インタビュー
「楽天でんわ」担当者インタビュー
「楽天でんわ」担当者インタビュー
楽天ブランドを冠した通話料が半額になる新サービス
(2013/12/26 10:00)
12月5日、楽天グループのフュージョン・コミュニケーションズは音声通話の料金を安くするサービス「楽天でんわ」を開始した。
楽天でんわは電話をかけるとき、電話番号の前に指定されたプレフィックス番号を付けて発信することで、通常の半額にあたる30秒10.5円で音声通話ができるというサービスだ。どのキャリアの携帯電話・スマートフォンでも利用できる。
固定電話におけるマイラインのようなサービスで、プレフィックス番号が付いた通話だけが楽天でんわ経由となり、フュージョンから通話料が請求される。IP電話ではなく、音声通話回線をそのまま利用するため、通話品質などは通常の音声通話回線と変わらない。
フュージョン・コミュニケーションズというと、マイラインの開始当初から格安通話サービスを提供している、格安通話サービス分野では老舗とも言える通信事業者だ。スマートフォン向けのIP電話サービス「IP-Phone SMART」も格安料金で提供している。
今回は楽天でんわについて、フュージョン・コミュニケーションズの事業推進部 コンシューマービジネスグループ RDチーム リーダーの倉澤赳徳氏にお話を伺った。
――フュージョン・コミュニケーションズが楽天でんわを提供する狙いというと?
倉澤氏
まず背景として、携帯電話がLTEに移行したことに伴い、通話料金が上がっていることがあります。各社30秒21円で横並びです。そこに半額でサービスを提供したい、というのが、楽天でんわのコンセプトです。
――フュージョン・コミュニケーションズは固定電話のマイラインに参入したときにも、「料金を安くしよう」と訴えていました。そこの考え方は御社の中に脈々と受け継がれているものなのでしょうか。
倉澤氏
会社のDNAのようなものなのかも知れません。電話は許認可事業なので、参入できる事業者が限られています。規模がモノを言うので、新しく参入しても、大手に吸収されてしまいます。結果、大手だけが残って料金が高止まりする傾向があります。そこにテクノロジーや切り口で競争を促せれば、というのが、フュージョン・コミュニケーションズ発足時からの考えです。
――楽天でんわはどのようなサービスなのでしょうか。
倉澤氏
まず楽天でんわには3つの特長があります。1つは通常の半額という通話料金、2つめは通話品質、3つめがポイントが貯まることです。
半額のところは、背景としてお話ししましたが、フィーチャーフォンに比べ、LTEではまずプランが選べなくなっています。3Gではいくつかのプランから基本料金と無料通話分、通話料のバランスを選べました。しかしLTEでは基本料金が980円から780円の1種類だけで、通話料は30秒21円しか選べなくなっています。
一見すると月々のコストは安くなっているようにも見えますが、単価が上がっているので、通話するほど高くなっています。これは良い状況ではないな、と考えました。無料通話分も3Gでは最低でも1050円はありましたが、これもLTEでなくなっています。こうした通話料設定の変化に気がついている人も少ないのではないでしょうか。
こうした料金が変化した背景は、ケータイ料金の複雑化があります。パケット料金だとか端末代金の割賦払いとか、月額何千円払ううち、通話料がいくらというのがわからない人が多くなっていると思います。その中で、通話料だけにクローズアップしたいと考えました。
――端末代金の割賦については信用情報などが問題にもなりましたね。
倉澤氏
大手は3社しかなくて、契約者数も飽和し、ユーザーの取り合いになっています。その中で、新規契約ユーザーに優しくするために、端末代をどう安く見せるか、という力学が働いています。あまりヘルシーな市場ではないな、と感じています。
そのような背景で安いサービスを提供するにあたり、「安い料金には裏があるのでは」とも思われてしまいがちですが、私たちは「プランをシンプルにしたい」という思いがありまして、初期費用などは一切とりません。使いたいときだけ使って欲しい、と考えました。
通話品質も特長の一つです。無料通話が可能なVoIPアプリ、たとえば国内ではLINEがメジャーですが、それらはパケット通信なので、品質が悪くなることがあります。その点、楽天でんわは普通の電話網で通話するので、品質は普通のケータイの通話機能と変わりがありません。
また、無料通話のVoIPアプリは同サービス同士のみですが、楽天でんわは、基本的に電話番号があればどこに対しても電話をかけられます(※2012年12月26日現在、国際電話は非対応)。そこも違うポイントです。050のIP電話だと発信者番号に050の番号が表示されるのに対し、こちらはかけたケータイの090や080の電話番号がそのまま発信者番号になります。
あとは楽天スーパーポイントとの連携も特長となります。わかりやすいところでは、まず通話料金の1%がポイントとして還元される仕組みになっています。各キャリア、ポイントプログラムを提供していますが、使える用途の広さは楽天ほどではありません。
貯まったポイントで通話料金を支払えるような仕組みも、春頃に導入する予定です。楽天市場のヘビーユーザーですと、日用品を定期的に購入し、そこでポイントが貯まっていきます。そのポイントを通話料に充てられるというのは、楽天ヘビーユーザーに響くと考えています。
――どのように利用するものなのでしょうか。
倉澤氏
基本的に専用アプリで利用しますが、アプリをダウンロードするだけでなく、最初に利用登録が必要です。利用登録は、Webページから電話番号とクレジットカードを登録しますが、楽天会員ならば簡単に入力が可能です。専用アプリはiOSとAndroidで提供しています。どのキャリアでも利用可能です。
――どういったユーザー層を想定されているのでしょうか。
倉澤氏
一つは仕事で通話を多用している人です。我々の調査だと、8割強が仕事の通話を会社に請求せずに自己負担しています。会社がケータイを貸与し、精算する仕組みがないケースも多いです。そういった方々には、完全にマッチすると考えています。
消費税増税も控えているので、固定費を減らすことを考えている主婦層にも響くと考えています。LINEなどもすでに活用されているとは思いますが、たとえば「保育園に電話するときは固定電話だよね」というようなブログも拝見しました。
それから、特に今の時期は忘年会や新年会で電話をする機会が増えますので、飲食店への連絡にも使ってもらえると思っています。
フュージョン・コミュニケーションズがこういったサービスを提供するのは、通話料半額が最初のニーズではありますが、コミュニケーションを活性化させて人々と社会をエンパワーメントすることが最終目標です。
――今回はスマホ向けとしてサービスを提供されていますが、原理的にはフューチャーフォンでも利用できると思います。そちらは意識されていないのでしょうか。
倉澤氏
料金の背景として、3Gのフィーチャーフォンでは無料通話でおさまっている人が多い、と考えました。楽天でんわを使うことでお得になるフィーチャーフォンユーザーは、スマホに比べると少ないと考えています。
――フュージョン・コミュニケーションズでは従来から法人向けには同様のサービスを提供していますが、それを個人向けに提供するようになった経緯とは。
倉澤氏
法人向けには「モバイルチョイス」というサービスを提供しています。今回のサービスも、裏側の設備などは法人向けのシステムを流用している部分もあります。
モバイルチョイスでは、料金が安いことだけでなく、1つの端末で仕事用の通話と個人用の通話で料金を分離できることを特長としています。仕事の通話料は会社が負担するけど、端末は社員の私物を使う、というケースです。会社が端末ごと貸与しているというのは大企業だけで、全体の1割くらいです。フュージョン・コミュニケーションズの顧客には中小企業が多く、そういった企業にマッチしたサービスとなっています。
個人向けとなる楽天でんわでは、通話料を社員が負担しているケースを想定しています。モバイルチョイスで企業側にはアプローチしているので、楽天でんわはモバイルチョイスが届かない個人に向けたアプローチになります。
――御社では個人向けにIP電話サービス「IP-Phone SMART」を提供されています。そちらと競合してしまうのではないでしょうか。
倉澤氏
今の獲得状況では十分に棲み分けできると考えています。楽天でんわの発表によりSNSなどでも盛り上がり、その中でIP-Phone SMARTも改めて注目されています。IP-Phone SMARTは、どちらかというとリテラシーが高い方向けで、自分でIP電話を設定したい人や着信できる050の番号が欲しい人向けです。海外からの利用時もIP-Phone SMARTが向いてます。
――両方のサービスを一つのアプリで利用できる、といったことができると良さそうですね。
倉澤氏
アプリをくっつけた方が良い、という声はいただいています。ニーズ次第ではそれもありかな、と考えています。ただし、選べるメリットと複雑になるデメリットがあります。何でもできるアプリは何をやって良いかわからないですからね。
――料金の支払いはクレジットカードのみなのでしょうか。
倉澤氏
先ほども述べましたが楽天スーパーポイントによる支払いへの対応も予定しています。このほかには銀行振込や窓口払い、デビットカード払いも要望が出ていますね。
――プリペイドカードみたいなものを用意するのは難しいのでしょうか?
倉澤氏
コンビニで楽天スーパーポイントを購入し、チャージするといった使い方ができるようになる予定です。
――御社の場合、MVNOのデータ専用SIMカードも提供されていますが、それらと組み合わせたサービスは?
倉澤氏
ニーズ次第だと考えています。いろいろ選べた方が良いというお客様もいらっしゃいますし、まとめて安くしたい、という方もいらっしゃいます。ニーズが強ければ検討したいところです。
ただ、MVNOによる音声通話対応サービスは、音声通話料金の収入を見込んだ価格設定になっています。そこをこうした仕組みで安価にしてしまうと、コスト構造が変わり、どこで利益を確保するかの調整が必要になってきます。どうすれば良いか、ちゃんと考えたいところです。
――そもそも、今回のサービスで「楽天」のブランドを使った狙いとは?
倉澤氏
コンシューマーに使ってもらうためにはブランド力が必要だと考えました。楽天グループに電話網を持った会社があることもあまり知られていないのではないでしょうか。フュージョン・コミュニケーションズが昔から安い通話料を提供している背景をユーザーに伝えたい、と考えました。
十数年の電話サービスで培った技術と楽天のインターネット技術が融合した、というイメージです。フュージョン・コミュニケーションズは電話会社なので、キャリアグレードであることを意識してやっています。そこと楽天がうまく融合しているところがあります。
――他社も同様のサービスがあり、もっと通話料単価の安いIP-Phone SMARTのようなIP電話サービスもあります。こうした安価なサービスが増えると、それに対抗し、キャリア自身が料金を安くしてしまう可能性もあるのでは。
倉澤氏
それはあまりないと考えています。我々が参入してキャリアが値下げするということは、元々安くできるのに高い料金をユーザーに請求してきたということを暗に認めることになります。
――本日はお忙しいところありがとうございました。