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ソフトバンクとニコン、移動体同士の光通信技術を実証――ドローンの航空管制など、電波に干渉しない性質に期待

 ソフトバンクとニコンは3月18日、2台の光通信機が双方向に360度追尾可能な「トラッキング光無線通信技術」の合同実証に世界で初めて成功したと発表した。次世代通信への活用やテレビ中継車やスポーツ中継の映像トラッキング、離れた機器への無線給電などへの活用が期待される。

 都内で行われた発表会には、ソフトバンクIT-OTイノベーション本部 本部長の丹波 廣寅氏と、ニコン執行役員次世代プロジェクト本部長の柴崎 祐一氏が登壇し、光無線通信技術の現状と同実証の成功により期待される今後の技術開発について説明した。また、柴崎氏は、実際に同実証に使用された機器でデモンストレーションを披露した。

電波の限界と光無線通信の現状と課題

ソフトバンクIT-OTイノベーション本部 本部長の丹波 廣寅氏

 ユーザーの要望やコンテンツの大容量化など、必要に応じて通信のキャパシティ(容量)や速度、同時接続数を増してきたとコメントするのは、ソフトバンクの丹波氏。電波の帯域をHF→VHF→UHFと波長を短くしていったが、どうしても電波というくくりでは限界があると指摘。電波を使えるところを探して、電波を効率よく使うことで、ユーザーにより快適なサービスを届けているが、この先の6Gでは(より波長が短い)赤外線を活用することになるという。

 ところが、赤外線に近い領域にはいると、電波の特性に加え光の特性が出てくるため、「これまで経験した電波の性質とは全く違うものが通信の世界にやって来る」(丹波氏)ことになる。

 電波と光の性質は、一長一短であり、丹波氏によると「電波同士を重ねると、ほかの周波数帯に干渉しノイズが発生する。電波を重ねれば重ねるほどノイズが出てくる。電波と光を重ねた場合、干渉しないためキャパシティを増やせられる」という。また、セキュリティに関しても光にメリットがあり、「光線自体をコピーできない」ことや「フィルターを通して減衰する」特性から、光通信はセキュアな通信をするにも有望であるとしている。

 加えて、これまで電波が苦手としてきた「水中での中心」や「電波が届かない地域での通信」にも光通信が活躍するといい、電波が苦手な部分をカバーできる特性を持っている。

 一方、光にも苦手な部分があり「直進性が非常に高い」ことと「水中は透過するが物体は透過しない」という性質がある。光を活用するには、送受信装置同士が見通せる場所で、光の軸を合わせる必要がある。

 現状の光通信では、送受信装置をどちらも固定した状態で通信している。将来的に自動運転車の制御やドローンの航空管制などの用途を目指すソフトバンクは、画像認識技術とAI技術を活用し、ジンバルで通信機の角度を制御するシステムを開発し、2019年に最初の原理実証を成功させた。

光無線通信以外の活用例

 2019年の実証では光通信技術に関するものだったが、「画像認識とジンバルで対象物を追尾しトラッキングする」技術はほかにも応用できるのではないかと丹波氏は指摘。

 たとえば、テレビの中継車ではこれまで基地局の方向にアンテナを立てるなど、現地に到着してから使えるようになるまで作業が発生していたが、このトラッキング技術で作業の軽減を図れるのではないかという。

 また、サッカーの試合など選手をトラッキングし続けたり、離れた場所にあるセンサーなどに無線で給電したり考えられる。

商用化に向け「ニコン」と実証実験

 光通信技術に話を戻すと、商用化に向けたこの先の技術開発は、ソフトバンクでは限界があった(丹波氏)ため、光学系の技術と画像認識の技術をもつ「ニコン」と合同実証することになった。

ニコン執行役員次世代プロジェクト本部長の柴崎 祐一氏

 ニコンは、カメラだけでなく半導体や液晶パネルを製造するのに欠かせない露光装置や眼底カメラ、細胞培養顕微鏡などのヘルスケア事業や、計測器、材料加工ロボティクスなどを展開している。

 ニコンの柴崎氏によると、今回の合同実証ではニコンのもつ技術を活用したといい、「AIによる深層学習」「ユニークなターゲットデザイン」「多様なシチュエーションを想定した学習モデルの構築」で画像処理制度を向上させた。また、カメラと光無線装置がずれて配置されているため、偏差を吸収する正対制御や通信光軸を正確に合わせられるように制御しているという。

 今回の合同実証では、使用した光無線通信装置のスペックである100mの距離で通信速度100Mbpsでの実証だったが、将来的には1kmの距離で通信速度1Gbpsでの通信を目指して取り組んでいくとしている。

デモンストレーション

 発表会では、実際の合同実証で用いられたものと同じ構成でデモンストレーションを披露した。

 デモンストレーションでは、5~6mの距離で動く列車の模型をライブ中継するかたちで実施された。2つの装置が止まっている状態では、問題なく映像が伝送されているが、装置の間を手でかざして光を遮断してみたり、装置の送受信部を互いに異なる方向に向けると映像が停止する。

遮ると通信が遮断される

 タスクマネージャーのパフォーマンスグラフでは、通信量を確認できる。装置が止まってる場面や、互いをトラッキングできている場面では、通信量がほぼ一定なのに対し、手で隠して通信を物理的に遮断すると通信量が下がっているのがわかる。

相手の動きにあわせて追尾している

今後も光無線通信技術を追究

 今後は、ドローンや自動車に搭載できるくらいに、装置の小型化を進めていくという。

 また、伝送距離についてソフトバンクの今井氏は、「5年以内に実現したい」とし、そのためにはトラッキング技術とあわせてより軽量でより強力なデバイスの構築が必要である認識を示した。

 また、NTTのIOWN構想やKDDIの水中通信技術などと競合しないかという点について、ソフトバンク丹波氏は「(ソフトバンクの技術は)光無線通信そのものというよりは、移動体の上に載せてどうやって途切れずに通信できるかというような『“光通信技術”を使う技術』だ」とし、競合しないという。

 今回の実証のユースケースは、検討中としているが、たとえば下水道の点検に用いる機器の通信を、現在の有線から光通信を活用するなどを考えている。また、今回の実証では、2台が相手をそれぞれ追尾するものだったが、今後マスタースレーブの関係など必要に応じてシステムで調整する。

 今後もソフトバンクとニコンで技術開発を行っていくが、ユースケースや光無線通信としての向上を見極めたとき、2社だけでなく、必要なパートナーと将来に向けて技術開発していくとしている。

ソフトバンクとニコンのトラッキング光無線通信技術