インタビュー
KDDI田中社長インタビュー
KDDI田中社長インタビュー
キャッシュバック、VoLTE、夏モデルはどうなる?
(2014/4/4 00:00)
この春、携帯電話市場は加熱する「キャッシュバック」が話題となり、不健全な競争状態にあるのではないかと指摘する声が大きくなっていた。また、3大キャリア各社でiPhoneが取り扱われるようになり、国内メーカーのAndroidも各社で出揃う格好となったことで、スマートフォンでの差別化が難しくなってきたこともトレンドの1つ。あわせて差別化のポイントとして、「繋がりやすさ」「接続率」などをキーワードにネットワーク品質も、各社が競ってアピールしている。
そんな中、シェア2番手となるKDDI(au)は、夏に向けて、ポイントと電子マネーを組み合わせた新サービス「au WALLET(エーユー ウォレット)」を開始する予定だ。
新年度を迎えて、KDDIの田中孝司社長に、他社との差別化や夏商戦に向けた取り組みなどを聞いた。
同氏は「端末の同質化は、iPhoneに関しては各社、同じになった。Androidはまだまだ差分が出る。ネットワークではLTE-Advanedを導入する予定で、もう1つテクノロジーが先に行くのは面白い。音声とデータが1つのパイプに流れ出すというのも、テクノロジー的にはいろんなことにチャレンジできる土壌ができつつあることになり、興味深い。CATVでもスマートテレビなどが受け入れられつつある」などと語った。
2つの流れ、どちらか見極めようとした春商戦
――昨秋のiPhone発売前にインタビューした際(※参考記事)には、「ネットワークとサポートで差別化し、次のステージはデータシェア」としていました。春モデル発売時にも他社との違いを打ち出す(※参考記事)としていました。あらためてここまでの流れを振り返って、その手応えはいかがでしたか。
田中氏
ざっくばらんに言うと、昨年の段階で、(ドコモの発表がある前から)ドコモさんがiPhoneを扱うことは想定済でした。そうなると差別化が厳しくなる。ユーザーにとっては、料金をひとまず置くと、やはり端末の魅力が鍵になるはずです。しかし日本市場は特殊で、iPhone(のシェア)が半分まで行く。既に国内は携帯電話の普及率が107%に達している中、各社で同じ端末を扱うようになったら、どう差別化するかが課題でした。
時期としても、いわゆるレイトマジョリティがスマートフォンを利用しはじめるところでした。そこで「サポートは1つの鍵になる」と考え、「auスマートサポート」を実施したのです。このサービスは有料でしたが、これも理由があります。つまり、ちょっとした差別化では埋もれてしまうんですよね。ですから、“尖っている”ことをやらなければいけない。一般的にサポートは無料だと思われるでしょう。でも、有料サービスにして、お客さまにとことん付き合おうという形にしたのです。
一方、端末はどうか。3M戦略のうち「マルチデバイス」がまだまだだと認識していました。ここで2つの道があるだろうと。海外を見るとPC文化が浸透しているところはタブレットがわりと拡がりやすい。一方、韓国のような市場はPCも拡がっているのですが、ファブレットが人気です。さて日本はどちらだろうと。
当社内では「データシェアに(ユーザーが)行くとタブレット」と見ていました。まずは、できるだけ料金を下げ、月額1050円で提供することにしました。その代わり端末価格はそのままです。その結果として、もう少し月額が高くても良いのではないか、とフィードバックが来ています。
もう1つがファブレット。春モデルで提供しました。この春商戦は、そのどちらが受け入れられるのか、というベンチマークだったんですね。
では結果はどうだったかというと、意外とばらけているんです。タブレットを求める方とファブレットが良い方と、どっちなのかよくわからない。意外といかないんじゃないかと思ったんですが、それなりにいった。一般的なスマートフォンの販売数ほどではないですけれども。タブレットのほうも数は少ないながら、前年比で倍くらいまで来ています。
――なるほど。
キャッシュバックが終わって、どういう展開になるかという点が今期(2014年度)の視点です。
海外と比べると、(スマートデバイスでは)韓国市場の動向は、日本と近いのです。スマートフォンの導入期、月間データ利用量は日本は世界で最も多かったんですよ。だいたい3GBを切るくらい。一方、韓国はそれよりも200MB程度、少ない程度だった。しかしスマートフォンが拡がって、アッという間に抜き去られた。あっちは「ザ・ビデオ」(動画)なんですよ。テレビも観られるし、映画もスマホで楽しむ。PCでのブラウザみたいな使い方というんでしょうか。今、日本はスマートフォン向けサイトを楽しむ形ですが、あちらはPC向けサイトをスマホでそのまま見ちゃうところもある。
ちょっと脱線しましたが、今年度はデータシェアのタブレット型、スマートフォンを大きくしたファブレットと、引き続き追いかけたいと思っています。どちらがいいかは、お客さまが決めること、ですね。
キャッシュバックはどうなる?
――キャッシュバックが終わって今年度の動向を注視する、ということですが、キャッシュバック施策は終了したのですか?
田中氏
3キャリアとも辞めたかったんだよね(笑)。健全ではないですし、外でも指摘の声が高まっている。もちろん長く続かないもので、年度末が区切りだと思っていた。なんとなく収束したというところです。
――各社が話し合ったり、総務省から指導があったというわけではないと。
田中氏
総務省から何かあった、という話が出ていたようだけど、そんなこともなかったし、ソフトバンクさんが3月中旬に(キャッシュバックを)辞めるという怪文書もありましたが、その後、もう一度、ソフトバンクさんは(キャッシュバックを)増額されています。最後までやってるのは、ドコモさんじゃないでしょうか。
――そういえば、ドコモ版iPhoneは、当初発表された端末価格がちょっと高めでしたね。
田中氏
そこがスタートですよね。月初めはドコモさんが(キャッシュバックを増額してアクセルを)踏むから、僕らはキャッチアップしなきゃ、という流れで、これまで来たんじゃないですかね。
――ドコモが積極的にキャッシュバックを実施したということですか。すると、ドコモ版iPhoneが登場するまで、MNPの流出が続き、他社の施策で痛手をこうむっていたからこそ反撃した、ということでしょうか。
田中氏
うーん、確かに寡占市場における競争ですから、いろんなものが極端に振れるというのは、他の業界でも歴史でも証明しているところはあります。
では健全な競争とは何でしょうか。たとえば新たなイノベーションが起こって新たな価値を訴求して、違った形態に変わっていくというのがポイントではないでしょうか。僕自身、社内に言っているのは「同質化のなかで差別化を明確にしていかないと本当に埋もれていくよ」と。
スマートフォン市場については、一番上がギーク層、続いてアーリーマジョリティ、その下にレイトマジョリティがいる、三角形を描いています。今は50%のあたり、レイトマジョリティに差し掛かっています。
これまでは、一番上のハイエンドの人たちに訴求すると徐々に浸透していく、という動向でしたが、今は真ん中にアーリーマジョリティ層がいて、ギーク層の動きとアーリーマジョリティ層の動きが繋がっていない。レイトマジョリティ層では、価格は気にしていないもののフィーチャーフォンでいいという人、あるいは価格に敏感な方、スマホに興味が無い方がいる。アプローチが難しく、スマートフォンの浸透が難しい市場になってきているのです。その中で僕らは「尖ったことをやる」ということと、マジョリティ層をしっかり捕まえるための改善をしっかりやらないと、2014年は厳しいだろうと思っています。
夏モデルは……?
――端末での差別化要素として冬モデルの1つとして「isai」が発売されましたが、この夏はどうなるのでしょうか。
田中氏
(夏を含めた2014年度で)エッジを一番効かすのはFirefoxだと思っています。タブレットも出てくる、スマートフォンも出てくる。もう少しレイトマジョリティを狙うためにフィーチャーフォンなのか、よくわからないものも考えています。引き続き今期は、少しチャレンジングな動きをしていくと思います。ハイエンドやローエンドという分け方ではないです。それほど市場は難しくなってきています。ただiPhoneが中心という話は変わりないかもしれませんが(笑)。ちょっとこれ以上言い過ぎると、夏モデルの発表会で言うことがなくなるので勘弁してください(笑)。
――春には、曲がったスマホ「G Flex」が登場しましたが、販売ランキングなどを見ても、数量としてはあんまり……と言う形だったようです。
田中氏
最初から(数量という面では)厳しいと思ってましたよ。ただ、(販売数量が見込める)「真ん中」だけを狙うというのは、どこに行っても同じような機種ばかりになる。それはそれでいいのかもしれないけれど、僕らとしてはそういうアプローチではなくチャレンジングをしていくということ。だから(夏に)変なのが出てもむちゃくちゃ書かないでください(笑)。
エッジにはエッジの意味があります。たとえばスマホの形状を三角にしたら四角で使いたい方は変だと思うわけです。でも三角型が欲しい人がいる。そこへ「なんで四角じゃないんだ」という声はちょっと的外れだと思います。スマートフォンがユーザーに最も身近なデバイスであることに代わりはありません。引き続き僕らは、多様なお客さまがいるなかで、そこにきちんと応えていこうと。外れるかもしれないけれど(笑)。
――auの端末について、SIMロックの解除はどう考えているのでしょうか。3Gの方式は異なりますが、端末側でマルチモード対応になってきています。
田中氏
それは確かにそうです。僕らの中で、これからどうしていこうか、真面目に検討しています。
どうなる、VoLTE
――先週も一部媒体でインタビューに応えられていましたが、そこでKDDIが音声定額をやる、という話のように受け止められる部分がありました。これからLTEのエリアが99%になり、LTE-Advancedも導入し、LTEネットワークでパケット通信による音声通話を実現する「VoLTE」も導入する方針とのことですが、どういう料金体系になるのでしょうか。
田中氏
音声定額と言っても、色々あってもいいじゃないと思ってるわけです。音声プランはかつて、SS~LLまであり、複雑怪奇と指摘されました。データもダブル定額からスタートしてライトやスーパーライトなどを導入しました。しかし、ソフトバンクさんのホワイトプランを契機に音声プランは980円になった。パケット定額も一本化されました。この状況に対して、料金が高止まりしているという指摘はありますが、市場からは「もっとシンプルにして」という声が強かったんです。そこへ今は、もっと選択肢を、という話も出てきており、そこに応えようと思っています。でも音声とデータが別々の料金構造から、1つの構造になる。(VoLTEになってパケットの上でやり取りすることで)バンドル型になるわけですから、たった1つの料金コースでカバーするのは違うんじゃないのか、ということです。いろいろ考えたらいいんじゃないの、ということですが、社内的にはまだ決まっていません。
――今年1月、ソフトバンクモバイルが発表した「VoLTE時代を見据えた料金プラン」に対して、決算会見では「高い」(※参考記事)と評されました。
田中氏
余計なことを言っちゃったよね(笑)。auと比較して高いということじゃなくて、一消費者として「コレちょっとダメだ」と思って言ってしまっただけなんですけど。
――ソフトバンクも最近、そのプランを改定しました。
田中氏
僕らも世界中の料金体系を当然チェックしています。料金プランは一度出して終わりではなく、どんどんブラッシュアップされるものです。(VoLTEでは)音声とデータが一緒になる、非連続点が来るということですから、よく考えようということです。
――ちなみにLTE-Advancedは他社よりも先に導入する形でしょうか。
田中氏
他社の時期はよくわかりません。でも差分は出てくるのかなと思っています。
長期ユーザー向け施策は
――長期利用者に対する施策で、海外では長く端末を使うと機種変更しやすくするというサービスもあります。auでは、長期利用者を見据えた取り組みは考えていますか?
田中氏
それは何か考えなきゃ行けないというポイントになっていますよ。真面目な話、新規だけ考えたら流出が多くなって意味が無いというのはみんな分かってますから。ただ、複雑なことをやってきましたから、順を追ってやらないと訳が分からなくなります。
リアルへちょっと踏み出す「au WALLET」
――5月にも新サービスの「au WALLET」を提供するとのことですが(※参考記事)、そのサービス内容やメリットは、まだちょっと想像しづらいところがあります。
田中氏
たとえば日本のGALAXY Noteってカバーにポケットが付いていないんですけれども、海外ではポケットがあります。そこにau WALLETのカードを入れたい、というイメージです。スマホの力って本当にすごくて、リアルに繋げられるんです。でも僕らはまだまだ開発できていません。たとえば韓国では、スマホ内にバリューを入れるという機能は、ハッキング、セキュリティの面で課題があり、物理カードに戻る動きが強まっています。いろんなことをやるなら物理カードが必要ということで取り組むわけです。
――auの狙い、という面なんですが、たとえば通信事業者としては契約数を増やすことが収益増に繋げるための、目標の1つですよね。
田中氏
それとARPU(ユーザー1人あたりからの収益)を高めるということですね。通信APRUである必要はありません。ここで手法としては、単純にARPUの向上を図る手段としてアプリやサービスに値付けして販売するというやり方、もう1つはプラットフォームを構築して、その上で活動してくれる人を増やす、というやり方の2つがあります。
au WALLETは後者ですよね。プラットフォームとしてしっかりすると、より大きな世界観を作れます。アプリやサービスの単品提供は、短期で売上は立ちますが、横展開などがしづらい。両方繰り返すことで効果がでると思っています。
――なるほど。
au WALLETにはもう1つ想いを込めた部分があるのです。たとえば「OTT vs キャリア」といった二極論がありますよね。海外では(OTT、Over The Top、Webサービスなどを提供する事業者として)グーグルやアップルがいて、日本ではなぜそういうプレーヤーが出ないのか、教育が悪いのかという話にもなることがある。
過去を振り返ると、キャリアはコンテンツプロバイダと協力してビジネスを進めたわけですが、キャリアは回収代行という面で強く、コンテンツプロバイダは面白いサービスを作る。それがうまく回って、ビジネスモデルとしては非常によくできたものの、海外展開がうまくいかなかったことは課題でした。
日本でスマートフォンを使うユーザー全員がOTTの世界の中でカバーできるかというと、そういうわけではない。(国内にはコンテンツプロバイダなどで活躍する)もっともっと良いアプリを作る人がいて、その人たちがスマホ時代でもっとやれるようになったらいいな、という形で作り上げたサービスが「auスマートパス」です。有料サービスですが、ユーザーからそれなりに利用してもらい、収益が上がるようになってくれば、KDDIとコンテンツプロバイダとの間でレベニューシェア(収益を分配)する構造です。
これは、フィーチャーフォン時代ほどではないですが、うまくできつつあります。日本人は「気配りが効く」というか、チームプレイというか、得意なところがある。そういうところは訴求しなきゃいけないと思っています。僕らの責務は基盤をしっかり作る。世界一のネットワークを作り、きちんとしたコンテンツを提供できるようにすると。インキュベーションプログラムの「KDDI∞Labo」もそういう志がある。KDDI∞Laboは儲かっているかというと、そんなことはないかもしれないけれど(笑)。
4G、5Gの時代における固定網の重要性
――2020年代に向けて、総務省での議論がはじまりましたが、KDDIの主張は?
田中氏
単純にNTTさんを批判しているように受け止められているかもしれませんね。でも真面目な話、2020年代は、5G(第5世代の通信技術)の時代なんです。とんでもなく速くなります。
そうした次世代の通信技術、4G、5Gの時代になると、周波数が高いこと、そしてトラフィックが局所的に莫大な量になることから、基地局はどんどん小型化していく。ライセンスバンド(免許がある帯域)で無線LANのネットワークを作るようなものです。そうした小型基地局には固定回線が繋がります。
――光ファイバー回線がモバイルサービスのエリア整備に必須になると。
田中氏
そうです。4G/5G時代のコストの大半はバックボーンになると見ています。
NTTさんがどこまで考えているかわからないけれど、NTTさんは今の競争環境から規制を撤廃して全部、(回線を)卸にしたいと言っているようです。1社が(固定回線を)全て提供する。それって恐怖の世界ですよ。政府が資本を持っている会社のやることとして、本当にいいのかという話です。「ドコモのセット割」という矮小な話になるのはおかしい。
――なるほど、NTTが首根っこを押さえる形になります。
田中氏
固定網では、ADSL時代はヤフーさんが牽引した。FTTHはNTTさんも頑張ったけれど、僕らも頑張って競争が促進され、より高速になって価格も下がった。モバイルの世界もそれなりに競争してきた。
当社でFTTHの物理的な回線を持っているのは、関東と中部。関西はケイオプティコムさんがやってくださっている。西日本はいくつか電力系がありますが、北日本の電力会社さんはやってらっしゃらない。これは、それほどFTTHは投資額が大きく、大変だということなんです。
当社では、NTTさんから必要なところには設備を借りるという形で、バルクで8分岐を借りてなんとか提供している。それでもまだFTTH市場のシェアが動かない。
田中氏
セット割が全ての事業者で実施されると、高いシェアの事業者の魅力が高まります。そりゃそうでしょう。FTTHユーザーの7割が(NTTの)フレッツです。フレッツユーザーがドコモ買ったら安くなる、というなら、ユーザーはみんなそれを選びます。こうなると、設備投資する事業者がいなくなりますよ。それって本当にいいんでしょうか。法人なら冗長化のため、2回線を用意しますが、個人では1回線しか利用しませんよね。モバイル、固定、どちらも元国営の通信事業者がナンバーワンという国は、先進国では例がないですよ。
2020年の東京オリンピックに向けて、これから、いろいろな物事がガーッと進むでしょう。5Gも結構いっちゃうんじゃない? で、日本としては固定は世界一、モバイルは世界2位、3位くらいの品質です。それ以下はずいぶん差があります。現状、韓国は国土が狭いというのはあるかもしれませんが、100%、LTEです。米国は早期にLTEをスタートしましたが、なかなか拡がらないのは固定網が高いからです。
――基地局の設置コストに影響しますね。
田中氏
そう。ここまでLTEのエリアを隅々まで広げたら、コンシューマー向けサービスは、コンテンツプロバイダがいろいろと提供されるでしょう。
もう1つ、活用の道は、いわゆる政府、電子政府の世界です。僕らであれば、回収代行や営業などの面で、支援できます。それをシェアしましょうと。そんな世界、ほかにないですよね。
――2020年代というのは、そういったところまで考えていくということですね。今日はありがとうございました。
【お詫びと訂正 2014/4/4 11:33】
記事初出時、田中社長がVoLTEの料金体系に関して発言している中で、「アンバンドル型」としておりました。正しくは「バンドル型」です。お詫びして訂正いたします。
【お詫びと訂正 2014/4/7 17:39】
今後の端末戦略に関する発言について、記事初出時、夏モデルに限定する形で田中社長が発言したものとしておりましたが、正しくは2014年度に関する発言です。お詫びして訂正いたします。