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孫氏が語る「群戦略」と株価の関係――ソフトバンク株主総会

 20日、ソフトバンクグループの株主総会が開催された。孫正義代表取締役社長から、同氏の提唱する「群戦略」について株主へ深く説明する会になった。

20~30%の出資に留める理由

 「群戦略」とは、さまざまな分野の上位企業に20~30%出資し、連携していくという考え方。ソフトバンクグループは“戦略的持株会社”にしつつ、グループ全体で300年間に渡る成長を目指していく。

 財閥などの企業連携の形と比べ、群戦略はこれまでにない新たな形態と胸を張る孫氏は、原始的な生物が自己増殖し、自ら進化を果たしてきたことを踏まえ、同じように変化の激しい環境下で生き残り成長するためには、自己増殖・自己進化する「群戦略」が理想と説く。

 どういった企業に出資するのか。孫氏は、いわゆるユニコーン企業(企業評価が10億ドルを超える、未上場のスタートアップ企業)であることに加えて、「分野として大きな可能性があること」「その分野でビジネスモデルが素晴らしいこと」「経営陣が強いリーダーシップを持ち、孫氏自身がブレイクの予感を抱けること」を条件に挙げる。ただし、それでも100%子会社はせず、20~30%程度の出資に留めるのは起業家側のプライドがあるからだ、と孫氏。

 その一例が中国のアリババ。孫氏はアリババの時価総額が今や50兆円に達したのではないか、とその成功を引き合いに出しつつ、「2000年くらいに初めてジャック(マー氏)に会った。社員は20~30人で、売上もなかったが、天下を取るビジョンと思想があった。そんなときにもし『投資をしたい。51%欲しい。社名もSBババに変えてくれ』という呼びかけをしていたら、ジャックは拒絶していただろう。そういう起業家には大きな夢・志がある、プライドがある。グループに入れ、命令に従えと言っても資本を受け入れてもらない。20~30%だから仲間に誘いやすい」と語る。

 出資額は1000億円規模と大きいもので、出資を受ける側にとっても魅力を感じる形ながら、出資比率が低いからこそ、もし企業として成長しきったあとはグループから卒業することもあり、失敗しても大きなケガをする前に退却できる、とメリットを紹介する。

マー氏

 一方、出資を受けた側はどう感じているのか。アリババ創業者でソフトバンクグループの取締役でもあるジャック・マー氏は「孫さんとは毎月のように会ったり電話したりして考えなどを共有している。孫さんのビジョンと勇気は、クレイジーと思われるかもしれないが、尊敬している」と語る。

WeWorkを通じてスタートアップにも投資へ

 その群戦略を実現するため、10兆円規模でスタートした投資ファンドの「ソフトバンクビジョンファンド」では既に30以上の企業へ出資を完了。そのうち1つの「WeWork」は共用ワーキングスペースを提供する企業。設立から数年で1000億円近い売上を達成し、倍々ゲームで成長を遂げているとのことで、孫氏は「当初は、WeWorkの本業の価値が大きく増大するだろうと考えて出資を決めた。ただ、出資後、そうしたWeWorkのコワーキングスペースを利用するスタートアップにも、大きな価値があることに気づいた」と述べる。

 そこで現在は、WeWorkとともにスタートアップを対象にしたプレゼンテーション大会を数カ月ごとに実施。上位企業には出資していく方針だという。

「生々しい」株価の話題も群戦略で

 株主総会だけあって、孫氏の話は、ソフトバンクグループの株価にまで及ぶ。2000年頃に時価総額20兆円にも達したものの、現在はその半分程度の規模。

 孫氏は「株価をなんとかしろという方も多いだろう。生々しい話をしたい」と財布の写真を持ち出して、ソフトバンクグループの株価について語り出す。

孫氏
「財布にもし10万円の現金が入っていて、お札を含めて1万円で買えるのなら、絶対買うでしょう。でも、もし現金がいくら入っているかわからない財布ならどうするか。ソフトバンクの株は、中にいくら入っているかわからない財布と同じだと思って欲しい」

 そう語る孫氏が示したのは「8070円」という価格。これは株主総会前日の同社株式の終値。しかし、ソフトバンクが保有する出資先企業の価値を踏まえるとどうなるのか。孫氏はアリババだけで1万3999円相当、ヤフーは822円相当、ソフトバンクビジョンファンドは2987円相当の価値がある、とグラフで示す。

 それらの価値から有利子負債分を除くと、ソフトバンクの株式には、1万4000円相当の価値がある、さらに携帯電話事業のソフトバンクがもうすぐ上場するのだからその価値もプラスされる、と語る孫氏。つまりは「8070円」というソフトバンク株式は、保有する資産からすれば、安く評価されているというのが孫氏の主張。

 かつては、孫氏自身がソフトバンクグループの株を買い占める考えも脳裏をよぎったというが、経営者として、かつての時価総額を再び目指したい思いがあることや、社会の公器として上場は必要と考えることから、MBO(経営陣による自社買収)は考えなくなったという。

大学との連携、ブロックチェーンの活用にも意欲

 株主との質疑応答の場面では、とある株主から「ソフトバンクグループが大学の研究に支援、出資するようなことはしないのか。ぜひやりましょうと言って欲しい」と要請が挙がると、孫氏は、「やりましょう!」と応える。

 自身の名を冠した「孫正義育英財団」を通じて、主に小中学生からの人材育成に着手しているほか、最近になって黒字化したというサイバー大学、人工知能を軸に東京大学と研究開発を進めていることに触れた孫氏は、海外の大学とも人工知能中心に提携に向けて協議を進めていることを明らかにした。

 また暗号通貨(仮想通貨)への取り組みを問われると、ブロックチェーンは重要な基幹的技術として、グループ会社において、ブロックチェーン関連の取り組みに着手していると説明。ただし暗号通貨については「実体的価値よりも投機的価値が先行しているものもたくさんある。1つ1つの暗号通貨の良し悪しを付けるのは、私自身は難しいと思っている」とコメントした。

 このほか、「日本の総理大臣になる気はないか?」という株主の質問には「なりません」と即答。ソフトバンクの経営者であることが楽しく、やりがいがあるとにこやかに回答していた。