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5G時代のSIMカードとは? 世界最大手のジェムアルトが解説
2019年4月9日 19:10
米ベライゾンや韓国のSKテレコムなど海外キャリアの一部でサービスが開始され、日本でも2019年秋のプレサービス開始に向けた準備が進められている、次世代移動通信システム「5G」。ネットワークの進化に合わせてSIMカードにはどのような変化が求められているのか、SIMカード大手のジェムアルトが解説した。
本格導入に向けて、SIMカードも5G仕様に
5Gの特徴として挙げられる「超高速大容量」「超低遅延」「超多数接続」という3つの要素のうち、現状で先行している各国キャリアのサービスは、主に高速通信にフォーカスしたものとなっている。
ジェムアルトは、2022~2023年ごろに予想される本格的な5Gサービスの導入までの期間を3つのフェーズに分けて定義。
新たな無線技術や周波数帯を活用し、まずは高速通信の実現に取り組んでいる2019年時点での段階を「アーリードロップ」、コアネットワークやSIMカードも5Gを想定したものに置き換わる次の段階を「フェーズ1」、そして高速通信だけでなくIoT向けの大量接続などにも発展した最終段階を「フェーズ2」と位置付ける。
現状のアーリードロップからSIMカードも含めた本格対応を行うフェーズ1へ移るなかで、ジェムアルトが加盟するSIMアライアンスの5G SIMワーキンググループでは、5G時代のSIMカードに必要となる機能や5G SIMの定義を議論している。このような検討を経て、同社は2019年2月、通信事業者の要件を満たす世界初の「5G SIM」の提供を開始した。
5G SIMはセキュリティを強化
5G SIMワーキンググループが定めた技術的なガイドラインでは、3種類の5G SIMのプロファイルが定義されている。LTEからの移行段階で使われる“暫定的な5G SIM”と本格導入に向けた推奨仕様、IoT/M2M向けの省電力仕様だ。
推奨仕様の5G SIMと既存のSIMカードの違いとしては、ネットワーク側も含めたユーザー認証の仕組みの見直しによって、セキュリティが強化される。具体的には、SIMカード内の秘匿鍵の更新ができる仕様や、IMSIの暗号化といった仕様が盛り込まれている。
ユーザー認証のための秘匿鍵がSIMカードに保存されている点は従来通りだが、これまではSIMカードの製造時に書き込んだ秘匿鍵を書き換えることはできず、何らかのセキュリティリスクが発生した際にはSIMカードそのものの交換が必要であった。製造や流通などの各段階において、ヒューマンエラーや人為的攻撃が発生する可能性を想定し、5G SIMは秘匿鍵の更新ができる仕組みになっている。
鍵の更新に対応した背景としては、コンシューマー向けのフィーチャーフォンやスマートフォンであれば数年おきに買い替えが想定され、その際に物理的なSIMカードの交換をあわせて行うことも容易だが、5Gの「超多数接続」という特徴を活かして普及が見込まれるM2M用途では、機器の運用期間が長く、SIMカードの交換自体が困難なケースも想定される。たとえば、電気やガス、水道などの「スマートメーター」では、10年単位での連続稼働が要求される。
IMSIの暗号化については、Webサイト制作などの分野でも昨年大きな話題となったEU一般データ保護規則(GDPR)への対応という側面もある。IMSIは契約者ごとに割り当てられる固有の番号で、特定の個人を識別できる個人情報に含まれるのではないかという議論がワーキンググループ内であったという。万一、IMSIのトラッキングが行われた場合、継続的にユーザーの位置を特定・追跡される恐れがある。
5G SIMでは、これまで平文でやり取りされていたIMSIの仕組みを見直す。従来のIMSIに相当する「SUPI」という識別番号がSIMカードに書き込まれ、これを暗号化した「SUCI」というもので認証を行う。
このほか、ユーザーや通信事業者にとってより扱いやすいものとなる技術も5G SIMには導入されている。ネットワーク側の仕様にも関連するが、ユーザー認証の仕組みが階層化され、圏外から復帰した際の再接続などでは都度すべての認証を行うのではなく必要な処理だけが実行されることで、再接続にかかる時間が短縮されるという。
また、事業者が海外ローミング時のローミング先キャリアの優先順位を付ける場合などに用いられる「ステアリングローミング」という運用において、従来のSMSによる制御ではなく、より確実な制御信号ベースでの管理ができるようになる。
eSIMの発展形、「インテグレートSIM」の登場も示唆
これらの特徴を備えた5G SIMは、2019年上半期中に提供予定。物理的なSIMカード(リムーバブルSIM)だけでなく、M2M SIM、eSIMなどあらゆる形式での提供を予定する。
また、今後考えられるSIMのフォームファクターの1つとして「インテグレートSIM」という技術も紹介された。
インテグレートSIMは、機器にSIMカードを組み込むeSIM(エンベデッドSIM)の発展形で、SoC(システムオンチップ)の内部にSIMを組み込むというもの。
ジェムアルトはインテグレートSIMの実現に向けて、クアルコム・テクノロジーズとの協業を2018年5月に発表している。SoC内部のセキュアプロセッシングユニット(SPU)というセキュアな領域にSIM情報を格納する計画で、Snapdragonのモバイルパソコン向けプラットフォームへの導入が検討されている。
なお、同様の技術としては、ARMもSoC統合型SIM技術「Arm Kigen」を2018年に発表している。