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運転技量をアプリでチェック――クルマとスマホを繋ぐSDLアプリコンテストで示された未来の姿
2019年11月22日 19:43
22日、スマートフォンをクルマと連携させる規格「SDL」を活用する、優れたアプリを選出するコンテスト「SDLアプリコンテスト2019」の最終審査が開催された。
審査委員長は東京大学大学院情報学館教授の歴本純一氏。審査員は、トヨタ自動車コネクティッドカンパニーITS・コネクティッド統括部長の山本昭夫氏らが務めた。
SDLの活用例と開発キット
SDL(Smart Device Link、スマートデバイスリンク)とは、自動車に搭載されるディスプレイやカーナビゲーションシステムなどのデバイスと、スマートフォンを連携できるようにする規格。トヨタから2019年9月に登場した「カローラ」で標準採用されており、今後の拡がりが期待されている。
たとえば経路検索アプリやナビゲーションアプリを手がけるナビタイムジャパンでは、「カーナビタイム」というアプリでSDLをサポート。車載デバイスで表示、操作でき、音声出力までできる。
今後、スマートフォンアプリに追加、更新される機能をSDLでもサポートしていくとのこと。将来的にはたとえば鉄道で大きく移動し、駅から目的地までレンタカーという場合もシームレスに利用できるような機能の開発も想定されるという。
このほかトヨタ自動車では、Raspberry Pi対応の開発キット「SDLBOOTCAMP」を提供。安価にSDLアプリのテスト環境を構築できるようにしている。
SDLアプリコンテスト2019では、各地で行われたハッカソンを経て、10組が最終審査へ出場した。
アプリ名 | チーム/団体名 |
安全支援型Music Player 音助 | 九州産業大学理工学部合志研究室&情報システム研究会 |
SDLratch | Pizayanz h |
お風呂にしますか? お風呂にしますか? それとも…お風呂? | 函館高専プロコン研究会 |
シェアレコ | 猿出没注意 |
SpiCar | PatchWorks |
とらっくらく! | ブラック学生inホワイトラボ |
ハッキング小峠 | チームBHB |
道の駅合戦 | 河野祥平 |
ミチログ | チームK |
優良ドライバーチェッカー | 開発若葉マーク |
音楽再生にフォーカスしたものもあれば、法人向けと言える車両運行システム、バイクユーザー向けの利用を想定したサービスなど、その顔ぶれは多岐に渡った。
そうした中で、グランプリに選ばれたのは、「優良ドライバーチェッカー」というアプリだった。
優良ドライバーチェッカー、その機能と評価のポイントは
「優良ドライバーチェッカー」は、クルマの情報や、眼鏡型デバイスなどを活用して、運転する人の技量を指摘してくれる。つまり、技量の衰えやミスを指摘することで、安全運転しているかどうか、ドライバーに自覚を促す仕掛け。免許返納やあおり運転などに関心が高まる中で、社会課題をSDLアプリで解決しようと試みるアプリと言える。
クルマからはアクセスやブレーキの加減、ウインカーの利用、車間距離、シートベルトの着脱といった情報を取得し、運転の技量判断に役立てる。
さらに運転する人はJINSのデバイス「JINS MEME(ジンズ ミーム)」を装着する。これにより、視線や姿勢などが検知できるようになり、運転中の視線などを把握する。
こうした仕組みにより、左折する場合、交差点の30mで左折のウインカーを出しているか、適切にブレーキしているか、サイドミラーを確認し、歩行者や自転車を巻き込まないようにしているか……といった一連のフローをアプリがチェックすることになる。
将来的な実装として、「さっきの丸の標識は何だった?」などと、運転中に出会った標識や、制限速度の表記をクイズにして注意を促す仕掛けも想定されている。
指摘は、合成された音声で再生されるが、無機質なわけではない。「鬼教官」「コミカル教官」などキャラクターが指導することで、ユーザーの心を和らげながら注意する。
これらの内容から、技術面でのレベルの高さ、キャラクターの設定など、総合的な完成度の高さだけではなく、将来の構想を含め、審査員からはダントツの評価を受け、グランプリに輝いた。
優秀作に選ばれたアプリたち
グランプリに続く特別賞には3つのアプリが選ばれた。
SDLratch
SDLratch(エスディーエル ラッチ)は、子供向けのプログラミング言語「Scratch」とSDLを組み合わせ、子供でも簡単にSDLアプリを作れるという開発環境。デモとして披露された動画では「クルマが走り出すと、車載ディスプレイに映し出されたネコが走り出す」といったもの。
審査員からも、子供とクルマを仲良くするアイデアが評価され、特別賞が授与された。
ミチログ
「ミチログ」は、ユーザーからの「道路への評価」を集め、利用できるようにするアプリ。たとえば風景がよいルートなどが高く評価され、暗くて急カーブが多かったり、工事中だったりするルートの評価が下がると、情報を集約して他のユーザーが閲覧できるようにする。
一定距離、ハンドル操作が少なく、アクセルが一定という場合は、SDLが見通しが良く運転しやすい道路と判定して、自動評価する、といった仕組みも想定されている。トイレに立ち寄りやすいルートの選定、あるいは初めてのデートで安心して運転しやすい道路を選ぶといった使い方ができるという。
グーグルなど既存事業者が取得していないデータを蓄積できる可能性もあり。特別賞のひとつに選ばれた。
SDLアプリコンテスト、来年も開催
コンテスト冒頭、SDLコンソーシアム日本分科会の平川健司氏は「ながらスマホの厳罰化が導入される。スマホとクルマをより便利に繋げるものが求められる」と指摘。今回のコンテストを通じて、新たなアイデアが生み出される期待感を示す。
審査員はそれぞれの立場から、最終審査についてコメント。トヨタ自動車の山本昭雄氏は「いろんな知恵をいただいて嬉しい。SDLを育てていきたい」と意気込みを見せる。
ジャーナリストの鈴木朋子氏は「スマホを安全に使う視点で記事を書いている。多くの人は危険性を認識しながら、ながらスマホをしている。今回は操作を減らす工夫も見られた。デバイスの連携で発展も感じさせた」と振り返る。
AR三兄弟長男の川田十夢氏は、「どれも素晴らしかった。受賞した作品は社会問題を解決しようとした印象だ」と評価した。
審査委員長の歴本氏は「受賞は逃したアプリの中には逆走を検知するものもあった。社会問題、クルマの問題に向き合いながらアプリの面白さに挑んでいるものが多かった」と語り、次年度以降のコンテストへの期待も見せていた。