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ドコモ、沖縄に「5Gオープンラボ」第3弾を展開~「6つの重点分野」発表で沖縄発展に協力
2018年7月10日 17:51
NTTドコモは10日、沖縄県那覇市で、ICT技術を活用して沖縄県の振興を図る「沖縄振興推進重点取り組み6分野」を発表した。あわせて、東京・大阪に次いで全国3カ所目の設置となる5Gの実験環境「ドコモ5Gオープンラボ OKINAWA」を12月に開設することなどが発表された。
ドコモの「沖縄振興推進重点取り組み6分野」では、(1)自然・文化保護推進、(2)観光・インバウンド推進、(3)暮らしやすさ・働きやすさ推進、(4)モビリティ向上、(5)教育改革推進、(6)産業振興推進という、6項目が重点分野とされており、それぞれの項目でドコモが持つ5G、AI、IoTの技術を活用して、地域の課題を解決していく。
(1)の自然・文化保護については、「やんばる3村」と呼ばれる沖縄の北部3村と提携。世界自然遺産の登録を目指すこの地域の自治体に対して、固定わな型IoTデバイスによる希少動物の保護など、ドコモの知見を提供していく。
(2)の観光・インバウンド推進に関しては、後述する今帰仁城での実証実験などが行われる。また、(3)の暮らしやすさ・働きやすさ推進という観点からは、石垣島で実施されているスマートアイランド実証実験(水道メーター検針の自動化など)が紹介された。
(4)のモビリティ向上という点においては、沖縄県でも都市部と郊外で課題が異なる。交通渋滞が課題となっている那覇市街では、バイクシェアサービスを重点的に展開して、利便性の向上を図る。一方で、与那国島(与那国町)では需要に応じて配車する「AI運行バス」を活用して、低コストの交通サービスを提供する。
(5)の教育改革推進では、LTEタブレットを学校教育向けに展開する。すでに宮古島(宮古市)では本格導入が始まっているほか、沖縄本島でも糸満市や豊見城市で実証実験が行われている。
そして、(6)の産業振興推進として展開されるのが、5Gの試験環境「ドコモ5Gオープンラボ OKINAWA」だ。
「5Gオープンラボ」を沖縄に設置
「ドコモ5Gオープンラボ OKINAWA」は、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」のパートナー企業が利用できる、5Gの試験環境。同様の施設は4月に東京・四ツ谷に開設されているほか、今秋には大阪・梅田にも展開予定。沖縄では全国で3拠点目の設置となる。
ドコモでは沖縄を特に成長性があるエリアと見込み、ICTサービスの導入による発展を促す方針。沖縄の5Gオープンラボでは、中国や東南アジアの主要拠点に近いという地の利を生かし、観光やインバウンド向けの実証実験などへの活用を見込んでいるという。今後、他の地域に5Gオープンラボを設置するかは未定としているが、パートナー企業が開始から半年で1500社に上っていることから、パートナー企業の利用が増えれば、必要に応じて拡大していくという。
今帰仁城で沖縄初の5G実証実験
NTTドコモが沖縄県で行う、初の5G実証実験となるのが、史跡「今帰仁城(なきじんぐすく)」でのVR/ARを活用した体験学習環境の展開だ。
この実験では凸版印刷と沖縄観光コンベンションビューローと協力。琉球史の専門家、上里隆史氏(法政大学沖縄文化研究所)の監修のもと、現役当時の今帰仁城の姿を、VRで再現する。
今帰仁城は14世紀、琉球に3つの王国が存在していた三山時代に、北山の統治下にあった古城。石垣のみが現存しており、現役時代の様子を描いた資料も乏しいため、当時の様子を想像するのは難しい。そこで、資料を元に復元した当時の姿をVRで描くことで、実感的に学習できるようにするという狙いだ。また、タブレットを城跡に設置し、当時使われていた壺などをARで表示するといった展示も予定されている。
凸版印刷には江戸城などをVRで再現したアプリの開発実績があり、今回は4Kディスプレイでの視聴も耐えられる高精細な3Dモデルを制作する。それをVR映像化し、5Gで伝送するというのが、今回の実証実験の概要だ。
ただし、現状の5G移動機(端末)は、小型の冷蔵庫ほどの大きさがあり、とてもヘッドマウントディスプレイに搭載できるものではない。そこで今回の実験では、5G移動機をWi-Fiルーターに接続し、市販のVRヘッドセットで体験できるようにする。
また、5G通信の低遅延性を生かしたデモンストレーションとして遠隔講義も実施。離れた場所にいる上里教授の授業を、今帰仁城にいながらにして受けることができるという。修学旅行生や地元の学生を対象に実施されるが、どのような形で行うかは未定としている。
「一気通貫は時代に合わない」事業者主導で展開する5G
今回の取り組みを発表したのは、NTTドコモで法人向け営業を統括する、取締役常務執行役員の古川浩司氏。5G時代のサービス提供について、ユーザー企業とともに開発していくケースが増えていくと語る。
それを象徴するのが、ドコモの新しい法人営業スタイル「トップガン営業」だ。これは法人の営業部隊とR&D部隊が一体となって、ユーザー企業のニーズを汲み取った新サービスを個別に開発するというもの。ユーザー企業の要望に応じて、システムの構成を変えることで、多様なニーズに応えられるという。
例えばBluetoothタグを使ったサービスとして、子どもの見守りから牛の頭数管理まで、さまざまな業種向けに展開。2017年夏頃にトップガン営業を開始してから約1年で、新商材を10個開発し、それを応用したサービスを180カ所に導入しており、急速な拡大を見せているという。
トップガン営業を導入した背景を、古川氏は「通信の使い方が変わってきている」と説明する。これまでは業務用の携帯電話など、単純な用途で活用されているケースが大半だったが、スマートフォンの普及などにより、業務効率化のツールとしての重要性が増しているという。
そのため、ユーザー企業としても、通信技術に詳しい人間をIT担当として採用するケースが増えている。こうした状況では、企業のニーズに合致した提案をしない限り、受け入れられない。その点で、開発にかかわるR&D部門のスタッフが、ユーザーの生の声を直接聞きサービスに取り入れるトップガン営業は有効だという。
古川氏「iモードに代表されるような垂直統合、一気通貫型の提供スタイルを我々はつねにやってきましたが、それはもう、時代に合わない、そういう判断です」
そして、ユーザー企業とともに作っているサービスを作るという仕組みを、5G時代に向けて発展させたのが「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」だ。
加盟社数1500社を超えるこのプログラムでは、5Gの導入を検討する企業に対し、ドコモは技術支援の立場として、実証実験の環境を提供する。また、提供したい事業分野ごとに加盟社の交流の場を設け、企業同士をつなげる活動も行っている。ユーザー企業を主体として、アイデアやビジネスモデルの発展を促すことで、自社だけでは探りえなかったニーズにも応えていく。それがドコモが描く5G時代のシナリオだ。
今回の発表にあわせ、ドコモは「ICTセミナー in 沖縄」を開催。5G関連の展示を中心に発表した。ただし、台風の接近により「5Gデモバス」や5Gの通信機材などが搬送できず、展示が見合わせられた。