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未来の工事現場は無人建機が活躍する? 5Gで新たな建設業界の可能性を探る、KDDIなど3社が実証実験

 KDDIと大林組、NECの3社は三重県伊賀市で川上ダム付近の道路工事の一部施工フィールドにおいて、5Gを活用した建機の遠隔操作の実証実験を行った。

遠隔操作建機を実際の工事へ

 遠隔操作で運用した建機は3機。ショベルカー、クローラー、ブルドーザーをそれぞれ5G通信による遠隔操作で操縦。また、振動ローラーについては自動運転が行われた。

 遠隔操作される建機には前方監視用の2Kカメラ3台と全方位監視用の1.2Kカメラ1台の建機1機につき4台のカメラを搭載。遠隔操作の信号データと合わせて5G通信によりリア ルタイム伝送した。実際に行われた作業の内容は掘削や運搬、敷き均しなど。

建機の内、クローラーダンプのみが3.7GHz帯なのはエリア間の移動を伴うため、直進性の低い周波数が選ばれた

 また、自動運転の振動ローラーは5Gにより搭載された自動運転システムと通信、地面を均す転圧作業の指示や搭載するセンサーから施工結果の取得などが行われた。

 加えて各建機からの映像やデータに合わせて、それぞれに搭載されるGNSS(衛星測位システム)から取得する建機の位置情報、現場状況と設計値との差異を5Gで遠隔施工管理室に伝送、オペレーターに作業位置の完成状態を表示し、作業のサポートをする。

 5G環境は、28GHz帯と3.7GHz帯の2つの周波数が用いられた。建機側にはサムスン電子製の5Gスマートフォンの試作機が設置され送受信に用いられていたがこれは、適した製品がないための応急策。いずれ商用化される時には専用の機器に取って代わられると見られる。また、オペレーターが操縦する遠隔管理室と基地局間の通信にはNECの無線エントランスが使用された。

 KDDIでは、これまでもスポーツや医療、山岳救助などさまざまな形で実証実験を行ってきた。建設関係については2017年に、1機の建機を遠隔操作することに始まり、2018年には2機の操作、そして今回は3機の操作に加えて、実際の工事現場の環境に「施工管理」というより実践に近い形での実施となった。

まるで普通に操縦しているかのように

 いざ実験が始まると、遠隔操作のオペレーターたちが建機のエンジンを始動する。最初にショベルカーが動き出した。バケットで土を掻き出し、クローラーの荷台に載せてゆく。建機のオペレーターは3面の大型ディスプレイを目の前に、手慣れた様子で仕事をこなしていく。

クローラーダンプに土を運ぶショベルカー

 以前は、遅延などの問題がありオペレーターが操作性の悪さを感じることもあったというが、今回の5Gを用いた環境では、反応は上々だという。

クローラーダンプ。装輪のダンプより不整地に強い
運転席は誰もいない。遠隔操作用の機器が取り付けられているのみ

 クローラーが下ろした土をブルドーザーが均していくが、こちらもやはり違和感なく操縦しているように見受けられる。オペレーターがレバーを押し込んだ瞬間、ブルドーザーが進んでいき、外から見る分には操縦者がいないことを除けば、ごく普通の建設現場のように見える。

自動運転の振動ローラー

 ブルドーザーが均した土をローラーで固める振動ローラーは人間が介在していない自動運転だった。

工事現場に設置された5G基地局のアンテナ。中央の小さな立方体が28GHz帯、下側が3.7GHz帯。上部の円筒は2GHzのLTE

 建機の操作用ディスプレイの横に設置されているのは、レーザーでスキャンした地形。土砂量や造成結果を判定、出来形(工事施工完了部分)を確認する。喫緊の課題でもある、橋梁などのインフラ整備において、迅速で安全、高品質を実現するために一役買うことになる。

遠隔操作のシート。背中の丸い膨らみは振動用のスピーカー

 遠隔操作に用いられているシステムは大林組による「サロゲート」と呼ばれるもの。さまざまなメーカーの建機に対応する汎用装置として設計されている。遠隔操作の運転席には、建機の振動をシートバックに仕込んだ低音向けスピーカーにより再現する機構が取り付けられている。

建機に設置されたカメラ
建機に据え付けられたスマートフォン。雨だったためかビニールが被せられている
NEC製の無線エントランス

建設業界が抱える課題解決に

 大林組 技術本部 上級主任技師の古屋弘氏は、建設業界が抱える問題として「少子高齢化」を挙げる。バブル時代には、建設投資額が多大で人手不足に悩まされていたというが、バブルも弾けて久しい今、工事の現場では少子化による人手不足に加えて業界全体の高齢化に頭を抱えている。

大林組 古屋弘氏

 加えて、建設業界につきまとう危険な仕事などのイメージも人手不足に拍車をかけている。これは業界の高齢化を後押しする一因だ。

 建築物の寿命は種類によって異なれど、多くの場合は50年程度と見積もられる。たとえば、現在の日本にかかる2m以上の橋は約70万もあるが、完成してから30年~40年を経過したものが多い。物理的な課題として人手不足が立ちふさがる。これらが一気に寿命を迎えようものならばゼネコン皆で立ち上がってもとても手が足りない。

 しかし、建設業界のイメージを変えることができたら、どうだろうか。今回の実証実験では、数百mほどの距離の中での遠隔操作実験だった。しかし、将来的に5Gが普及し始めれば、日本全国の工事現場にある建機をどこか1カ所にオペレーションセンターのようなのもを作って一元的に建機のコントロールが可能になるかもしれない。

 これによってオペレーター側もより柔軟な働き方や雇用も期待できる。古屋氏によれば、子供を抱える主婦やこれまで建設業界では採用が難しかった。しかしこうした技術を用いることで体にハンディキャップを持つ人でも働けるということもあるだろうとした。

 さらに、国外のオペレーターを動員することができれば、時差を利用して24時間稼働するということもあり得る。

 KDDIでは、将来的に建機のコントロールを一箇所に集約して全国の道路工事を管理するというところを目指している。古屋氏は自らの造語として「ダイバーシティ建設」という言葉を口にしていたが、今回の実証実験がもたらすのは単なる作業効率化ではなく、業界のイメージを変え、新しい建設業界を作る橋掛かりになるのかもしれない。