「SH-12C」「SH-13C」開発者インタビュー
着実に進化し続けるシャープのAndroid端末「AQUOS PHONE」
シャープは今夏、NTTドコモ向けにスマートフォンとフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)を2機種ずつ投入する。スマートフォンでは、フラッグシップとなる「AQUOS PHONE SH-12C」がツインカメラと3D液晶を搭載するAndroid端末。また「AQUOS PHONE f SH-13C」は、世界で初めて非接触充電を内蔵するAndroid端末で、コンパクトなボディで防水にも対応する。
一方、フィーチャーフォンを見ると、PRIMEシリーズの「SH-10C」は、3D液晶に16メガのCCDと、シャープらしい豪華なスペック。STYLEシリーズの「SH-11C」は、防水コンパクトで比較的スタンダードな仕様となっている。5年連続でシェア1位を獲得したシャープにおいて、2011年のドコモ夏モデルのラインナップ数は、多くも少なくもない格好で、幅広い層をフォローできる構成だ。
今回は、それらの新ラインナップのうち、注目されるスマートフォンの2機種を中心に、同社通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部 副参事の小林繁氏、商品企画部の三枝卓矢氏に話を聞いた。
■3D対応のSH-12C
――まずはシャープのドコモ向け夏モデルの概要からご紹介をお願いします。
小林氏 |
三枝氏 |
小林氏
夏モデルはスマートフォンとフィーチャーフォンを2機種ずつ用意しています。現在「市場は急速にスマートフォンへシフトしている」と言われていますが、まだフィーチャーフォンの市場も大きいですので、STYLEシリーズとPRIMEシリーズの2機種を投入しました。
スマートフォンは、先進性を求めたモデルが「SH-12C」、日常利用を考えたモデルが「SH-13C」という位置付けです。一方のフィーチャーフォンは、先進性を求めつつもiモードを使いたいユーザーに向けた「SH-10C」と防水コンパクトな「SH-11C」の2機種をラインナップしています。
――では、まずフラッグシップモデルとなる「SH-12C」の特徴から教えてください。
三枝氏
最も大きなところでは、3D対応ということで、立体視写真を撮影できるツインカメラを搭載しました。このツインカメラは、エンジニア陣の苦労がやや伝わりにくいかもしれません。というのも、「ただカメラを2個搭載したから3Dになる」というような簡単な話ではないからです。たとえば左右のカメラでカラーバランスが少しでも違うと、不自然に見えてしまいます。デバイスの特性にわずかな個体差が存在する可能性もあり、そういった点も含め、2つのカメラでの撮影をシンクロさせる必要があります。さらに動画撮影時には、こういった処理をリアルタイムで行なうことになります。
ディスプレイも3D立体視に対応しました。2D表示時にはクォーターHD(QHD)、540×960ドットの解像度になります。前機種の「LYNX 3D」に比べると、解像度が上がったほか、視差バリアのシャッターを工夫しているので3D表示時にも見やすくなっています。
――今回、1.4GHzという高速なCPUを搭載したとのことですが、操作レスポンスも向上した印象です。
小林氏
画面がクォーターHDと、さらに高解像度になったこともあり、そのままですと、パフォーマンスが落ちてしまいます。そこで今回は、タッチパネルセンサー、ドライバーソフトなど、さまざまなチューニングを行ない、“サクサク”“ぬるぬる”といった操作感を実現しました。これまでは、指を素早く動かすと、その動きに追従する文字や画像が飛び飛びになってしまうことがあったのですが、今回はそのあたりも改善し、わずかに表示を遅らせても、“ぬるぬる”と、意識したとおりに操作できるようにしています。チューニングの時には、ハイスピードカメラを使って、画面を撮影して、インターフェイスの動きを細かく観察しましたね。
――AQUOS PHONEというブランド名ですが、液晶テレビ「AQUOS」との連携はどのようになっているのでしょうか。
三枝氏
AQUOSにHDMI経由で接続して、「SH-12C」の画面を出力する際、メニューやアプリなどのユーザーインターフェイスはクォーターHDサイズを、そのまま出力しています。しかし、写真や動画は元々の画像の解像度をできるだけ失わないよう、端末内部で720pで画像を展開し、信号を出力できるようにしました。このあたりはこだわった部分ですね。もちろん3DのHDMI信号も出力できます。
さらに今後のアップデートによる追加機能になりますが、「Smart Familink」というアプリにより、DTCP-IP対応のDLNAサーバー・クライアントが使えるようになります。たとえばブルーレイレコーダーに録画されている番組をAQUOS PHONEで再生できます。今夏発売の液晶テレビ「AQUOS Lシリーズ」(7月15日発売)ならば、AQUOS PHONEで再生中の静止画や動画を、指で上方向にはらうだけでAQUOSの大画面でご覧いただけます。これもDLNAの仕組みを使っています。
――もともとAQUOSブルーレイはモバイル転送用のファイルを生成する機能がありますが、それを利用するのですか?
三枝氏
それは別の機能で、関係ありません。録画したMPEG-2 TSファイルをそのまま再生させることができます。
■ワイヤレス充電対応のSH-13C
――続いて「SH-13C」についてご紹介をお願いします。
小林氏
こちらは発売が少し先となりますが、世界で初めて(IEC加盟の携帯電話メーカーおよび台湾の携帯電話メーカーの携帯電話機において。2011年5月16日調べ)、ワイヤレス充電の国際標準規格「Qi(チー)に対応した、充電方式を搭載するスマートフォンです。ワイヤレス充電の仕組みは電池側と同梱するワイヤレスチャージャー側に用意しており、電池単体での充電も可能です。サイズに関しては、防水でありながら、幅60mmを実現しました。
画面サイズは3.7インチと、手の小さめな方でも画面の端まで指が届きやすいサイズとなっています。SH-13Cはツインカメラではありませんが、世間一般のスマートフォンとしてはハイエンドの、800万画素CMOSカメラを搭載しています。もちろん「SH-12C」同様、パフォーマンスや基本機能も作り込み、こちらは発売時から「Smart Familink」にも対応します。マイクロソフトの著作権保護システム「PlayReady」にも「SH-12C」と同じく対応させました。
■シャープならではのAndroidでの取り組み
――今回もワンセグ、赤外線通信、おサイフケータイの日本仕様に対応されていますね。
小林氏
その3つが「日本仕様」として挙げられることが多いですが、我々はそれだけではないと考えています。赤外線通信で画像を送信できる機能や、簡易留守録機能といった機能も日本仕様として捉え、搭載しています。我々は、こうした携帯電話で親しまれている機能をスマートフォンにも搭載するのは当然と考え、かねてより搭載してきた機能なのですが、その後、このような取り組みをやっているところはあまりないらしい、と知って驚いたこともあります。こうした細かい作り込みも重要だと考えています。
以前から弊社は、電話帳の索引も“日本的”にしています。標準のAndroidの電話帳は、画面の右側に垂直方向の「あかさたな」やアルファベットの索引があって、そこをタップすることでリストを移動できます。この仕組みは、文字数が日本よりも少ない、欧米の考え方なのでしょう。一方、日本語の音を表わすひらがなは、50音ありますので、これまでのフィーチャーフォンと同じように、水平方向の「あかさたな」のタブで並べるようにしています。
電話帳のパスワードロックをかけられるのも、当社独自だけではないでしょうか。Android標準では、ほかのアプリから電話帳データベースを自由に参照できるようになっているのですが、シャープの電話帳は、ほかのアプリからのアクセス時にパスワードを求めることもできます。
いま、スマートフォンを取り巻く環境でスピード感が増しているので、どこまでカスタマイズすべきか、その都度、よく考えなければならないと思いますが、現時点で、こうしたシャープ独自のカスタマイズの完成度は高いと自負しています。
――そういえばAndroidのアプリ開発者と積極的にコミュニケーションを取っているそうですが。
小林氏
当社としては「シャープの端末でもアプリが動きますか?」という問いかけの意味を込め、開発者の皆様とコミュニケーションをとっています。たとえば、以前の当社製Android端末において、赤外線通信はインテント(Androidのアプリ間連携の仕様)に対応していませんでした。APIとして公開していたのですが、そこを開発者の皆様からアドバイスをいただいて、改良しました。インテントにすることで、アプリの開発者は、簡単に赤外線通信を利用できるようになっています。
また、初期のモデルで搭載していたモリサワ新ゴRフォントの文字幅の一部が、Android標準のフォントと異なり、表示がマッチしない場面もありましたので、Android標準フォントの幅に合わせる、といった改良も行いました。
こうしたノウハウをどうやって入手するかというと、アプリ開発者の皆様とコミュニケーションを取るしかありません。いかに開発者の方々の考え方に合わせた端末を設計するかが重要です。
フィーチャーフォンでは、アプリの互換性はキャリアさんが保証してくれますが、Androidではメーカーが面倒を見る必要があります。解像度がクォーターHDになったことにより、表示が崩れる可能性も出てきます。Androidは本来互換性が高いはずなのですが、それでも問題は発生します。こうしたところは、メーカーが見ていかないといけないかな、と思っています。
――今回、スマートフォンは全キャリア共通で「AQUOS PHONE」のブランドとなりましたが、その意図は?
小林氏
これまでもAQUOSとの連携は行ってきましたが、今回はさらに連携を深めています。この夏モデルから、AQUOSとの連携機能を搭載した当社のスマートフォンブランドをAQUOS PHONEと統一しました。さらに認知度向上がはかれれば、と考えています。
■PRIMEとSTYLEのフィーチャーフォン
――今回はフィーチャーフォンの「SH-10C」も3D対応となっています。
三枝氏
「SH-10C」は、これまでのPRIMEシリーズのモデルに比べ、3D対応が大きな進化ポイントです。カメラも1610万画素のCCDセンサーで強化していますし、防水性能も備え、イルミネーションも充実させた「AQUOS SHOT」に仕上げました。こちらは「フィーチャーフォンで従来のサービスを使い続けたい」という方に向けた機種という位置付けで、カメラ関連では、0.7秒起動や0.6秒間隔連写など、さらに注力したモデルです。
――STYLEシリーズの「SH-11C」はどのような端末になるのでしょうか。
三枝氏
どちらかと言えば、ケータイを頻繁に買い換えるのではなく、長くお使いいただく方に向けたモデルです。特徴は防水でコンパクトという点です。またデザイン面では、各カラーともにマット(つや消し)とグロス(つやあり)の2つの表面処理を組み合わせており、さりげなく、派手すぎず、上質感を演出しています。中身は「SH-10C」と同世代の最新機能を一通り搭載しつつ、2000種類のデコメ絵文字もプリセットしています。
独自機能として「まるごと音声パネル」を採用しました。これは、ディスプレイ面のパネルが震えて、通話時の音声を出すようになっています。ディスプレイの上にスピーカーのように見える模様がありますが、これは単なるデザインで、どこに耳を当ててもよく聞こえるようになっています。ただ、スピーカー風の模様がなければ「どこに耳を当てていいかわからない」という方もいらっしゃると思いますので、こうした工夫を凝らしています。
――フィーチャーフォンの2機種がこのような構成になった狙いは?
三枝氏
中長期的には、ハイエンドをお使いのユーザーを中心にスマートフォンに移行しつつありますが、フィーチャーフォンへの買い換えの需要も確実に存在します。そういった方が安心して使えるように、と考えました。
今回は「SH-10C」でカメラと3Dを特徴とし、一方の「SH-11C」は防水かつコンパクトに仕上げ長く使う方に向けた製品としていますが、当社のフィーチャーフォンのラインナップは、今回のようにニーズにあわせた“味付け”を行うよう心掛けています。スマートフォンが普及する流れの中で、フィーチャーフォンをどういった機種に仕上げていくのか、今後もよく考えていかなければいけないと思っています。
――一時期、携帯電話販売数の半分がスマートフォンになったという調査もあり、1年を通じた販売数でもスマートフォンの伸長も予測されていますね。
小林氏
私個人としては、スマートフォンはもっと拡大するのではないかと予想しています。特に買い換え需要を牽引するような、短い周期で買い換えする方は、一斉にスマートフォンへ移行しています。そのあたりが今年の販売状況に表われるのかもしれませんね。
――本日はお忙しいところありがとうございました。
2011/6/24 18:30