「GALAPAGOS」開発者インタビュー

シャープがデバイスからコンテンツ販売までを手掛ける狙い


 シャープはメディアタブレットと銘打つ端末「GALAPAGOS」の2モデルを発売した。スマートフォンではないが、無線LANによる通信機能を内蔵しており、コンテンツストア「TSUTAYA GALAPAGOS」からコンテンツをダウンロードして閲覧できるという、新しいプラットフォームのタブレット端末だ。シャープ自身がデバイス開発から販売、コンテンツ流通までを手掛けているという点も新しい。

 今回はこのGALAPAGOSの開発を担当したシャープのネットワークサービス事業推進本部 商品企画担当 チーフの松本融氏と同担当 係長の笹岡孝佳氏に話を聞いた。

――まずGALAPAGOSの製品概要とコンセプトの紹介からお願いいたします。

モバイルモデル(左と中央)とホームモデル(右)

松本氏
 今回、シャープとしては初めて、デバイスからサービスまでの一気通貫の仕組みを作りました。まずは電子書籍から展開します。モデルとしては、通勤中にも片手で読める5.5型ディスプレイのモバイルモデル、大きな画面でコンテンツをじっくりと楽しめる10.8型ディスプレイのホームモデルの2タイプをラインナップしました。通信機能としては、両機種ともにIEEE801.11b/gの無線LANに対応しています。価格はモバイルモデル(EB-W51GJ-R/-S)が3万9800円、ホームモデル(EB-WX1GJ-B)が5万4800円になります。

 今回、シャープのコンシューマー製品としては初めて、直接、弊社からお客様に商品をお送りするという販売スタイルを採ります。GALAPAGOSとは、端末とサービスを一体でお届けするものです。お客様のニーズをダイレクトにとらえ、お客様のお声をいち早くサービスに反映していきたいと考えました。

 店頭などで申込書をお持ち帰りいただき、それを郵送いただくかインターネットお申し込みいただきます。弊社からは本体とIDとパスワードを届けし、登録してお使いいただく、という仕組みになります。

 量販店様やコンビニエンスストア4社様の約2万4000店にも取り次ぎしていただき、お客様の生活圏内で申込書が手軽に入手いただけるようにしています。あとは提携しているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)さんが展開している「TSUTAYA」の店頭などにも、コンタクトポイントを増やしていく考えです。

――シャープ自身がデバイスだけでなくコンテンツ配信サービスまでも設計される狙いとは?

シャープの松本氏

松本氏
 そもそもGALAPAGOSで目指しているサービスの考え方としては、日本発の、日本ならではの「おもてなしの心」を活かしたきめ細やかで優しいユーザーエクスペリエンスのサービスを作っていこう、というのが目標となっています。

 今まで欧米から広がってきたインターネットの文化は、いわゆる「プル型」で、キーワードで検索したり、自分でダウンロードしてくるなど、比較的リテラシーの高い人が能動的に「取ってくる」という使い方が中心でした。GALAPAGOSでは、その使い方を前提としつつも、「プッシュ型」の配信をサービスに取り入れます。朝起きたら、お手元のGALAPAGOSに新聞の朝刊が届いている、そういった新しい“書籍体験”を、普段の生活習慣の中へ提案していきたいと思います。そのために、今回はハードウェアからプラットフォーム、サービスまでの一気通貫の仕組みを作りました。

 プッシュ型の自動配信サービスにより、定期購読している新聞や雑誌は、発刊日に自動で端末に届きます。さらに「おすすめ」として、プッシュでさまざまな情報をお客様にご提案する仕組みもあります。

ホーム画面にあたる「デスク」

――ホーム画面にあたる「デスク」にはどのような機能があるのでしょうか。

笹岡氏
 ホームにあたる「デスク」には、「未読・おすすめ」「最近読んだ本」「お気に入り」「定期購読」の4つの“本棚”に見立てた画面があります。

 まず「未読・おすすめ」では、未読の書籍を表示するとともに、お客様に新たな書籍との「出会い」を提供する場と考えています。

 また、書籍を電子化することで、何冊もの本を持ち歩くことが容易になるので、たとえば行きの電車ではビジネス雑誌を読み、帰りの電車では小説を読む、といったように「併読」が重要な要素となります。「最近読んだ本」により、こうした併読もしやすくなります。

 このほか、読みかけの本ではなくても、何度も読んでいる本をいつでも読むための「お気に入り」、新聞や雑誌を手軽に読める「定期購読」、このような4つの画面で提案しています。

――「おすすめ」とはどのような機能になるのでしょうか。

笹岡氏
 「おすすめ新着」として、購入いただいたもの以外にお客様にあったおすすめ書籍の情報もプッシュ配信して、「未読・おすすめ」の棚に表示します。お客様に対して、効率の良い本探しの方法を提供してまいります。

 これと似た機能としては、「アプリケーションランチャー」を表示させたとき、広告エリアが表示されるようになっています。ここでは、GAPALAGOS購入時の申込書を持ち帰った店舗の広告と一般広告を提供します。

本体下端にmicroSDカードスロットがある

――たくさんの書籍を保存した場合、デスクからは探しにくくなると思いますが、その場合は?

笹岡氏
 基本的にコンテンツはデスク中心に管理していただけるようになっていますが、大容量のmicroSDメモリーカードを使えば、たとえば小説ならば数万冊を登録することができてしまいます。そうなるとデスクで探すのは大変になるので、タイトル順や著者順、タグ管理などもできる「ブックシェルフ」の用意しています。普段読むであろう可能性の高いコンテンツは、「デスク」に集約されますが、そのほかの蔵書は「ブックシェルフ」に置かれている、というイメージです。

――電子書籍ビューアとしてはどのような機能があるのでしょうか。

シャープの笹岡氏

笹岡氏
 シャープとしてXMDFの電子書籍に10年来取り組んできましたので、その部分をベースにしつつ、新しい提案をできないか、と考えました。GALAPAGOSが搭載する次世代XMDF対応のビューアでは、たとえば雑誌などではレイアウトをそのままに本文段落の文字だけを拡大したりとか、文字だけを抜き出して画面に表示して読み進めたり、あとはマルチメディアの定番として動画や音声と組み合わせたコンテンツも扱えます。

 これ以外にも当然、電子ならではの便利さや使いやすさとして、たとえばビューアから辞書を参照できるとか、本文にマーカーを引けるといった機能もあります。

――電子書籍ビューア以外のアプリはどのようなものがあるのでしょうか。

笹岡氏
 電子書籍ビューア以外には、WebブラウザとTwitterとmixiの専用アプリ、オリジナルのゲームパックがプリインストールされています。

――パソコンと連携させる機能は?

笹岡氏
 パソコン用アプリケーションソフト「GALAPAGOS Station」をご提供しています。蔵書管理機能や同期機能、ストア機能などがあり、さらに便利にお使いいただけるようになっています。もちろんGALAPAGOS単体でもコンテンツの購入やダウンロードは可能なのですが、「GALAPAGOS Station」と接続することで、中に入っているデータをバックアップすることができます。

 GALAPAGOSには8GBのmicroSDHCメモリーカードが同梱されています。あくまでも目安ですが、新聞であれば約1年分、月刊誌であれば約3年分、小説であれば約1万冊分を保存できます。雑誌などの画像の多いコンテンツをたくさん購読される方は、すぐにいっぱいになってしまうことも考えられますので、持ち出したいコンテンツだけを持ち出し、それ以外をパソコンで保存できるようにしました。また、パソコンの画面で書籍を確認し、購入できるようにもなっています。

――GALAPAGOSの販売の流れはどのようになっているのでしょうか。

笹岡氏
 端末購入には、店頭で受け取った申込書をお使いいただきます。郵送もしくはインターネットで受付を完了すると、数日の内に商品が宅配便で送られてきます。このとき、GALAPAGOS本体に加え、ユーザーIDとパスワードも送付されます。これが届いてから、お客様の手でアクティベート作業をしていただく形になります。WPSやAOSS、もしくは手動で無線LANの設定をしていただき、インターネットに接続されると、自動でアクティベーション情報画面が表示されるようになっています。そこで同梱のIDとパスワードを入力すれば、認証が完了します。

――2機種をラインナップされていますが、どちらが人気があるのでしょうか。

松本氏
 いまのところ、だいたい6割がモバイルモデルになっています。当初はもっとモバイルモデルの方が多いかな、と予想していたのですが、ホームモデルも予想以上に人気が高いことがわかりました。

実店舗の書店の楽しさを取り入れたコンテンツストア「TSUTAYA GALAPAGOS」

TSUTAYA GALAPAGOSトップ画面

――電子書籍の販売ストアはどのようになっているのでしょうか。

松本氏
 CCCさんと合弁会社を作り、ストアサービスの「TSUTAYA GALAPAGOS」を展開しています。サービス開始の現時点では、ビジネスパーソンをターゲットとした新聞とビジネス誌の定期配信が特徴になっています。一般紙では「日本経済新聞 電子版」と毎日新聞社の「Mainichi iTimes」、地方紙で西日本新聞社の「西日本新聞 超特Q」を揃えました。1月にはスポーツ紙の「スポニチ」の配信も開始予定です。ビジネス誌としては、週刊ダイヤモンド、日経ビジネス、東洋経済、エコノミスト、PRESIDENTという5大ビジネス誌を揃えています。雑誌によっては定期購読していただくと、単品購入より安くなるものもあります。このほかの一般の雑誌についても、さまざまなジャンルから取りそろえています。「ゴルフダイジェスト」や「Marine Diving DIGITAL」などは、XMDFの機能を活かし、動画も使った次世代の雑誌として配信されています。

 一般書籍としては、現時点で2万4000冊ほどを揃えました。しかし毎週ドンドン新着が届いている状態です。いまの段階ではシャープが中心となってアグリゲートしたコンテンツですが、今後はCCCさんがアグリゲートしたコンテンツも提供していく予定です。

笹岡氏
 新しい書籍習慣を実現するための仕組みを提供します。といっても、まったく新しいものではなく、従来の書店の店内になる「島」や「通り」、「平台」といったものを参考にして、書店をぶらりと歩いて立ち読みする、という感覚を再現しました。

 その仕組みとして、実店舗で言う「島」や「通り」のような、「スクエア」というものを設けました。まず「丸の内」「白金」「神田」の3つのスクエアが用意しています。「丸の内」はビジネスパーソンを、「白金」は女性向け、「神田」は文学好き、といったテーマを設け、それぞれにあった書籍や雑誌を集めています。それ以外にも、実店舗の「平台」にあたる「特集」も設けています。

TSUTAYA GALAPAGOSの画面

――データを大量にストックできる、といったこと以外にコンテンツを電子化する魅力とは?

松本氏
 当社のサービスは、プッシュ型の自動配信できること、が大きいと考えています。購読しているものが自動で届くのはもちろんですが、「おすすめ」という形でリコメンドされる機能も魅力です。

 この「おすすめ」機能を今後も発展させれば、ユーザーニーズに高い精度で合致したメディアとの接点が作れます。これを利用したビジネスも広がるのでは、と考えています。

――雑誌や新聞は電子化することでバックナンバーの保存しやすさがメリットになるかと思いますが、このあたりの機能はどうなっているのでしょうか。

松本氏
 たくさんのコンテンツを場所をとらずに保存し、持ち歩けるようにすることにより、お客様の書籍体験を今まで以上に豊かにできるのではないかと考えています。

 ただ、「日本経済新聞 電子版」だけは、1週間経つと自動で消えていく仕組みになっています。過去の記事の参照は日経さんに登録のIDを使ってケータイやパソコンでしていただけます。

――過去記事を串刺し検索する機能は?

笹岡氏
 悩んだところなのですが、たとえば小説などは1万冊とかを保管することができるので、すべてを串刺し検索してしまうと、不要なものが大量にリストアップされてしまい、かえって探しにくくなるので、現時点では串刺し検索機能は搭載していません。どのような機能が必要とされているかを見極め、進化させていきます。

――新聞や雑誌は、スクラップブックを自分で作れると便利だと思うのですが。

松本氏
 XMDFの仕組みとして、記事のIDで管理する機能があります。今は雑誌や新聞の形でパッケージングしてお届けしていますが、これをほどき、記事単位での配信や管理も仕組み的には可能です。配信後に一部の記事だけを更新する、といったことも可能です。これらの機能をどのようなビジネスにしていくかは、新聞社さんや出版社さんとご相談しながら、検討してまいりたいと思います。

スマートフォンなど他機器にも展開

――今回は無線LANを搭載していますが、たとえば3G回線搭載のモデルもあり得るのでしょうか。

松本氏
 ビジネスモデル次第だと思います。今回、GALAPAGOSがフォーカスしているのは、電子ならではのリッチなカラーのコンテンツです。100MBを超えるコンテンツも扱わなければいけないので、そうなると通信コスト的に無線LANでサービスを提供するのが現状では良いと考えています。

――現在は電子書籍の販売をされていますが、今後、電子書籍以外への展開は?

松本氏
 電子書籍だけではありません。まずは電子書籍を軸としていますが、それを中心とし、これからは、さまざまなメディアや用途に展開していきます。しかしそれでも、電子書籍が「出発点」になると考えています。たとえば音楽や映画を購入するとき、まずはそのコンテンツの情報を参照してから買うかどうかを決めると思います。このような購入への導線として、電子書籍は重要だと思います。また、春には動画配信も開始予定ですが、逆に動画から書籍につなげることもできます。そういったソリューションをどんどんアップデートして追加していきます。

――GALAPAGOSのソフトウェアアップデートはどのように行うのでしょうか。

松本氏
 端末にお知らせが表示され、お客様がGALAPAGOS上で操作するだけでアップデートできます。

――動画の配信をやられるとなると、売りきりではない、レンタル形式への対応も?

松本氏
 そこはもちろん考えています。動画にはレンタルが不可欠だと思いますので、当然そこはそのモデルが入ると考えています。

――海外で普及しているePUB形式への対応は?

松本氏
 現在はストアで扱えるコンテンツがない状況なので、まだ搭載していません。ストアで販売できるコンテンツが集まれば端末側もアップデートして対応していくという考え方です。

――シャープは複数キャリアに多数のスマートフォンを提供中で、とくにソフトバンクからは同じ「GALAPAGOS」のブランド名で展開されています。それらのデバイスとコンテンツの互換性はあるのでしょうか。

松本氏
 弊社製のスマートフォンについては、来年春を目処にアプリを提供し、TSUTAYA GALAPAGOSのサービスに対応予定です。

――動画配信が始まれば、今後はAQUOSでも見られるようになったりするのでしょうか。

松本氏
 動画となると、コンテンツの許諾を含め課題が多いですが、基本的には一度購入したコンテンツはどの端末でも視聴できるようにしたいと考えています。

 コンテンツに限らず、さまざまなデータをクラウドに置き、さまざまなデバイスで使えるようにする、ということがベースの考え方になります。

――シャープ以外のデバイスにもGALAPAGOSの配信プラットフォームを展開したりするのでしょうか。

松本氏
 当然、あり得ると考えています。

――コンシューマが作ったコンテンツ、たとえば同人誌のようなものが入り込む余地はあるのでしょうか?

松本氏
 まだどう展開すればいいのか、というのを検討している段階ですが、そのあたりもうまい仕組みを考えていければと思います。

――本日はお忙しいところありがとうございました。



(白根 雅彦)

2011/1/5 13:03