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格安スマホでもVISAなどのNFC「タッチ決済」が可能になるプロジェクト始動
microSDカードにNFC決済機能を搭載する「INCIR」(インサー)
2019年1月16日 20:40
インサーは、VISAやMastercardなどクレジットカードの国際ブランドが推進しているNFC(TypeA/B)の「タッチ決済」を、既存の安価なスマートフォンや実店舗、ショッピングサイトで利用できるようにするプロジェクト「INCIR」(インサー)を開始した。オンラインの機能やプラットフォームは5月のサービスインを予定し、スマートフォン向けの展開は2019年秋の開始を目指す。
インサーは、シンガポールのGooute(グート)が日本に設立した会社。東アジアなどでクレジットカードブランドによるタッチ決済が急速に普及していることを背景に、「INCIR」ではAndroidスマートフォン向けに、NFCのタッチ決済機能をmicroSDカードに搭載して提供する。大枠として、インサーはプラットフォームを提供する会社となる。
「INCIR CARD」
具体的には、NFC(TypeA/B)のチップやアンテナ、決済機能に必要なセキュアエレメントを搭載したmicroSDカード「INCIR SD CARD」を提供する。これをAndroidスマートフォンに装着することで、NFCに対応していないスマートフォンでも、店頭での「タッチ決済」(海外ではContactlessと呼ばれる)を実現する。
また、microSDカードではなく、同じ機能をカード型にし、Bluetoothでスマートフォンと接続して利用するスマートカード「INCIR SMART CARD」も用意し、microSDカードを利用できない場合にも対応する。ほかにも、従来のクレジットカードのプラスチックカードにINCIRの機能を加えたバージョン「INCIR SINGLE CARD」もある。
ウォレットアプリ「INCIR WALLET」
INCIRのmicroSDカードやスマートカードは、スマートフォン向けのウォレットアプリ「INCIR WALLET」と連携して利用する仕組みで、既存のApple PayやKyashなどと同様の考え方で作られている。INCIRのmicroSDカードを登録した後、保有しているクレジットカードを登録したり、新たにプリペイド型のバーチャルカードを発行して追加したりでき、決済時には店頭の端末にタッチするだけで利用できる。
「INCIR HOME」
「INCIR HOME」はHTML5で開発されるWebプラットフォームで、Webブラウザでの指紋認証や「INCIR WALLET」と連携する機能を提供。オンラインショッピングサイトを提供する企業が簡単にINCIR対応の決済機能を実装できるようにしていく。
キャリアや端末メーカーにも働きかけ
すでにビックカメラは、店頭で配布するスマートフォン関連のフリーペーパーと「INCIR HOME」のメディア機能を連動させていく計画があるほか、NEC-PCは、自社のPCに、オンライン決済手段として「INCIR HOME」に対応させていく計画を明らかにするなど、具体的な計画も紹介されている。W3Cの標準化に参加している慶應義塾大学は、フィンテック関連の規格を検討する一環として共同研究を行う。
またインサーを擁するGoouteは、日本のほか、シンガポールやオーストラリア、東アジアの新興国での展開を計画しており、端末メーカーなどとも協議していく方針。
インサーによれば、中国やインドなどでは、NFCを搭載していない格安のAndroidスマートフォンが多く販売されていることもあり、(NFCも不要な)QRコード決済が普及したという背景があるという。ただ、これら現地の関係者も、より安全で簡単、素早く決済が終わる「タッチ決済」を本命とみているとのことだった。
非接触決済では、決済に必要なセキュアエレメントをSIMカードに搭載するといった方式も登場しているが、多くの場合で決済サービスの事業者との連携が弱く、普及には至っていないという。また海外では、キャリアのメーカーへの影響力が相対的に弱いことも影響しているとのことだった。「INCIR」では、NFC決済機能をmicroSDカードとして端末から切り離すことで、アプリや決済プラットフォームの一環として提供できるほか、機種変更時にもmicroSDカードを差し替えるだけで済むといったメリットもあるとしている。
インサーとしては、おサイフケータイがそれなりに広がり、またiPhoneのシェアが非常に高い日本市場で、強気で攻めていく展開は考えていないという。日本で一定の市場を築きつつあるSIMフリーのスマートフォンに向けてプラットフォームを提供しつつ、日本の大手企業との連携や産学共同でプロジェクトを進めることで、海外での展開に箔をつけるといった狙いもあるようだ。
もっとも、日本では、ラグビー・ワールドカップにはMastercard、東京オリンピックにはVISAが協賛しているとあって、インバウンド需要を含めて、これら国際的なクレジットカードブランドによる「タッチ決済」への対応が本格的に進められている最中。クレジットカード加盟店自体は日本でも約700万店と非常に多いため、伸びしろはかなり大きいという認識で、インバウンド需要が拡大する流れに乗って、プロジェクトの事業化を図っていく構え。
また、実店舗向けの手数料は無料にして、オンライン決済や広告配信もすでに準備するなど、全体でバランスをとりながらプラットフォームを運営していく方針も示している。