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IoTセンサーにぴったり、シャープが取り組む新たな太陽電池技術とは

 さまざまなモノがネットに繋がるIoT(Internet of Things)。数年前から拡がりが期待される中、2020年に商用化する5Gでも数多くのデバイスの接続に対応するなど、いよいよ本格的な普及期を迎えようとしている。

試作デバイスが装備する色素増感太陽電池。一般的な太陽電池と見た目の違いはわからない

 そんな中、シャープがまもなく量産に乗りだそうとしているのが、「色素増感太陽電池」だ。電卓などで使われているアモルファスシリコンの太陽電池と比べ、屋内での発電効率は約2倍となり、同社では「IoTデバイス向けの電源」として期待をかける。

色素増感太陽電池とは

 色素増感太陽電池とは、電解液の中にある色素を吸着させた酸化チタン(TiO2)へ光が当たると、電力が得られるという仕組みの太陽電池。
 太陽電池には、結晶シリコンやアモルファスシリコンを用いるものが存在する。それぞれ発電効率が良い光の波長が異なり、結晶シリコンは主に屋外(約25%)、アモルファスシリコンは屋内での発電効率(約10%)に優れている。一方、色素増感太陽電池は屋内での効率が約20%、屋外で約12%となり、場所を問わず利用しやすい太陽電池だ。

他社の1.5倍

 シャープではさらに独自の仕組みとして、コストアップの要因となる透明な導電性ガラス基板を2枚→1枚にできる構造を開発。

 また電極内に光を閉じ込め、外への反射を抑える構造にして、光が色素に当たりやすい仕掛けも開発し、より一層、効率の良い発電を実現した。

 さらに狭額縁化もシャープの独自技術。他社製品では5~6mmある額縁だが、シャープならではのノウハウとして液晶パネルの技術を元に、額縁を約1mmに抑えることにも成功。

 独自の技術により、他社の色素増感太陽電池と比べ、約1.5倍、効率良く発電できるのだという。

ビーコン、センサー計測に

 こうした特徴から、シャープではIoTデバイス、主にセンサーやビーコンでの活用に向けて、今年度内にも、色素増感太陽電池の量産に乗りだそうとしている。

 たとえばBLEビーコンでは、コイン電池の場合、信号の発信頻度などにも左右されるがおおむね6カ月程度で電池を交換する必要がある。しかし色素増感太陽電池であれば、10年程度はメンテナンスが不要。たとえば屋内に設置して歩行者向けのナビゲーション用のビーコンは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてニーズが高そう。こうした点も踏まえて、シャープ自身が色素増感太陽電池を用いるBLEビーコンの製品化も検討中という。

 またガスボンベや鉄鋼プラントなどで用いられる圧力計の検知センサー向け色素増感太陽電池も現在開発中。これは、シャープと同じく大阪に本社を置く木幡計器製作所と協力して進めているもの。

木幡計器製作所とともに進める圧力計と、色素増感太陽電池付きの検知センサー

 年間1000万個ほど製造されているという圧力計をIoT化し、管理室で一元管理できるようにする。磁力を用いて圧力計の針の位置を検知できるようにしたセンサーと、色素増感太陽電池を一体化させるアイデアだが、従来のアモルファスシリコンの太陽電池では、サイズが大きくなり、圧力計の上に設置する必要がある。これを木幡側が敬遠し、より小型化ができる色素増感太陽電池の採用に向けて動き出した。

圧力を示す針の軸に近い部分に磁力のNとS(白い点)を付ける
検知センサーは磁力で圧力計の針の動きを確認する。ガラスを交換するだけで既存の圧力計に導入できるという手軽さもウリ

 こうした用途のほか、シャープでは、社内の工場のスマートファクトリー化に向けて色素増感太陽電池を活用。その用途は、デジタルピッキング表示機と呼ばれるもの。これは生産時に必要なパーツが置いてある箱に備え付けられる表示機。作業スタッフが生産ラインに運ぶべきパーツの箱では、LEDライトで印が付くと同時に、持っていくパーツの点数が表示される。

 以前は有線の電源で実現したこともあったとのことだが、自動車生産など他の工場では、パーツ置き場の模様替えがそれなりにある。有線の電源では模様替えにも手間がかかるため、電池で表示機を動かすようになっていたが、表示機の数もそれなりにあるため、電池切れの際の交換が大きな手間になる。そこで期待が高まったのが色素増感太陽電池という流れ。小型化できることから、より小さなパーツ箱への装備も可能になる。

2001年から開発、経営危機を乗り越えて新たな付加価値を

 現在の色素増感太陽電池は、他の方式よりも屋内での発電効率が良いこと、小型化できることを武器に、IoTデバイスのなかでも特にセンサーとの相性が良いと見られる。

 多数のセンサーデバイスを設置する場合、電池交換という地味な作業は大きなメンテナンスコストとなるため、シャープでは、色素増感太陽電池はそうした領域でアドバンテージを打ち出せると期待感を示す。

 もともと同社では、屋根に設置する太陽光発電用として、2001年ごろ、色素増感太陽電池の開発に着手した。その当時、太陽電池の原材料であるシリコンが高騰したことから、より安価な色素増感技術に注目したのだ。製造プロセスも比較的簡単で、いわゆる印刷技術を活用したものだった。

 徐々に開発を進めてきたが、2015年ごろ、同社は色素増感太陽電池の開発方針を大きく転換。その背景にあったのは、中国企業によるシリコンタイプの太陽電池の登場。安価に供給される中国産太陽電池を前に、屋外用の色素増感太陽電池に勝ち目はなかった。

 2015年頃といえば、シャープが鴻海傘下になる前夜。太陽電池パネルを含むエネルギーソリューション事業は、2014年度の大幅赤字の要因として指摘されていたほどだった。

 経営資源の集中と選択を進めたシャープは、社内スタッフの熱意もあって、2001年から続けてきた色素増感太陽電池の開発を維持。新たに、屋内向けのIoTデバイス向けの電源という用途を見いだした。

 2020年ごろに商用化される5Gでは、繰り返しになるが、IoTもまた本格的な普及期を迎えると期待されている。そうした中で、電源は、常にIoTデバイス、IoTセンサーがさまざまな場面へ浸透していく際の課題に挙げられてきた。

 通信技術側でも、通信頻度の低減などで対応しようとしてきたが、シャープが進める色素増感太陽電池は、困難な時期を乗り越え、IoTデバイスの課題を解決する一手として、今まさにその花を咲かせようとしている。果たして時代の波をうまく捉えることができるのか、今後、注目の技術の1つと言えそうだ。