「Xperia arc」開発者インタビュー
デザイン、ソニーの技術、Android 2.3の三拍子そろった新端末
Xperia(海外での名称はXperia X10)の日本導入が発表されてから約1年。この春、待望の後継機がついに登場する。それが「Xperia arc」だ。8.7mmの薄さや、ソニーの技術を活かした機能が特徴で、他社に先駆けいち早くAndroid 2.3を搭載した。対応キャリアは未定だが、日本への投入も明言されている。この商品のコンセプトや開発の経緯を、ソニー・エリクソンのスウェーデン・ルンドオフィスでChief Creative Producer、Head of UX creationを務める黒住吉郎氏が語った。
ソニー・エリクソン、Chief Creative Producer、Head of UX creation、黒住吉朗氏 |
――Xperia arc、反響が大きそうですね。まずは改めて、この機種の特徴を教えてください。
黒住氏
特徴の1つは、デザインにあると思います。デザイナーが意識したのは“凛とした佇まい”です。弓を引くときのように空気が張り詰めた感じで、ピンとしているが心はどこか落ち着いている。それをイメージしたのが、このXperia arcです。「端末がアーチだからarcなんですか?」とよく聞かれますが、もちろんそれもあります。ただ、デザイナーは、ものすごくフラットな液晶側と、カーヴァーチャー(緩やかな曲線)を配した背面を組み合わせることで、張り詰めた中の安心感、安定感から生まれるやすらぎを表現しています。
このデザインで、Xperia arcは一番薄いところが8.7mmです。厚いところでも11mmで、非常に気持ちのいいものができたと思います。当初はそこまで意識していませんでしたが、中央部分を薄くすることによって、持ったときのバランスもよくなりました。
また、薄いからといって、中身を削りたくはありませんでした。特に、我々ソニー・エリクソンは、ソニーグループの一員でもありますから、カメラやディスプレイには絶対的自信を持っていますし、だからこそいいものにしたい。まず、カメラの性能から説明すると、画素数は8.1メガで、720pのHDビデオが撮影できます。ソニーの「Exmor R for mobile」という裏面照射型センサーを使っているので、暗い場所でも、キレイな写真を撮ることができます。操作感に関してもこだわっていて、撮影スピードもかなり上がりました。状況にもよりますが、撮影間隔は恐らく1秒を切っています。
最薄部はわずか8.7mm | 720pの動画撮影対応でUIにもこだわったカメラ |
ディスプレイに関しては、BRAVIAの画質処理技術を携帯電話用に最適化した「モバイルブラビアエンジン」を搭載しています。ノイズが少ない、シャープネスがしっかり利いているのは、このエンジンのお陰です。それと、視野角が広いですよね? なぜここまで見えるのかというと、このディスプレイは、ガラス面と液晶面がピッタリ張り付いているからです。光の屈折がほとんどないんですね。しかも、液晶が表面に近いことで、明るさも減りません。
OSには、Android 2.3を採用しました。Xperiaを日本に投入したときはAndroid 1.6でしたが、OSとしては半周ぐらい遅れていました。つい最近Android 2.1にアップデートはしましたが、やはり、OSは普及すればするほど、新しいものの方がよくなるんですね。さらに、Androidの場合は、新しい方が使えるアプリも増えるという、メリットもあります。ですから、我々も最新バージョンのOSには積極的に取り組んでいきます。CESに合わせて発表された端末を見渡してみても、Android 2.3の機種はほかにありません。これまで以上にGoogleと積極的に関わることで、いち早くローンチにこぎつけることができました。
――Googleとの関係という意味では、Xperiaの経験には大きな意味があったのでしょうか。
黒住氏
大きいですね。我々もこれまで、SymbianやWindows Mobileをやってきましたが、メインのラインには自分たちの専用のOSを使っていたんですね。そこに初めてオープンOSを入れたのが、Xperiaでした。ただ、初めての経験だったため、我々にも知らないことや、どうやっていいか分からないことがたくさんありました。もちろん、ベストは尽くしましたが、行き届いていない部分もありました。その辺りのことをちゃんと学びつつ、分からないことはすぐにGoogleに聞けるような関係も築くことができました。
「Mobile BRAVIA Engine」対応のディスプレイ | OSには最新のAndroid 2.3を採用する |
――Xperiaで打ち出していたアプリの1つである「Mediascape」がなくなりましたが、その理由を教えてください。
黒住氏
中身に関して言うと、Xperiaの時は「Timescape」というアプリがあり、どうソーシャルサービスを統合していくのかというのがテーマでした。同じコンセプトで、色々なメディアを統合する「Mediascape」も載せ、これらのアプリケーションを前面に打ち出しました。今回は、これらのアプリケーションを前面に打ち出しました。今回は、これらのアプリの課題点を解決し、良いところをさらに進化発展させることに注力しました。その一つがアクセスの改善だと思います。
そこで、今回はメディアアプリをウィジェット化してホームの1画面にまとめて置くようにしました。たとえば、画面上にあるミュージックプレーヤーのウィジェットは、直接再生などの操作ができますし、曲に合わせて背景が動いたりもします。ミュージックプレーヤーも、ここをタッチするだけで起動します。また、今回は、プレイリストの新規作成にも対応しました。イコライザも搭載しています。小さなこだわりかもしれませんが、オーディオ・ビジュアルを押している我々としては、この機能は絶対に外すことができません。
音楽、写真、動画はウィジェット化した |
ウィジェットという意味では、オリジナルのものをたくさん入れています。まだ開発中ですが、天気予報のように、普通に「あるといいな」というものを揃えました。
――一方で、写真や動画の管理をAndroid標準の「ギャラリー」で行うように変更しています。独自ソフトとOS標準のバランスは、どう取っているのでしょうか。
黒住氏
ギャラリーとMediascapeのフォトを、機能で比べてみると、できることはほとんど同じです。一方で先ほど申し上げたように、最新のOSにはいち早く対応していかなければなりません。同じレベルの機能なら、我々のものを無理に使う必要はありません。ソニー・エリクソンらしいデザインのウィジェットを用意して、導線を作れるのであれば標準のギャラリーでもいいのではないか。この辺りは、非常に現実的に考えています。こだわりすぎて、ユーザーが必要なものを見失ってしまうのもいけないと思うんですよね。
――使えるものは使うという判断ですね。
黒住氏
ただし、それをどうインテグレートするのかというところへのこだわりは、ちゃんと持ち続けたいですね。たとえば、ホーム画面にある音楽ウィジェットからは音楽プレーヤーに飛べますし、フォトウィジェットからはギャラリーを開けます。このウィジェットが1つの画面にあれば、機能的にはMediascapeと同じ挙動になるんですね。ユーザーさんが一番使うのはホーム画面なので、そこに工夫を加えたいというのもあります。
アプリの一覧は利用頻度などでソートできる |
――ほかには、ホームアプリにどのような仕掛けを盛り込んだのでしょうか。
黒住氏
ピンチでウィジェットの一覧が表示されるようにしました。タッチするとそのペインに飛ぶことができます。小さな工夫ですが、アプリケーション画面をアルファベットだけでなく、利用順や利用頻度などでソートできるようにもしています。フォルダ機能にも手を加えました。ホーム画面でアイコンを合わせるだけで、すぐに作ることができます。
――いち早くAndroid 2.3をサポートしましたが、今後のアップデートに関する方針はありますか。
黒住氏
アップデートは難しい問題ですよね。AndroidのリリーススケジュールがGoogleさん次第というところもあり、お約束しづらい部分です。もちろん、もしこのデバイスでアップデートできるようなリリースであり、必要だと感じるようなものであれば、ベストを尽くしたいですね。ただ、Xperia arcのアップデートに関して、何か言うのは時期尚早だと思います。
――ちなみに、プレスリリースではCPUの型番が公開されていませんでしたが、クアルコムの「MSM8255」(1GHz)ということでよろしいでしょうか。
黒住氏
はい。その通りです。ですから、第一世代のSnapdragon「QSD8250」を使ったXperia X10と比べるとオプティマイゼーション(最適化)が進んでおり、動作スピードや消費電力等が改善されています。
結果として、バッテリーのもちもかなりよくなりました。この要因の1つが、プロセッサーの性能です。2つ目が、Android 2.3の電力管理がきちんとできていること。3つ目がディスプレイで、明るいですが消費電力は低く抑えられています。具体的な数値は言えませんが、有機ELと比べても遜色ありません。
――そう考えると、Xperiaから劇的に改善されることになりそうですね。
黒住氏
そうですね。一気に10倍になるほどの劇的さではありませんが(笑)、体感的に長持ちしているとはっきり分かるレベルです。
――Android 2.3はNFCを標準でサポートしています。日本向けにおサイフケータイを開発しているソニー・エリクソンさんに対する期待はかなり高いと思うのですが、Xperia arcが非搭載なのはなぜでしょうか。
黒住氏
1つはサイズへの影響です。チップを入れるぶん、どうしても大きくなってしまいますからね。もう1つが、日本市場では別にして、世界市場ではNFCのような近距離通信がまだ一般的にはなっていません。今後は積極的に取り組んでいきたいと考えていますが、Xperia arcに関しては機能としてサポートしないということです。
ただし、OSレベルでNFCがサポートされたことで、FeliCaも入れやすくなります。Googleもこの機能を入れるときに、日本市場のことは絶対に意識したはずです。今後、市場は広がってくるはずなので、その機は逃したくないですね。日本向けのケータイを開発していたノウハウも生きてくるはずです。
――本日はありがとうございました。
2011/1/12 06:00