インタビュー
「N-02E ONE PIECE」担当者インタビュー
「N-02E ONE PIECE」担当者インタビュー
日本最大級の人気コンテンツがスマホになった舞台裏
(2012/12/11 10:00)
累計発行部数は日本の漫画史上最高、10年以上におよぶテレビアニメと映画、多数の企業とのコラボ――1997年の連載開始から15年を経た「ONE PIECE」は、コミック・漫画の世界に留まらず、さまざまな拡がりをみせるコンテンツだ。
幅広い層の読者・視聴者を獲得し、“薄く広く”人気があるように見える一方で、複雑な世界観を支える細かな設定、主人公とその仲間たちや、相対する手強い敵キャラクターなどに魅了され、「ONE PIECE」を“深く濃く”愛する人もまた、少なくない。
今回、“ONE PIECEスマホこと”「N-02E ONE PIECE」を企画した、NTTドコモ プロダクト部の滝本真氏と亀松昌彦氏にインタビューを行った。連載15周年という好機に向けて、ONE PIECEスマホの細部を練ってきた歓びが語られた一方、多くの読者の存在、そして、類を見ない人気コンテンツが与える重圧もまた、関係者を取り巻いていたことがわかった。
“コラボの考え方”を変えて
――ヱヴァスマホの「SH-06D NERV」、JOJOスマホの「L-06D JOJO」といったコラボスマホに続く「N-02E ONE PIECE」の登場となりました。
滝本氏
「N-02E ONE PIECE」は、「(海賊である主人公とは敵対関係にある組織の)海軍のDr.ベガパンクの設計図をもとに、フランキー(主人公の仲間で船大工)が作り上げた未来の通信機」です。できあがったところに、ルフィ(ONE PIECEの主人公、麦わらの一味の船長)が落書きをし、ある拍子でこちらの世界に流れ着いたものです。
――その設定だけでも、どういったキャラクターか、注釈がたくさん必要ですね……。多くの読者、視聴者から支持される「ONE PIECE」ですが、今回のスマートフォンは、どのようなユーザーを想定しているのでしょうか。
滝本氏
今回は、15年、コミックを読み続けて、ONE PIECEの魅力に取り憑かれたコアなファンに向けたモデルです。連載15周年にあわせて、同梱品までONE PIECEの世界観にあふれる形で提供しようと考えました。
――幅広い層ではなく、いわばニッチな層に向けたコラボモデルであると。
亀松氏
多感な時期に「ONE PIECE」に出会って、最初から読んで育ってきた人たち、それはもうまさに私たち自身だったりもするのですが……。
滝本氏
亀松と同じように、私も15年間愛読してきて、個人的にずっとやりたいと考えていました。ONE PIECEとコラボできればかなり面白いことができるんじゃないかと。その一方で、コラボモデルの在り方も変化してきました。
大前提として、「どうすれば喜んでいただけるだろうか」とずっと考えてきました。もちろん経済活動を営む企業として、多くの販売数を目指すという考え方はあるのですが、その一方でドコモとして重視していることの1つが「満足度」です。せっかく買っていただけるのであれば、喜んでいただけるようにしたいということで、台数を絞って「やりきった」機種として仕上げなければいけません。
――以前から、服飾ブランドとのコラボモデルなどはありましたね。しかしスマホ時代になって魅せる部分が変化してきた、というお話は、JOJOスマホ、ヱヴァスマホの取材時にもありました。
滝本氏
はい。かつてフィーチャーフォンのコラボモデルでは、外装や内部のきせかえメニューのデザインに注力した形でした。しかし、それこそヱヴァスマホ、JOJOスマホのあたり、つまりスマートフォンの本格的な普及期を迎えて、コラボモデルはそれだけでは足りないと、考え方を改めなければいけない状況になっていました。アプリが作り込めるようになったところが大きいのでしょう。そういった意味で、ONE PIECEのような題材は、アプリ開発に繋がりやすい、親和性の高いコンテンツだと言えるでしょう。そこでこちらから、集英社さんにお声掛けして、企画がスタートすることになりました。
「遊び心を大事に」
――アプリの作り込みという面では、ONE PIECEは、切り口に事欠かないですね。そのあたり、スムーズに決まっていったのでしょうか。
滝本氏
いえいえ、そこはすごく揉めました(笑)。企画を進めるなかで、みんなONE PIECEのファンですから、それぞれの意見が異なるわけです。1つのアプリの方向が決まっても、実現させるまで、なかなかスムーズにはいかないこともありました。
亀松氏
登場人物の個性がはっきりしていて、スタッフもそれぞれ好きなキャラクターがいます。たとえば、登場キャラをモチーフにしたゲームコンテンツを開発する場合、そのキャラクターをきちんと活かして、“負けない”内容になっているか……と検討していきました。
――なるほど。今回収録されたコンテンツの中で、どれが思い出深いですか?
滝本氏
それはもう全部なのですが(笑)、たとえば「ONE PIECE」といえば各話の扉絵が特徴的でして、今回、全ての扉絵を「N-02E ONE PIECE」には収録しています。この扉絵では、かつて本編に登場したキャラクターによる、スピンオフのような別のストーリーが1枚絵で描かれています。今回、全話収録しましたので、扉絵を読むだけでも、「ONE PIECE」のサブストーリーがわかります。たとえば、ルフィの兄であるエースの運命にも関連していく伏線的な部分も扉絵で描かれていったのです。こうした部分を一気に収録することは、集英社さんにとっても、あまり過去にない体験だったようです。先述した通り「N-02E ONE PIECE」は熱烈でコアなファンに向けた機種で、そうしたファンの方々は全巻既に所有しているでしょうが、スマホ上で、扉絵だけ見られる、というのはあらためてコミックの魅力を認識してもらえるのではないかと思います。
亀松氏
“麦わらの一味”の1人であるニコ・ロビンにちなんだコンテンツとして、ONE PIECEの歴史を全てチェックできる、年表アプリも用意しています。紙の書籍で「ONE PIECE」の解説本は存在していますので、その一部と同等の内容と言えるかもしれませんが、いつでもどこでもストーリーを再確認してもらえるツールとして楽しんでもらえると思います。
――ニコ・ロビンは考古学者ということで、年表アプリなんですね。その他のコンテンツは、どういったものなのでしょうか。
亀松氏
ウソップというキャラクターのアプリですね。いわゆるAR(拡張現実)アプリなんですが、このキャラクターの得意とする武器がパチンコ(スリングショット)で、アプリを起動して画面上をタッチすると……。
――あ、タマゴが投げつけられてますね(笑)。被写体側も、表情やポーズをあわせて撮影するわけですか。
亀松氏
弾の種類は変更可能で、撮影した写真はもちろんSNSへ投稿できます。このアプリでは、カメラそのもので楽しめることを目指しました。ウソップについては、単行本の最後に「ウソップギャラリー」というコーナーがあり、その部分をスマホで活かすのならばスライドショーアプリというアイデアがすぐ思いつくのですが……。
滝本氏
一方で、「N-02E ONE PIECE」の開発にあたり、原作者の尾田(栄一郎)先生からは「遊び心を大事にして欲しい」という言葉をいただいていたのです。その上で、はたして「ウソップでスライドショーというのは遊び心にあるのだろうか」と悩みました。ドコモとしては、コラボモデルというものの存在自体が、いわば遊び心の発露です。そのコラボモデルで、さらに“遊ぶ”というのは、どうすればいいのか。こういうと何ですが、ドコモって遊ぶのが苦手なところがありますし(笑)。どこまでやっていけばいいのか、とても悩みました。
音声は全て録り下ろし
――とはいえONE PIECEの世界には、「遊び心」という言葉はマッチしますね。そのあたりのバランスの取り方はとても難しそうです。
滝本氏
バランスを取ることは重要ですが、そこだけを追求してもつまらなくなってしまいますよね。たとえば着信音で、カルー(劇中に登場するダチョウのような動物)が「You Got mail!」と喋ってるものがありますが、こうした音声は、アニメや映画からの抜粋ではなく、全て「N-02E ONE PIECEスマホ」のために、改めて収録したものです。
最初にお伝えした「Dr.ベガパンクの設計図をもとにフランキーが……」という下りも、短編アニメとして「N-02E ONE PIECE」にプリセットしていますが、これもまたこのために、ドコモからお願いして制作されたものです。とことんやりきって、遊び心を追求したつもりです。
――全て録り下ろしというのは凄いですね……。ちなみに、ONE PIECEといえば、読者の心に響く名セリフも人気があります。これは辞書に収録されているのでしょうか。
亀松氏
いえ、そういった台詞は、全て着信音設定できるサウンドコンテンツとして収録しました。これも全て録り下ろしです。これもコラボモデルならではの部分ですね。
――コラボモデルならでは、ですか?
滝本氏
スマートフォンはアプリが自由に追加できますので、今回のようなコラボモデルではなく、ウィジェットアプリ、ゲームアプリを用意して、キャラクターが描かれたカバーを装着すれば、そのキャラクターを題材にしたスマートフォンとして楽しめる、と思われるかもしれません。
しかし、コラボモデルは、後々のカスタマイズではタッチできない部分までコンテンツを用意できるのです。
――それはたとえば、どういったところでしょうか。
滝本氏
電源のON/OFF、あるいはロック解除画面ですね。電源ONの際には、ONE PIECEの始まりにあわせた場面を観ることができます。また、ロック解除画面のうち、パターン解除では、ストーリー上に登場する麦わらの一味のロゴマークが描かれていて、それをなぞって解除する、という楽しみ方を実現しました。
――電源ONの画面は、第1話の場面ですね。なるほど。ところで、ONE PIECEの世界にもモバイルな通話ツールとして「電伝虫」(カタツムリ風の姿をして、離れた場所と通話できる)というものが存在しているとのことで、当然、何らかのアイデアを検討されたと思うのですが、実際はどうだったのでしょう。
滝本氏
それはもう考えました。たとえばスマホ本体として、ですよね。
亀松氏
しかし、さすがに大きいですし、持ちやすさなどを考えると、製品化はかなり厳しいと判断しました。そこで、今回の「N-02E ONE PIECE」では通話アプリとして電伝虫が存在しています。
滝本氏
電伝虫のおかげで、この端末は通話できる、というわけです。通話アプリのアイコンにもなっていますし、電話着信時にも登場しますよ。
10個目のアプリを追加
――冬モデル発表会に先立ち、10月初旬、「CEATEC JAPAN 2012」という展示会で、その姿が披露されましたね。
滝本氏
おかげさまでかなりの反響がありました。待ち望んでいた方は少なくなかったのだなと思い、担当者としてはとても励みになりました。
亀松氏
ここまで期待されているのであれば、主人公たち9人にちなんだ、9つのコンテンツに加えて、もう1つ、10個目のアプリを追加することにしました。おそらく発売時点でもまだ利用できず、購入後、ユーザー自身の手でアプリをダウンロードしていただく形を予定しています。
――どういったアプリなのでしょうか。
亀松氏
先に紹介したウソップのアプリは、ARカメラとして撮影中に効果を付けていくアプリでしたが、10個目のアプリは撮影後に加工するアプリです。名シーンや白黒フィルタ、名セリフを入れて楽しめるようにします。
――そういえばさきほど辞書には名セリフは収録していないという話でした。
滝本氏
辞書は、脇役というか、ストーリー上に登場するキャラクター図鑑のような形になっています。つまり、予測変換の単語として、キャラクターの名前が選べるのです。相当マニアックなキャラクターの名前も収録していまして、たとえば「ぬ」と入力すると、「ヌギレ・ヤイヌ」という候補が出るのですが、このキャラクターは、ONE PIECEの序盤、キャプテン・クロの身代わりとして捕まった男です。作中でも1コマしか登場していません。
――それに気付く人はもちろんいるのでしょうが、かなりの難度ですね……。
ドコモから提案
――そういえば、先の話で、「ドコモから集英社に声を掛けた」とありました。15周年にあわせた集英社側からの提案だったと思い込んでいましたが、そうではなかったのですね。
滝本氏
15周年というのは、一読者ですから、私たちも意識していました(笑)。私は、以前からコラボモデルを担当しているのですが、集英社さんとは、以前「SEVENTEEN」(10代女性向けファッション誌)とのコラボモデルも進めたことがありましたし、そうした縁から辿って企画提案にこぎつけました。
――ドコモ社内では、企画を進める上で、障壁はなかったのでしょうか。
滝本氏
そのあたりは楽だったかもしれません。キャラクターグッズが巷に溢れていますし、あんまり読んだり観たりしたことはなくても、「ONE PIECE」という名前をとりあえず知っている、という人が本当に多かったのです。
亀松氏
今回用意した船型の充電台についても、周囲も「ONE PIECE」がどういったストーリーで、どういった世界なのか知っていますから、「あ、海賊だもんね」というように理解してもらいやすかったですね。
“広大な世界”をいかに形にしたのか
――ONE PIECEといえば、さまざまな立場のキャラクターが登場しています。主人公たち“麦わらの一味”と対する敵キャラクターも、個性的です。こうした面は、今回、「N-02E ONE PIECE」に取り入れられているのでしょうか。
滝本氏
……そこは本当に苦渋の決断で、今回は“麦わらの一味”に絞る形にしました。もちろん、まんべんなくカバーすることも考えましたが、1つ1つが薄味になってしまい、コラボモデルとしてのクオリティが下がってしまうのは、とても恐れた点でした。
亀松氏
1台のスマートフォンに取り込むには、話のスケールが大きすぎるんですよね。海軍、王下七武海、敵味方の数多くの海賊団……全部やろうとすると、正直言って、開発がいつ完了するのかスケジュールが見えません。
滝本氏
麦わらの一味に絞る、という切り口にするのは勇気のいる決断でした。しかしそうすることで、テーマが1つにまとまって、船型の充電台、オリジナルのアプリやウィジェットなど、まとめることができました。純度を高めることができたと自負しています。
――しかし、ファンが多いだけに、難しいところだったのでしょうね。
滝本氏
そうですね……そのあたりは、プレッシャーと言いますか、やりたいことがたくさんありすぎて、どうするのがいいか、なかなか割り切れませんでした。
亀松氏
海軍モデルは作りたい、という想いは今も胸の奥にあります。
滝本氏
アイデアは本当にどんどん出てきますからね。ただ、ウィジェットで、ライトを点灯させるものがあるのですが、これは、体を光に変えられる能力を持つ海軍の“ボルサリーノ(黄猿)”というキャラクターをウィジェットにしています。このあたりは、ギリギリまで追求した名残と言えるのかもしれません。
奇抜な“船型の充電台”とパッケージ
――さて、コンテンツ面に加えて、今回、主人公たち「麦わらの一味」が駆る「サウザンドサニー号」を模した、船型の充電台が用意されています。さらに3.5mmイヤホンジャックに装着できる麦わらの一味のフィギュアもあります。
滝本氏
最初は船のサイズから悩みました。アイデアとしてはもっと大型なものも検討しましたが、デスクの上などでの設置を考えると、この程度のサイズが良いだろうと。サウザンドサニー号やキャラクターのフィギュアは、バンダイさんに製造いただいたのですが、発想そのものは、(ベースモデルを開発した)NECカシオさんから「こういうものもできますよ」と提案していただいたのがきっかけです。
亀松氏
フィギュアの開発も大変でした。それまで3.5mmイヤホンジャックに装着する、いわゆるスマホピアス、イヤホンジャックアクセサリーは、ピンが折れて抜けなくなることがある、といった声があることは把握していましたので、「N-02E ONE PIECE」に同梱するフィギュアは折れないように対策が必要でした。このあたりはバンダイさんのノウハウで、柔らかな素材を用いて製造にこぎつけました。サウザンド・サニー号の船首も尖っていますので、固い素材では危険ですが、柔らかい素材を用いています。
滝本氏
普段は携帯電話の企画を担当する私たちにとって、バンダイさんは心強い仲間でした。
――ドコモとNECカシオだけではなく、集英社やバンダイなどさまざまな仲間と巡り会って開発したと……まさにONE PIECEの世界ですね。
滝本氏
その分大変なことはありましたが、ONE PIECE好きな人が集まって開発を進め、ベストを尽くしていただいたと思いますし、我々としても気付かされたこともありました。
先行予約は好調
――11月28日から先行予約が開始されましたね(取材は予約開始後に行った)。
滝本氏
おかげさまで好調です。今回は、5万台のうち1万台を対象にしており、1万件以上の応募になると抽選になるのですが、先行予約開始から間もない段階で、抽選になる見込みとなりました。
亀松氏
実際に長く利用していただくことで、見つけられるような部分も「N-02E ONE PIECE」には収録しています。Web上ではさまざまな反響をいただいていますが、収録コンテンツを予想したまとめページを見ると、当たっているものもあったりして……とにかく楽しんでいただければと思います。
――発表で案内されたコンテンツや、今回のインタビューで紹介された機能だけではなく、手にしたものだけが味わえる楽しみがあるということですね。今日はありがとうございました。