インタビュー

ドコモ加藤社長に新料金プランを聞く

ドコモ加藤社長に新料金プランを聞く

音声定額で新たな体験、ライフステージにあわせたデータシェア

 4月10日、ドコモは新料金プランを発表した。6月1日から提供される、この「カケホーダイ&パケあえる」は、通話定額やデータシェアを組み合わせるプランであり、これまでの料金プランとは異なる概念を積極的に採り入れたもの。一方で、既存プランは継続利用できるものの、構造が大きく変化することで、割高に感じたり自らにフィットしたプランを見つけづらく感じて複雑さを受け止めているユーザーも少なくない。新プランの考え方、背景について、あらためてNTTドコモ代表取締役社長の加藤薫氏に聞いた。

料金の複雑さ、増え続けるトラフィックに対して

――先日の発表会では「ライフステージにあわせて」という話でした。

加藤氏
 発表会では3つの要望があるとお話ししました。普及の度合いという切り口からすると、新規契約がぐんぐん伸びているときはともかく、成熟してきたときには他社から獲得しなければいけない。その結果として、(今春は)キャッシュバック合戦になったところがありますよね。それに対して長期契約者にとってメリットがないのか、と不満を持っている方が際立ってくる。そういう背景がありました。

 LTE方式のXiになって、スマートフォンが拡がってきましたが、料金は長い歴史があります。FOMA時代、いろんな基本料金で一定額の無料通話分がありました。そしてパケットは定額になった。それで何が起こったのか。パケット定額によって、1%のユーザーが通信全体の1/3を消費する状況になったのです。

 一方、料金プランについては、FOMAが複雑でしたので、LTE方式のXiでは、ものすごく単純にしました。一方で、FOMAの無料通話分をどう考えるか。あの時点では自網内は定額にしました。料金は約700円ですね。そしてパケット通信には、一定量に達すると速度制限をかけて、超過する場合は追加料金という半従量型にしました。

 そして今回はどうなったか、ということになるのですが、これまでの流れの中で“過去に戻る”人もいる。無料通話分が欲しい方です。30秒20円(税抜)はつらいと。だからバンドル(無料通話分)はないですかという声がありました。たとえば2000円という料金で5000円分の無料通話分といったものです。そういう声をたくさんいただきました。

 「じゃあ、どうしよう、そういうオプションを作ろうか、しかし複雑になる、では何がいいんだろう」と。

 今はファミリー割引によって、メールや通話が家族間では無料です。このファミリーという概念では、個々人が契約して、バンドル/無料通話分を寄せ集めて、融通しあうことはあり得るだろうかと検討しました。するとアメリカに似た例があると。パケットは分け合えたほうがいいかもしれないなと考えました。米国ではARPU(ユーザー1人あたりからの収益)が高いのに通話定額になっています。これは(通話定額やデータシェアが)できるのではないかと検討を進めて、既に無料通話分、ドコモ内定額という取り組みを踏まえて、その先があってもいいんじゃないかということで、新プランの形になったのです。ここに至るまでは、本当にいろいろと議論しました。

通話の本質的な魅力を

――通話定額の基本プランだけではなく、無料通話分付きのプランもあわせて提供する、というアイデアも当然議論されたと思いますが、それを実施しなかったのはなぜでしょうか。

加藤氏
 それってまた、ものすごく(料金プランが)複雑になります。音声についてはもう定額でいこうということです。もちろんその(料金の)レベル感も議論しました。長く検討してきたんですが、その途中でソフトバンクさんが新プランを発表されました。そこで示された、通話回数や通話時間を制限するというのも1つの考え方だなと。

 でもそういう(制限のある)通話ってどうなんでしょう。それとは別に、もう一度考えてみよう。音声のコミュニケーションとは何か。それは原点だよね、“テレ”コミュニケーションですよと。実際に顔を合わせて時間と空間を共有しながら話す、という形は、やっぱり人間らしいというか動物にとっての一番のコミュニケーションです。会えない場合、今はメールやチャットなどいろいろありますが、ある程度、相手の表情が感じられるコミュニケーションが大事ではないか。ならば定額でやれないか。その水準でやれないかと考えたのです。

――一方、今までのプランは30秒20円で、無料通話分がない、という形は、ユーザーにとっては「音声通話を使わないで」と自然に誘導される構造だったと言える気もします。

加藤氏
 確かにそういうスキームかもしれません。

――そこへ「通話って魅力があるよ」という提案が受け入れられるかどうか。この点はいかがでしょうか。

加藤氏
 (その指摘は)あるかもしれません。今はLINEでいい、という話になると思います。一方で、今回はドコモ内定額の拡張版でもあります。ある意味、これまで従量の分(通話料)が高かったかもしれないという反省を含めて、そういう声も活かしての形となっています。高いという指摘もあるでしょうが、通話定額というものをどれくらい楽しんでいただけるか。その価値をにわかに感じ取れないかもしれませんが、これまでの環境は一面の事実ですが、ここで慣れていただく、そういう見直しを心理的をやっていただけるようなアプローチもしたいと思っています。

――確かにパケット通信は、かつて「パケ死」という言葉があったような従量制の世界にパケット定額制が登場して、コンテンツの利用スタイルなどが大きく変わりました。

加藤氏
 ええ、変化しましたよね。

――なるほど、通話定額が導入されることで、新しい体験が生まれることも予感させますね。

既存プランの新規受付終了、「柔軟性を」

――9月になると既存のXiのプランは新規受付を終了し、新料金プランだけ契約できる形になります。既存ユーザーは今のプランを継続利用できますが、「新プランしか選べない」という形は、ちょっとびっくりしているユーザーもいるのかなと思います。

加藤氏
 構造が大きく変わりますからね。

――これしかない、という受け止めをしているユーザーもいるのではないかというところで、そのあたりもドコモ内で議論されたと思います。

加藤氏
 今はまだ予定とお伝えしているように、いろいろなことを考えなきゃいけないと思っています。どれくらいの反響があって、どれくらいの要望があり、移行してもらえるのか、よく見ていきたいと思っています。

――8月末でXiの既存プランの新規受付終了、という話はこれで決まりであり、動かしようがない、というわけではないのですね。

加藤氏
 そこは柔軟性を持たせようと思っています。プロモーションを含めてコミュニケーションを図っていく必要があると思っています。

――Xiの料金プランは将来的に新プランへ一本化される考えですか。

加藤氏
 はい、そうしたいです。ただFOMAのプランがあります。フィーチャーフォン(iモード端末)ではそこまでパケット通信はしないものの、家族のグループに入る形にしています。フィーチャーフォンでは、既存プランの受付を継続しつつ、新プランにも入っていただける形にしました。無料通話分がいいのか家族で入るのがいいのか、選択肢を設けています。検討いただいて選んでいただければと思います。

――Xiの既存料金プランは継続利用できる形です。

加藤氏
 はい、ずっと継続していただけます。

――今の段階で、いついつまでに既存プランを終了するという考えは?

加藤氏
 それはないですね。

――柔軟性という意味で、音声定額のプランに加えて、別の基本プランという考えはありませんか。

加藤氏
 音声のほうは定額という形で一本化させていただこうと思います。(定額プランとして)決して高くないと思いますし、テレコミュニケーションの基本である音声コミュニケーションを楽しんでいただければと思います。

――ちなみにXiトーク24の利用率はどれくらいだったのでしょうか。

加藤氏
 具体的な数値は非開示です。ただ(Xi音声ユーザーの)半分以上は利用してもらえました。

VoLTEで音声通話はどうなる?

――音声定額を実現できた、あるいは実現したのは、技術的な裏打ちというか、市場シェアというところからでしょうか。

加藤氏
 料金施策という面(が強い)かもしれませんね。市場シェアが大きいというのも1つでしょう。もちろんパンクしたらどうするのか、という点はあるでしょう。一方、パケット通信がスマートフォン時代になって激増しています。iモード自体はテキストベースでしたが、今は画像をふんだんに使って表現力豊かなコンテンツが主流です。そうした通信トラフィックの負荷のほうが大きいのです。音声通話の負荷は回線交換フォールバック(CSFB)という仕組みですが、VoLTE(LTE上でパケット通信による音声通話、品質は確保される)になれば、音声は、1/3程度に圧縮できそうだとみています。これまでの自網内の経験ももちろん踏まえています。

――音声コーデックで1/3になるのですか。これまでと同じ品質ですか?

加藤氏
 いえ、品質が良くなって、です。技術の進歩ですね。

――VoLTEと通話定額は直接関係ないのですか。

加藤氏
 はい、関係はありません。どこかで「VoLTE時代を見据えた」とおっしゃったところもありますが(笑)。

――通話定額をスタートしてからVoLTEが導入されると、通話の魅力はより高まることになるのですか?

加藤氏
 はい。ディレイ(遅延)が短くなり、品質はよりクリアになります。

パケットパック、単身者向けは「ずいぶん悩んだ」

――データシェアについてもお伺いします。たとえば個人向けの「データM」「データS」は、これまでの7GBという基準が5GB、3GBが2GBになったようにも見えます。もちろん料金はその分安くなっていますが、時代の傾向としてトラフィックが激増している中で上限値を下げる形にしたのはなぜでしょうか。

加藤氏
 利用スタイルはいろいろですよね。7GB、3GBも要らない人もいれば足りない人もいる。足りない方は1人で10GBのパックを契約する方法もありますが、ご家族で使う方、使わない方で平準化しつつシェアするという形はいかがでしょうかと。使わない月、使う月ということもあるでしょうから、シェアパックは複数用意して、2GB単位から1GB単位へと容量を細かく追加できる形にしたわけです。来月からこっちが安いとそうなるようにしたつもりです。

――1GB/1000円で追加できるようにしたのは、そういう考えがあると。

加藤氏
 家族単位でシェアしていただくとずいぶん安くなると思います。

――家族では確かにおトクになるケースがあると思いますが、単身者、少数人数の世帯にとっては割高に感じられるケースもありそうです。

加藤氏
 それはずいぶん悩みました。ですが、基本はシェアしていただきたいと。たとえば中学生で初めて持つスマートフォンは3500円で、U25割で3000円になります。そういうメリットから入りやすくして、ライフステージの変化にあわせていくと。U25では1GBのボーナスパケットもあります。こういう世界の中で、就職されて1人暮らしを開始したらこういうプランが選べる、結婚して世帯になれば別のプランはどうでしょうかという形で、長期契約者にも割引を用意してと……いう形です。

夏モデルはどうなる?

――今回、こうした料金になったことで、その料金にあわせた提案として、どういった新機種、デバイスが登場するのかという点も気になります。夏モデル、あるいはそれ以降はいかがでしょうか。

加藤氏
 夏ですか。もうすぐなので(細かくは)勘弁いただきたいんですが、また性能が上がったスマートフォンが出てきますよね。タブレットもあります。あとは……なんだっけな、ちょっとしたルーターもあるかな。多機能化した……。この話はこれくらい、これくらいで(笑)。

 ただ新料金プランは(夏モデルだけにあわせたわけではなく)長い期間を見て提供するものです。まずは立ち上げて、いろいろな意見を拝見しながら(料金は)基本中の基本ですから、きっちりと育てていきたい。そういう意味では、若い人、長期契約者、家族、カケホーダイ、データ専用プラン、ウェアラブル、シェアパックといろいろ見ているつもりです。一定の全体感はお示しできたかなと思います。

長期契約者向けの施策は

――海外には、一定期間利用すると機種変更しやすくする、という話があります。料金とは違いますが、長期契約者向けの施策としていかがでしょう。

加藤氏
 ええ、そういうものがありますね。検討はしていますが、まずは料金でいこうと。

――長期契約者向けの施策はこれで終わりではないと。

加藤氏
 いろいろと考えないといけないと思っています。

これからの礎になるプラン

――総務省で2020年代を見据えた議論が進められています。未来像を見たとき、今回のプランはどういう意味を持つのでしょうか。

加藤氏
 かねてから我々はサービスに注力して、お客さまの役に立ちたいと思っています。スマートライフという言葉はちょっとわかりにくいかもしれませんが、その礎になるプランだと思っています。サービス面で、利便性の提案ができるような、そしてそれを受け入れていただけるようなプランにしたつもりです。

 総務省での議論も吉澤(常務)が紹介しましたが、1つの大きな通過点である2020年の東京オリンピック・パラリンピックがあり、それまでにいろんなものが多様化していくでしょう。それえを支える規制、進める規制がありましたが、これからの将来に適した料金プランを事業者として考えたつもりです。

シニアへの提案、「イオンのスマホ」との関係

――先日の料金プランの会見では、MVNOも選択肢の1つという主旨の発言もありました。うがった見方かもしれませんが、たとえばドコモショップでMVNOのSIMパッケージを扱うなど、これまでとは違う、ユーザーとの接点の作り方が変化してくるのかなという考えもよぎりました。

加藤氏
 ドコモショップでMVNOさんの商品を扱う予定は今のところ考えていません。そういう意味で、お客さまの選択肢の1つとして我々のプランもありますし、通信速度や通信容量に制限はありつつ安価というMVNOさんのプランがあります。選べるプランの1つとして大変いいことだと思います。

――イオンで(Nexus 4とSIMカードのパッケージの)扱いが台数限定とはいえ、スタートしています。シニアに人気という話(※参考記事、総務省での討論で日本通信の三田社長がコメント)もありましたが、どう見ていますか。たとえば競合なのか、補完なのか。

加藤氏
 補完関係でもあり、競合するところもあるでしょう。我々の新プランではらくらくホン向けのものも含まれています。パケット通信量が200MBで少ないですが、お安くしています。とはいえ、イオンよりも高いという指摘もあるでしょう。

 でも、「これ、話し放題なんです」と提案できます。シニア層に向けて、お孫さんや親族、お友達、固定電話でも全てこれで(追加料金なく)お話いただけます、ということをイメージしていただいて、評価していただければなと思います。

――なるほど。今日はありがとうございました。

関口 聖