マカフィーに聞く

スマートフォン向けセキュリティ製品の戦略とは


 スマートフォンの人気が高まる中で、従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)以上に懸念されているのが「セキュリティ」だ。マルウェア(悪意あるソフト)対策のほか、紛失・盗難時の対策、有害サイトへの対策など“持ち歩くインターネットデバイス”であるスマートフォンに求められるセキュリティ対策は少なくない。

 こうした状況に対し、各セキュリティソリューションベンダーから、さまざまなサービスが登場している。今回は、ソフトバンクモバイル、次いでNTTドコモに製品を提供するマカフィー 取締役 常務執行役員 CSB事業本部事業本部長の田中辰夫氏に話を聞いた。

マカフィーの事業展開

ドコモ あんしんスキャン

 マカフィーでは、いわゆるB2B2C(他事業者を介してユーザーに提供する形態)でサービスを提供する形が主流となっている。この背景について田中氏は、「2003年から日本でもコンシューマ向けのベンダーとしては展開しはじめているが、他社に比べて後発だった。そこでB2B2Cを選択し、それが現在も続いている」と語る。

 セキュリティソフトのB2B2Cと言えば、日本では、パソコンでのプリセット、次いでISP(インターネット接続事業者)での提供という形がなじみ深い。たとえばパソコンメーカーにとっては「より安心できるパソコン」、ISPにとっては「より安心できるインターネット接続」というアピールができるようになる。ユーザーにとって、セキュリティソフトは、ダウンロードや通販、量販店など、複数の入手ルートがあるが、マカフィーでは、B2B2Cを事業戦略の中心に据えることで、ブランドの向上などを図ってきた。そして、こうした取り組みを支えた収益モデルは、いわゆるレベニューシェア(収入の共有)方式だった。

 こうした取り組みを経て、2003年、同社はNTTドコモと提携。ドコモのフィーチャーフォンやスマートフォン向けにマルウェア対策機能が導入されるようになった。携帯電話でマルウェア対策の必要性はあまり認識されていない時代ではあったが、安全性を高めることは携帯電話会社にとってもメリットになり、また万が一マルウェアが発生したときにも通信インフラへのダメージを防げる、といった期待もあったようだ。

 それから8年、スマートフォンのラインナップが拡充される中、7月1日よりNTTドコモから「ドコモ あんしんスキャン」が提供されることになった。無料で利用できる同サービスはマカフィーの製品が利用されている。競合他社も存在するが、引き続きドコモとのパートナーシップが実現した大きな要因として、田中氏は「これまでの実績が評価されたのではないか」と語る。製品の品質、過去の取り組みで得たノウハウが効を奏した、との見方だ。

 キャリアとのパートナーシップを進める一方、マカフィーでは、これまでさまざまな企業の買収も行ってきており、モバイル向けセキュリティソリューションについては、ほぼ全ての分野をカバーできる状況になった。B2B2Cに加えて、7月には、マカフィー自身からマルウェア対策や盗難・紛失対策など総合的なセキュリティアプリが提供される予定だ。

 一方、法人分野では、マカフィーでは日本から海外へ進出する企業に対する支援も行う。北米や欧州などさまざまなエリアに製品を輸出しようとする際、同社の製品をプリセットすれば、世界中どこでもセキュアなプロダクトとして提供できる。日本向けローカライズだけではなく、海外への展開という点は、ワールドワイドで展開する同社の強みと田中氏はアピールする。

啓発が課題

マカフィーの田中氏

 パソコン向けではお馴染みとなったセキュリティソフトだが、スマートフォン普及期を迎えた2011年になって、マカフィーだけではなく、関係各社からセキュリティ関連アプリ、ソリューションが続々と登場している。

 しかし、これまで慣れ親しんだフィーチャーフォンは、通信事業者の管理下にあるコンテンツが多く用意されたクローズドな環境で、ワンクリック詐欺のような事例はあったものの、外部からの侵入といった脅威をあまり意識する必要がなかった。そうした姿勢のまま、スマートフォンへ移行しつつある現在、マカフィーは「ユーザーの意識をいかに変えるか」という点を課題の1つとしている。

 たとえば、パソコン向けプリセットソフトでは、マルウェアの脅威などを感じないままであれば、パソコン購入以降の利用率は時を経るごとに低くなる傾向にあるという。

 もちろん「怪しいアプリをダウンロードしない」「怪しいサイトへアクセスしない」といった心掛けで外部からの脅威侵入を少しは抑えることができるかもしれないが、たとえば端末紛失や盗難は、誰にでも起こり得る。さらに、個人ユーザーで万が一、何らかの情報流出があったとしても、その情報をとりまとめる機関はなく、状況を把握しづらい、と田中氏は言う。何か起きてから対策する、という姿勢では後手に回る可能性も否定できないわけだ。さらにスマートフォンの普及は、個人だけではなく、法人においても利便性の向上・業務効率の改善というメリットだけではなく、情報流出のリスクを考慮する必要が出てくる。企業のネットワークに、社員の端末が接続するケースも増加すると見られるためで、実際に米国ではそうした動きがあるという。

 こうした状況下で、ユーザーの意識をいかに高めていくか、マカフィー自身の取り組みはもちろんのこと、通信事業者など同社のパートナーなどの活動も重要となってくる。各事業者の今後の取り組みにも注目が集まる中、充実してきたセキュリティ関連製品などのツールをどう活用していくのか、ユーザー自身の意識も問われる時代になってきたのかもしれない。

 




(関口 聖)

2011/6/29 06:00