは、「Beyond AI」(参考記事)という感じで東京大学とやらせていただいた。日本を元気にさせるために、我々としてやることを1つずつ積み上げてみたいという思いでございます。

 それから今、大村知事がすでに、もう2018年から同様の取り組みをされており、その時から実は僕も会話させていただいて、「なんとかもっと関わらせてもらえないか」と、ラブコールを送っていました。

 (愛知県で取り組みを行うのは、)まさに僕が今後「日本の中で必要だと思う機能」が愛知県が先にやっていた、順番だけでございます。

 ソフトバンクは、関西にも九州にも、北海道にもこういう拠点を開設し、活動してまいりたいと、こういうふうに思っております。

――(会見開始前に発表された)「ドイツテレコムと長期戦略的パートナーシップおよびTモバイル株に関する株式交換に合意」した件について、コメントを。

宮川氏
 (担当者から)この件についてはコメントするなとメモが入りまして……

 私の感覚だけで言いますと今、Tモバイルさんのところからスプリントも一緒になっていて、その親会社のドイツテレコムであると言うことで、いろんなあの経営者たちがたくさんいます。

 その中で本当に彼らが優秀でございまして、ぜひソフトバンクが日本の通信会社としましても、ドイツやアメリカの大きな枠組みの中で、5GやBeyond 5Gのシステム作りで、いろんな技術的なディスカッションをさせていただきたいというふうに思っております。

――ステーションAiの取り組みで「海外に進出させる」ことを目的に掲げていたが、どのように支援していくのか?

大村知事

 愛知県では、スタートアップ支援として海外の機関との提携を着々とやってきております。最初に手掛けてから、今年で3年目です。

愛知県知事の大村 秀章氏

 企業と連携し、お互いに、東南アジア、日本のスタートアップを立ち上げて、そしてお互いをマッチングさせようということをすでにやっております。

 また、海外のほかのスタートアップ拠点と一緒にセミナーをやっていただいて、さらに高効率上げていきたいと思っております。

 それで、我々(愛知県)ももちろん頑張りますけども、そういう意味ではるかに強力な世界のネットワークを持たれるソフトバンクさんの力を使って、どんどん日本からスタートアップを出していきたい、また世界中から来ていただきたい、そういう拠点になると思っています。

宮川氏
 ステーションAiのなかには、宿泊施設も備えています。これは何のためかというと、海外の人にもプログラムに参加してもらえるように用意しました。海外の人たちも入れながら、活性化させようという思いがあります。

 日本は残念ながら2010年をピークに人口が減少していっていますが、日本の企業が本当に世界の中で「グローバルランキング」に入れるように頑張ってもらおうとすると、「グローバル企業を『最初から』作る」つもりでやらなきゃいけない時代になったと思っております。

 ですから、すべからくこのステーションAiで生まれるベンチャー企業には、海外を見てもらうと、それから海外のシナジー、我々(ソフトバンク)のグループの投資先だとか、取引している企業をご紹介すると、こんな役割をソフトバンクがしたいんだというふうに思っています。

――ステーションAiの独自ファンドについて、入居企業のみ対象になるのか?

STATION Ai代表取締役社長の佐橋 宏隆氏

佐橋氏
 愛知にどれくらい起業家いらっしゃって、今後我々の施策でほかの地域からの起業家を増やしていけるのかというところを見させていただき、資金需要を見極めてファンドの規模感やターゲットなどを含めて検討してまいりたいと考えています。

調印後のソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏(左)と、愛知県知事の大村 秀章氏(右)